機動戦士ガンダムSEED・ハイザック戦記   作:rahotu

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51話

51話「防衛計画」

 

プラントで対共和国の出兵が決まり、グリマルディ戦役以来小康状態が続いていた宇宙で、再び軍事活動が活発となった。

 

それまではプラント、連合、共和国の間で一部を除いて小規模な小競り合いこそあれ、比較的平穏な時が経過していた。

 

後世、俗に言う「ファニーウォー」である。

 

しかし、彼等は決して備えを疎かにしていた訳ではない。

 

連合軍は来るべき反攻に備え戦力を温存しつつ、プラントも又地上での攻勢を強めた。

 

特に共和国では「ビンソン計画」に従い、急速にその軍備拡張が進められ、兵力も元の500万から予備役も加えて800万(総人口の約2%)へと増員された。

 

各コロニーや月面都市の工場や造船所から日夜MSや戦艦、兵器や物資が作られ、それらは宇宙港で戦時標準船であるコロンブス級輸送艦に乗せられ、前線へと送られた。

 

この時期、共和国の主力MSであるハイザックは徹底的な低コスト化と製造期間短縮の結果、1機当たりにかかるコストと時間が半分になり、1ヶ月当たり3,000機以上と言うスピードで量産されている。

 

これは宇宙での数値であり、地上で生産されている物を合わせれば、月に4,000〜5,000機ものハイザックが生み出され続けていた。

 

無論これらが全て共和国軍に配備されていた訳ではなく、地球の親共和国勢力や組織及び各中立コロニーと言う名の協力国へと、レンドリースとして送られた。

 

その代わり、彼等は共和国に対し物資や情報、資金そして何よりも人手を提供した。

 

戦争により人手不足が深刻化する中、共和国では空洞化した産業の穴埋めに彼等を用いた。

 

だが、共和国が今日まで戦い続けてこられた最大の理由は、地球圏で発生する難民であった。

 

特に宇宙で発生したスペースノイド難民はそのまま共和国へと流れ、L4で再建されたコロニー「ザスカール」が彼等の受け皿となった。

 

しかし、彼等の全てが新天地で安寧を得られた訳では無い。

 

破壊される前のコロニーなら兎も角、余りに膨大な難民達を受け入れられるだけのキャパシティは、まだ再建されたばかりのコロニーには無く、彼等は日々の生活に事欠くこととなる。

 

そして、食い扶持を減らす目的で大勢の難民達が共和国軍へと志願したのだ。

 

共和国軍は戦時中を通して常に人手を求めており、少なくとも志願さえすれば清潔なベットと毛布、それと温かい食事に有り付けた。

 

志願したスペースノイドの多くは止むに止まれぬ事情で志願した者達なのであり、当然の事ながらその士気は低い。

 

しかしそれを承知で、共和国軍は使い捨ての消耗品として彼等を戦場に投入し、大勢の若者の命が戦場で散っていった。

 

だが、それでも志願兵の数は減るどころか、戦争が長引けば長引く程その数は増していく。

 

何故なら志願し半年間勤務すれば除隊後に年金が支給され、例え戦死してもその結果家族には一時金と市民カードが発行されるからだ。

 

市民になれさえすれば、その家族は共和国や他のコロニーでの永住権を認められ、様々な行政サービスを受けられる。

 

この当時、志願兵の多くは無闇に長生きするよりも、戦死する事が最大の孝行とさえ囁かれた。

 

そして現在、共和国軍コンペイトウ要塞周辺宙にて、彼等はこれまで以上の困難に遭遇する。

 

宇宙要塞コンペイトウ、共和国が誇るこの強力な要塞が建設されたのは、大戦勃発よりも20年も前に遡る。

 

当時単なる地方自治政府でしかなかった共和国は、強大な理事国の圧力に対抗する為アステロイドベルトの資源採掘用小惑星を極秘裏に持ち込み、それを改造して拠点化して以来永久要塞として20年もの間、その規模の拡大と拡充が続けられていた。

 

その結果コンペイトウ要塞は、核兵器に耐え得る強固な装甲を持ち、内部には蟻の巣の様に通路が張り巡らされ、無数の火器に主砲と要塞主砲であるヨルムンガンド砲で武装。

 

最大で80隻もの艦船が収容可能であり、同時に20隻を修理又は建造可能なドック、各種ミサイルを1日当たりに7千本を生産可能であり、MSの製造さえ可能な兵器工廠を内部に備えている。

 

この他食料プラントと空気製造プラント、そして最大で1年もの間篭城可能な備蓄によって正に難攻不落と言っても過言では無い要塞と化していた。

 

だが、それでも共和国はまだ要塞の防備が不十分だと考えていた。

 

彼等はより強固なそして強大な防衛陣地を、新たに構築する必要があり、それらは直ぐさま実行された。

 

防衛計画の責任者となったグリーン・ワイアット少将は、軍民を総動員して長大で強固な防御陣地構築を推し進め、足りない人手は共和国民や先の志願兵達に難民とその家族が動員された。

 

これらの人々は宇宙作業用ポッド、通称「ボール」と呼ばれる作業機械に乗り込み、要塞周辺宙域に宇宙機雷を敷設したり、或いは敵の遮蔽になりそうな暗礁宙域にある隕石やデブリを回収作業に臨んだ。

 

このボールという作業ポッド自体は、ジャンク屋やコロニー公社を始め、この宇宙のどこにでも転がっているような物であり、さして珍しい物では無い。

 

しかし共和国はこの作戦のためだけに、自国や他のコロニーから搔き集められるだけ集め、凡そ2万機ものボールがコンペイトウ要塞周辺で作業に当たった。

 

これらの作業ポッドの操縦技術習得に当たっては、そもそもスペースノイドならば宇宙遊泳は疎かこの程度の機械操作は最早必修科目であり、老人から子供まで誰でも乗りこなす事が出来た。

 

彼等は与えられた準備期間の中で、20万とも30万とも一説には100万個以上もの機雷を敷設し、大小合わせて1万以上のデブリを回収したと言われる。

 

無論、この困難な任務にあって犠牲者も出ており、特に有名なのが老朽化した衛星のバッテリー交換のさい起きた爆発事故であり、同時工科学科より派遣された15歳〜18歳からなる少年少女達20名が、犠牲になった痛ましい事件だ。

 

この他様々な事故により、期間中100名もの犠牲者が出ており、一時国内での反戦感情が沸騰しかけた事もある。

 

だが、国家総動員令が発令間近となった共和国政府は、この時凡ゆるマスメディアを総動員して世論を封殺及び誘導し、これらの犠牲者や平和や人権活動家に対する規制が明らかになったのは、戦後になってからだ。

 

しかしその甲斐もあってか、無事に期間中に予定された工程を全て終了し、非戦闘員はザフトとの先端が開かれる三日前には戦闘予想宙域より避難された。

 

無論活躍したのは民間人だけでは無い、共和国軍工兵隊は回収したデブリや隕石に細工を施したワイヤートラップや、巧妙に隕石に擬装した砲台や攻撃衛星を作り、敵の侵攻ルートになりそうな場所に配備した。

 

小型の小惑星には穴が掘られて砲やMSが隠され、砲手はその中から敵を狙い撃った。

 

そしてこれまでの戦訓から、今まで各防衛ラインに均等に配備されていた浮遊砲台は纏められ、幾つかの重要と思われる箇所に配備された。

 

それらは各方向に砲が向けられ、等間隔に構築され陣地の間を抜けようとする敵を側面から攻撃し、更に敵の反撃に備え戦艦の装甲で防御されている。

 

最早浮遊砲台の域を超え、浮遊陣地として各防衛ラインに配備されたそれは、戦場に立体的な火線を提供した。

 

スナイパーはデブリに紛れ、彼等の役目は敵を塞ぐことよりも敵の指揮を乱す事にあり、それ以外の射撃は禁止される程であった。

 

その他ワザとデブリを撒き散らして敵のルートを妨害したりなど、これまで培ってきた宇宙技術を総動員して事に当たった。

 

何故共和国がこうも過剰とも思える防衛ラインを整えたかと言うと、それはコンペイトウの立地が影響した。

 

対プラント戦線でザフトの宇宙要塞ボアズと対峙するコンペイトウは、言うなれば戦線の突出部を形成している。

 

共和国は以前より、対連合、対プラント其々を想定した防衛計画を練っており、その内対プラントにおける作戦において、プラントは要塞正面からではなく、突出部の両端から攻撃して袋を絞り要塞を包囲すると見られていた。

 

実際共和国のこの考えは当たっており、プラント評議会で立案された作戦は、概ね共和国が想定した作戦に沿うようなものであった。

 

古来より、強固な要塞を攻略するにあたり、包囲しその補給を断つと言うのはありふれた手であり、しかし手垢に塗れていると言うのは逆説的にそれだけ有効な手段である。

 

最も、コンペイトウ要塞に備えられた巨大な要塞砲を見れば、誰だって正面からの攻撃は避ける筈だ。

 

言うなれば状況から導き出された必然であり、それ故お互いに手の内も読める。

 

無数の機雷原と共和国軍は其々の袋の両端部に3重の防衛ラインを構築し、地球方面にブライアン・エイノー准将の艦隊30隻とMS1,800機を配置、外縁部方面にコンスコン准将率いる文艦隊50隻とMS2,200機を配備し、その後方にはエギユス・デラーズ大佐が指揮する戦略予備軍が置かれた。

 

この予備戦力はそのままの意味で最後の砦であると同時に、もう一つに反撃作戦の中核となる役目も負っていた。

 

敵を縦深防御の奥深くに誘い込み、補給が伸びきった所で反撃し包囲殲滅すると言う、これ又お手本の様な戦術だ。

 

これら強固な防御陣地と艦隊の背後には、コンペイトウ要塞があり、極めて重厚長大な縦深防御を構築している。

 

防衛ラインの総延長は、コロニーと地球との距離に匹敵すると言われ、全てがギリギリの所で間に合ったのだ。

 

参加兵力凡そ100万、総MS数8,000機以上、MAを含めた航空機約3,000機、艦隊総数150隻、無人攻撃衛星と浮遊砲台を含めた総砲門数1万門以上。

 

対するザフト側は総兵力30万、これはプラントが宇宙で動かせる戦力の凡そ半数に及ぶ。

 

MS5,000機に赤服や白服などといったエース部隊とナスカ級を含む艦隊60隻に加え、次期主力MSとして開発が進んでいるZGMF-600ゲイツ、その試作機18機と後に核動力機であるフリーダム、ジャスティスと共に大戦末期猛威を振るったミーティア試作機、及びドラグーンシステム搭載機が試験的に投入された。

 

量の共和国に対する質のザフトの構図は、後に「質対量」の命題の極地と呼ばれ、第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦の前哨戦、又は「史上最大のMS戦」など様々な名を付けられた。

 

こうして、後に「オペレーション・スピットブレイク」、「オーブ解放作戦」と同様に大戦の転換点として語られる戦い「コンペイトウの戦い」その火蓋が切って落とされようとしていた。

 

 




今回の話、つまりスターリングラードとクルスク。

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