56話「コンペイトウの戦い・その5」
コンスコン艦隊の罠にまんまと嵌まったかに見えたザフトだが、しかしこの状況を待ち望んでいたのはパールスでも同じであった。
「パールス隊長、我々は3方からの包囲されています。急ぎ撤退しましょう」
黒服の参謀格がそう進言するが、しかしパールスは首を横に振って退けた。
「いやそうではない、見ろ共和国軍は防衛戦に強いが攻勢にはその準備に手間取っている」
「しかも3方に広がった為一つ一つの戦線が薄くなっている。逆にこちらから仕掛ける好機だ」
事実この時、コンスコン艦隊の方でも攻勢に出るかで迷いがあった。
共和国はこれまで大規模な攻勢に晒されることはあっても、実際に自分達から仕掛ける経験が不足していたのだ。
「コンスコン提督、やはりワイアット司令に攻勢の許可を求めてはどうですか?」
「そうすれば、後方の予備戦力と連動して敵を叩けます」
この時、コンスコン艦隊の参謀達はこう進言したと記録されている。
これは明らかに共和国軍の指揮系統の欠陥が浮き彫りにされた瞬間であった。
あくまで艦隊は要塞防御のための戦力とこれまで位置付けられていたため、本来ある程度の独断専行が許される艦隊の指令部であっても、後方の要塞を意識しなければならなかったからだ。
つまり、この時の共和国軍はまだ古い軍制度とドクトリンに捕らわれ、それらを全て払拭できていなかった。
コンスコン准将はその言に思うところがあるのか、かなり躊躇いを覚えた。
このまま優位な陣形を維持するか、それともそれを捨てて攻撃するのか?
この時彼の頭はこの2択でいっぱいにだった。
しかしこうして無為に過ごした時間によって、ザフトは傾きかけた戦局を覆す一手を打つことが出来たのだ。
「今だ、敵の防御の薄い所に火力を集中しろ!」
パールスの号令で一斉にザフト艦隊やMSからビームやミサイルが戦線の薄い箇所に突き刺さり、宇宙に巨体な閃光を生む。
「不味い!?戦線を薄くしすぎたか」
急ぎ穴の空いた箇所を埋めようとするコンスコン、だがそうはさせじとこの時ザフトは2の矢、3の矢を放っていた。
陣地にぽっかりと空いた穴を埋めるため、周囲からハイザックやゴブリン、サラミスにアレキサンドリアが殺到したが、しかしその時周囲から謎の攻撃が彼らを襲った。
突然機体の推進機が爆発したかと思うと、今度は僚機の武装が吹き飛び、あるいは突然サラミスの艦橋が爆発したのだ。
この正体不明の攻撃に共和国軍兵士達は怯え、敵の姿が全く見えないなか兎に角マシンガンを撃ちまくった。
この時多くの同士討ちが生じ、それが更に混乱を冗長させ、部隊の統制を取り戻すのにかなりの時間がかかったのだ。
この謎の攻撃の正体は、ザフトがグリマルディ戦役で鹵獲した連合軍のガンバレルシステムを元に開発したドラグーンシステム、その試作品である。
「グリッド位置コンマ2度修正、fire」
ゲイツの背中に4本のトゲ状の砲台をくくりつけたそれを、ワイヤーで遠隔地に飛ばし敵の四角から攻撃する機体。
コートニー・ヒエロニムスは淡々と、事務処理的にターゲットを捕捉しては撃つと言う動作を繰り返す。
使用するのに高度な空間認知能力を必要とし、あの連合軍でさえ僅か十数名のパイロットしか見付けられなかった希少な特性であり、ザフトでは今のところコートニーと後1人しか存在しない。
しかし使いこなせば今やって見せたように単騎で集団を足止めできる戦果を発揮し、少数精鋭に成らざるを得ないザフトにとって正に最適な兵器と言えた。
「共和国のハイザックはさほど強化されてはいない、いや寧ろ数を揃えるのを優先したためか」
コートニーはドラグーンのデータを取りつつ、共和国のハイザックを注意深く観察する余裕があり、彼は技術者としての宿命か戦場であっても分析を怠らない。
「しかしなんだこの違和感は...余りに動きが統一され過ぎている」
今もドラグーンから放たれた攻撃を避けようとして、ハイザックが機体を捻る同じような回避パターンを彼は幾度となく目にしていた。
画一された訓練の賜物と言えばそれまでだが、しかしその動きにパイロット本人の息遣いが感じられず、何処か機械が動かしているかのような印象を受けているのだ。
「相手のOSに秘密が有りそうだ、何とか入手できないだろうか」
と彼はそう想いつつも、ドラグーンを動かす手を全く緩めず、多くのハイザックを戦闘不能にしていくのであった。
増援の遅れは戦局に影響し、しかしながら僅か12隻の艦船が何とか敵を押し止めようと踏ん張っていた。
「重巡は前に出て敵の攻撃を受け止めるんだ。それ意外はアレキサンドリアの装甲の影から敵を狙い打て!」
「破壊されそうになったら脱出して敵に突っ込ませろ!即席の質量弾だ」
共和国の船は連合軍のような脆弱な作りはしておらず、例え艦橋が破壊されてもまた火砲は生きており、MSもハッチを壊し自力で出撃した。
エンジンを破壊されても丈夫な船体を利用して遮蔽物として使ったりなど、とかく防衛戦に粘り強く対応したのだ。
さしものゲイツも耐ビームコーティングが施された戦艦の装甲相手ではビーム兵器の相性が悪く苦戦し、然りとてそれ以外の実体弾兵器は今度は鉄塊のような重厚な装甲そのものに阻まれる。
しかし、ザフトはとうとう奥の手を切ってきたのだ。
「ミーティア部隊を出撃させろ」