機動戦士ガンダムSEED・ハイザック戦記   作:rahotu

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22話

22話「解放の鐘は遠くなりに」

 

共和国と南米解放戦線が協力してアンデス基地を陥落させたことは、世界に向け大いに喧伝された。

 

南アメリカに数多く存在する連合軍の拠点の一つを陥したとはいえ、支配の牙城を揺るがしたのは間違いなかった。

 

特にこのニュースに大きく反応したのは、何を隠そう南米市民達である。

 

彼等は長らく連合軍の圧政の元に置かれ、支配の軛から逃れる機会を伺っていた。

 

そしてアンデス基地陥落は、正にその連合の支配が緩んだ証拠でもあった。

 

各地で反連合を叫ぶ声が上がり、立ち上がった市民達が各地でデモや暴動を引き起こす。

 

鎮圧に出た機動隊とデモ隊が衝突し夥しい流血を生み、それがまた新たな怒りや憎しみを生み益々市民感情に火をつけた。

 

そして連合軍はその消化の為に、各地に軍を派遣せねばならなかった…。

 

 

 

 

 

 

南米ジャブロー要塞にて、共和国地球方面軍司令代行マ・クベ中将以下主だった地球方面軍の面々が会議室に一堂に介し、ある協議を行っていた。

 

議題は、南米解放戦線より持ち込まれた作戦に共和国が参加するかどうかである。

 

「『南米解放戦線』より共和国に対し首都ブエノスアイレス奪還作戦への強力が求められた。これについて集まった将官等には忌憚のない意見を述べて貰いたい」

 

マ・クベ中将が会議の冒頭にそう述べたが、集まった面々はある者は思い悩み、又ある者は苦虫を散々噛み潰したかの様な表情を浮かべ、実に様々な反応を示したが誰一人として声を上げることはしなかった。

 

南米解放戦線とはこれまで共同歩調を取り、多くの成果を上げてきたがそれは偏に彼等との利害が一致したからに他ならない。

 

先のアンデス基地攻略にしても、連合軍に制空権を握られるままでは本国へ送る大気と水の輸送が脅かされると言う理由からであって、彼等は何も南米を連合軍の支配から解放しようという訳では無かった。

 

解放軍でない以上、犠牲が多く出る首都攻略はなるべくならやりたくは無い、と言うのが共和国の偽らざる本音であった。

 

しかしこの会議には南米解放戦線からのオブザーバーも参加しており、そう易々と本音を吐露する事は出来ない。

 

だからこそ、集まった面々は沈黙し続けていた。

 

そもそもこう言った政治的判断を迅速に下すべく、マ・クベは地上軍を参謀本部直轄にしたが事が早く動きすぎ、いまだ参謀本部でも対応を協議中との連絡しか入ってこなかった。

 

これは何も、共和国軍首脳部が権力闘争に明け暮れるばかりの愚鈍だからと言う訳でも無い。

 

NJにより遠隔地との距離と時間の壁を超越する人類の英知ともいうべき各種通信技術が阻害され、ちょっとした定時連絡でさえ多大な困難を伴った。

 

それが地球と月の裏側となればその困難や苦労は計り知れない。

 

近代的な国や軍隊であればある程、NJの存在は大きな足枷となり、中々に身動きが取れない。

 

つまり本来であれば国力戦力共に圧倒している筈の連合軍が、いまだに戦争に勝ちきれていないのはこう言った理由による。

 

そしてそれによって、いまだ共和国はまだ歴史上に語られる過去のモノとなっていないのだが。

 

せめて地上軍の意思の確認をするべく今回の招集をかけたマ・クベだが、これは些か早計であったと反省していた。

 

何故ならこの沈黙が、共和国の総意として南米解放戦線に捉えられてしまったからだ。

 

それは今まで築き上げてきた彼等との信頼関係にヒビが入る事であり、地上に不慣れな共和国は彼等の助けがなければ満足に軍を動かす事が出来ない。

 

ここでの失態は即マ・クベの進退を問われる事となり、彼は政治的軍事的に極めて難しい立場に立たされていた。

 

「仮の話だが、解放戦線は我々にどれ位の協力を求めているのかね?」

 

イーサン・ライヤー大佐はその立派な口髭をモゴモゴと動かしながらポツリと言った。

 

「それは、具体的な兵力の事でしょうか?それとも支援の方法の事でしょうか?」

 

解放戦線からのオブザーバーはそう言うとライナー大佐は「両方だよ」と言った。

 

「そもそもハッキリと言ってしまえば我々と諸君等とでは立場が異なる」

 

方や一国の軍隊で、方や国を失ったゲリラ集団。

 

今更それを傘に来て横暴に振る舞うのかと、オブザーバーは憤慨しようとするが…。

 

「我々は軍である以上場当たり的な作戦には協力出来ない。協力するにしても、先ずはしっかりと其方の意思と作戦内容を検討せねばならない」

 

「違うかね?」とライヤーに言われ、オブザーバーも流石に押し黙る。

 

「我々もそれで対応を決めかねているのだ。一体諸君等はどの程度の事を計画しているのか、それが分からないから我々は沈黙しているのだ」

 

と付け加え、オブザーバーをさっさと会議室から追い出した。

 

解放戦線からのオブザーバーが退出すると、会議室の彼方此方から「ホッ」とした空気が漏れる。

 

ライヤー大佐によって厄介者は追い払われ、これで漸く本音で話せると言うものだ。

 

「で、連中が動かせるだろう予想戦力は?」

 

「頭数だけ揃えればそれなりだろうが、当てになるものか」

 

「歩兵主体とは言え、重装備は殆ど無いも同然だからな」

 

所詮そこが解放戦線の限界であった。

 

補給の当てもなく、鹵獲した装備だけでやり繰りしても何限界がくる。

 

だからこそ、今このタイミングで賭けに出たのは想像に難く無い。

 

「我々が協力したとしても、今自由に動かせるのは精々一個大隊程度。到底首都攻略など不可能だ」

 

「であれば、今少し戦略的防衛に勤めるのみ。幸い制空権は拮抗しつつある、これを機に本国から増援と補給を受けれれば良いのだが」

 

漸く議論が建設的な方向に進み始め、闊達な議論が行われる傍ら、マ・クベとライヤーの両者の心中は全くの別であった。

 

ライヤーはマ・クベに対し大きな貸しを作る事に成功し、マ・クベはライヤーに貸しを作るばかりか会議の主導権を奪われる形となり、両者は目に見えない所で火花を散らした。

 

地上軍も、本国と同様決して一枚岩と言えない事が露呈した会議といえよう。

 

結果としてどの様な計画であれ、今の段階での首都攻略は不可能と判断され、後日正式に解放戦線へと伝えられた。

 

共和国の協力が得られない事を知り、彼等の間に失望が広がるも、代わりに共和国からの追加の物資や装備の援助を受け取る事が決まり、着々とだが解放戦線の取り込みが進められた。

 

後にこの経験を生かし、足りない地上戦力を現地民の協力で補填すると言う手法はこの後多く試みられる事となる。

 


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