機動戦士ガンダムSEED・ハイザック戦記   作:rahotu

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17話

17話「強襲」

 

L4宙域は嘗て東アジア共和国の資材採掘用衛星「新星」を巡る戦いがあり、コロニーに甚大な被害を齎した挙句放棄される結果となった。

 

今や住む人のいないコロニーは、盗掘や空き巣紛いのジャンク屋か、或いは宇宙海賊の根城となっており。

 

その危険性から好んで立ち寄る船も無く、航路からも外れいわば国からも見捨てられた無法地帯と化していた。

 

しかしそこに転機が訪れる。

 

共和国が地球との安定定期な航路を開拓するため、その拠点をL4に定め。

 

大規模な宇宙海賊の掃討と共に、デブリの除去やコロニーの修復そしてインフラの復旧を行い。

 

各地に難民として散った元のコロニー住民の帰還を促すと共に、急速にその治安を回復しつつあった。

 

 

 

 

 

 

コロニーの復興が進むL4宙域の外縁部を航行するサラミス級軽巡洋艦ボスニアでは、MS隊の離発着訓練が行われていた。

 

「ライラ・ミラ・ライラ、出るよ!」

 

赤く塗装された機体がカタパルトから射出され、勢いよく打ち出された衝撃で中のパイロットの身体にシートベルトが食い込む。

 

それを耐えると、今度は目の前に星々が輝く宇宙が広がった。

 

機体の操縦桿を傾け、真横にロール回転して動作を確かめるライラ。

 

その間にボスニアから2機のハイザックが発艦され、ライラ機に合流を果たす。

 

「遅い、15秒の遅れが出ているよ!」

 

全天周モニターに表示させていたタイマーのカウントをストップさせ、予定よりも遅れていた事がわかる。

 

「申し訳ありません、ライラ隊長。しかしこの機体にまだ慣れていなくて…」

 

「改修機だからって元はハイザックと同じなんだ、前より遅れてどうする⁉︎」

 

ライラは言い訳をする部下をそう言って一括した。

 

ライラ達が乗るハイザックは通常とは違い、ルナツー基地司令ワッケイン少将が進める現地改修案の機体であり。

 

其々特徴を持った改修が施されていた。

 

ルナツーではライラ達の他様々な改修機のプランが上がり、それを現地の部隊によってテストさせその成果を本国へと送っているのだ。

 

「今度は倍の30秒は縮めな、出来るまで今日は終わらないよ!」

 

そう言ってライラは機体を反転させ、ボスニアへと戻って行く。

 

部下達も慌ててライラ機の後を追い、ボスニアへと戻っていきそしてまた再度発艦するのだ。

 

そうして訓練はライラが良いと言うまで続き、ハイザックに乗る部下達がやっと訓練を終えて戻ってきた時には、疲れ果て完全に足腰が立たなくなっている状態であった。

 

情けない部下達をライラ自らがコクピットから引きずり出し、シャワールームに放り込んだ時彼女に艦長の元に出頭する様艦内放送がかかる。

 

ライラはまるで訓練の疲れも感じさせない様子でブリッジまで行くと、彼女を呼び出したチャン・ヤー艦長が顔を見るなりこう言ってきた。

 

「また無茶な訓練をやったな、部下を使い潰すつもりか?」

 

「あれ位、私が前線にいた頃は当たり前だった。ルナツーの連中が弛んでるだけじゃないのか?」

 

艦長の苦言に対して、ライラは平然とした態度でそう返した。

 

実際ボスニアに配属される前は、彼女はグラナダでの戦いに参加し、共和国でも有数の実戦経験豊富なパイロットの一人であった。

 

「お前みたいに皆んな戦争屋ばかりじゃ無いんだ」

 

「あらそう、だったらさっさと尻尾を巻いて引き篭もっているんだね。男の癖に情けない」

 

ライラにそうやり込められ、内心「ぬぐぐ」と地団駄を踏むチャン艦長。

 

しかしそれをすぐに納めると、今度は先程とうって変わって真面目な態度で話を切り出す。

 

「ルナツーから通信が来た。どうやらザフトの連中がここを嗅ぎ回っているらしい」

 

「ザフトが?奴らが今更なんでこんな所を…」

 

L4にあった東アジア共和国の「新星」は、今やザフトの宇宙要塞「ボアズ」と名を変えL5に置かれていた。

 

そこは月のプトレマイオス基地を睨みながら地球のザフトとプラント本国を結ぶ重要なラインでもあり。

 

当然ザフト主力の活動もその宙域に集中していた。

 

つまり、態々なんら戦略的価値の無いL4に部隊を派遣するその理由がライラには分からなかったのだ。

 

「大方、今再建中のコロニーが気になるのだろう。本国では大々的に広告を打って地球や戦災スペースノイドの移住者をL4で募っているとも聞く。スペースノイドの支持が共和国に流れるのが嫌なのさ」

 

今や全人類の総人口の半分以上が宇宙に住む時代、コロニー市民やスペースノイドの支持を得られるかどうかは重要な課題となっていた。

 

「ユニウスセブンの事は気の毒だと思うけど、けれど奴らが世界樹やグラナダにここのコロニーでやった事は忘れちゃいないよ」

 

ライラは生粋のスペースノイドであり、当然の事として「血のバレンタイン」で知られる今回の大戦の発端となった連合軍によるコロニーに対する核攻撃には怒りを覚えているが。

 

それ以上にプラントやコーディネイターに対する怒りの方が今は大きかった。

 

「血のバレンタイン」の後、同じ宇宙に住むはずのプラントが世界樹を攻撃し、その結果世界樹が崩壊して大勢のスペースノイドが犠牲となり。

 

グラナダに攻め込んで共和国を戦争に巻き込み、それにも懲りずL4を無秩序な戦火の渦に落とした罪は計りしれなかった。

 

「お前、まさかブルーコスモスじゃないよな?」

 

ライラがプラントに対して向ける増悪に気づいたチャンは、探る様な目つきでそう聞いてきた。

 

ブルーコスモスは過激な反コーディネイター組織として知られ、時に犠牲を顧みないテロ行為や過激な運動で知られている。

 

一説には今次大戦勃発の原因に、ブルーコスモスが関与していたのではと噂される程であった。

 

「馬鹿言うんじゃないよ⁉︎私がアースノイドの連中と同じに見えるのかい?」

 

ライラとしては全くの侵害だとばかりに、目を剥いてチャン艦長に抗議する。

 

「ああ、悪かった悪かった。俺が変な事を聞いて気分を悪くしたのなら謝るが、だがあんまり人前でそういう事は言うなよ」

 

チャン艦長はライラの態度に、彼女がブルーコスモスでない事に表向き謝りつつ内心安心し、そして頭の中では全く別の事を考えていた。

 

(ブルーコスモスは大西洋連邦発祥の自然保護団体だ。となれば自然組織の影響も連合が関与している部分もあるかもしれない)

 

部下が連合のスパイとして連れていかれるなど、指揮官にとって悪夢以外の何物でもなかった。

 

「兎に角、ザフトが付近を彷徨いているかも知れんから、MSの訓練は慎重に行う様に」

 

やっとの事で本来伝えたい事を伝え終わると、チャン艦長は追い出す様にしてライラをブリッジから下がらせた。

 

ライラが不満たらたらでブリッジを後にする背中を見送った後、チャン艦長はだいぶ後退した生え際に手を置いて、扱い難い部下からのストレスを感じていた。

 

ルナツーに左遷させられた後、ストレスで抜け毛が酷くなった時期があったが、当分の間それはまだ続きそうであった。

 

 

 

 

 

事態が急転したのはそれから3日後の事であった。

 

「NJの散布を確認!L4外縁部からコロニーの方に向かって広がっていきます」

 

「発信元をNJの濃度から割り出せ、一番濃い所が発信源だ!パイロット各員は至急MSに搭乗、緊急発艦に備えよ!」

 

オペレーターからの緊張した報告に、チャン艦長は極めて的確な指示を出す。

 

今次大戦の肝となっているNJについてだが、共和国軍ではレーダーや電子装備が効かないなりに敵の大まかな位置を予想する方法を編み出していた。

 

即ち、NJの濃度分布からその濃淡によって敵が潜んでいそうなポイントを絞り込み、何処からか敵が攻撃を仕掛けれ来るのか予め予想する事が出来た。

 

これはなんら特別な装置も機材も使わない、単にNJがどれ位広がったからを調べると言う今では当たり前となった装備を応用して編み出されたものであり。

 

共和国お得意の、枯れた技術の水平思考的な探知方法であった。

 

艦内にはすぐさま戦闘態勢を伝えるアラームが鳴り響き、ボスニアの兵士達は各部署に散りライラ達MS隊のパイロットも又ロッカールームで素早くノーマルスーツに着替えると、エアロックを出て愛機に乗り込んだ。

 

「こちらライラ、外の状況を知りたい」

 

ライラはまず小隊長として状況の確認を行った。

 

そして暫く待つと、全天周モニターにブリッジにいるオペレーターからの返事が返ってきた。

 

「オペレーターのナカニシです。30秒前からNJが散布された事を本艦が探知、位置は現在調査中ですが、既に付近の友軍が応援に向かっています」

 

「友軍到着までの時間は?」

 

「最低でも30分はかかります」

 

それでは遅い!とライラはコクピットの中で拳を叩きつけた。

 

ボスニアに現在では搭載されているMSの数は3機、元が旧式艦の為無理に設置したハンガーではこの数が限界であった。

 

それでも、前線から遠いルナツーや戦略的価値の無いL4には十分と判断され配備されていたが、ここではそれが完全に裏目に出ていた、

 

「敵戦力の詳細は?」

 

「あ、待ってください⁉︎敵がMSを出撃させました、ライラ隊各機は緊急発艦して下さい‼︎

 

ライラが兎に角敵との彼我戦力差だけでも聞いておこうかとした時、それに割って入る様にオペレーターから緊急発艦の指示が飛ぶ。

 

「敵の数も分からないのにかい⁉︎」

 

「現在判明している敵は3機、いずれもジンタイプです。急激な速度でコロニーに向かっています、迎撃出来る位置にいるのは本艦だけです」

 

オペレーターからの悲鳴を上げる様な声を聞き、ライラもここに来て腹をくくった。

 

「ちっ、コロニーをやらせる訳にはいかない。ライラ隊、出るよ!」

 

直ぐにハンガーがせり上がり、ライラ機以下3機のMSがカタパルトから打ち出されていく。

 

今度は一切宇宙に輝く美しい星々の煌めきに目をやる暇もなく、ライラ機が先行して敵艦に向け急行する。

 

機体のセンサーを総動員して、敵を先に見つけるべく全周囲に目を配るライラ。

 

上下左右の概念が無い広大な宇宙空間において、常に自機と敵の位置を捕捉し続けなければならない。

 

そうでなければ敵とすれ違いを起こし、ライラ達の出撃は徒労に終わってしまう。

 

「見つけた、数は…3機か⁉︎」

 

機体のセンサーに反応があり、その場所をモニターで拡大すると移動する3つの物体が見えた。

 

そこからCG補正がなされ、敵の輪郭が朧げながら浮かび上がり、3機のジンが画面の中に現れた。

 

「こちらライラ敵をポイント202で発見した、これより攻撃する」

 

ボスニアに敵機の位置を知らせると、機体の腕を振って攻撃の合図を部下達に送った。

 

まず先行するライラが敵機の先頭に狙いを定める。

 

敵はまだライラ達を発見していないのか、綺麗な編隊を作ったまま真っ直ぐにコロニーへと向かっていく。

 

そこをガンスコープを覗き込んだライラが照準を合わせ、タイミングを見計らって機体が手に持つアサルトライフルから120㎜砲弾が放たれる。

 

正確な照準によって放たれたライフルは、寸分違わず先頭のジンに吸い込まれていく。

 

ザフト系MS特有の羽根状のスラスターに命中し、姿勢を崩すジン。

 

そこをすかさずライラ達が突入する。

 

「一機一機マトモに相手するんじゃないよ、私が分断するから数の差を活かして確実に仕留めるんだ」

 

ライラの機体はハイザックの装甲を限界まで削って軽量化し、バックパックも小型化して兎に角機動力と運動性能を極限まで高めた特別機であった。

 

その機体の特性を生かし、ジンの編隊に単騎突入して撹乱するライラ。

 

ジン達は突然攻撃されて慌てたところに、今度は見慣れぬMSに襲いかかられ編隊を崩す。

 

特にライラ機はハイザックとは言えないほど外見が変わっており、ザフトのパイロット達は共和国の新型機かと勘違いをして彼らの混乱に拍車がかかった。

 

そこを狙い澄ましたかの様に、2機のハイザックからマシンガンが雨の様に降り注ぎ、肩に背負ったキャノン砲が火を噴く。

 

2人の部下が乗るハイザックはライラ機とは全く逆の方向に改修されており、胸部に増加装甲を装着して生存性を高めると共に、

 

その内の一機は背中に240㎜キャノン砲を装備しており、火力装甲に優れた機体となっている。

 

2機に狙われたジンが76㎜重突撃銃を乱射するが、そもそも通常のハイザックの正面装甲を貫通出来ないライフル弾が、増加装甲を施された改修機に敵うはずもなく。

 

逆にハイザックの方はジンの攻撃が効かない事をいい事に、安全にそして確実に狙いを定めジンをガンレティクルに収めていく。

 

そうしてロックされたジンに向かって、2機のハイザックからの攻撃が集中しマシンガンで動けなくされた所にキャノン砲が直撃し。

 

一瞬の閃光と共にジンは爆発し、宇宙の塵と消える。

 

「一機撃墜、やりましたよ隊長!」

 

「バカ!俺も手伝っただろうが、さっきのは共同撃墜だろうが」

 

初の戦果に浮かれる2機のハイザックのパイロット達。

 

「浮かれてないで、残りの一機をさっさと仕留めるよ!」

 

通信機から聞こえる部下達の嬉しそうな声に、ライラも自然と頬を緩ませる。

 

しかし次の瞬間には、元の引き締まった表情に戻りっていた。

 

実はこの時ライラは既にジン一機を単独で撃墜しており、さり気なくもう一機の方を牽制して部下に華を持たせてやったのだ。

 

それを口には出さず、部下に自信を持たせるのも指揮官の務めだった。

 

残る一機は最初にライラ機にライフルでスラスターを撃ち抜かれた機体であり、上手く機体を操縦出来ずフラフラとした機動しか取れていなかった。

 

簡単に撃墜出来るかと思ったそれは、実はそこから意外な程手間取る事になる。

 

右へ左へと揺れる不安定な挙動は返って狙いをつけ難くさせ、中々相手を照準機に収められない焦れったい時間だけが過ぎていく。

 

「ああ、あっちこっちへと。コイツ、大人しくしやがれ‼︎」

 

「ライラ隊長、接近して仕留めましょう!」

 

焦れて血気に逸る部下がライラにそう言うが、ライラはそれを抑える。

 

「焦るな、このまま3機で包囲すれば直ぐに片がつく。それまでの辛抱だよ」

 

ライラとしては、ザフトのコーディネイター相手に格闘戦だけは挑みたく無かった。

 

無論ライラ自身は機体の相性もあり敵に遅れをとるとは思ってはいなかったが、部下の2人はそうでは無い。

 

コーディネイターの反応速度は並のナチュラルを上回り、特に格闘戦ではそれが顕著に現れる。

 

故にライラは、重装甲重火力の改修を施されたハイザックに乗る経験の浅い部下に無理をさせたく無かったのが一番大きい理由だった。

 

逃げるジンを中心に、囲い込む形で追い詰めるライラ達。

 

そして漸く観念したのか、敵の動きが鈍った所に部下が仕留めようとマシンガンを構えた時…。

 

何処からとも無く一条の銃弾が現れ、ハイザックのマシンガンを撃ち抜く。

 

「っ⁉︎」

 

「ハンス!」

 

咄嗟に手を離した事で、爆発するマシンガンから機体を守れたが、その代わり武器を失ったハイザック。

 

すかさず僚機がカバーに入る中、ライラは周囲に気を配り敵が何処から撃ったのかを探る。

 

「いったい何処から…はっ!上か」

 

咄嗟に機体を捻ることで、真上からの攻撃を躱すライラ。

 

「ほぉ、今のを躱すか。いい腕をしている」

 

新たな現れた敵のパイロットは、ライラの腕前を賞賛しつつ逃げるジンを背中で守りながらライラ達と対峙する。

 

そのジンは今までと違って機体が他よりも一回り大きく、さらに全身に装甲と武装が追加され見た者に攻撃的な印象を与えた。

 

ライラ達は後になって知るが、この機体はジン・アサルトと言いジンの強化タイプの1つであり、特に火力と装甲の底上げと各部のスラスターにより機動力の低下を補った機体であった。

 

つまり奇しくも、ザフト共和国両国の改修機がここL4にて相見える事となったのである。

 

「悪いがこれ以上部下を失うわけには行かないのでな」

 

ジン・アサルトは両肩に装備されたガトリング砲から砲弾をばら撒き、ライラ達に襲いかかる。

 

ライラ機は躱すも、味方をカバーしていたキャノン砲装備のハイザックはモロに攻撃を受けてしまう。

 

「うああああ、やられるー‼︎」

 

中のパイロットから悲鳴が聞こえるが、しかしガトリング砲自体は増加装甲部分に命中し機体本体は全くの無傷であった。

 

「ちっ、頑丈な機体だ」

 

ジン・アサルトのパイロットはガトリング砲がハイザックに有効で無いと分かると、今度は接近して攻撃を仕掛けようとする。

 

「やらせるか!」

 

そこをライラが機体を割り込ませてながら、手に持つライフルを撃ち込む。

 

ハイザックの主武装である120㎜マシンガンと同口径のライフルは、ロングバレルにより初速と装甲貫徹能力に優れた武装であった。

 

しかしこの時は相手が悪かった。

 

ジン・アサルトは共和国のハイザックに対抗する為に開発された装備であり、特にその複合装甲はハイザックのマシンガンに耐え得る強度を誇っていた。

 

ライラが放ったライフルは、距離も近い事もありジン・アサルトの増加装甲を抜くに至らず、逆に敵からの反撃を受けてしまう。

 

「コイツ、今までのヤツとは違う⁉︎」

 

反撃を回避しつつ、敵の機体性能に驚愕するライラ。

 

ハイザックが戦場に出てから半年が過ぎ、自分達が漸く機体の改修計画を行いつつある間に、ザフトは新しい機体や装備を開発して戦場に送り込んで来たのだ。

 

自分達はザフトとのMS開発競争に遅れている事を、この時ライラは痛感していた。

 

一方のジン・アサルトを駆るパイロットも又ライラと同じく共和国の新型機や改修機の存在を脅威と感じていた。

 

(共和国のMSを侮っていたわけじゃないが、あの大砲を背負ったハイザックの頑丈さには参った)

 

(至近距離からの攻撃かそれかバズーカを直撃させなければ墜とせないかもしれん。それに目の前のこの赤い機体…)

 

「くっ⁉︎」

 

機体に急制動をかけ、今までと進んでいた方向と逆向きに進路を転ずるジン・アサルト。

 

その目の前でさっきまでいた空間にライフル弾が通り過ぎる。

 

「ちっ、見かけよりも機動性はいいみたいだな」

 

ライラは先ほどから追いかけられるフリをしながらも、相手を良く観察し自機が相手よりも小回りの効きがいい事に気付き。

 

機体をその場で宙返りさせると、追いかけるジンにむけライフルを放ったのだ。

 

「曲芸染みた真似を‼︎矢張り、あの機体ハイザックとは違うぞ」

 

赤い機体が目の前でやってのけたマニューバは、ジン・アサルトのパイロットが知る限り今のザフトでも極限られた機体で、しかも高い技量が無ければできない芸当であった。

 

共和国のMSは今までザフトのパイロットから兎に角固く数が多いがノロマだと思われていたが。

 

今目の前にいる機体は、今までの思い込みを全て打ち壊す性能を見せたのだ。

 

ガトリング砲を乱射してライラ機を近寄らせまいとするジン・アサルト。

 

距離を取るライラ機は、しかし遠距離からも着実にライフル弾を命中させていく。

 

元々ジン・ハイマニューバに対抗する為に生まれた機体と装備であり、特に弾速の早いライフルは遠距離でもその威力と精度を落とす事は無かった。

 

逆にガトリング砲や両腕に装備するグレネードが主武装のジン・アサルトでは、遠距離に対応出来ず。

 

距離を詰めて相手を射程に収めるべく、再び鬼ごっこが始まる。

 

互いに激しいマニューバを交えながら、ガトリング砲とライフルの銃火が交わされ。

 

時に追いかけられる立場が入れ替わりつつも、その機動は漆黒の宇宙に美しい弧を描いていた。

 

「スゲェ、カメラが追いつかないぞ」

 

「くそ、機体同士が近過ぎて隊長を援護出来ない」

 

被弾したハイザックのパイロット達は、只々そうやってライラとジン・アサルトの決着がつくのを見守るしか無かった。

 

その間にも幾度と無く交わされた攻防にある変化が訪れる。

 

「くそ、急いで来たからライフルを持って来なかったのが響いたか⁉︎」

 

ジン・アサルトのパイロットは両肩に装備されたガトリング砲の残弾量が残り少ない事に気が付いた。

 

共和国のMSに追い回される味方を収容する為、急ぎ出撃したせいで必要最低限の装備しか持ってこれなかった事がここに来て、継戦能力の差として現れていた。

 

一方のライラはまだライフルの残弾には余裕があったが、しかし彼女の方も幾らライフル弾を撃ち込んでもビクともしない相手に、焦ったさを感じていた。

 

元々互いの機体特性が噛み合わなかったが故に、思わぬ長期戦を強いられていた。

 

互いが互いに有効打を与えられないまま、このまま千日手が続くかと思われた時。

 

突如戦場の遥か彼方で閃光弾が打ち上がった。

 

「撤退信号!味方の収容に成功したか」

 

「信号弾だと⁉︎」

 

ジン・アサルトのパイロットは打ち上げられた信号弾から味方が無事安全圏に脱した事を知り。

 

ライラもまた敵の様子がら信号弾が打ち上がった後でガラリとと変わったのに気が付いた。

 

「悪いが今回はこれで仕舞いだ、行き掛けの駄賃代わりだ貰っておけ‼︎」

 

そう言って、残る火器をあらん限りライラ機にぶつけるジン・アサルト。

 

肩のガトリング砲が両腕のグレネードとミサイルがライラ機に降り注ぎ、その猛烈な火力の前にライラは回避を強いられる。

 

「くっ‼︎逃げる気か」

 

ハイザックと違い決定的に軽量化された機体は、ちょっとした被弾でも致命傷となりかねない為回避に専念するしかないライラは、苦し紛れに敵の背に向けてそう叫んだ。

 

しかしジン・アサルトのパイロットはそれに答える事も無く、戦場を離脱して行く。

 

遠ざかる背中を、ライラは只々見送るしかなかった。

 

「敵のパイロット、機体の性能もそうだが中々良い腕をしていた。でなければ私がこうも抑えられる筈がない」

 

被弾した部下達を連れ、ボスニアへと帰還する途上でライラはコクピットの中でそう呟く。

 

結果として、ライラ隊の活躍もありザフトのコロニーへと侵入を阻み且つ2機のジンを撃墜した事で。

 

ルナツーで行われている改修機プランにも弾みがつく事となった。

 

それと同時に、ザフトもまた対MS用の新型機や装備を開発し実戦に投入している事も分かり、今後共和国軍はその対策に力を入れていく事となる。

 

 

 




ライラ隊改修機解説

ライラ機

ハイザックを徹底的に機体を軽量化し、両肩のシールドとスパイクアーマーさえ外した機動性、運動性重視の機体。頭部には試験的にジンを模したトサカ状のセンサーを搭載し、索敵能力を高めている。
武装は120㎜アサルトライフル ヒートソード

元ネタを含め見た目まんまガルバルディ、ライラ大尉が乗る機体と言えばコレしかない。大尉は実に良い女である。


ハイザック重装甲型&キャノン砲装備
コクピット周りに増加装甲を装着、次いでにバックパックの換装が簡単な事を利用して240㎜キャノン砲も搭載した中距離支援機。実は前述のガルバルディとバックパックの互換性があり、主に対艦用装備としても使われた。
元ネタ、ハイザック・キャノンの試作機、以上。

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