機動戦士ガンダムSEED・ハイザック戦記   作:rahotu

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52話

52話「コンペイトウの戦い・その1」

 

時にコズミック・イラ71年3月、ザフト艦隊はコンペイトウ宙域に展開を完了していた。

 

この時プラント本国では、作戦は1週間以内に済むと考えられていた。

 

何故なら共和国は所詮は難民が寄りかたまった纏まりのない田舎勢力であり、自分たち程軍も洗練されておらず、ナチュラルの中でも一際劣る存在だと多くのプラント市民は考えていたからだ。

 

しかし実際に部隊を率いるクライン派の指揮官達は、作戦の前途に本国程幻想は抱いてはいなかった。

 

彼等は事前の偵察と諜報部からの報告から、敵がかなりの防備を備えている事が予想され、作戦遂行には多大な困難を伴うと見ていた。

 

指揮官達は連名で、作戦開始までの間更なる戦力の増強か、もしくは作戦そのものの中断を求めていた。

 

この作戦でザフト外縁部方面部隊を指揮するパールスは、当時プラントに宛てこう打電している。

 

『敵は強固な縦深陣地を構築し、戦力も増している。我々を待ち構え、準備万端であり作戦遂行には多くの困難が予想される。今一度計画の見直しを進言する』

 

しかし、本国からの返事は『作戦は予定通りに始める。ザフトの為にあれ』とだけであった。

 

地球方面からの攻略を担当するマウゼルは、計画を変更し敵を攻めるのではなく、逆に攻めさせてからのザフトお得意のMSによる機動戦に持ち込もうと考えていた。

 

何故なら地球方面は「世界樹攻防戦」の折に発生したデブリが滞留し、大部隊が進行出来そうなルートは限られ、防御側に対して極めて不利な状況であったからだ。

 

しかし、この計画変更案もプラント本国によって握り潰されてしまった。

 

度重なるプラント本国のこの無関心とも頑迷とも取れるこの態度の裏には、プラント評議会議長シーゲル・クラインの辞任に始まる評議会の混乱が影響していた。

 

彼等は次の選挙までシーゲルの辞任を隠し通すのに奔走し、その為この時期を境に急速にプラント本国のザフトに対する指導力が低下していったのだ。

 

またザフト内部でのクライン派とザラ派の争いもあり、コンペイトウ攻略部隊は内外に問題を抱えたまま戦わざるを得なかった。

 

対する共和国本土は、国家総動員令の準備が完了し、後はバハロ首相が発令書にサインするのみであり、密かに党派を超えた挙国一致内閣が設立された。

 

ズムシティにある官庁街通りに面したとある館、最早その人の名を知る者は少なくなったとは言え、当時の賑わいを思わせる豪華な造りのその一室において、共和国大本営が置かれた。

 

バハロ首相は全軍の最高指揮者としてまずコンペイトウ防衛司令部に宛て、「舌」の確保を命じる。

 

極秘裏に、捕獲部隊が進出し機雷原の除去に当たっていたザフトのMSとそのパイロットを捕らえた。

 

捕らえられたパイロットは、前線司令部に連れて行かれ、そして「素直」に口を割った。

 

「攻撃開始は明日0時丁度」

 

それは攻撃開始まで後5分も無かった。

 

前線司令部は直ぐさまこの情報を防衛司令部に伝え、敵に対して先制砲撃の許可を求めた。

 

防衛司令部は、「直ちに攻撃せよ」と伝え其々戦線の後方に置かれた「重砲兵師団」に命令が伝えられた。

 

この重砲兵師団と言うのは、旧世紀の地球での軍隊にも似た組織はあったが、共和国軍のそれは宇宙軍所属であり連合、ザフトには無い独自の編成である。

 

通常1個師団は凡そ50〜80機前後のMS(+諸兵科との混合)で編成されるが、重砲兵師団はこれらのMSが全てハイザック・キャノンやスキウレで構成され、この他にレールガンやバストライナー砲、後年になるとメガ・ランチャーが集中配備された。

 

本来砲撃は正確な観測を必要とするが、この場合兎に角敵の気勢を制す事が重要視され、重砲兵師団は敵が居そうな或いは隠れていそうな場所に向け砲撃した。

 

同時に防衛ラインの両端で砲撃が開始され、2,000門もの砲が激しく火を吹く。

 

その様子を観測していたザフト兵曰く、「光の渦が尾を引いて流れ込んでくる」と表現され、攻撃を仕掛けるつもりだったザフトが逆に先制パンチを喰らう形となる。

 

作戦開始までMSのコクピットで待機していたザフト兵は、突如として自分が乗っていた船に衝撃が走り、機体ごとハンガーの床に倒れこんだ。

 

被弾の衝撃で艦内に火災が発生し、弾薬と燃料を満載にしたMSにそれが引火し、誘爆し抱えていたMSごと轟沈するローラシア級。

 

船外で周囲の警戒に当たっていたMSは、レーダーやセンサーカメラに映る膨大な敵弾の量に、目を回し必死に回避運動を試みた。

 

当然艦隊の方でも同じ様に回避しようとして、逆に位置を失い別の船とぶつかる艦や、爆発轟沈した友軍艦のデブリに衝突し、同じデブリの仲間入りを果たす艦など、様々であった。

 

攻略部隊指揮官パールス、マウゼルは、2人同時に反撃の指示を出した。

 

「艦隊は体勢を立て直し直ちに対抗砲撃を開始、敵砲兵を黙らせろ!」

 

「艦隊一斉射撃!撃て、撃て」

 

ローラシア級やナスカ級からビーム砲やレールガンが飛び、共和国重砲兵師団との間に熾烈な砲撃戦が行われた。

 

この時パールス、マウゼル両指揮官は、この砲撃を敵艦隊からのものと誤解していた。

 

幾つもの実体弾に混じり、スキウレからの大型ビーム砲を前線の部隊が誤解した為だ。

 

しかし、実際には複数の師団からの砲撃でしか無く、共和国艦隊は依然として待機状態にあったのだ。

 

ザフト艦隊から砲撃が開始された時、まだ共和国重砲兵師団は砲撃を続けていた。

 

「MS隊を出撃させろ!工兵隊は前方の機雷源を除去しろ」

 

「MS隊発進!一度取り付いてしまえばこちらのものだ」

 

パールス、マウゼルの部隊から、MSジンやシグーが次々と出撃していく。

 

幾つかの機体は強化装備である「アサルト・シュラウド」や重装備であるD型装備をしており、一気に機雷原を抜け敵艦隊に取り付こうとした。

 

「スペースノイドの劣等人種め!コーディネイター様の力を思い知れ」

 

「アフリカで散った戦友の仇だ、やってやるやってやるぞ!」

 

地球方面を担当するライアン・エイノーの艦隊は、暗礁宙域に“ワザと”残された回廊に艦隊と砲兵の照準を定めた。

 

「全艦主砲、副砲照準。撃て」

 

この時初めて共和国艦隊は砲撃を開始した、アレキサンドリア級やサラミス級から猛烈な砲撃が行われ、衛星ミサイルが放たれた。

 

この衛星ミサイルは、その名の通りデブリとしてそこら辺を漂っている使い用のない隕石に、簡単なスラスターを括り付け質量兵器として再利用したお手頃兵器である。

 

狭く細い回廊を突破しようと、この時縦に長く伸びてしまったザフトMS部隊や艦は、ビームやミサイルを浴び、幾つもの閃光を散らせては宇宙の塵へとかえる。

 

衛星ミサイルを回避し損ね、正面から衝突したザフト艦は一瞬で大破し、その残骸が友軍の針路の邪魔となって回廊を渋滞させた。

 

この時、出撃したセイバーフィッシュのパイロットはその光景をこう日記に書き留めている。

 

『細く狭いデブリで出来た回廊が、まるで一つの光の柱の様に光っていた。それは、今正に地獄の業火で焼ける敵の断末魔そのものであった』

 

細く狭いこの回廊は、殆ど身を隠す所が無く、逆に防衛側にとっては出口に砲を向けているだけで勝手に向こうから射線に飛び込んでくれる、共和国軍の砲撃手にとって格好の狩場である。

 

「馬鹿なコーディネイター共め!まるで七面鳥撃ちだな」

 

ライアン・エイノーは艦隊旗艦の艦橋で、そう吐き捨てた。

 

彼は熱心なスペースノイド第一主義者であり、アースノイドをオールドタイプと見下し、そのオールドタイプに作られたコーディネイターを失敗作と見下していた。

 

彼の教義では今後人類はスペースノイド、つまりはニュータイプに導かれるものであり、古きモノは抹殺されるべきであると考える、極めて危険な思想の持ち主である。

 

その為、統帥本部では厄介者扱いであったが、同時に極めて優秀な軍人でもありそこに目を付けたワイアットが拾い上げ、今回の作戦にあたり防衛ラインの一角を任せていた。

 

「奴らを焼き尽くせ!1匹たりとも生きて返すな‼︎」

 

ライアンの命令で艦隊の砲撃は更に苛烈さを増し、火力で出来た壁はザフト艦隊を圧殺するかに見えた、しかし…。

 

「前線の部隊被害甚大です、各部隊から撤退の許可が相次いで求められています!」

 

「まだだ、まだ耐えるのだ。あと少し、あと少しで…」

 

艦隊旗艦艦橋で、マウゼルは何もただ状況を指を咥えて見ていた訳では無い。

 

先にも述べた通り、この状況は既に両軍共に織り込み済みであり、真に指揮官がその能力を発揮するのはここからであった。

 

そして、ザフトは既にその為の一手を打っていたのだ。

 

「マウゼル隊長!」

 

「来たか!」

 

漸く、彼が待ちに待った反撃の時が来ようとしていた。

 

 


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