27話「対MS特技兵」
時にコズミック・イラ70 11月 アフリカに降下した共和国軍であったが、ザフトの局地MSの前に圧倒され各地で後退を続けていた。
結果共和国アフリカ方面軍司令部はキリマンジャロに篭城を余儀なくされ、ザフトの包囲下に置かれてしまう。
そうしてアフリカのマスドライバー「ハビリス」の攻略を急ぎたいプラントの思惑もあり、キリマンジャロに篭る共和国軍を早期に撃滅するべくザフトはその包囲網を狭めていった…。
キリマンジャロの麓に展開したザウート部隊が、大気を震わせる轟音を鳴らすたび山肌が削れ敵が隠れていそうな岩陰等を吹き飛ばす。
「攻撃、止め!」
部隊長の指示によりザウートからの砲撃が止み、山の中腹は砲撃によって発生した塵や岩の破片が煙と共に立ち込めていた。
「MS隊、前え!」
キリマンジャロ攻略部隊の部隊長が乗るレセップス級から全部隊に次の指示が飛び、待機していたジンオーカーが山の斜面を駆け上っていく。
本来ならば空中MS隊と連携を図って進撃すべき所なのだが、生憎とジブラルタルからの転属命令により所属していたディンやグルゥは全てマスドライバー攻略に振り分けられてしまっていた。
これは先の空中MSの攻撃により、共和国軍が建設中の飛行場を完全に破壊した事で、敵の空中戦力は無いと判断された為であった。
その代わり、彼等にはジブラルタルからザウート隊及びジンオーカーが送られて来たのだが、当の部隊長らはせめてバクゥを送って欲しかったとボヤいたという。
しかしボヤいたとて何も始まらないと気を取り直した部隊長は、キリマンジャロ攻略に乗り出したのだが、共和国軍は一向にその姿を見せないでいた。
山からの反撃の砲撃やMSどころか、人の影さえも無く山は不気味な程静まり帰っていたのだ。
流石に不信に思ったジンオーカー隊が速度を緩めはじめ、斜面を進む速度が俄かに落ち始める。
「ちっ、奴等気付きやがったか?」
ベン・バーバリー中尉は巧妙に隠蔽された塹壕の中から、全身にシートを被り双眼鏡で敵の動きを探りながらそうボヤいた。
彼は共和国軍で新設された対MS特技兵部隊を率いており、文字通り生身でMSに挑むと言うベン・バーバリー曰く「狂気の部隊」である。
「中尉殿、もう仕掛けますか?」
最先任曹長であるハミルトン曹長がバーバリーにそう聞くと、彼は塹壕の中に戻り敵が後500m前進したら仕掛けると部隊に指示を下した。
無敵とさえ謳われるMSにも、実際には多くの弱点がある。
まずMSは巨大な人型兵器故全高が高く、発見されやすいと言う点だ。
これ故隠密性等望むべくも無く、MSが移動すればそれは立ち所に知れてしまう。
次に、これも人型に関係したことだがMSの多くはその武装を手で保持すると言う特徴がある。
つまり両手ないし両腕が何らかの理由で使えなくなった時、MSの火力は激減するのだ。
更に言えば地上では全高18mもの巨体を二本の足で支える関係上、片方の足例えば関節や足の裏等が破壊又は故障した場合MSは容易に擱座してしまう。
そしてこの様な敵MSの無力化を行うのに特化した部隊が、彼等対MS特技兵部隊なのだ。
彼等の主兵装である対MS用ロケット砲通称「リジーナ」は、元は南米で連合軍から鹵獲した対戦車ロケットを、共和国軍がそれを参考にコピー及びスケールアップして量産した物である。
高濃度NJ環境下でも使えるように有線式となっており、組み立て式のロケット砲を三人一組で使うというかなり大掛かりな装備であった。
基本的に大型でかさばる故この様な待ち伏せにしか使えない兵器だが、その威力は確かであった。
「中尉!敵がゴールラインを超えました」
「照準は先頭の奴に合わせているな、よしヤれ!」
バーバリー中尉の合図の元、山の斜面や岩陰に塹壕を掘って待ち伏せしていた対MS特技兵が「リジーナ」を発射する。
前方からそして側面から同時にリジーナが飛び、先頭を進んでいたジンオーカーのパイロットは突然の奇襲に回避しようと試みたが、しかし山岳地形の為常より機動性が下がっており、しかも半包囲からの飽和攻撃により膝や腕関節に次々と被弾した。
両足と左腕を破壊されたジンオーカーが、斜面に前のめりに倒れこむ。
それを見て特技兵達が一斉に歓声をあげる。
「やった、やったぞ!MSを俺たちが倒した!」
「見たかコーディーめ!お前らは地面とキスするのがお似合いだぜ」
しかしその歓声もすぐに止んだ、仲間をヤられたジンオーカーが特技兵が隠れる塹壕にライフルの銃口を向けたからだ。
「た、退避ーっ!」
間一髪、塹壕の中に逃げ込んだ彼等の頭上をジンのライフルから発射された砲弾が飛んで行く。
その内の幾つかは、塹壕の手前の山肌を耕したり或いは回収の間に合わなかった「リジーナ」を破壊したりなど、特技兵達は敵の攻撃が止むまで移動もままならなかった。
「バーバリー中尉!」
「やむ負えん、一度後退した体制を立て直すぞ。持っていけない重装備は破壊した後破棄しろ!」
流石の特技兵達も、MSと正面から戦う様な事はしなかった。
彼等の目的はあくまでも敵の遅滞であり、ここで全滅するまで戦う事では無かったからだ。
特技兵達は予め掘られた脱出用の地下壕を通り戦域から離脱していく。
その際リジーナの多くが破壊された後戦場に破棄されたが、元々使い捨て前提の兵器故彼等には大した痛手とはならなかった。
そうと知らないザフト兵は、まだ敵が隠れているものの思って躍起になり、誰もいない塹壕に向けライフルを叩き込み或いは破棄されたリジーナを恐れこれを完全に破壊してしまった。
この為、共和国軍が開発した「リジーナ」についての情報が遅れる事となり、この後もアフリカのザフトは特技兵達に大いに苦しめられる事となる。