一方その頃。
『艦隊奇襲を受く』、フラナガ・ブーン駆るMAグラブロの魚雷攻撃をを受ける中潜水艦ディーツが最後に発した報を、通信の中継機であるディン空中指揮型から受け取ったアークエンジェルを攻撃中のザフト襲撃部隊に動揺が広がる。
この時母艦からの最期のレーザー通信を受け取れたのは水上にいるジンやディンの部隊のみであり、水中では引き続きマルコ・モラシム率いる水中MS隊が激しい攻撃をストライクとアークエンジェル双方に仕掛けていた。
しかしアークエンジェルを攻撃するザフトMSの攻撃が緩んだ事で反撃のチャンスを掴んだアークエンジェルは(彼等はその理由を全く知らなかったが)、持てる火力を持って一挙に反撃に移る。
まず大胆にも大気圏中でバレルロールを行い天地を逆さまにした背面航行を行うアークエンジェルは、上空からの攻撃が散発的になった事を不思議に思い様子を知るべく迂闊にも水上に機体を晒し上空の部隊と通信を取ろうとしたMSグーンを主砲ゴットフリートとバリアンで一掃した。
次いでムウ・ラ・フラガが駆るスカイグラスパーが上空で攻撃する続行か撤退かを決めあぐねるザフトMS隊の中央をアグニの大火力で敵の陣形を乱し、その隙を艦の体勢を戻したアークエンジェルの対空砲火やミサイルが狙い撃ち、次々と被弾を重ね撃破され機数を立ち所に減らすザフトMS隊、一転して戦局はアークエンジェル側に傾く。
上空からの脅威が減じた事で対空に割り振られたミサイル発射管からは今度は水中の敵MSに対して魚雷や爆雷が投射され、まさかの反撃に水中で攻撃の機会を伺っていたグーン部隊は隊を乱した。
「いったいぜんたい何が起きたんだ!?」
この時マルコ・モラシムは俄かに水上が騒がしくなった事に気付き、一瞬注意がストライクから逸らした。
それはほんの僅かな隙であり狙おうと思って狙えるものでは無い、しかしこの時ストライクのパイロットであるキラ・ヤマトは一種のゾーン状態にあり、ある者はそれをシードの発動とも人の可能性とも呼ぶが極めて澄み切った思考の中自身の全ての能力を戦闘に振り切っており、相対する敵MSゾノの注意が自身から外れた瞬間を見逃さなかった。
ソードストライクの対艦刀を槍の様に突き出し、一気に機体の全推力を全開にして敵へと突撃するストライク。
勝負は一瞬にして決まった、回避する間も無く深々と対艦刀が敵MSの左肩を刺し貫いて反対側まで刀身が伸び、数百mもの海水の圧力に耐えるゾノの耐圧殻に致命的な亀裂が入る。
このまま放置すれば水圧によって亀裂が広がり流れ込む海水によって機体が押し潰される危険性を負い戦闘力を喪失したゾノは、残る右腕のクローで無理やり動かなくなった機体の左肩を引きちぎって何とかストライクから離れる事に成功した。
そして脇目も振らず、屈辱感と共に戦場から離脱する他ないゾノとモラシム。
隊長機が逃げ出した事で不利を悟り残りの機体も次々と戦場を離脱するザフトMS、こうして大きな傷を負いながらもアークエンジェルとストライクはまたしてもザフトの魔の手を振り切る事に成功した。
その裏に共和国軍の影がいたことも知らずに...。
「魚雷でも何でもいいから敵のいる方向に発射しろ!!予備機が発艦するまでの時間を稼ぐんだ」
ボズゴロフ級クストー艦長の叫ぶような指示が艦橋に響く。
共和国軍MAグラブロの奇襲を受け緊急潜航したザフト潜水艦艦隊から狙いも何も定まっていない魚雷や機雷などの投射物が発射され、海中は先程までの静寂がまるで嘘の様に俄かに騒がしくなる。
次々と炸裂する魚雷や爆雷の轟音と衝撃波が海中を揺らし海水を沸騰させ、ボズゴロフ級潜水艦2隻からのメチャクチャな反撃に機体を大きく揺らされるMAグラブロを駆るブーン。
「クソッタレめ!?何でもバラ撒けばいいってもんじゃないだろ」
海中を爆発の伝わる衝撃波は大気中よりも遥かに伝わりやすく、もろにその衝撃を喰らい海流に翻弄される機体をブーンは何とか制御する。
既にソナーは海中で幾つも炸裂する爆音で使えなくなり、再度の攻撃を行う為に機体のメインカメラからの映像を頼りに敵艦への肉薄攻撃を図った。
手間取れば敵の反撃を許し、相手の要撃機が出て来ればサイズ差でグラブロはMS相手に運動性能や機動性で不利との判定が事前のシミュレーションで出ている。
最悪出撃した敵機が戻って挟み撃ちに合う危険性もあり、時間を掛ければかける程に奇襲の効果も落ちて危険性ばかりが増大するのだ。
そもそも相手は歴戦のザフト潜水艦隊、最初の奇襲を受けてからその後はブーンの想定以上に素早く対応し敵に時間を稼がれそうになっている。
そうなる前にせめて後も1隻、敵潜水艦に損害を与えるべく機首部に格納されたビーム砲の射程に相手を収めようとするブーン。
水中の主兵装である魚雷は海中が敵の攻撃でこうも掻き乱され騒音に溢れていては
この攻撃が止む時はそれは敵の反撃の態勢が整った時であり、その前に慣れない機体を使って敵を撤退に追い込む他なかった。
ここでブーンに運が味方したのかザフト潜水艦クストーの僚艦が旗艦を守るべく前にでた、水中という中々通信が困難な環境にあっても味方を支援する動きには澱みなく高い練度を想像させる。
しかしそれはこの場合悪手であった。
「僚艦を下がらせろ!!迂闊だぞ」
敵の能力が分からない以上迂闊に前にでる危険を冒すべきでは無い、歴戦のザフト潜水艦隊艦長の判断は的確であった、しかしその判断が正しくとももう動き出した味方を止める術はなかった。
「ありがたい、自分からこちらの射程に入ってきてくれて」
この時、既にグラブロはビーム砲の射程に敵潜水艦を捉えており、機体機首のカバーが左右に開口し砲身が前えと迫り出し、僅かな時間と発光と共に破壊的なエネルギーをチャージする。
「行き掛けの駄賃だ、たっぷりと喰らっていけ」
操縦桿のトリガーを引き絞りグラブロから発射されたビームは、海水を蒸発させながらボズゴロフ級の船首部分から中央を撫で線上に赤熱した破壊の痕跡を船体に残した。
それと同時に試作兵器故の不安定さからビーム発射時の衝撃と沸騰し爆発した海水はグラブロ自身のビーム砲を完全に破壊し機首部分は完全に機体から脱落、機体内外にも少なくないダメージを負ったがそれに見合う成果は直様示される。
ビーム砲の直撃を受け潜水艦の分厚く頑丈な外殻と内殻その両方が完全に破壊され、ダメージコントロールをする間も無く大爆発を起こし轟沈する敵艦。
グラブロのメインモニターにも次々と爆発を起こし海底へと沈みゆく2度と浮上することのない敵潜水艦の様子が映し出されている。
最も当のブーン本人は自身が挙げた戦果を確認するゆとりも無く、コックピット内で先ほどから鳴り響く様々な
「ええい、五月蝿い!?この音はどうやったら止まるんだ。今の被害で残りの武装が全部パァだ、全くこんな任務受けるんじゃなかった」
ブーンは在らん限りの罵倒を繰り返しながら何とか機体を制御し戦場を離脱していく、所詮は試作機でしかない機体で無茶な実戦を行ったツケで今のグラブロは動くのが精一杯であり戦闘力もその全て喪失していたのだ。
今のグラブロは碌な回避行動も取れずただひたすらに真っ直ぐ敵に背を向けて逃げ出す他なく、幸いにもソナーで相手を感知する潜水艦は海底に沈下しながら連続して爆発し続ける味方艦の影響もあってブーンは辛くも戦場より離脱することに成功する。
任務を何とかやり遂げホッと一息をつくブーンと違い、生き残ったクストーの艦長は寒い潜水艦の中でさらに自分だけが極寒の中にいるかのような身の震えと寒さを味わっていた。
正体不明の敵に良いようにヤられた挙句反撃の隙さえ与えられずにまんまと逃げられ、栄光のモラシム隊の名を地に貶め隊長とザフトからの信頼も失ってしまった自身のこれからと、何よりも今後また何時何処で再び遭遇するかも分からない今回の敵のことを思うと、暗澹たる気持ちに沈んでいった。
グラブロの奇襲から僅かな時間で2隻の味方を失ったザフト、それは単に戦力の消耗だけではなく地球侵攻後短時間で地球の海に習熟した熟練のクルーや指揮官、整備に手間がかかる水中用MSの整備員達を永久に失いそれらを回復するのに途方もない時間とコストがかかる事を意味した。
それは国力差30倍以上もの相手に宇宙と地球とうい全く異なる環境で長大な戦線を抱え戦い続けるプラント・ザフトにとって計り知れない負担となり、失った戦友や将兵の家族にとっても決して癒えず拭難い傷を負わせる事を意味する。
全人類150億を超えるなかプラントのコーディネイターは僅か6000万人程度、それが今迄善戦出来たのは新兵器MSの力が大きく様々な戦場に投入される多種多様なMSは数多の勝利をもたらしてきた。
しかし戦争全体から見ればMSも単なる兵器の一つでしかなく、補給や整備兵士の休養など戦闘力を支える母艦や基地の存在あってこそであり例え一騎当千のMSをザフトが開発したとしても本国が占領されてしまえば全く意味をなさないのと同様、国力の基礎たる“人“こそが全てを握ると言っても過言ではない。
そして人とは失ってしまえば2度と取り返しがつかないのだ...。
今回共和国軍が新たに戦線に投入し始めたMAの狙いは、まさにこの人を直接攻撃することにこそある。
例え戦場で派手に戦い敵機を堕とせなくとも、その母艦や基地に攻撃を加え人員を殺傷しさえすれば効率的に敵を無力化することが出来る。
コーディネイター1人1人の個人の能力の高さに依存する他ない小人口のプラント・ザフト相手に、これほど有効な戦法はないだろう。
そしてそれは攻撃の対象が戦場で戦う兵士だけではないことをも意味している。