59話「コンペイトウの戦い・その8」
プラント本国から増援が決定された頃、パールス率いるザフト艦隊隊が再編成を終え進撃を開始したのは作戦開始から10日目を迎えた頃であった。
「進め!ここを突破すれば勝利は目の前だ」
正に無人の野を行くがごとくザフト艦隊は猛烈な進撃を開始したが、しかしその攻勢は初日に頓挫する事となる。
「愚かな、自分達が一体どこにいるのか思い知らせてやるのだ」
デラーズ率いる共和国艦隊は部隊を少数に分け、デブリの影に潜ませ敵を十分に惹き付け至近距離まで近づいた時に攻撃を開始した。
まず敵の正面に囮となる部隊が攻撃して引き付け、近距離まで近づいた敵を両側面に潜んでいた部隊が狙い撃つという寸法だ。
突然のこの奇襲に慌てふためき、列を乱したザフト艦隊に容赦なく共和国は攻撃を浴びせかけた。
長引く戦闘によって宙域には大量のデブリが漂っており、待ち伏せにはうってつけの地形でもあったがそれ以上にザフト側の索敵不足があげられる。
ザフトはMS万能主義であり、偵察任務に際しても巨大なレーダーを背負った専用のMSを開発していた。
共和国でも似たような機体はあるが、専ら他の偵察機と併用している。
ザフトMSの戦場で目立つその姿は共和国スナイパーのいい的であり、数多くの機体とパイロットが初戦で犠牲になっており、ザフトの偵察能力を大きく減じていたのだ。
その結果偵察不足により部隊が迷子になったり、或いは誤って機雷原に突っ込んでしまったりなどという事が頻発した。
ザフト艦隊は四方八方から姿の見えない相手の攻撃に晒され、堪らずデブリ地帯から撤退し攻勢発起点まで後退するはめとなる。
PS装甲を備えたゲイツ試作機でさえ、至近距離からの攻撃によってバッテリーを急速に消耗し、戦場でフェイズシフト・ダウンを引き起こしそのまま撃破される機も出始めた。
ここまで無敵を誇ってきた楔型突撃が、共和国の待ち伏せに対しては全く効果が無いことを思いしったザフトは、次の日から部隊事の自由戦闘に任せる事にした。
索敵能力の不足を、個々のパイロットの技量で補い、臨機応変に対応することで待ち伏せに対抗しようとしたのだ。
コーディネイターの優れた反射神経と能力があれば、これも可能と思えたが、しかしここでいくつかの誤算が発生した。
本来近接戦闘で優位とされたはずのザフトが、逆に敵に追い回され窮地に立たされたからだ。
と言うのも、ザフトパイロットの消耗は司令部が思う以上にかなり深刻な事態を引き起こしており、寝不足やPTSDが引き起こす注意力散漫や、物資の欠乏による稼働率低下は重くザフト艦隊にのしかかっていたのだ。
対して共和国は補給や物資も滞りなく行われ、この戦いでは1人のパイロットあたり3機の予備機が用意されており、他にも交替要因はザフトと比べ遥かに豊富であった。
ザフトが撃破された機体や擱座して動けなくなった敵機を鹵獲修理して再利用するなどと、涙ぐましい努力を続けていたのとは対照的だ。
翌日も攻撃は続行されたが、しかし頑強に抵抗するデラーズ艦隊を前に被害だけが積み重なり、しかもコンスコン艦隊からの逆侵攻が始まり、この方面での攻勢を諦めざるを得なかった。
パールスは方針を転換し、まず敵艦隊を撃破すべく包囲を試みようとし、ある地点に目をつけた。
そこはコンペイトウ要塞と共和国艦隊を繋ぐ補給線の中間点であり、増援や補給は全てここを経由して行われていた。
ここを制する事が出来れば敵を立ち枯れさせる事が出来る。
早速行動に移ったザフト艦隊の動きを、すぐさま察知したコンペイトウ司令部は予備戦力の全てを投入する事を決定。
両軍共に保有するMSの大半を注ぎ込んだこの戦いは、後に史上最大のMS戦と呼ばれる事になる。