6話「戦後処理」
グラナダ防衛に成功し、からくも戦いに勝利した共和国であったがその傷は深かった。
「負傷者の救助急げ!MSは宙域を捜索して1人でも多くの生存者を救出するんだ」
「デッキがもう一杯だと?分かった直ぐ他の艦に降りる様手配する」
「まだ敵の残党が残っているかもしれん、注意しろ!」
「グラナダにも応援を要請しろ!特に月面地表の捜索に協力して貰え」
ブリッジのクルー達は、戦闘終了後も慌ただしく彼方此方に指示を送り。
月面のソラを、ハイザックの編隊が味方の反応を探し求め彼方此方に散ってはイジェクション・ポッドを回収して行く。
グラナダ上空に浮かぶ各アレキサンドリア級は健在なれども、傷付いていない艦など皆無であり、艦内では今も負傷者の治療が行われていた。
艦内の通路は人で一杯になり、彼方此方で人の呻き声や助けを求める声が響き。
医者や救護スタッフによる必死の治療が続けられていたが、明らかに人手不足であった。
狭い通路を何度も行き来する為、負傷者達は身を寄せ合い、その中には味方だけでなく先程まで殺し合いをしていた連合軍の兵士やザフトのMSパイロットも含まれていた。
「捕虜の取り扱いは慎重にな、戦時協定を厳守せよと現場には通達しろ」
「念の為コマンド部隊も展開しろ、何をしでかすか分からんからな」
そう言って、通路の一ヶ所に纏められた捕虜たちを銃を構え監視する共和国兵。
しかし彼等は捕虜をなるべく生かせとも、命令されていた。
共和国がここまで捕虜の取り扱いに慎重になるのは訳がある。
共和国はグラナダを救出する為とはいえ、半ばなし崩し的に参戦してしまった為、彼等には相手に要求すべき政治的権利や戦略目標がなかった。
その為、何とかこの戦いで手打ちにしたいと言うのが共和国政府の一致する見解であり、捕虜の扱いは政治的に重要な関心事であった。
最も上の思惑がどうであれ、現場レベルでは宇宙戦後の救助活動は敵味方の区別なく行う事が両軍共に暗黙の了解であった。
そもそもスペースノイドである彼等共和国人は、宇宙で救助を待つ恐怖を知っている。
だから、彼等が敵味方の区別なく手を差し伸べるのは命令だけでなく国民性と言う面もある。
救助活動はこの後も引き続き続行されたが、しかし敵が又来るかも知れない状況下で、艦隊を長く宙域に留めておく事は出来なかった。
その為ガディ達アレキサンドリア級は、ある程度救助活動と負傷者の収容が終わった所でグラナダへと入港する。
アームに繋がれ、ドックにつくなり直ぐにグラナダの作業員達が艦の損傷箇所を調べ、エアロックからは重傷者が病院へと搬送されて行く。
MSも艦内で修理可能な機体はデッキに残されたが、艦の整備員達の手に負えない機体はグラナダのアナハイム社の工廠に送られた。
戦闘自体は半日前に終わったと言うのに、彼等にはまだまだ休む暇も無かった。
しかし、それと打って変わってお祭り騒ぎなのがグラナダ市内であった。
人々は、自分達が戦いに勝利した事を無邪気に喜び政治家達も共和国軍の活躍を讃える演説を繰り広げ、市民達はそれに万雷の拍手で応えた。
屋台や出店もチラホラと見られ、笑顔の親子が子の手を引いて街に繰り出し、そしてすれ違う人々の頭の中には『戦争』の2文字は消えていた。
共和国軍が多くの犠牲を出して守った平和とは、つまりこの様なものであった。
グラナダの攻略失敗と撤退は、直ぐにプラント連合軍両首脳部の知る所となった。
そして情報の精査と原因の調査が行われて、彼等はそこで驚くべき事を知り、特に共和国製MSの存在は、両軍共に大きなショックを与える事となった。
連合軍は、只でさえザフトのMSに苦戦する中新たに共和国のMSと言う敵も抱え、前線の将兵達は戦々恐々とし。
月でもMSに対する恐怖心からか連合軍宇宙艦隊は消極的になり、プトレマイオス基地に引きこもりがちになった。
逆に勢い付いたのがハルバートン提督が提唱する連合軍製MS開発計画派であり、彼等はこの後その勢力を大きく伸ばす事となる。
一方、連合軍以上に過敏に反応したのはプラントであった。
彼等は自分達コーディネイターよりも技術力に劣る共和国が、まさかMSを完成していた事は完全に寝耳に水の事態であり。
慌ててその対策に、アプリウス市で最高評議会が非常招集される程であった。
時にC.E.70 史実では起こりえなかったグラナダ攻防戦により、明らかとなった共和国MSの存在は世界に大きな波紋を広げる事になる。
果たして共和国はこの戦争を生き延びることが出来るのか?
それはまだ誰にも分からない…。