機動戦士ガンダムSEED・ハイザック戦記   作:rahotu

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76話

76話「大蛇の咆哮」

 

コンペイトウ要塞でヨルムンガンドとビグ・ザムの準備が進むなか、一向に準備が進まない所もあった。

 

「遅い、遅いぞ!なんたる怠慢だ」

 

ブリッジの床やコンソールに拭き取られないまま血糊が残るなか、ナイブズがそう叫ぶ。

 

「も、申し訳ありません。直ぐにやりますので...」

 

「そう言って何度めだ貴様ぁ!」

 

ナイブズはいまだに銃を手放しておらず、彼が喚き散らすたび銃口の先がどこに向くのか、ブリッジのクルーは戦々恐々とし其ばかりが気になって他が疎かになっていた。

 

そもそも、この代わりのオペレーターも災難な目にあっていた。

 

元々このオペレーターは正式な予備人員ではない。

 

ブリッジで起きた事を知った正式な予備オペレーターは逃げ出してしまい、ナイブズの怒りに触れる事を恐れ、その場面に偶々通りかかったのが運の尽き。

 

オペレーターに仕立てあげられた挙げく、狂人の隣の席に座ると言う羽目になっていた。

 

最もこの時ナイブズはかなり焦っていた、と言うのも一刻も早くコンペイトウ要塞を破壊しなければ彼もまた身が危ういのだ。

 

後方からはコンスコン艦隊が迫っており、しかも核兵器を運用すると言う重大な南極条約違反を侵そうしているのだから、降服する事も捕虜になることも出来ない。

 

仮にこの場から逃げ延びたとしても、今度は本国から「核兵器を勝手に使った裏切り者」のレッテルを張られてしまい、自分のキャリア処か人生が破滅してしまう。

 

つまりナイブズが生き延びるには、コンペイトウを核兵器で破壊するしか無かったのだ。

 

そうこうしている間にも、コンペイトウ要塞とザフト艦隊との間で熾烈な砲撃戦が繰り広げられており、時おり流れ弾が旗艦を掠める。

 

そのたびにクルーは船がやられたのではと恐怖に駆られ、一方ブリッジでは運良くバルムンクに当たれば自分達は撤退出来るのではと、全く真逆の事を考えていた。

 

核兵器使用と言うこの現実を目の前に、誰しもが正気を失っていたからだ。

 

だがそれも、終わりを告げようとしていた。

 

「な、何だあれは!?」

 

前線で戦っていたザフトパイロット達は、突如として要塞から聳え立つ様に姿を現したソレに驚いた。

 

まず目を引いたのは純白にキラキラと光輝く装甲であり、それは耐ビームコーティングを何重にも施した証である。

 

次いで巨大な砲口が目に入り、全体のフォルムはまるで子供向けのSF小説に出てくるような円盤形に2本の足がついた奇妙キテレツなものであった。

 

「MAだと...!?」

 

MAそれはMS出現以前の旧兵器であり、歴史の闇に消え行くような存在であった。

 

それならばザフト兵達は何も恐れる事は無かったが、唯一つその大きさが桁違いであったのだ。

 

「大きい...一体何mあるんだ?」

 

さしもの歴戦のザフト兵達も、この単純な大きさを前に気後れしてしまい、迂闊に手出しが出来ずにいた。

 

そうこうするうちに、巨大MAビグ・ザムはコンペイトウ要塞主砲ヨルムンガンドへと接続していく。

 

「全く司令部もこんな無茶を通すなんて、どうかしてるよ」

 

「アンカーロックするぞ!上手くいけばこれで終わりなんだからボヤくな!」

 

ヨルムンガンドへと接続されるビグ・ザム、その狙いはヨルムンガンドの長大な砲身そのものを粒子加速装置として利用する、一種の長距離ビーム狙撃の為のロングバレルである。

 

「エネルギーチューブの接続を確り確認しろ!万が一エネルギーがオーバーフローしたら吹き飛ぶぞ」

 

ヨルムンガンドの砲術長、ヘンメはヨルムンガンドの指揮観測所から部下達に次々と指示を出していく。

 

しかし砲術の専門家として長いキャリアがある彼も、まさかこんな方法でヨルムンガンドの初の実戦を迎えることとなろうとは、思いもしてよらなかった。

 

その為全てが初めての事であり、彼も何が正しいのかまた何が必要なのか良く分からないでいた。

 

「砲術長!パイロットの方から通信が入っています」

 

このくそ忙しい時に、と内心で罵りながらビグ・ザム側からの通信に応じるヘンメ。

 

「砲術長、問題が発生した」

 

それは此方も同じだと言いたい所だが、ここでそう言っても仕方がない。

 

兎に角、話を聞かない事には始まらないのだ。

 

「此方から射撃する分には問題ないのだが、視界が遮られて照準が出来ない」

 

それを聞いてヘンメは、「しまった」と額に手を当てた。

 

ヨルムンガンドとビグ・ザムのドッキングの事ばかりに目がいって、肝心の砲撃をどうするのか疎かになってしまったのだ。

 

しかしそこで、ふとヘンメは自分が何処に居るのかを思いだした。

 

「照準の方はこちらで合わせる、それで問題ないはずだ」

 

ヨルムンガンドの指揮観測所、そこから直接自分が操作して狙いをつけることを思い付いたのだ。

 

「助かる、砲撃は任せてくれ」

 

そうしてビグ・ザム側との通信が切れたが、部下の一人が不安そうな目でヘンメを見ていった。

 

「あんなことを言って大丈夫なんですか?」

 

そもそもヨルムンガンドは直接照準する様な兵器ではなく、戦線のはるか後方から味方の間接射撃指示がなければ正確な射撃は出来ない。

 

ヨルムンガンドの指揮観測所からでは、狙いは不十分なのだ。

 

「やれるかどうかじゃない、やるんだよ」

 

一方ザフト側でもビグ・ザムとヨルムンガンドがドッキングして何かやろうとしている事は分かっていた。

 

当然のことながら、それを阻止しようと言う動きもあったがしかし当のナイブズが。

 

「あんなもの虚仮威しだ、無視して構わん」

 

と指示を出したことで妨害も散発的なモノとなり、そもそも要塞からの対空砲火に手を焼いてそれどころでは無かったのだ。

 

最もナイブズからすれば、バルムンクが発射された時点で全てに決着がつくのだから、今更共和国が何をしようとも遅いとさえ思っていた。

 

「バルムンクの準備は」

 

「はい、照準は完了し後は電力をチャージするだけです。チャージ完了まで300秒掛かります」

 

あと五分、それで此方の完全勝利が可能となる。

 

ナイブズは自然頬を吊り上げた、それは笑みと言うには余りに凶悪なものであった。

 

 

 

バルムンク発射までもう間もないとい時、グラーフ・ツェッペリン艦長フォン・ヘルシングは帰還したハイザックを収用し終え、戦線の後方で待機していた。

 

出撃したハイザック部隊は手酷く追い返されており、しかしそのハイザック部隊が持ち帰った敵の情報。

 

敵の旗艦とおもしき船が、何か巨大な大砲の様な物を腹に抱えていたと言うのだ。

 

そしてもう一つ、コンペイトウ要塞の動かない主砲ことヨルムンガンドが動き始め、この2つが意味するところを考えたヘルシングは、直ぐ様行動に移った。

 

「ヨルムンガンドの狙いをあの大砲に合わせる。位置情報は分かるか!」

 

幸い敵の旗艦は姿勢を安定させるため停船しており、後はそのポイントをどう伝えるかであったが、ここで大きな問題にぶつかった。

 

「艦長、コンペイトウと本艦との間のNJが強すぎて通信が取れません」

 

無線が使えず、さりとてレーザー通信を行おうにも様々な妨害によってソレも難しい。

 

このまま唯指を加えて見ているしかないように思えたとき、ヘルシングはとあることを思い付く。

 

「発光信号は使えるな?原始的なモールス信号で位置を知らせるんだ」

 

「しかし気付いてくれるでしょうか」

 

戦場の乱戦の中、果たして此方の意図を読み取ってくれるかどうか、そこは賭けであった。

 

ヨルムンガンドの方でも、中々狙いがつけられない状態が続いていた。

 

「くそ、ジャミングが酷すぎて何も見えん!」

 

ヘンメは苛立たしげにそう言った。

 

矢張何かしらの目印、せめて位置情報さえ掴めれば何とか出来るのだが、それも現状では難しかった。

 

それでも何とかしようと一度スコープから目をはずしたとき、視界の端に戦闘光ではない発光を見つけた。

 

「アレは何だ」

 

「分かりません、一定の規則ごとに点滅している様に思えますが...」

 

だがここで、長く経験を重ねたヘンメはそれがとある数字を繰り返しているのに気が付いた。

 

「まさか...!?おい、あの光を数字に変換しろ」

 

「了解しました」

 

単純なモールス信号の為、解読にはさほど時間はかからず直ぐ様幾つかの文字列が解読できた。

 

そしてヘンメは己のカンと経験が告げるまま、その数値に従った照準を合わせる。

 

「!やっと捕まえたぞ」

 

ヘルシングが伝えたポイント、最大望遠で映し出されたそこはナイブズが乗るザフト艦隊旗艦の居場所であった。

 

「野郎妙なもんを抱えていやがるな...なら先にこっちから仕掛けてやる」

 

しかしそこに問題が発生した、ヨルムンガンドを直接照準で発射する場合より正確な位置を知るために一定のレーザー照射を行わなければならなかったのだ。

 

つまり、その瞬間敵にこちらの狙いがバレてしまい、逃げられてしまう可能性があった。

 

だがそうなる前に、此方が先に発射すれば問題ないと考えたヘンメは、その準備のためビグ・ザムと連絡をとる。

 

「MAに通信を繋げろ、エネルギーのチャージを開始。レーザー照射と共に砲撃すると」

 

「どうした砲術長?照準をつけられたのか」

 

しかしヘンメはビグ・ザムのパイロットの声に答えず、砲撃に集中する。

 

「エネルギーライン、全段直結」

 

「ランディングギア、アイゼンロック、砲身を固定」

 

「チャンバー内、平常に加圧」

 

「ライフリング、回転開始」

 

「反動とエネルギーの逆流に注意しろ!オーバーロードに注意するんだ」

 

「緊急冷却装置をいつでも作動可能、万が一に備えて爆発ボルトも準備」

 

ヘンメの指示で着々とヨルムンガンドの砲撃準備が整えられていき、戦艦クラスのジェネレーターを4基も積んだビグ・ザムから莫大なエネルギーが流れ込み始める。

 

高まる粒子加速と、漏洩した一部のエネルギーが雷光となって砲身の周囲に散った。

 

その膨大な熱量も、当然ザフト側でも察知されていた。

 

「敵要塞主砲からレーザー照射です!更に急速にエネルギーが高まりつつあります」

 

「ふん、今更無駄な足掻きを。此方は既にチャージを完了している」

 

既にバルムンクの発射準備は完了し、ナイブズの手にはそのトリガーが握られていた。

 

後はそのトリガーを押すだけですむのだが、常人ならば核兵器の使用を前に躊躇いもする。

 

しかしナイブズはなんの前触れ間なく、まるでそこにスイッチがあったから押したかのように、簡単にトリガーを押した。

 

「これで、終わりだ!!」

 

バルムンクに蓄えられた電力により、二本のレールに従い核砲弾が加速され射出されていく。

 

射出された弾頭は、第一次宇宙加速にも等しい速度でコンペイトウ要塞に突き刺さり、その内部で爆発し一気に要塞を崩壊させる筈であった。

 

「今だ、撃てーっ!!」

 

しかし僅な差で、ヨルムンガンドが早かった。

 

ヨルムンガンドの長大な砲身によって増幅、加速されたビーム粒子は、真っ向から核砲弾を飲み込み前線を切り裂いた。

 

その余波によって近くにいたローラシア級の装甲はひしゃげてどろどろに溶けて融解し、MSはエネルギーを浴びただけで爆発する。

 

だがそれすらも副次的なものでしかない。

 

旗艦に迫り来る巨大な光の奔流を前に、ナイブズはトリガーを引いた瞬間に絶頂を迎えて放心していた。

 

彼の目には迫り来る光をコンペイトウが核の炎によって焼ける姿だと勘違いしたまま、光の渦に飲まれていった。

 

ヨルムンガンドの極太のビームは、バルムンクごと旗艦を飲み込み、そこにある全てを分子レベルまで崩壊させる。

 

誰一人逃げ出すことも出来ずに、また自分達の身に一体何が起きたのかわからぬまま、宇宙を構成する単なる一物質へと還元された。

 

旗艦が文字通り消滅したことにより、ザフト艦隊は戦意を喪失し遅れてコンスコン艦隊が戦場に到着したことで即日降服。

 

ナイブズ艦隊が降服したことにより、マシュタイン艦隊も撤退しここに長きに渡るコンペイトウの戦いは終結した。

 

時にコズミック・イラ71年4月1日のことである。

 

その日、プラントでは議長選が開かれており、大方の見方通りパトリック・ザラが新議長に就任。

 

そして彼が議長に就任してまず始めに受け取った第一報が、このコンペイトウ要塞攻略の失敗と艦隊の降服であった。

 

 




次回「第一部完!希望の未来へレディーゴー(嘘)」

本音「ふんたーさんをやるので暫くお休みします(次回はソビエトが復活したとき)」
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