ユウキがパトリックら指導部に不信感を抱き始めている中、再度のプラント攻撃を行おうとしていた連合軍残存艦隊であったが、彼等が仕掛ける前に共和国軍が戦場に突入した事で出鼻を挫かれてしまった形であった。
「アズラエル様、如何いたしましょう?」
連合軍プラント侵攻艦隊旗艦のアガメムノン級ドゥーリットルに乗艦するサザーランド大佐から、通信を受けたアズラエルはつい先程までの激昂が嘘のように形を潜め、しばし思案した。
軍事的には素人でも、会社を経営し若くして国防産業の理事とブルーコスモスの盟主と言う人の上に立つ立場にいる彼にとって、果たしてこれがどう転ぶのかを頭の中で計算を弾いていたのである。
「…目標に変わりはありません。むしろ好都合です」
「スペースノイドの田舎者が無謀にもアレ、“ジェネシス“とか言うバケモノを退治してくれるのならそれで良し。そうでなくとも、失敗したとして連中に釣られて宇宙の化け物共の住処は今は手薄です」
「この気を逃さず、今度こそ連中を徹底的に殲滅してこの戦争を終わらせましょう」
務めて冷静に普段通りの出来るビジネスマン風、と言った口調で話すアズラエルだがその内容を側から聞いていたナタルは、思わず絶句した。
(この後に及んで、まだプラント殲滅に拘るのかこの人は!?)
口を挟もうにも、既にアズラエルもサザーランドもナタルの事を完全に無視して話を進めており、再三に渡り意義を唱え続けてきた彼女の存在は最早、考慮にすら値しないと言う態度であったのだ。
悔しそうに拳を握り締め、艦長席で唇を噛み肩を震わせて耐えるナタルを、オペレーター席からそっと横目でフレイ・アルスターは心配そうに見つめていた。
嘗ての彼女が知るナタルは、決してこの様な弱気を人前で晒すような人物では無く、寧ろいつも毅然としていてある種の自信を持った“大人の女性像“、そのものであったからだ。
が今の彼女の背中はその時よりも遥かに小さく、頼りなく見え寧ろ囚われの身で心細さと自身の過去と向き合わざる得なかったフレイにとって、以前よりも不思議と身直に感じられたのである。
しかしそんな彼女の小さな感傷など吹き飛ばすように、オペレーターから悲痛な叫び声が艦橋に響いた。
「プラントの方向より高エネルギー原体を探知!!」
すわジェネシスかと連合軍残存艦隊全体に緊張が走り、プラントから発射された2度目のジェネシスは再び漆黒の空間を切り裂いた。
圧倒的な破壊のエネルギーは連合軍残存艦隊でも、今プラントを攻めている共和国軍でも無く、遥か彼方の月に赤黒い光線が突き刺さる。
嘗て共和国軍が1ヶ月余りも包囲して陥せなかった連合軍月本部が、一瞬の内にメインゲートが融解し内部メインホール内に強力なγ線レーザーの奔流が流れ込み、地下司令部で軍議を行っていた連合軍高官達や作業員にオペレーターなど、生身の肉体は細胞が一瞬で蒸発しまるで水風船かのように肉体が弾け飛ぶ。
地下メインホールの天高く聳え立つビル群はその悉くが倒壊し、車両や停泊中の艦船は次々と大爆発を起こして破壊さ、後に残されたのは嘗てクレーターだった場所に濛々と月の細かな粒子を巻き上げて立ち上る巨大なキノコ雲と飛散する無数の瓦礫や残骸だけであった。
だが悲劇はそれだけに収まらなかった、連合軍残存艦隊が2度目のジェネシスの発射により月本部が完膚なきまでに破壊されるのを目の当たりにした直後に、ドミニオンに緊急通信が入る。
「増援部隊より通信、“先の攻撃により我が方の艦隊、半数を喪失す。増援は極めて困難なり“との…事です」
伝え終わったオペレーターの表情はまさにこの世の終わりと言ってよく、絶望に深く沈みこみアズラエルが彼を無理やり退かして席を奪っても、まるで人形かのように無反応であった。
アズラエルは何度も何度も通信の内容を読み直し、そして両手で自分の髪の毛を掻きむしりながら声にもならない呻き声を挙げたのである。
それは、今まさに連合軍残存艦隊が味わった絶望の嘆きそのものを代弁するかのようであり、同時にナタルは呆然とこの戦争に負けた事を悟るのであった。
一方でジェネシスの2度目の発射を行ったプラントはと言うと…。
「ジェネシスの月プトレマイオスクレーターへの着弾を確認、完全に基地を破壊した模様」
「並びに射線上にあった連合軍増援部隊にも直撃、連合軍は壊滅状態です!」
宇宙要塞ヤキン・ドゥーエの司令部でオペレーターがジェネシスの戦果報告を知らせる度、他の将兵達は「おお」と歓喜の声を上げる。
これで連合軍は宇宙への足掛かりを失ったばかりか、頼みの綱の増援を絶たれた事でプラントへの再度の攻撃は不可能と思われた。
これで“戦争に勝った“と誰もが思った時である。
「ミラーブロックの換装を急げ、次は共和国本土コロニーだ」
プラント評議会議長、パトリック・ザラは冷厳とした口調でそう言ったのである。
残る交換用ミラーは換装中の物も含めて後4つ、その矛先を向ける判断はただ1人に委ねられていた。
パトリックの声を聞いて思わず司令部は一瞬ざわつくも、しかし次の瞬間誰かが「そうだ!スペースノイドの土人どもに思い知らせてやれ」と叫ぶと、口々に他の誰かが便乗して共和国本土攻撃を声高に叫んだ。
「宇宙にコロニーはプラントだけで十分だ!古臭い奴らの棲家をこの際だ、一掃してやりましょう」
「コンペイトウでやられて兄の仇です、奴らの醜く汚い血で償いを!!」
「そうだ、この宇宙には我らコーディネイター以外必要ない!」
「議長閣下、やりましょう。いや、是非やらせて下さい」
彼らの姿は、それこそ正に地球でナチュラルによるコーディネイター差別の鏡写しであり、「血のバレンタイン」と同じ事を今度は自分たちがしでかそうとしている事にすら、気づかぬ様子であったのだ。
これこそがパトリックが仕掛けた心理的誘導であった、最初から地球を狙うのでは国内の反発も予想されたが、仮に先に共和国を撃つとなれば誰もが両手を上げて賛成する。
そして敵国を一方的に殲滅する快感と衝撃は恐怖を麻痺させ、以て地球攻撃が出来るという算段であったのだ。
ナチュラルとスペースノイドを殲滅し、晴れて真のコーディネイターによる王道楽土を建設しようと言うのがパトリックの野望であり、それが亡き妻への最大の手向でもあると本人は堅く信じていたのである。
その様子を見て、1人ラウ・ル・クルーゼはほくそ笑んだ。
(愚かな、コロニーを撃った次は地球だ。最早この流れは止まらんよ)
と内心黒い胸の内を隠しつつ、この滑稽な劇も後もうそろそろで終幕と言った所であった。
「連合軍が再度接近、プラント本国に向け真っ直ぐに突っ込んできます!」
オペレーターが告げるそれを聞いて、今度こそ内心の歓喜を抑えきれずクルーゼは込み上げる笑いを手で抑えるのに苦労した。
(アズラエル!?おめおめと地球に逃げ帰るかと思っていたが、あの男は意外にも根性があるじゃないかぁ)
その姿を不審げにユウキは睨んだが、直ぐに連合軍の核攻撃部隊を迎撃すべく指揮に集中する他なく、他にクルーゼの不審な姿を目撃する者は皆無であった。
全てがプラントの、そしてクルーゼの思惑通り運んでいるかに見えた。がしかし、プラントもクルーゼも一つ見落としていた事がある。
それは共和国軍がこの戦いに動員した艦隊は2個梯団に4個重砲兵師団、つまり2つの連合艦隊とその支援部隊が存在し、その内たった一個艦隊しかまだ彼らの前に現れていないと言う事であった…。
ワッケイン提督率いる第3連合艦隊は“メイルシュトローム作戦“により、要塞からの砲撃をザフト艦隊からの補足を交わしつつ、常に移動する事で艦隊の総数を誤魔化しティアンム提督率いる第1連合艦隊を15分もの間隠し通し続けたのである。
そのティアンム提督はと言うと、
「ティアンム提督、ミラー設置完了まで残り96%まで来ました」
「うむ、そろそろ敵が気づく頃合いだ。設置が完了次第攻撃を仕掛ける、作業員の退避を急がせろ」
提督が乗る旗艦アイリッシュ級宇宙戦艦タイタンの照明が落とされた艦橋内の外では、MSハイザックやゴブリンに作業用MAボールを動員して、無数のミラーを組み立てていたのである。
一つ一つのミラーの大きさは20m×10m程で、ガスジェット式の姿勢制御バーニアで角度を変えこれを凡そ800万枚以上設置し、漆黒の宇宙に巨大な鏡を出現させようとしていた。
これは先のB号作戦の折に、共和国軍が敵機雷原を排除する為に太陽光のミラー反射を利用し、これを焼き尽くした事に着想を得て開発したソーラ・システムと言う兵器で、核を持たぬ共和国軍が持つ対要塞攻略用兵器であったのである。
「閣下、ミラーの設置完了いたしました。いつでも行けます」
「宜しい、目標ヤキン・ドゥーエ要塞のメインゲートだ」
「了解しました、照準合わせ完了まであと10秒」
旗艦タイタン艦橋モニターに表示されるカウントダウンは進み、その間に複雑なコントロールシステムを要するミラーパネルは、旗艦からのコントロールで軸線と焦点を合わせていく。
何も無い筈の宙域から急速な熱源反応を検知して、ザフトはここに来て漸くティアンム提督率いる本隊の位置に気付き、部隊を向かわせようとするも既に時遅かったのである。
「この宇宙にもう再び
その瞬間、宇宙は一瞬眩しく光り輝き太陽光を集中し一点に焦点を合わせたソーラ・システムは、正面から見れば『Y』の字の形をした要塞の中央に10,000度を超える熱量を叩き込む。
核兵器やジェネシスの様な見た目の派手さや威力は無くとも、一瞬でヤキン・ドゥーエ要塞を丸焼にし、しかもこれは照射軸をずらす事でより広範囲に甚大な被害を与えた。
後に出撃した共和国軍のとあるパイロットはこの時の事を振り返り「ヤキン・ドゥーエが燃えている」と称したという。
照射時間は数分にも満たなかったが、この僅かな時間で宇宙要塞ヤキン・ドゥーエの半身を文字通り焼き切ったのである。
「くっ!?今のは一体何だ、誰か状況を報告せぇ!」
戦闘が始まってこの日最大の衝撃が要塞を大きく揺らし、思わずパトリックは姿勢を崩し何とかオペレーター席に捕まって揺れを耐えようとした。
司令部の空気は先ほどまでは打って変わり、モニターには要塞各部の異常や被害を知らせるアラームが鳴り響き、完全にレッドアウトした室内でオペレーター達は要塞の被害を報告する。
「中央メインゲートが完全に消失しました!!出撃待機中であった親衛隊との音信途絶!」
「要塞の各部で火災が発生、現在消化活動に当たらせていますがなおも拡大中です!」
「要塞表面の40%が溶解!?並びに対空砲陣地も消滅したものと思われます」
「中央メインゲートから下部ブロックとの通信連絡が取れません。現在システムが無事なのは司令部を含め上部ブロックのみです」
さしものパトリックも、次々と入る被害の甚大さに思わず立ちくらみそうになった。
共和国軍の新兵器の一撃により、プラントが誇る最終防衛ラインたるヤキン・ドゥーエ要塞は一瞬で、半身不随の損傷を負ったのである。
「敵の攻撃の正体は!?まだ分からんのか」
「現在解析中、攻撃までレーダー反応無し、エネルギー粒子の反応もありません」
「レ、レーザー兵器だとでも言うのか!?スペースノイドめ味なマネを…!」
と自分達もジェネシスでγ線レーザーを使っているのを棚に置いて、そう言った憎々しげな表情を浮かべ眉間に深い皺を寄せるパトリック。
だが彼は、ここにきても勝利の確信は一切揺らいではいなかった。
「其れよりもジェネシスの準備はどうした!?まだ終わらんのか」
ジェネシスさえ、あの創世の光さえ無事ならば何度でも建て直せると、パトリックはそう盲信とも言うべき感情を抱いてのことであった。
がオペレーターの口から出た言葉は、彼の期待を全く裏切る物であった。
「先の攻撃で司令部機能にも異常が発生、ジェネシスへの指示復旧に暫くかかる模様です」
「予備システムを急ぎ立ち上げろ!其れと目標をコロニーから変更、新手の敵本隊とあの新兵器を葬り去ってくれる」
パトリックは失望と苛立ちがない混ぜになった表情をしながらも、しかし指示だけはまだ的確な判断をしていた。
新たに発見したティアンム艦隊を攻撃するには、現在要塞の長距離ビームは共和国軍が散布した高濃度のアンチビームフィールドによって阻害されており、仮に艦隊を差し向けたとして目の前のワッケイン艦隊を放っておいていける訳もない。
また小癪にも再度プラント本国に侵入した連合軍と、本土防衛部隊は現在交戦中でありつまりザフトには全く予備戦力とでも言うべきものは、払底していたのである。
つまりこの場合、後4つしか無い貴重な交換ミラーを一つ使ってでも、ティアンム艦隊とその新兵器を排除する必要性があったのだ。
たった一度のソーラ・システムの照射により、プラントはヤキン・ドゥーエ要塞に甚大な被害が出ただけでなく、ジェネシスの目標そのものも変える必要に駆られ、つまり巨大な質量を移動させ照準を合わせる間、この大量殺戮兵器を全く無力な存在に変えてしまったのである。
当然、共和国軍はこの機を逃す筈もなくティアンム提督は麾下の第1連合艦隊全軍に対し、宇宙要塞ヤキン・ドゥーエへの突入を命じた。
「今こそ要塞に突入する時だ、目標要塞中央に開いたメインゲート大破口!パトリックを要塞から引き摺り出すのだ」
デブリの中から飛び出したティアンム艦隊は、アレキサンドリア級とムサイ級の圧倒的火力と突破力を武器に次々とザフトが敷いた防衛ラインに突入し、其れを数と火力の暴力に任せて蹂躙していく。
アレキサンドリアが発射するビームの束がローラシア級の船体を舐め溶かし、突撃陣形を組んだムサイが対艦大型ミサイルを乱射しながら防空砲台や残骸を吹き飛ばす。
艦隊の隙間を埋めるようにサラミス級が戦隊を組み、後方から重砲兵師団とそのMS達がバストライナー砲やスキウレ、レールガンにメガビームランチャーの陽電子エネルギーを解き放ち、戦場に砲火で出来た道を敷いていく。
艦隊から発艦し追従するMS部隊もまた、迎撃に出てきたザフトのMSジンやシグーに対し数と火力で襲いかかり、しかも連合軍とは違って其れらは高度な連携を駆使していくのである。
「前方よりジン8、シグー4、ゲイツ3接近中」
「ゲイツの相手はマラサイに任せろ。他の雑魚共を突破する」
隊長機のハイザックがハンドサインを両機に送ると、共和国軍は迫り来るザフトのMS隊目掛けてまずシュツルムファストを投擲し、グレネードの攻撃を受けて爆発と飛び散る破片で敵編隊の陣形を崩していく。
そうして崩れた所に、4機1組になったハイザック達がバラバラにされたジンやシグーに向けて、ビームライフルを打ちまくる。
当然相手も反撃するが、ジンやシグーが装備する88式レールガンを一発撃つ度に、共和国軍のMSは一機一機が数倍のビームで応じその圧倒的な火力で身動きが取れなくなった所を、後方から狙撃用ビームライフルを装備したガルバルディが狙い撃つ。
「ターゲットロック、いただきだ」
目の前の敵に気を取られ、全く背後を警戒していなかったシグーは胴体を見事にビームで撃ち抜かれ、推進剤に誘爆して虚空に小さな花火を散らせた。
同じ様に他のジンやシグーも似たような手口で次々と撃破され、共和国軍を単純な火力や数と侮ったザフトパイロット達を教育していく。
あっという間に味方をやられたゲイツのパイロット達であったが、仲間の仇を取る間もなく彼らの周囲を10機以上ものマラサイが取り囲む。
「ゲイツ狩りだ、一機たりとも生きて帰すな」
ハイザックが装備するビームライフルと同型だが、しかし強力なジェネレーターを備えるこの機体は、ハイザックの更に倍以上ものビームをハイザックよりも高威力で連射する。
全周囲からの攻撃に一機のゲイツはビームの弾幕を躱し、躱し損ねた一機は被弾して煙を上げ、プラント製の対ビームコーティングに自信を持つ学徒兵パイロットはビームシールドで防ごうとした。
「馬鹿野郎!連中の攻撃をマトモに受けるな」
味方の迂闊な行動を見て攻撃を躱したパイロットが通信機に向かって怒鳴るも、既に時遅く如何にプラント製の高性能なビームコーティングであっても全方位から、十数発以上ものビームにさらされて耐えられる筈もなく、機体もろともビームで穴だらけにされ虚空に火球を生じさせた。
このパイロットはコンペイトウ、ボアズで嫌と言うほど共和国軍と戦い、彼等が戦う度に強力な兵器と凶悪な戦術を引っ提げて向かってくるのを、散々経験していたのである。
故に、共和国軍相手にマトモに正面から勝ち合う愚を何とかして避けようとするも、しかし共和国軍はザフトの特にゲイツを最も危険視し、その対応にマラサイのみで編成される特別部隊を用意するくらい執拗で周到であったのだ。
全周囲からのマラサイの攻撃を避けつつ、反撃のビームライフルを加えていくゲイツであったが、マラサイの高機動MSに匹敵する機動性で中々有効弾が与えられず、仮に当たったとしても…。
「クソっ!!ビーム1発喰らわしただけじゃ抜けない装甲て、一体何なんだよ!!」
マラサイの胸部に命中したビームはしかし敵機を貫通する事なく弾かれてしまい、経験上同じ所にもう1、2発命中させなければ、共和国軍MSの重装甲は抜けないのだ。
可能性があるとすれば、シールドに装備されたMA-MV03 2連装ビームクローか腰のエクステンショナル・アレスターEEQ7Rの至近距離射撃である。
が当然ながら共和国軍がザフトの活路が近接白兵戦にしか無いことを見切っており、10機以上のマラサイは決して不用意に近づかずまた接近させず、互いにカバーし合いながら着実に敵を追い詰めていくのだ。
しかもマラサイと違い基本的にザフトも連合も、ビーム兵器は本体からのエネルギーを供給する方式であり、時間が掛かればかかるほど不利になっていくのである。
この様な術中に嵌り、ザフトは次々と貴重なゲイツを失いまたユウキを悩ませる原因の一つとなっていたのだ。
同じ頃、ソーラ・システムの稼働を見届けた第3連合艦隊のワッケイン提督も陣形を大きく変更し、今までの長い尾と渦を巻く長大な陣形から一転し麾下の艦隊を再集結させて、あっという間に虚空に直方体型の陣形を出現させる。
共和国軍の基本的な攻勢ドクトリンである縦深突破戦術、それに最も適した艦隊陣形であるいわゆる梯団陣形を形成したワッケイン艦隊は、宇宙要塞ヤキン・ドゥーエのメインゲートに開いた大破口目掛け艦隊を突撃させた。
「全MS、MA隊を発艦、ザフトの防衛網に穴が空いた今がチャンスだ。これより正面攻撃をかける」
「要塞を奪取し、ジェネシスのコントロールを奪うのだ!」
梯団陣形で突撃していくるワッケイン艦隊は、一見すると連合軍と同じ様に数と火力を頼とする力押しに見えるが、しかしその運用方針は全く異なっていた。
宇宙要塞ヤキン・ドゥーエに真っ向から突っ込んでいる様に見えて、実は要塞その物を盾としてジェネシスの射線から逃れつつ、しかも敵に対応を強要しザフト艦隊が要塞から離れられない様拘束し、その間に戦場外苑部からティアンム提督率いる第1連合艦隊250隻余りが急行して、艦隊の後方で第二梯団を形成する時間をも稼ごうとしたのである。
この陣形が完成すれば総勢*1450隻以上もの艦隊とMS、MAを合わせて*240,000機以上にもなる途方も無い戦力が出現する事となり、対するザフトは艦隊戦力で4倍以上MSなどの機動戦力で10倍以上、ジェネシスを除いた通常火力だけで30倍以上もの投射火力を持つ相手と真っ向からぶつかる事になるのだ。
当然、ザフトもこれを座して見ている訳では無く合流を妨害しようと隕石ミサイルを撃ち込んだり、少ない艦隊を割いて遅滞戦術を駆使しようと試みたのである。
が、その様な本体から分離した少数部隊など共和国軍MAビグロにとって格好の餌食であった。
「ティアンム提督の露払いだ、全機残らず平げろ!」
隊長機の指示に従い巨大な緑色の鏃が、まるでイナゴの大群が如くティアンム艦隊に接近するザフト部隊を四方八方から襲いかかる。
大口径のビーム砲とミサイルに機関砲で武装し、これを2基の大型ロケットエンジンによって超高速で飛ばすビグロは、先のB号作戦で初めて実戦投入された最新の大型MAであった。
共和国では
今まで連合軍の小型MAメビウスやコスモグラスパーとの戦闘経験があったザフトは、初めて見るこの大型MAの出現に驚き対空砲火や対空ミサイルを撃ち上げて、近づかせまいと必死に抵抗した。
が、月面で戦った連合軍艦隊が上げる対空砲と比べて圧倒的に密度で劣る其れを、ビグロの編隊は強固な正面装甲で砲弾を弾きながら真正面から突っ込んでいく。
立ち塞がろうと正面に立ったMSジンがビグロの巨体に弾け飛ばされた事で、正面から戦う愚を即座に悟ったザフトにMSパイロット達は、後方や側面に回ろうと旋回機動を取ろうとした。
だがそんな悠長なことをしている間に、最大戦速でマッハ10にも達するビグロの超加速によって振り切られ、母艦を射程に収めたビグロ達は次々と大口径ビーム砲を発射していく。
大出力のビームを至近距離から雨霰と受け、戦艦の装甲に施された耐ビーム装甲の排熱が追いつかずに赤く焼け爛れ、装甲板がひしゃげてボロボロと剥がれ落ちそこにまた新たなビームやミサイルが殺到した。
内部のバイタルパートを巨大ビームが撃ち抜いて焼き尽くし、命中したミサイルが内側で炸裂し機関部や弾薬庫を誘爆させ、あっという間に1隻のローラシア級が轟沈した。
同様に他の艦にもビグロは殺到し、十数機もの大型MAに纏わりつかれた挙句に僚艦と同じ運命を辿っていくのである。
何とか敵機に追いついたザフトMS部隊が目にしたのは、完全にデブリと化した自分達の母艦とMSを無視して新たな獲物を探しに、超加速で宙域を飛び去っていくビグロ編隊の後ろ姿だけであった。
戦艦が1隻失われることは単に戦力上の喪失のみならず、艦載する数機から十数機ものMSが無力化される事と同義であった。
母艦を失った機は他の艦に収容されるか、そうでなければ何れバッテリーや推進剤に生命維持装置がつきて、虚空を漂うデブリと化してしまう。
これは宇宙における永劫普遍の真理であり、この世に本当の意味で永遠に戦い続けられる存在などありはしない。
また艦を沈められるという事は、替えの効かない優秀なクルーや整備員達が永久に失われる事も意味し、タダでさえ人的資源が払底している今のプラントとザフトにとって到底看過し得なかったのだ。
つまり、宇宙における戦いとは畢竟、如何に敵の拠点や母艦などの後方支援体制を破壊ないし無力化する事であり、派手なMSやMA同士のドックファイトなど単なる見せかけに過ぎないのである。
この様な事態が戦場の彼方此方で続出し、これ以上の被害は看過出来ないとヤキン・ドゥーエの司令部で艦隊指揮を任されたレイ・ユウキは、部隊の速やかな撤収を命じたのである。
「残った部隊をすぐに引かせろ、敵の新型MAにはコートニー隊とサトー隊をまわして後退を援護するんだ」
「敵の本命は要塞正面の梯団だ!これを防がなければ、次はプラントだぞ」
とユウキは司令部で大声で支持しつつ手持ちの戦力の中から、高機動MSジン・ハイマニューバを装備するエース部隊を派遣しつつ、改めて司令部の巨大モニターを睨み刻々と変化する戦場を整理しようと努めた。
戦場は大きく分けて2つあり、まず1つはヤキン・ドゥーエ正面の共和国軍、もう1つはプラント本国を狙う連合軍核攻撃部隊と本土防衛部隊に、並びにラクス・クライン一党である。
この内、連合軍については先のジェネシスの発射により既に戦力的には無力と言ってよく、肝心の核攻撃も(皮肉にも)奪われたフリーダムとジャスティスを持つラクス嬢の艦隊が、まるで最初から居場所がわかっているかの様に的確に排除してくれていた。
つまり2つの戦場の内、1つは方がつきもう1つの行方がこの戦いのそして戦争そのものの行方を左右すると言う事であった。
彼は改めて正面モニターを見直し、そこには宇宙に瞬く数多の星々の光を圧するように装甲の反射やスラスターの光で映し出された、余りに巨大で重厚な共和国軍の艦隊陣形が広がっていたのである。
人工の光で出来た巨大な破壊の造形は、側から見れば美しささえ感じられたが、相対する者にとっては絶望感を与える死と破壊の象徴であった。
現在、ユウキらザフトの手元にはヤキン・ドゥーエを防衛する艦隊の内、3割を喪失し残りの艦も損傷していたり、そもそも一日中戦い続けて補給や整備を受けられず弾薬や推進剤が欠乏しかかっていたのである。
MSにおいても残存戦力は70%を下回り、要塞そのものも共和国軍の新兵器ソーラ・システムによって防衛陣地をズタズタにされていた。
圧倒的に不利な状況であったが、しかしユウキはまだ勝利を諦めてはいなかった。
認めたく無い事であるがジェネシスが健在である以上、逆転の目は十二分以上あったのである。
例えそれによって得た勝利の代償が、到底見合わない膨大な犠牲の上に成し遂げられたとしても、軍人として任務に殉じる誓いを彼は立てていた。
「ユウキ隊長!!陣形中央、押されてきます!」
「我が方の右翼、崩壊しかかっています!ご指示を!!」
「ユウキ隊長、全軍との通信回線を開きました」
オペレーターから通信回線を回されると、ユウキは全軍に向けて最後の作戦を指示するのであった。