機動戦士ガンダムSEED・ハイザック戦記   作:rahotu

66 / 85
65話

65話「乱戦」

 

円卓の天井方向から侵入した共和国軍によって、敵味方が入り交じり援護不能となったローラシア級の艦長は思わずこう声を荒げる。

 

「監視班は何をやっていた!何故奴等の接近に気付かなかった」

 

それに対し、ローラシア級のオペレーターがおずおずといった風に原因を答える。

 

「恐らく無線封鎖によるものと考えられます」

 

これまでの戦いから、共和国軍は攻勢に出る前通信量が増大する傾向にあり、ザフトはそれを傍受することで円卓の防衛準備を整えてきた。

 

しかし今回共和国軍は無線が傍受されている事を逆手にとり、普段通りの攻勢を装いながら、その実裏では無線封鎖を徹底したエース部隊を用意していたのだ。

 

「先のミサイル攻撃も解析の結果、チャフやフレア等此方の索敵能力を妨害するものが多量に含まれていました」

 

「こちらの耳と目を潰しにかかったと言う訳だな。厄介な...」

 

乱戦となれば、数と装甲で勝る共和国の有利だ。

 

しかし彼等には最早どうすることも出来ず、前線の奮闘に期待するしかなかった。

 

 

 

乱戦となった戦場で、ヤザン隊は最も敵の奥深い所で戦っていた。

 

「ほらほら、どうした!」

 

シールドで盾を構えたシグーを押し出し、ヒートホークでコクピットブロックを叩き割るヤザンのMS。

 

「な、何だあのMSは!?味方がどんどん食われていくぞ」

 

既にヤザン隊によって8機ものMSがヤられており、その圧倒的な強さにザフトパイロット達は怯える。

 

「凄い部隊だ、あんな突出してよく怖くないな」

 

それを見ていた他の部隊からも、ヤザン隊を称賛する声が上がった。

 

如何に乱戦有利とはいえ、白兵戦を行う距離まで敵に近づくなど、中々出来ない芸当である。

 

それを平気でやってのけるあたり、ヤザン隊の非凡さは明らかだ。

 

「両脇に2機置いての装甲突撃、盾をハンマーの様に使って相手の守りを崩すなんて相当乱戦に自信があるんだな」

 

「それだけじゃない、使い捨てのヒートホークをあそこまで長持ちさせるんだ。あのパイロット本当にいい腕をしている」

 

しかしザフトもヤザン隊を危険と判断したのか、彼等の前にとあるMSが立ち塞がる。

 

「これ以上、好き勝手させん!」

 

それはこの戦場で、ただ1機だけ残ったゲイツであった。

 

機体の各所をよく見れば、ジンやシグーなど他のMSのパーツを使って何とか維持していると言う有り様であったが、それでもその脅威に何ら陰る所はない。

 

ゲイツはビームライフルの照準を定め、ヤザン隊を狙い撃つ。

 

堪らず、隊列を乱し回避を余儀なくされるヤザン隊。

 

ゲイツはヤザン機を追いかけ、ビームライフルの射程に追い込もうとした。

 

腐ってもそこはザフトMS、機動力では以前として共和国MSを上回っており、逃げるヤザンに追い付くのは時間の問題かに思われた時。

 

「ラムサス、ダンケル!」

 

何とヤザン機が反転し、ゲイツに向かってくるではないか。

 

「まさか特攻か!」とゲイツのパイロットは思い、そうはさせじとビームライフルを狙い撃とうとした瞬間。

 

「は、動きを止めたな」

 

ゲイツの死角からラムサス機が躍りでで、右手からワイヤーを射出しビームライフルを絡めとる。

 

「おっと、俺を忘れちゃ困るぜ」

 

ダンケルも全く同じタイミングで現れ、ゲイツの左足をワイヤーで拘束した。

 

「お前達、ナイスタイミングだ」

 

そして最後にヤザンがワイヤーをゲイツの胴体に巻き付け、完全に拘束し動きを封じる。

 

だが...。

 

「ゲイツを舐めるな!こんなワイヤーごとき」

 

ゲイツのパイロットは、ワイヤーを引きちぎろうと機体をもがかせる。

 

このままではワイヤーでの拘束解かれてしまうだろう、しかしヤザン隊は慌てない。

 

「ラムサス、ダンケル、やるぞ!」

 

ヤザンの合図で、3機からワイヤーを伝って電流が走る。

 

ハイザックのバッテリーを急速に消耗させるそれは、しかし同じくバッテリー駆動であるゲイツにとって正に致命的であった。

 

「うわあぁぁぁ、な何だこれは!?」

 

ゲイツのパイロットは訳が分からないまま混乱し、機体を必死に動かそうとするが、しかし機体は動かない。

 

何故ならば、この時ゲイツのバッテリーは外部からの電撃によって過剰負荷がかかり、電子機器をショートさせられてしまったからだ。

 

全く動かない鉄の棺桶と化してしまったゲイツ、ヤザン隊は見事に強敵を無力感することに成功したのだ。

 

「ヤザン隊長、無事でしたか?」

 

「全く、こっちは肝を冷やしましたよ」

 

「何俺は不死身さ、それよりも機体をチェックしろ。俺の機体はバッテリーの消耗が激しい」

 

ヤザンは先の電撃攻撃で機体が被ったダメージを調べる。

 

新戦術自体は上手くいったものの、やはり未完成のためか各部に負荷が出ていた。

 

ランバ・ラルがストライク相手に使った爆導索にヒントを得て試した戦法だが、もう少し研究が必要であった。

 

「ヤザン隊長、こちらも電子機器に狂いが生じています」

 

「こっちも同じようなものです」

 

「仕方がない、あの棺桶を引きずって引き上げるぞ」

 

絡まったワイヤーをそのままに、ヤザン隊3機がかりで鹵獲したゲイツを引っ張って戦場から離脱する。

 

こうしてヤザン達の円卓での戦いは終わった。

 

帰りに大きな手土産を持参しての帰還は、ガディ艦長以下母艦クルーを驚かせた。

 

そして鹵獲されたゲイツは早速本国へと運ばれ、その性能を丸裸にされる事となるのだが、それは又別の話である。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。