本年もよろしくお願い致します。
それと三ヶ日が終わった頃に更新するともうしましたが、遅れてしまったことについてこの場でお詫びさせていただきます。
理由につきましては、使っていた機材にロックがかかり解除しようと試みましたが出来ず、仕方なく古い機材を取り出して今に至るしだいであります。
つきましては投稿ペースの方、大分不定期となりますので重ねてお詫び申し上げます。
55話「コンペイトウの戦い・その4」
防衛陣地外縁部方面に最初姿を表したそれは、共和国が今まで遭遇したどんなMSよりも異なっていた。
他のMSと比べて一回り大きく重いそれは、共和国MSが装備するあらゆる武器が至近距離でも通じない強固なPS装甲で守られ、どんな距離からでもハイザックを一撃で破壊出来る強力なビーム兵器を装備し、瞬く間に前線にパニックをもたらした。
固く強くそして速いそれは、ザフト系量産MSの頂点に君臨しその名をゲイツという。
元々ジンの後継機として開発が進んでいたゲイツは、基本設計は早くから完成しており、既にC.E71年2月に本格的なロールアウトに先駆けて世界に向ける発表されていた。
しかし同時期に中立国オーブのコロニーヘリオポリスで進められていた連合軍のMS、G兵器の性能を目にした時の評議会はこれに危機感を覚え、完成間近のゲイツに連合軍MSの技術を加えることを決定。
だが既にある程度完成されたものに新しく手を加えることは大きな困難を伴い、結果現場は混乱した。
いち早く新兵器投入を急ぐ評議会側の焦りも加わり、開発は難航しこの使用変更に次ぐ使用変更によって最終的にゲイツがロールアウトしたのは大戦末期になってからだ。
今回コンペイトウ攻略に持ち込まれた40機のゲイツはつまりは試作機のまた試作機。
取り敢えず連合系のPS装甲を張り付け、シグーディープアームズから得られた情報を生かし、機体とケーブルで直結された試作大型ビームライフルで武装した、大分不安定な機体であった。
しかしそれにも関わらず、ゲイツショックと呼ばれる共和国軍の方針の大転換をもたらしたのだ。
外縁部方面の戦いは、当初は他の戦線と何ら代わりの無いものであった。
しかし外縁部方面は他とは違い、デブリも少なく遮るものが殆ど無い機動戦を得意とするザフト有利の戦場であったのだ。
共和国は戦いの趨勢はこの方面で決する考えており、ここに最も強力なコンスコン准将率いる艦隊を配備していた。
コンスコン准将はワイアット少将生え抜きの提督であり、彼ならばこの重要な役目を真っ当出来るものと考えられていた。
だがしかし、ザフトはこの方面に与えられた新型機や新兵器その全てを投じて来たのだ。
戦局が動いたのは戦いが始まってから丁度3日後、ザフトはここで対共和国防衛陣地用の戦術を披露した。
強固な装甲で守られたゲイツを矢尻に見立て、両翼にジンを配置し敵の火力を先頭で受け止めつつ前進する楔型陣形を取ってきたのだ。
このゲイツによる破城槌により、浮遊砲台陣地に穴が開き次々と砲台を制圧されていく共和国軍。
止めようにも、ゲイツの前には共和国軍のハイザックやゴブリンは余りに無力であった。
その一方、ゲイツもまた様々な問題に直面していた。
「くそ、またバッテリー切れだ!補給はまだか!」
「PS装甲とビーム兵器の併用は相性が悪すぎる。何でも真似すれば良いってもんじゃないぞ」
そう悪態をつくザフトパイロット達。
彼らは試作機を与えるに相応しい腕前の持ち主だが、本心ではこんな兵器に乗せられて神経質になっていた。
既に出撃前に10機のゲイツが動作不良を起こし、戦場に到達する迄に15機が機体の何処かにエラーを抱え、8機が修理不能と判断されて送り返され、これまでの戦いで7機がバッテリー切れで自爆処分されている。
実際に戦場に到達できたのは全体の3割にしか過ぎず、この様な試作機を実戦に投入しなければならないザフトのお家事情が透けて見えた。
しかしこれだけの問題を抱えながらも、いまだゲイツは1機たりとも敵に撃破されていなかった。
共和国MSの実体弾兵器はPS装甲の前に容易に弾き返し、燃費と取り回しの悪い大型ビームライフルはどんな角度や距離からでも敵を一撃で破壊できたのだ。
共和国側の兵器でこれを破壊できるのは、バストライナー砲だけであり、実戦での命中は更に困難である。
事実この時、ゲイツについて纏められた共和国側の報告書には、「我が軍にはゲイツを倒すことが出来る兵器はない」と書かれていた。
実際ゲイツに乗ったパイロット達は様々な不満や不安を抱えていたが、一つだけ言えるのはこの兵器が完成するのを誰よりも待っていたのは他ならぬ彼らであったと言う事だ。
コンスコン艦隊は、この強力なMSを有するザフトと対峙するに当たり、正面からむかうのではなく徐々に後退し敵を奥深くに誘い込んだ。
「拠点の防御に拘るな、相互に連携しつつ後退し敵を誘い込め!」
元々この方面に配置された部隊や陣地は、予め後退し縦深防御を深める事を念頭に計画されているため、その動きに淀みがない。
同時に、この時共和国軍は機動工兵部隊を使って、突破された箇所の敵の予想進路上に機雷原を敷設した。
サラミスの前部甲板の構造物を撤去し、代わりに機雷敷設用のボールを搭載した特殊艦がこの任に当たった。
彼らは敵の予想進路上に先んじて到達すると、ボールを展開し僅か2時間足らずで2万個もの機雷を敷設するのだ。
特殊艦の艦長とボールには操縦技術に優れた兵士と、優秀な艦長が当てられた。
「急げよ、だが焦るな。焦ると散布範囲外にまで出ちまう」
ブロイ・リゲラ少尉はそのうちの一人であり、彼の部隊はこの戦いで最も多くの機雷を散布したことで知られる。
彼らはこの戦いで最も危険な戦場を駆け巡り、その功績に報いるため各種危険手当てや昇給が上げられたが、彼等の多くがこの戦いを生き延びることが出来なかった。
リゲラ少尉も任務中位置を逆探知され、部隊は壊滅し彼もその戦闘の最中行方不明となり後にMIAと認定されている。
だが彼等の犠牲は無駄ではない無かった、ザフトは進路上の機雷撤去に膨大な物資と時間を費やす事となり、その間に稼いだ時間によって共和国軍は安全に後退する事が出来た。
そして機雷撤去作業中の敵は、共和国軍スナイパーの良い的であり、こうした技能を持った敵に大量の出血を強いたのだ。
戦闘開始から6日目には、ザフト側は共和国軍が仕掛けた縦深奥深くにまんまとはまりこみ、補給線は延びきり3方からの包囲攻撃に晒されようとしていた。