機動戦士ガンダムSEED・ハイザック戦記   作:rahotu

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第9話

送り狼

 

戦闘海域から急いで離脱を図るフラナガ・ブーンが操縦するグラブロだが、その機体は彼方此方が傷つき武装の大半も喪失し速力も大きく落としていた。

 

所詮試作機でしかないMAグラブロは様々な問題を抱えたままであり、戦果を挙げるのと引き換えに無理矢理実戦で運用したツケである。

 

そして当然ながら、その背後から敵の追っ手が差し向けられていた...。

 

「クソッ、もっと速力は出ないのか!?」

 

ブーンの額からは冷たい汗が滴りそれを拭う間も無く、機体背後からはソナーが探知した敵機の反応が迫って来ていた。

 

機影の反応は2つ、少なくとも2機のMSがグラブロを追撃すべく敵母艦から放たれた追っ手である。

 

本来の性能ならば全く問題のない距離にいる敵機だが、今の速力が半分以下にまで低下したグラブロでは彼我の速度差から逃げられないと機体モニターに表示された計算結果が無常にも伝えていた。

 

今のグラブロは碌な武装が使えず機体も彼方此方が損傷し思ったように舵が取れず、それならばと放出した囮に引っ掛かるような間抜けな敵ではない。

 

ブーンはもう一度モニターを確認し機体の状態を確認すると、そこには機体各所が赤色(コンディション・レッド)黄色(コンディション・イエロー)で表示されており赤は使用不能を表しており黄色で表示されているものは問題がある或いは間も無く赤色に変わるという知らせである。

 

問題なしの緑色(コンディション・グリーン)は何処にも見当たらず正に絶望的な状況であった。

 

「兎に角武器だ、武器はないのか!?」

 

ブーンはモニターを操作し機体で無事に機能するものを何とかして探し出そうとし、その間にも機体後方から迫り来る敵機は着実に近づいていた。

 

そしてソナーは敵影から分離する2つ更に続けて2つの物体を探知する、高速でグラブロへと近づくそれをブーンよりも機体の警告音がその正体を知らせる。

 

「魚雷だと、もうそんな近くにまで来ていたのか!」

 

敵機の様子からこちらが探知されているのは当然のことだったが、既に敵魚雷の射程圏内にまで近づかれていた事に迂闊にも気が付かなかったブーン。

 

彼はなけなしの囮魚雷(デコイ)を全弾散布し何とかして敵の攻撃を躱そうと足掻く。

 

グラブロ後方から放出された囮魚雷は乱数機動を取りながら相手の魚雷を撹乱しようと企み、最初の2本は囮に向かって見当違いの方向へと進む。

 

しかし後の2本はザフト本命たる1030mmマーク70スーパーキャビテーティング高性能魚雷は囮には惑わされず、真っ直ぐグラブロへと向かう。

 

残りの囮は欺瞞に引っかからないと判断したのか予め定められたプラグラムに従い、囮魚雷群は今度は敵魚雷に向け突き進む。

 

そしてグラブロの後方で連続した炸裂が巻き起こり、次いで戦艦を一撃で沈める威力の爆発と共に海中を衝撃波が伝わり機体を大きく揺らした。

 

「ぐうう!!」爆発の衝撃で機体のモニターにシートベルトで固定された体を打ち付けられるブーン、内臓と脳みそが同時にシェイクされ内出血により鼻と口の両方から血が流れ体を締め付けるシートベルトによって圧迫された骨が軋みヒビが入る。

 

彼は全身を全方向から同時に殴打されたかのような感覚を味わい、余りの痛さに気絶する事さえ許されず視界は真っ赤に染まり生臭い鉄の感覚が口内と鼻腔いっぱいに広がった。

 

常人ならば絶命してもおかしくなく如何に鍛えられた軍人でも余りの痛みに暫くベットで身動き出来ない程だが、幸か不幸かパイロットスーツに備えられた生命維持装置が痛み止め薬品の無痛注射による自動投与を行い、何とかブーンは朦朧としながらも何とか意識を保つことに成功する。

 

最も本人にとっては死んでいないだけマシな状態ではあるが、その間にも距離を詰めた敵MSグーンはとうとうグラブロを視認出来るまで近づく。

 

左右から挟み込む様な機動を取り、グラブロを取り囲む敵機は必殺の間合いから魚雷を放とうと両腕の魚雷発射管を向ける。

 

万事休すかと思われたその時、痛み止めと共に投与された覚醒成分が作用しブーンはグラブロに残された最後の手段に出た。

 

「このグラブロに対して、迂闊に近づいたのがお前達のミスだよ!!」

 

グラブロに残された最後の反撃手段、2本の大型クローが敵機に向けその鋏の爪先を向ける。

 

敵の思わぬ反撃にしかしグーンのパイロット達は慌てず距離を取ることで躱そうとする、不意をついたとて魚雷と近接クローとではそもそもの射程が違うのだ。

 

だが彼らの目の前で突如として大型クローが伸び、間合いを見誤った1機がクローに捕まる。

 

「捕まえたぞ!このまま握りつぶしてくれる」

 

大型クローに挟まれもがく敵機を、万力の様な力で握りつぶそうと操縦桿に力を込めるブーン。

 

グラブロの大型クローのアーム部分は伸縮自在の新素材で出来たフレキシブルアームとなっており、水中での抵抗を減らすべく通常は短く折り畳まれていた。

 

その為クローの間合いは実際よりも長く広いが、そうと知らない初見の相手には突然目の前でクローが伸びたかの様に錯覚させたのだ。

 

理想は2機の敵機共にクローで捕まえ諸共果てるつもりであったが、痛み止めによって感覚が麻痺した結果もう1機を取り逃してしまう。

 

クローから逃れた敵機が仲間を救うべく仲間を掴んで離さないクローに向け魚雷を発射するが、その前に大型クローが仕事をするのが早かった。

 

コックピットの操縦桿越しに肉と鉄を同時に握り潰したかのような嫌な感触が伝わり、水圧に耐える頑丈な水中MSの装甲もMAグラブロのパワーとブーンの気迫の前には全くの無力であったのだ。

 

無論次の瞬間には敵機を掴んでいたクローのアーム部分に魚雷が直撃し、炸裂と共に敵機の残骸を掴んだままクローがグラブロ本体から引きちぎられ暗く冷たい海底へと沈んでいく。

 

やがて水圧に耐えられなくなった機体が暗い海底を一瞬の光で照らした。

 

そして攻撃はそれだけに留まらない、復讐に駆られた敵機はこれまでの敵討とばかりに次々とグラブロに向け魚雷を放ち他方片方の腕と引き換えに敵機を道連れにしたブーンは残ったもう一つの大型クローを振り回すも間合いを見切られ水中を虚しく掻くだけに終わる。

 

敵を1機掴み損ねた結果この結末は当然の帰結ではあった、ブーン本人もそれを覚悟していたが痛み止めと覚醒成分の両方によって意識が混濁し始め今や闇雲に機体を動かすだけとなっていた。

 

朦朧とする意識の中滅茶苦茶に振り回していたクローが偶々敵の魚雷を防ぐ盾となり、邪魔になったのか敵機はグラブロの片腕となったクローに向け胴体のフォノンメーザーを放ちフレキシブルアームを焼き切る。

 

最早グラブロを守る術は全て失われ、丸腰となった相手にとうとうトドメの一撃が放たれようとしたその時...!!

 

魚雷を発射しようと両腕を構えたグーンの胴体を、無数の(ハープーン)が貫いた。

 

機体を穴だらけにされたグーンのモノアイカメラから光が消え、魚雷を発射しようとした姿勢のまま海底へと沈み暫くして先に行った仲間同様小さな閃光が海底で起こった。

 

いつの間にか周囲を何機もの水中用MSマリンハイザックが取り囲んでおり、先ほどグーンを攻撃したのもこのMS達であったのだ。

 

『こちら南洋同盟国境警備隊、所属不明機に告ぐそちらは南洋同盟の領海を侵犯しつつある。以後我々の指示に従うよう要請する。繰り返すこちらは...』

 

無線機から流れてくる声をブーンはただ茫然と聞いていた、薬と脳内麻薬の結果今の彼には無線に応えることもまた指ひとつさえ動かす事さえできなかったからだ。

 

少なくとも霞がかかった思考の中、彼は自身が生き延びたことを知る。

 

その安堵感からか、緊張感の解けたブーンはそのまま機体の中で意識を失ったのであった...。

 

 

 

 

 

 

夕暮れ時母艦マッドアングラーの船体を茜色に染める美しい南洋の海を見て、艦橋から海を眺めていたカウフマンは今日の海はまるで血に染まっているかのようだとそうセンチメンタリズムに浸ってしまいたい程、今日の戦いは敵味方双方に大量の血を流したのだ。

 

南洋同盟によって間一髪の所を救われたブーンは本人も機体もボロボロになりながらも水上都市リグまで南洋同盟のMSによって曳航され、何とか母艦マッドアングラーに帰還する事ができたものの機体から慎重に引きずり出さなければならない程重体であったのだ。

 

その場で急いで応急処置を施されたブーンは直様集中治療室へと運ばれ、懸命な治療の結果何とか一命を取りとめたのである。

 

幸い脳と体の後遺症は少ない、とは治療した医師の言葉ではあるがリハビリを受けるため後送される事は確定事項でありブーンが永遠に戦線を離脱することには変わらなかった。

 

出撃前本人に約束した本国へのチケットは、カウフマンが意図しない形で果たされる結果となったのである。

 

指揮官として無理を強いた自覚はあり後悔が無いと言えばそれは嘘になる、しかし例えブーンで無く別の人間を選んだとしても(カウフマン自身を含め)結果は然程変わらなかっただろうと、軍人として冷徹な部分が伝えていた。

 

寧ろブーンは運がいい結果として任務を果たし本人もこうして生きているのだから、別の人間ならこうも上手くは行かなかったかもしれない最悪命を落としていたかもしれない、と今は自身を無理矢理納得させるしかない。

 

カウフマンは服の上から胸ポケットの中にいつも忍ばせている家族の写真を指先でなぞり、彼自身もまた何者にも変えてでも守らなければならない立場だという事を自覚する。

 

夕焼けに沈む南洋の海は、戦争の凡ゆる無情さも無慈悲さも狂気も全てを飲み込んで今日も暮れていくのであった。

 

 

 

 

 

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