24話
24話「アフリカ」
灼熱の大地アフリカ、人類発祥の地と言われる母なる偉大な大地で人間は幾たびも争い続けていた。
長い年月をかけ人が天にかかる大きな橋を作り、星々に手をかけ星の彼方へと翔んで行けるようになったとしても、それは何ら変わらなかった。
コズミック・イラ70 アフリカのビクトリアにあるマスドライバー施設「ハビリス」を巡り連合とザフトとの間で熾烈な戦いが続いていたが、長引く戦いは共和国が介入する隙を生み遂に共和国軍はアフリカのキリマンジャロへと降り立った。
こうしてアフリカを舞台に連合、ザフト、共和国による三つ巴の戦いが繰り広げられる事となり、戦いは益々その激しさと規模を増していく…。
アフリカの熱砂を舞台に、彼方此方の戦場で砲弾が飛び交い敵を吹き飛ばす。
狙いを定めたハイザックが両手で保持したマシンガンを撃ちまくり、空の薬莢が砂漠に落ちて砂に飲み込まれていく。
「撃て撃て!兎に角撃って足を止めるんだ!」
複数のハイザックが同時にマシンガンを撃つとマズルフラッシュが花火の様に見え、砲弾の嵐とでも言うべき鉄の暴力が戦場に吹き荒れた。
ハイザックの主要な武器である通称「ザクマシンガン」は携行弾数が多く、弾を大量にばら撒く事に適している。
共和国軍では複数のハイザックにより弾幕を形成する事を主眼とし、兎に角数と火力で圧倒しようと言うコンセプトであり、それは今日この時まで正しいものと認識されていた。
「クソクソクソっ‼︎弾が全然当たらねえ」
「ヤツら何て機動性なんだ‼︎」
共和国軍のMSパイロットが初めて目にするそれは、獣の様な鋼鉄の四肢を持ち、砂漠をものともせずに自由自在に動き回り、強力な牙を持つ獰猛な虎。
その正体こそプラントが地上に解き放った鋼鉄の野獣ことバクゥである。
バクゥは4本足による走破とキャタピラでの高速機動を使い分け、共和国軍のハイザックを翻弄した。
バクゥの機動性と初めての砂漠に不慣れな事もあり、共和国のパイロット達は思う様に戦う事が出来ず、その間ににもザフトのMSは共和国軍の側面や背後に回り込み攻撃する。
「スペースノイドのドン亀め!アフリカに降りてきた事を後悔させてやる」
ザフトのパイロット達は共和国MSの弱点を熟知していた、つまり分厚い正面からではなく装甲の薄い側面や背部へ回っての攻撃により、次々とハイザックを撃破していく。
狙い澄ましたレールガンがハイザックのバックパックを貫き中の推進剤に引火して大爆発を引き起こし、ミサイルが雨霰と降り注ぎ敵を爆砕する。
またある者はバクゥとの質量差に負けて砂漠に押し倒され、キャタピラにより機体を轢き潰された。
「こんなの話が違いすぎる!散らばったらいい的だ、固まって敵を追い返すんだ!」
味方がどんどんとヤられ、ここに来て戦力分散の愚を悟った共和国軍MS隊は互いに背後を守る様に円陣を組んだ。
古代の戦いさながら盾を並べ円陣を組んで内部に引きこもる共和国のMSを目にし、ザフトのパイロット達はその無様な姿を見て益々亀の様だと嗤った。
「バカめ、MSが自分から動けなくしてどうするつもりだ」
「母艦に連絡して座標ポイントを知らせてやれ。俺達が手を出すまでも無い」
ザフトMS隊は円陣を組む共和国MS隊を包囲したが、彼等は一向に攻撃してこなかった。
それを見て不審に思う共和国軍のパイロット達であったが、その疑問は次の瞬間には吹き飛んでいた。
特徴的な風切り音と共に、何かが共和国軍MS隊の頭上に降り注ぐ。
最初それに誰も気がつかなかったが、それが砂漠に着弾するや否や強烈な爆発と轟音が彼等を襲った。
「な、何だ!何が起きたんだ‼︎」
戦場の後方に控えるザフトの母艦レセップス級からの砲撃が、共和国のMSに向け次々と撃ち込まれる。
本来であればMSの様な移動目標に対しての砲撃は余り効果は無かっただろう、しかし今の共和国MS隊は自ら内に閉じこもり、MS本来の機動性を封じてしまったが為にレセップス級の主砲の格好の餌食となっていた。
砲撃によって円陣は完全に破壊され、このまま足を止めていては唯の的だと飛び出したハイザックには今度は包囲するザフトMSからの集中砲火が待っており、敢え無く鋼鉄の亡骸を砂漠に晒す。
それを見て共和国MSパイロット達の反応は様々であった。
味方の無残な最後を見て降伏を決める者、諦めずに無謀な突撃を繰り返そうとする者、何方とも決められずに唯その場から動こうとしない者。
しかし結局の所彼等の運命は彼等自身には無かった。
ザフトはこの日、誰一人として生きて返す気はさらさら無かったからだ。
戦いが終わり、沈む夕日が砂漠を真っ赤な血の様に染める。
それはこの日この場所で戦った兵士達が流した血の代わりの様であり、吹き荒ぶ風が無残な残骸を砂つぶで覆い隠しやがて全てが砂に埋まってしまうだろう。
そしてこの場所で一体誰が何の為に戦ったのかと言う痕跡さえ、明日の朝にはすっかりと消え果てるのだ。
全てを飲み込む砂漠は今日も人知れずその姿形を変えれど、いまだ鳴り止まぬ砲声は変らぬ人の愚行そのもののであった。
この戦いはいつまで続くのだろうか…。