機動戦士ガンダムSEED・ハイザック戦記   作:rahotu

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60話

60話「コンペイトウの戦い・その9」

 

ザフトの侵攻を阻止すべく、共和国軍の予備戦力及びコンスコン艦隊とエイノー艦隊から一部派遣された部隊が全速力でエリアB7Rと呼ばれるエリアに向かっていた。

 

エリアB7Rはデブリによる複雑な地形と磁気を帯びた隕石が滞留し、レーダーや通信が極めて困難な地帯が円形状に広がっている事から、通称「円卓」と呼ばれている。

 

前線とコンペイトウ要塞とを繋ぐ補給線上の中間点のすぐ側にあるこの難所は、船の通行が一切出来ず唯一MSのみがこの場所を通過出来た。

 

ここを抜かれれば、後は遮るものは無く前線と後方を敵に容易に寸断されてしまう。

 

そうなれば補給を断たれた前線は包囲殲滅の危機に瀕し、守りを失ったコンペイトウはザフトの手に落ちてしまうのだ。

 

今や敵の包囲に晒されている味方全軍を救う方法は、共和国MS隊の双肩にかかっていた。

 

 

 

 

迫り来るデブリを縫うように進むハイザックの編隊、先見隊として到着した彼らはまず拠点となる一際巨大なデブリに目をつけると、そこに降り立ち即席の防御拠点を築こうとした。

 

機体のバックパックに接続された大型コンテナから物資を下ろし、それ以外の機体は持ってきたヒートシャベルで硬い隕石の岩盤に穴を掘ろうとする。

 

その姿は兵器と言うよりも、土木作業器械に似ていてた。

 

かつてジョージ・グレンが設計し運用した船外活動用のパワースーツから発展したMSも、元来は作業器械であり、ある意味で先祖帰りとも取れる姿であった。

 

しかしここは戦場であり、下ろされた荷物はツルハシやハンマーではなく、重機関銃にバズーカやグレネード。

 

通信用の大型アンテナが至るところに設置され、掘られた穴は資源を採掘するのではなく、自らの身を守る塹壕の役目を果たす。

 

近くに息を潜め隠れていたナスカ級の艦長は、目の前で瞬く間に防御陣地が構築されるその姿を見て戦慄した。

 

「成る程な、我々の行く先々でどうして防御陣地が待ち受けているのか。その理由が今分かったよ」

 

過酷な宇宙を旅し続けてきた硬く頑丈な隕石の一つ一つに穴を穿ち、あまつさえ拠点にしてしまおうなどという芸当が出来るのは、世界広しと言えども共和国だけであった。

 

ザフトも似たような資源採掘用の小惑星を再利用した要塞はあるが、共和国のそれはその比ではない。

 

ザフトも試しに隕石にMSで塹壕を掘ろうとした事があったが、鉄をふんだんに含んだ隕石は硬く少し掘るだけでも一苦労であり、到底労力に見会わないと早々に放棄されていた(がよっぽど悔しかったらしく、後にメテオブレイカーを開発している)。

 

考えてみてもらいたい、無重力下で回りは常に放射能や太陽風の嵐が吹き荒れる過酷な環境で、隕石に含まれる鉄の粒子一つ一つは掘るたびに吹き出し無重力のため常に回りに滞留する。

 

それらは容易に機械の内部に付着し故障の原因となり、時に危険なガスも噴出し命を落とす事もある。

 

逆に長年に渡ってアステロイドベルトでの資源採掘とその加工貿易によって成り立っている共和国では、たかが石ころ一つに穴を掘るなど今更造作もないことであった。

 

「艦長、このままあそこに拠点を築かれては厄介です。早々に攻撃しましょう」

 

参謀各の緑服の壮年の男の言うように、エリアの丁度中間点に拠点を築かれては折角ここまで浸透したザフトMS隊に楔を打ち込まれてしまう。

 

それを防ぐ為にも、ナスカ級の艦長は参謀の言に頷き攻撃の指示を出す。

 

「総員戦闘配置、奴等に目にもの見せてやれ!」

 

敵に悟られぬよう、デブリに擬装し火が落とされていたナスカ級のエンジンに火が灯り、予備バッテリーによる非常灯と計器類の明かりだけであったCICルームにも明かりがつく。

 

ナスカ級は回頭しビーム砲が隕石に狙いを定め、エネルギーが充填される。

 

当然戦艦の様な巨大な質量が動けば気付かぬ筈も無く、まして突如として近くに発生した熱源に作業をしていたハイザックのパイロット達はこれから何が起きるのか容易に創造させた。

 

「た、退避ーっ!」

 

誰かがそう叫ぶ間も無く、作業を中断し道具を放り出したハイザック達は急いで隕石から急上昇して離脱を図る。

 

とその時誰かが「あ」と叫んだ。

 

今離脱したのは隕石の表側で作業していたハイザックであり、裏側の影になっている方はまだ状況がどうなっているのか理解していなかったのだ。

 

急いで戻ろうとした機体を別の機体が押し留め、他の機体も必死に危機を知らせようと通信回線を開くが、それも周囲の環境とNJによって妨害されてしまう。

 

それでも何とか状況を知らせようと手だてを必死に探ろうとしたが、無情にもその瞬間エネルギーの充填を完了したナスカ級からビームが解き放たれる。

 

極太のビームが隕石に命中し、逃れたハイザックのパイロット達が作業していた場所を蒸発させ破壊する。

 

しかしそれだけに止まらず、破壊の余波は拡散し隕石の地表を這い、裏側で作業をしていた人員をまるで津波のように襲った。

 

隕石の裏側で作業をしていた彼等は何が起きたのかまるで分からなかっただろうし、どうしてそうなったかと言う答えをもう得ることは無いだろう。

 

全ては一瞬だった、巨大な閃光と共に完全に破壊された隕石はさらに小さなデブリを周囲に撒き散らし、その光はエリアの外側で待機していた共和国艦隊からも見えた。

 

ロンバルディア級宇宙空母の艦長エイパー・シナプス中佐は、この光を艦橋の窓ガラス越しに見た瞬間先見隊が失敗した事を悟った。

 

「やられた、敵の方が一手速かったか!」

 

それは既にザフトが「円卓」に侵入していると言う事であり、つまりこれから自分達は敵が待ち受ける戦場に部下を送り出さねばならないと言う事であった。

 

「シナプス艦長、総司令部より全艦にMS隊の出撃命令が出ました!」

 

シナプスの予想は直ぐに現実の物となり、彼はこれから死地に送り出す部下の事を思い拳が白く成る程硬く握り締めた。

 

「直掩機も含め急ぎ全MS隊を出撃させろ」

 

「ぜ、全部ですか!?」

 

ロンバルディア級の20機余りにも及ぶ艦載機を、一度に全て出すと言う命令に流石にオペレーターも面食らった。

 

しかしシナプスは命令を変えず、先程よりも強い語気で再度命令した。

 

「同じ命令が司令部からも直ぐに来る、MS隊は友軍よりも先んじて円卓に突入するのだ」

 

この時シナプスの頭の中では、友軍から今出たMS隊は全滅すると考えていた。

 

何故なら敵がこちらが来ることを知っており、優位なポジションを占めて待ち伏せているからだ。

 

つまりこれから先の戦いは、今前線で起きていることの逆を今度は共和国がやらなければならないと言う事であった。

 

デブリの中艦隊の援護も受けられず、しかも大型兵器も持ち込めない戦場でどうやって敵の守りを打ち砕くか?

 

それは一度に大量のMSを投入し、敵の対処能力を飽和させ一気に押し潰すしかなかった。

 

つまりそれが意味する所は互いに屍の山を積み上げる消耗戦に他ならず、壮絶な殺し合いをこれから彼等は演じようとしていた。

 

それを避けようと、シナプスは犠牲を覚悟で何とか突破口を自分達で切り開こうとしたのだ。

 

 

 


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