機動戦士ガンダムSEED・ハイザック戦記   作:rahotu

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29話

29話「八匹の虎」

 

キリマンジャロに籠る共和国軍攻略に失敗したザフトであったが、彼等は戦いを諦めた訳では無かった。

 

一旦後退したザフトは、しかし再び活動を再開しキリマンジャロを包囲したからだ。

 

何故なら、プラント本国から今年度中にビクトリアのマスドライバー「ハビリス」を攻略する事を求められた。

 

その為にも、彼等は後顧の憂たる共和国軍は何としても除かなければならず、そして虎の子たるバクゥ部隊をとうとうキリマンジャロ攻略に差し向けたのだ。

 

キリマンジャロにはジブラルタルから8機のバクゥが集結し、これは共和国軍換算で言えば一個中隊強に相当する。

 

この時攻略部隊の指揮官曰く「八匹の虎が前進すれば、戦いは終わるだろう」と豪語したと言う。

実際バクゥ1機で共和国のMS5機に相当すると言われており、このザフト指揮官の言葉も強ち間違いとは言えない面もあった。

 

だが依然として空中用MSディンは増強されておらず、申し訳程度に戦闘ヘリが数機とその懐は御寒いばかり。

 

しかし上層部はこれで十分だと判断し、ザフトは再び航空支援の無い中キリマンジャロ攻略に乗り出したのである。

 

その結果どうなったかについては、この時はまだ誰も知る由もなかった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

早朝、まだ朝靄も晴れぬなか幾つもの砲声と銃声が鳴り響き、大気を震わせ爆音と共に斜面が削れ山肌に巨大な穴を開ける。

 

後方のザウートからの砲撃によって空いた戦線の穴をバクゥが広げ、防衛線を蹂躙していく。

 

共和国兵の必死の抵抗を嘲笑うように、バクゥはアッサリと塹壕を突破し、火点を踏み潰し又はロケットで吹き飛ばした。

 

バクゥの圧倒的機動力の前には、特技兵の操る「リジーナ」は速さが違いすぎて追いつけず、前回の活躍がまるで嘘の様に逆に彼等が追い回される一方となっている。

 

「第一防衛ライン突破されました!続いて第二防衛ラインに敵が到達しつつあり」

 

「後方からも車両とMSの一団を確認、このままでは防衛ラインの部隊が包囲されます」

 

要塞内部の司令室のモニターには、刻一刻と変化する戦況の様子が映し出され、各地との連絡を中継するオペレーター達が前線からの悲鳴の声を伝えた。

 

「突破された部隊は後退して第二防衛ラインと合流、何としてでもそこで死守しろ!」

 

司令官からの指示を前線に伝えオペレーター達が忙しなく動き始める中、共和国アフリカ方面軍司令、ノイエン・ビッター少将は苦虫を噛み潰したかの様に顔を顰めた。

 

何とかこれで持ち堪えてくれればと、ビッター少将は祈る様な気持ちであったが、しかし現実は非情であった。

 

「エイガー少尉、敵が敵がすぐそこまで!うわああぁぁぁ」

 

「おいどうした!返事をしろ、おい!」

 

無線機に向けてエイガーが叫ぶが、しかし返事が返ってくる事は無く、彼は乱暴に無線機を地面に叩きつけ地団駄を踏んだ。

 

「くそっ!機動力が今までの奴と違いすぎる。これが虎の威力なのか」

 

エイガーは自分達が築き上げたキルゾーンを易々と突破するバクゥの姿を思い出し、ザフトMSの性能に戦慄した。

 

共和国兵が虎と呼んで恐れるザフトの地上戦用MSバクゥ、この機体は多くの点で既存のMSをあらゆる面で上回っていた。

 

まずMSの中でも特異な4本足の走行により、山岳地形などの不整地を易々と走破する機動性。

 

そこから更に無限軌道による突破力が合わさり、しかもこの形態は装甲が前方に集中する為角度と距離によってはハイザックのマシンガンさえ跳ね返された。

 

背中のレールガンは命中すればハイザックの装甲さえも易々と貫通し、初めて見た共和国兵がその姿と威力から「虎」の様だと恐れた事からも、いかにバクゥが恐ろしい存在かと見て取れる。

 

「しかも虎って何だ虎って!どう見ても犬じゃないか、そもそもアフリカには虎なんていないのに〜‼︎」

 

「少尉落ち着いて下さい少尉〜」

 

エイガーは手塩にかけた部下と部隊が手も足も出ずにやられたのにアタマにきて、指揮車両から飛び出そうとし、慌ててサカキ軍曹が押さえにかかる。

 

「チクショウ!覚えてろよ犬っころーっ!」

 

暴れるエイガーを、サカキ軍曹が車内に連れ戻しながらも、エイガーは最後にそう叫ぶのであった。

 

 

 

 

 

 

エイガーが捨台詞を吐きながら引きづられていく一方、共和国の砲陣地を制圧したザフトMSは漸く終わったかと一安心していた。

 

彼等は最初敵の砲陣地の事を甘く見ていた、何故なら彼等がこれまで経験した連合との戦いでは砲兵はこちらが近づくだけで簡単に逃げ出し、碌に反撃すらしてこなかったからだ。

 

実はこれには訳があり、新兵ばかり戦場に送り出す連合軍は当然士気が低く、正規の軍人とは違い死ぬまで戦うと言う事などない。

 

その為、彼等は誤った経験則を得たがそれは共和国砲兵の前に粉々に吹き飛ばされた。

 

エイガーは敵がバクゥと知り、最初から砲弾の直撃を諦め、面制圧による撃退を図ったのだ。

 

次々と雨霰の様に降り注ぐ砲弾の嵐を前に、バクゥはかなりの被害を被り、それ以上に至近距離で次々と炸裂する砲弾は実際の被害以上にザフトのMSパイロット達に心理的な負担を与えた。

 

しかし結局の所、彼等は遮二無二突撃する事で無理やりキルゾーンを突破し、砲陣地に取り付く事で坑道内部に直接攻撃を叩き込んだり、或いは穴の入り口を崩し敵を生き埋めにするなどの方法で何とかしたに過ぎず、実際坑道を覗き込んだバクゥが不意を打たれ至近距離からの砲撃を受け撃破されている。

 

少なからぬ損害を受けたバクゥは、その場で一旦待機し補給を受けた後再び進軍を開始した。

 

 

この先で何が待ち構えているのかも知りもせず…。

 


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