54話「コンペイトウの戦い・その3」
共和国軍がこれまで積み上げてきた血の戦訓、それらを総動員した防衛陣地がザフト部隊に牙を剥いていた。
「マーガス、マーガス!援護してくれ」
「ヘンリーとカーターがヤられた!誰かアレを止めてくれ」
「畜生、目の前が砲撃で真っ赤に染まってる!」
機雷原を抜けたザフト艦隊を待ち構えていたのは、浮遊砲台陣地で構築されたパックフロントであった。
陣地は複数浮遊砲台で武装され、彼方此方からビームやレールガンにミサイルが飛び出し、しかもそれらは強固な戦艦の装甲に覆われている。
ただ浮遊砲台と言う特製の為機動性は皆無に等しく、当初ザフト部隊はこれを迂回しようと試みた。
だがそれこそが、共和国軍の真の狙いであったのだ。
パックフロント同士は等間隔に置かれ、その間を通ろうとする機体を両側面から攻撃した。
つまりザフト部隊は、自ら敵の十字砲火の中に飛び込んでしまう形となったのだ。
ザフトの熟練パイロット達が、この圧倒的な砲火の暴力を前に、満足に回避機動を取ることさえ許されずに撃ち落とされていく。
「砲台を潰せ、砲台を潰すんだ!」
「やってる!でも手が足りないぞ」
当然砲台を破壊しようと何機ものMSが取りつこうとするが、それを陣地に配備されているゴブリン部隊が防ぐ。
「野郎ども、マナーのなってないお客様の来店だ!丁重にお帰り願うぞ」
ゴブリンは、本来地上軍で開発されたそれは宇宙軍でもその生産性及び性能を認められ、この様に拠点防御の局地戦機として用いられている。
ゴブリンはハイザックと同じ武器を装備出来るが、今回彼等はその中でも短機関銃を装備していた。
「弾をばら撒け!敵を近付けさせるな」
ザクマシンガンのドラムマガジンを縦にし銃身を半分にした様な短機関銃、通称「バラライカ」と呼ばれるそれは、近距離で絶大な威力を発揮した。
「なんて弾幕だ!近付けないぞ」
「これ以上ジンの装甲じゃ前に進めない!」
一斉射を受けた機体が、目の前で穴だらけになってデブリの仲間入りをするのを目にし、怖気付くザフト兵達。
バラライカは元々拠点警護用に開発された物であり、堅牢でかつ生産性を上げる為ザクマシンガンと同じドラムマガジンを採用し、一度に大量の弾をばら撒く事が出来た。
しかもその威力はほぼザクマシンガンと同じ口径であり、近距離なら並みのMSを一瞬で蜂の巣にしてしまう程だ。
ゴブリンは浮遊砲台陣地の装甲の隙間からこのバラライカで迎撃し、一つの陣地に六梃〜12挺が配備されている。
そしてゴブリンとバラライカが配備された浮遊砲台陣地は、当然の事ながら1個や2個では無い。
強固な浮遊砲台陣地は、大型ミサイルやバズーカの直撃など物ともせず、逆に近付くものに容赦の無い鉄の荒らしを見舞った。
この時作戦開始から既に10時間が経過しており、以前として敵の強い抵抗に遭い続けていたマウゼル隊長は業を煮やし、麾下の艦隊に一斉に号令をかけた。
「艦隊を前面に出せ、艦砲射撃で敵陣地を粉砕してやる」
先の回廊での戦いで消耗し、機雷原を突破した次に強固な防御陣地に遭遇したザフトは、最早これ以上の戦力の消耗は看過できない所まで来ていたのだ。
「火力を一点に集中して抉じ開けろ!」
今次作戦の肝はスピードであり、以下に素早く敵の防衛陣地を突破し反対側の同じく突破した友軍と合流するかに、その成否がかかっていた。
故にマウゼル隊長は無理を押し通してでも、ここを突破する必要があったのだ。
ザフト艦隊からビームやレールガンにミサイルが放たれ、防衛陣地の一角に集中した。
次々と被弾し破壊し粉砕される浮遊砲台陣地、そこに配備されたゴブリンも砲火の渦の中に巻き込まれる。
そして弾薬に誘爆し、周囲にデブリを撒き散らしながら防衛陣地が沈黙した。
連なった防衛陣地の一ヶ所に空いた穴、そこに目掛けてザフト艦が前進しその先で広がる光景に驚愕した。
「ば、馬鹿な今のが奴らの防衛陣地じゃ無かったのか⁉︎」
突破した先で、ザフト艦隊は又浮遊砲台陣地に遭遇したのだ。
しかもそれは前よりも厚く、しかもその先の後方にも同じ物が連なっていた。
「む、無理だ…ここを突破するのは不可能だ」
一ヶ所突破するのにもかなりの犠牲を出したザフト艦隊には、もう一度同じ事をやれるだけの戦力と何よりもMSのバッテリーが残り少なくなっていたのだ。
ここまでザフトMSは戦い続けであり、その間満足に燃料や弾薬の補給そして何よりも母艦に戻ってバッテリーの補充が出来なかった。
何故なら共和国軍は絶えず敵に消耗を強いており、特にスナイパーによって部隊長以下指揮官クラスが軒並狙撃されてしまった結果、部隊の指揮に乱れが生じてしまったのだ。
ここまで共和国軍スナイパーが活躍できた影には、ザフト特有のエース偏重主義が関係する。
エースとは通常5機の敵機を堕とした者に与えられる称号だが、プラントではエースに派手なカラーリングや機体に独自の改造を許すという特権を与えていた。
そして目立つ機体に乗ったエースが戦場で活躍する度、それをメディアで大々的に報じ国民の士気と団結を高めると共に、内外に向けてコーディネイターの優秀さをアピールする事を行っている。
つまり戦場で派手なカラーリングを施した機、或いは他とは違う機体にはエースかそれに準ずる指揮官クラスが乗っており、スナイパーにとって非常に判別し易かったのだ。
因みに共和国軍のエースの話では無いが、共和国ではMSパイロットは3度機体を堕とされ無事に生還して漸く一人前、5度戦場に出て帰還すれば撃墜数0でもエースの仲間入り、との言葉が残っている。
突破した先で更に広がる絶望にザフトの足が止まる中、エイノー提督はこれを好機と捉え両端から攻撃を仕掛けて穴を塞ぎにかかった。
攻撃しているはずが逆に手痛い反撃にあったザフト艦隊は堪らず後退し、戦線を押し返されてしまう。
マウゼルはこの後も新たな作戦プランを練るも、その度に共和国軍の強固な防御ライン及びエイノー艦隊に防がれ、3日間粘るも結果元の出撃位置まで後退。
最早作戦遂行能力を喪失してしまうまでになっていたのだ。
そして両軍の勝敗の行方は、外縁部方面に向けられる事となる。
今年最後の更新です。
三が日までお休みしますので、皆さん宜しければまた来年お会いしましょう。
では、良いお年を。