機動戦士ガンダムSEED・ハイザック戦記   作:rahotu

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第2話

第二話

 

月の裏側に位置する共和国コロニーは地球と月の重力が丁度釣り合う地点L(ラグランジュポイント)2に位置し、地球上から肉眼でも観測できるL5のプラントコロニーと違って常にその姿は月の裏側に隠れてきた。

 

そのせいか、世界人口が100億を超え宇宙のペースコロニーや月面諸都市、火星植民地にアステロイドベルト資源採掘基地などに人々が住み、しかもその大半が共和国国籍(スペースノイド)にも関わらずC.E.の歴史上にその名が上がる事は非常に稀である。

 

と言うのも地球に住むアースノイドやプラントのコーディネイターの人々にとってはスペースノイドは地球圏の辺境やその外に住んでいる謎の人々としか認識しておらず、地球社会から外れた存在として半ば居ないものとして扱われてきたのだ。

 

今次大戦においてもずプラント、連合に次ぐ主要交戦国として共和国を認識している国家は然程多く無く、戦時中の国民の中にすら共和国と交戦状態にある事は疎か何処にあるのかすら知らない人々がいる始末。

 

そんなC.E.世界において人類の宇宙進出に大きく貢献しているにも関わらず非常に存在感が薄く、戦争が起きている事すら知らないとまで言われる共和国では今日も必死に国家と国民の生き残りを賭けた懸命な努力と政治闘争が行われていた…。

 

 

 

 

 

 

共和国首都ズムシティ大本営では今日も今日とて腹に一物もニ物も抱えた共和国軍政府高官達が表面上は紳士的に振る舞いつつも、その裏側では互いに熾烈な権力闘争を繰り広げる良くある穏やかな日常風景が繰り広げられていた。

 

「聞きましたよ近頃の軍はキツネ狩りにご執心な様で、戦時中でも狩猟(ゲーム)を忘れないとは共和国軍流の余裕の表れですかな?」*1 

 

「なに、狩猟は古来より軍事訓練に用いられてきましたからな。政府の皆様方におかれましてはそのままお座りいただいてゆっくり寛いでいれば時期に狩りの獲物をご覧になれましょう」*2 

 

政府高官と軍官僚、苦戦が続くボアズ近海での戦いを指して両者皮肉の応酬という爽やかな朝の挨拶を交わした。表面上はにこやかな笑みを浮かべつつ、その実両者の目は全く笑っておらず互いに相手の腹の中を探り合いながら牽制に終止するという実に極一般的な共和国的振る舞いでありここではそれが常識なのである。

 

さて互いの子分がお決まりの挨拶を交わす中、大本営では次なる一手をどうすべきかの話し合いが行われていた。

 

この大本営という組織だが、平たく言えば戦争遂行をする為の汎ゆる組織と人材を束ね立法行政司法を含む国家機能の全権を統括管理運営しそのトップは共和国首相ダルシア・バハロである。

 

バハロ首相は外務大臣出身で巧みな話術と情報収集能力、何よりも政敵に対する無慈悲さで共和国政治のトップに立った男であり政府内では絶大な権力を獲得することに成功していた。巧妙なバハロ首相は冷酷さと同じだけのそうでない部分とで国民と政治家や議員や官僚達からの忠誠と支持を獲得していたものの、共和国内の最大組織からは必ずしも好意を受けていたわけではない。

 

その組織とは軍部の事である、共和国は先の大粛清において政府と軍部が激しく対立し内戦一歩手前の状態にまで陥った事があり、火星内戦鎮圧後もその関係は非常に微妙なバランスで成り立っていた。

 

先のコンペイトウの戦いに先立ち挙国一致内閣と総力戦体制を確立させた共和国だが、政府が完全に権限の全てを掌握したかと言うとそうではなくあくまでも共和国政府に軍部が対等な”同盟”相手として協力しているからに他ならない。

 

つまり軍部という共和国最大にして最強の暴力組織が大本営内に聖域として存在してしまっていること、それが共和国大本営の内実を複雑にしていた。

 

その軍部の頂点に立つ男、共和国軍唯一にして現役の元帥であり古くは地球から連綿と続く名家の現当主にして共和国政財界に強力な影響力をもつ軍部のドン、ゴップ元帥の存在が目下バハロ首相最大の障害であったのだ...。

 

激しく対立する両派閥とそれぞれの組織のトップが同じ部屋に集まるという伏魔殿、またの名を大本営大会議室では今日この日も会議が行われていたが普段とはその様相が異なっていた。

 

「昨今我が軍は反撃に転じたが、矢張り時期尚早ではなかったのではないか?」

 

「逃げる敵を悪戯に追って返って損害を大きくする、深追いをし過ぎているのでは」

 

嫌味ったらしく軍政高官がそう発言すると、すぐさま艦隊司令部の別の将官が食ってかかった。

 

「敵が引いたなら追撃する、これは戦理であるからして何ら間違ったことではない。デスクワークが長すぎて実戦を忘れてしまったのですかな」

 

何人かの将校は「うんうん」と同意するようにうなづき、反論された高官は顔を赤くする。

 

「今の発言は節度に欠ける!?戦場に居すぎて礼儀を忘れ果てたかこの猪武者が」

 

「貴官こそ、戦場に出たこともないくせにでしゃばりおってからに!!」

 

「何を」「こなクソ」と同じ共和国軍同士、実働部隊を預かる俗に言う制服組と軍政を司る所謂背広組とで喧々諤々のやり取りが行われており、普段は対立する筈の政府が仲裁や庇いだてをする光景が繰り広げられていたのだ...。

 

先のコンペイトウの戦いに勝利したのを切っ掛けに、共和国軍は従来の方針を改めより積極的に戦争終結へと動くべく大胆にも軍組織特に宇宙艦隊を大幅に改編し、要塞各地と本土に散らばって配備された駐留艦隊を統合し三個の連合艦隊を編成し尚新たに第四、第五、第六...最終的には八個の連合艦隊を編成中である。

 

その為に宇宙軍は空前絶後の大規模な軍拡中でありそれ合わせて志願兵枠の拡大と民間船舶からの人員の招集と量的な膨張を続けていたが、実のところ兵士達の過半数を占めるのは戦争で住むところを失い宇宙を放浪するしかない戦争難民やL4ザスカールコロニーに避難してきた避難民などの様々な事情で故国や地上に帰れなかった人々であり、その多くが過酷な難民生活に耐えられず或いは親や伴侶、兄弟姉妹の為に共和国軍へと志願したのだ。

 

共和国は大戦中重くのしかかる戦争難民を減らすべく所謂口減らし目的で特に戦争難民達に軍への志願枠を多く設けていた、志願しさえすれば本人と家族に一時金が支払われ入隊後三ヶ月で避難キャンプから仮設住宅への優先移住権、もし仮に戦死しても遺族に対する保証金や本人がそれまでに上げた功績や入隊後の兵科、例えば宇宙戦艦の砲手やMSパイロットは軍の花形でありここに所属さえすればその家族には共和国本土コロニーへの移住権並びに年金受給資格たる市民カードが受け取れる事になっており、巧みなプロパガンダと甘言とで多くの入隊者と戦死者の山を築き上げた。

 

碌な訓練期間も設けられない志願兵たちの戦場での平均生存日数は凡そ二週間程度、コンペイトウの戦いでは平均が一日を割る事も少なくなく戦線によっては実戦生存時間が八分未満の俗に言う「死の八分」となり大量の志願兵たちが宇宙の塵と化し、それでも現在も尚共和国が難民コロニーに設けた志願兵事務所は建物から人がはみ出して長蛇の列が延々と続いていく有様は内外から多くの批判を浴びたが共和国は警察力と大本営設立後に設けられた政治将校団によって封殺し、これらの事実が公のものとなったのは戦後を待たねばならなかったのだ。

 

これら共和国が戦時中に膨大な数使い捨てた志願兵とその遺族問題は戦後も共和国を覆う巨大な影となり、長い年月の間政府とスペースノイドを殊更に苦しめる事となるのだが、ここではそれを割愛する。

 

再編され生まれ変わった共和国宇宙艦隊だが、連合艦隊編成後早くもその能力に疑問がつけられたのだ。

 

現在共和国軍は宇宙各方面で前線を押上て守勢から攻勢に転じようとしていた、その反撃の嚆矢としてザフトが大きく後退した宇宙要塞ボアズ近海宙域に楔を打ち込むべく艦隊を進めていたが未だ敵勢力を排除できずにいた。

 

派遣された艦隊はザフトの宇宙要塞ボアズと渡り合える程ではないものの、それでも共和国艦隊の全面に展開するザフト部隊は圧倒的に少数であり戦闘はすぐに終わると見積もられていたのである。

 

にも関わらず、未だ共和国艦隊はボアズ要塞に橋頭堡を確保するどころか圧倒的な少数の敵を前に良いように翻弄され劣勢であったのだ。

 

原因ははっきりしていた、敵の司令官が有能なのを除くとしても既に共和国軍中でも共通認識である最大の問題は、共和国軍の経験不足並びに練度不足とが大きな足かせとなり攻勢作戦を阻害していた。

 

前述の通り共和国軍は量的膨張を遂げた、がその大半は志願兵達が占め士気練度共に最低の彼らを率いての戦闘は非常に困難でありまた元からいる兵士や士官達との軋轢も加わって状況は困難を通り越して不可能ですらあり、共和国軍軍官僚や軍政家達は責任の所在を「ビンソン計画」に求めたのだ。

 

「ビンソン計画」とは共和国カール・ビンソン議員と現職に復帰し今は宇宙艦隊司令長官と第一連合艦隊司令を兼ねるティアンム大将の両者が発案し共和国議会で可決された艦隊増強法案のことだが、計画の主眼は従来の連合の対MAではなくプラントのMSとの戦闘を念頭に置いた艦隊の対空火器の増強と効率化並びに艦載MSと運用母艦の増産並びに従来の艦隊運用を改め艦隊を複数統合した連合艦隊の設立などである。

 

実質的に計画を主導したのは当時共和国軍大学校長であった当時中将のマクファティ・ティアンムであり、その功績によ現役に復帰した彼は共和国軍内部にバハロ首相に忠実な派閥を作り出すという裏の使命も帯びていた。

 

軍部内に政府に忠実な派閥を組織し彼らに軍功を重ねさせることでゴップ元帥以下軍主流派をゆくゆくは排除し、持って文民統制(シビリアンコントロール)の一助と成そうという策略である。

 

このティアンム宇宙艦隊司令長官という男は所謂実直で真っ当な職業軍人であり軍は政治に関わらず国民と国家に奉仕すべき存在と本人は常々固く信じていたが、共和国軍内ではその考えは異端であり軍部内の政争に嫌気がさした彼は自ら教職へと退いた経緯がある。

 

その彼を再び現役に戻したのもその政治なのだから世の中儘ならないものであるが、兎に角ティアンム大将の周りには敵が多い。

 

ゴップ元帥の軍主流派は言うに及ばず、そのゴップ元帥の後釜を狙うグリーン・ワイアット等の派閥に主流派の排除を目指すジャミトフ・ハイマン等などの若手将校達、これらの派閥に組みさない日和見集団並びに巨大企業アナハイム・エレクトロニクス社からの莫大なリベートを受け取っているコーウェン准将などなど兎に角共和国軍内に存在するありとあらゆる派閥から敵視されていた。

 

無論ティアンム大将も無策ではなくルナツー要塞のワッケイン司令とは昵懇の中であり、共に共和国軍を改革しようという同志として軍改革派を形成していたが、派閥としての量と質においては弱小集団と言って差し支えない。

 

本来なら軍部内に張り巡らされた陰謀と策謀の糸に絡め取られ身動き出来ないはずだったが、コンペイトウの戦いからそれが一変した。

 

コンペイトウ要塞防衛に当たっての各戦線とのバランス調整や政府関係各所との協議に必要物資の手配や人員の迅速な移動と訓練、個々の戦線や要塞に拘ることなく軍全体をマネジメントする能力は単なる一軍人を志向する人物だけではない事を示し、前線指揮官や後方勤務からの評価も好意的な方向へと変化する。

 

ティアンム大将と昵懇の仲であるワッケイン司令自ら艦隊を率いて月をスイングバイ*3しアルテミス基地に篭る連合軍に一泡吹かせつつも大胆な戦略機動でザフト艦隊の後背を突き劣勢であった共和国軍が反撃する切っ掛けを作り出した等など、政治工作や策謀に長けるが実戦指揮はいまいちという評価が多い共和国軍将校において確かな戦術戦略眼並びに政府との折衝もこなせる優れた人物だというのが証明されたのだ。

 

最終的な勝利を決定付けたのはワイアット提督麾下のコンスコン少将の艦隊ではあったが、前線指揮官を中心にティアンム大将を支持する声は増え始めており派閥としての勢いは今一番あるのは確かである。

 

結果他派閥を刺激するには十分な理由であり、コンペイトウの戦いから反撃に転じた共和国軍がボアズ要塞近海で苦戦が続くと格好の攻撃の的となったのも致し方ない。

 

自らの地位や立場を脅かしかねない相手に対しては徹底的に叩き潰すのは大粛清以来共和国軍首脳部の本能であり、戦略会議は紛糾し一時中座しなければならないほどであった。

 

其々別室へと移動する軍政府高官たち、その集団からこっそりと離れ旧ダイクン邸大本営内にある秘密の一室にて共和国軍政争の洗礼を浴びたティアンム大将とバハロ首相他この場所を知るごく少数の側近達とが極秘の協議を始めるのだ。

 

こうした会議の議事録に載らない裏の話し合いこそ共和国という国家の本質なのであり、決して歴史の表舞台には出ないが確かにここで行われた事がその後の歴史を動かすのである。

 

果たしてティアンム大将とバハロ首相はこの事態にどう対処するのだろう...。

 

 

*1
「金食い虫の無駄飯ぐらいの癖に戦果のひとつも挙げられないのか?(意訳)」

*2
「木っ端役人風情が囀るな、黙ってみてろ(意訳)」

*3
天体重力推進、天体の引力や運度を利用する事で機動を変更する技術で加速と減速の両方がある、ワッケイン司令が使ったのは加速の方

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