機動戦士ガンダムSEED・ハイザック戦記   作:rahotu

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第12話

ビッククロウ1

 

月の裏側に位置するL(ラグランジュポイント)2の虚空に浮かぶ共和国コロニーをシャトルの窓から見ていた共和国軍開発局局長ジョン・コーウェン准将は、窓の外からこちらにシャトルに近づいてくる光を見つけ「あれか」と呟いた。

 

漆黒の宇宙空間に鈍い銀色の光を放つ無数のコロニー群の中、その中のとある企業が所有する完全密閉型コロニーの宇宙港に入港しようとする軍のシャトルを一条の光が追い抜く。

 

瞬きする合間にすれ違ったそれは、共和国軍が保有するどの兵器にも当てはまらない特異な形状をしていた。

 

直線で構成された装甲形状は巨大な(やじり)に似て、2本の突き出した猛禽類の鍵爪を思わせるクローと合わさることで“宇宙飛ぶ鋼鉄の甲殻類“といった印象を見る者に思わせる。

 

しかしシャトルを一瞬で追い抜いた加速性能は共和国軍の現主力MSハイザックを軽く凌駕しており、シャトルに同乗している他の共和国軍士官達は驚きと驚嘆の声をあげ、中には窓にかじりつき既に通り過ぎた軌跡を目で追いはやる気持を抑えきれない者もいた。

 

コーウェン准将は一人手元のファイルに目を落とし、今回彼が態々本土から出てきた理由に改めて目を通した。

 

<超高速加速力とビーム砲を武器に一撃離脱戦法専門の新型対艦攻撃兵器の開発計画>

 

ファイルには企業のロゴマークと共にそう表記され、次のページには新型兵器の詳細なスペックが綴られていた。

 

開発元は長年宇宙戦艦や艦載機の化学ロケットを手がけてきた老舗企業MIP社であり、現在は*1ZEONICや*2ZIMMAD社など多くの国内企業同様MSの部品製造や組み立て作業を手がけている。

 

かつては共和国軍次期主力兵器選定コンペでMSザクと主力の座を争ったほどだが、現在は半ばグラナダ・アナハイム社の下請けに甘んじており恐らく社運を賭けての事だろう、先ほどの“出迎え“といい会社の本気具合が窺い知れた。

 

「新型MA(モビルアーマー)ビグロか。果たしていかほどのものか...」

 

アナハイム社と深い関係を持つティアンム准将は一人、宇宙港に入港するシャトルの中でそうほくそ笑むのだった。

 

 

 

 

 

 

「ようこそ、皆さま我が社所有のコロニーによくぞお出で下さいました」

 

宇宙港に入港した軍のシャトルから降りて来た軍人達をそう自信満々に出迎えたのは、今回新型兵器を軍に発表するMIP社の社長その人本人であった。

 

普通自前のコロニーを複数所有する程の大企業ともなれば、製品発表の場では本社から幹部クラスの人間がくるのが普通であり、まず社長本人が現場に出てくるなどよっぽどの事でもなければまず無い。

 

その余程の事が起きているのだから、それ程までにMIP社が今回の製品に賭けているのがその気の入り用から見てとれる。

 

「社長ご本人の出迎えとは、痛み入ります。今回のお披露目さぞ期待が持てましょう」

 

シャトルを降りたコーウェン准将は出迎えた社長と握手し簡単な挨拶を交わす、が実はお互いこれが初対面ではない。

 

ジョン・コーウェン准将とMIP社長は、以前から本土での官民複合パーティーや兵器の展覧会の会場などで何度か挨拶を交わしたことがある

 

最も挨拶を交わした程度でそれ程深い付き合いのある関係ではないが、さりとて全くない訳ではないつまりいたって普通の社交辞令的(ビジネスライク)な関係であった。

 

「おや?後ろにいる方々は軍の方には見えませんが...」

 

コーウェン准将の肩越しに目ざとく社長は、シャトルから最後に降りてきたスーツを着た気取った集団に目を向けた。

 

明らかに周囲の軍人達からは浮いて目立っていたし、何よりも彼らが胸につけているとある会社のマークがその正体を明け透けに示している。

 

「アナハイムの方が来られるとは存じ上げませんでしたな」

 

言外に余所者(商売敵)を入れるつもりはないと言葉の裏に隠す社長、実際コーウェン准将とアナハイム・エレクトロニクス社との極めて親密な関係は、今や国防産業に携わるものならば誰もが知る当然の秘密であった。

 

そのことから彼等アナハイムが自分達の製品にケチをつけ、採用を邪魔しようとしているのではないかと疑っているのだ。

 

「今は戦時中だ私企業間の垣根を越え軍民一体となってことに当たらねばならん、それに許可証ならば私名義で既に出してある」

 

と尤もらしそうな事をこともなげに言うコーウェン准将、それがアナハイム社の人間を他企業のコロニーに立ち入らせる理由には全くならない事などこの場にいる全員が百も承知だが、それを認めなければ先には進まないのも又誰の目にも明かであった。

 

社長もこの場で押し問答するのは明らかにMIP社にとって損失であり悪戯に時間と機会とを空費するべきではないと分かっていたし、ここは多少手の内を知られることとなってもまずは製品を無事に発表することこそ肝要であると腹にキメる。

 

「...少々お待ちを今確認が取れ次第中に案内差し上げます。改めてようこそ我がMIP社のコロニーへ、私共一同皆様を誠心誠意おもてなしさせて頂きます」

 

些か芝居がかったような台詞と慇懃な態度でMIPの社長は優雅なお辞儀を見せ、ジョン・コーウェン等をコロニーの内側へと案内した。

 

 

 

 

ここで今少し共和国軍兵器開発史についておさらいしなければならない。

 

コズミック・イラにおけるMA(モビルアーマー)とはこの時代における非人型兵器の総称である。

 

その要点は戦車の様な重装甲、戦艦並みの火力、戦闘機の機動性、そして歩兵の持つ汎用性を兼ね備えた万能兵器のことであり、MS(モビルスーツ)が登場する以前最強の兵器種であった。

 

当然各国はこれの研究開発に邁進し新型機を他国に先駆けて配備すべく軍事競争を続けていた、当然共和国軍も他国と同様にMAの開発を進めていたものの各国が万能兵器を求めたのと違い共和国は独自の理論で開発を進めていた。

 

そもそも共和国は地球各国と違い、宇宙に浮かぶ人口の大地スペースコロニーに立脚した人類初の宇宙国家である。

 

当然その住環境は地球とは全く異なり、隔壁一枚で遮られた宇宙は一歩でも踏み出せば人類の生存を拒む宇宙線や真空の漆黒の空間が広がり、例え其れ等から守られたコロニー内部に居てさえデブリが衝突し穴一つ開いただけでも命が一瞬で失われる、それが宇宙に生きるスペースノイド達の変えようのない真実であった。

 

他方地球は放射能や紫外線を防ぐ大気のベールと生命を育む豊かな海に小揺るぎもしない揺籠の様な大地とに守られ、複雑かつ自然に溢れた環境にあって領土領海領空という地球概念の延長線上で作られた従来の軍事概念(ドクトリン)からの脱却は必然であり当然の帰結でもある。

 

その結果、共和国軍が脆弱な本土コロニーとそれに比してあまりに広大すぎる宇宙空間を守るべく考え出したがのが凡ゆる環境に対応した万能兵器ではなく目的に特化した襲撃機(シュトゥルモビーク)という兵器群であった。

 

襲撃機とは共和国における兵器区分の1つであり、主に対艦対地対拠点などの重要目標を攻撃する任務に付く機体に付けられた区分である。

 

大戦勃発前、共和国の部隊編成はMSとMAの混合であり、MAに求められた役割は敵拠点や艦船への攻撃任務であった。

 

連合軍に対し戦力で劣る共和国軍の基本軍事思想(ドクトリン)は、雲海の如く押し寄せる敵MAを装甲と火力のあるMSで押し留めて戦線を維持し、その間MA隊は敵艦隊を叩くというものであり、この為強襲機には敵防空部隊の追跡をかわし対空砲火を潜り抜け敵艦隊に強烈な一撃を加える火力、速度、装甲の3つが求められたのだ。

 

しかし大戦勃発後、それまで主力を務めていたMAガトルや突撃艇ジッコでは最早性能不足に陥っているとの指摘が度々出され、実際戦場では無視出来ない損害を出し続けていた。

 

だがこの問題は長い間放置される事となる、何故なら当時の共和国は国家全てのリソースをMSに費やしており、旧式化したMAに使う予算も時間も残されてはいなかったのである。

 

そしてそのツケを、共和国軍はコンペイトウの戦いによって痛い程思い知らされることとなった。何と作戦に参加した全MAのうちガトルの未帰還率は90%を超え、さしもの共和国軍も問題を直視せざるを得なくなったのである。

 

これにより、以前より度々指摘されてきた新型対艦攻撃機の開発へと漸く共和国軍は乗り出した。

 

当初はMSに大口径砲を搭載する事で解決しようと試みたが、積載量(ペイロード)の関係からすぐに行き詰まり結果として人型に拘らない大型MAの開発へと舵を切る事となる。

 

その結果共和国は対戦中数々の大型MAを開発、戦線に投入する事となり従来の兵器を上回る火力と装甲を持つこれらの兵器は戦後各国に少なからぬ影響を与える事となった。

 

 

 

C.E.60年代、共和国火星植民地で勃発した旧ダイクン派による内戦によってその有用性が証明された人型有人兵器ことモビルワーカーは、その後理事国からの独立を目指すプラントと共和国双方の共同開発の結果世界初のMS(モビルスーツ)が誕生する切っ掛けとなる。

 

その結果プラントはMSジンを共和国はザクの開発に成功したが、共和国軍産メーカーZEONIC社(ジオニック)のザクの性能は共和国軍が求める水準に達せず結果不採用の烙印を押される事となった。

 

一説には旧ダイクン派政権時代に優遇措置を受けた国策企業がその始まりであり、性能は殆どジンと変わらなかったのにも関わらず旧ダイクン色を廃すという政治的な理由から採用されなかったという噂もある。

 

このザクの不採用を受けて共和国内では様々な企業が新型兵器開発に手を挙げ、ツィマッド社はザクよりも高性能なヅダを開発するも試験中実験機が爆発事故を起こして問題を解決できず選考会(コンペティション)を敗退。

 

MAガトルやMAゴブルの開発メーカーであったMIP社も開発コードMIP-X1と呼ばれる従来よりも大型の試作MAで参加するも、共和国軍が求める戦術思想にマッチせず選考段階で弾かれた。

 

結果として広く周知の事実として国外企業である月のアナハイム・エレクトロニクス社の協力を得て共和国軍が求める性能にザクを改修改良されたハイザックが正式採用される運びとなったのである。

 

こうして国外企業の後塵を拝する事となった共和国内各軍需企業は、戦時中を通してアナハイム社のMSをライセンス生産する下請け企業へとなり下がる事となった。

 

しかし、ここで注目すべきは既に60年代末既に後の大型MAの原型が完成していた事である。

 

当時後の連合軍を結成結成する事となるプラント理事国である大西洋連邦、ユーラシア連邦、東アジア共同体のうち大西洋連邦が開発したMAミストラルや連合軍の主力MAメビウスは宇宙戦艦に搭載可能な艦載機という制約を受け、小型軽量で汎用性と運動性、機動性などに優れた面を持ちつつも完成した時点で既にMSに対しては凡ゆる面で旧式であった。

 

それに対してMIP社の試作機X1は開発時点で将来の大型ビーム兵器搭載を目的とした大型ジェネレーターを備え、艦艇格納庫とカタパルトの能力によって制約を受ける従来機体サイズから解放された大型機体は、大型大出力エンジンの搭載を可能としMSとは比較にならない積載量(ペイロード)、航続距離性能と大推力を得る事に成功している。

 

結果として後年MAのトレンドとなる大型機体大出力大火力という要素をこの時点で満たしており、MIP社の先見性が光っていた。

 

大戦中MIP社は自社が保有する工業コロニーでMSハイザックのライセンス生産や艦艇用のエンジンにビーム砲を生産しつつも、新型MAの開発自体を全く諦めてはおらず共和国の他の企業同様共和国地上軍に技師やテストパイロットを派遣して持ち込んだ試作機のテストを繰り返し技術の習得と戦訓の獲得を積み重ねていく。

 

この時なぜ宇宙や自社コロニーで試作機の開発を進めなかったかというと、それはアナハイム社の影響力が共和国国内に浸透してきつつあった事と関係する。

 

MSハイザック開発を切っ掛けにアナハイム社は共和国軍需産業に深く食い込むことに成功し、特に軍開発局局長ジョン・コーウェン准将との関係を深めることで共和国国内各軍需産業に社員を送り込みその動向を調査監視し実質的に軍需産業を自社のコントロール下に置こうと画策していた。

 

故に共和国国内企業の多くがアナハイムの干渉を嫌って地上に開発の拠点を移したのは当然の流れであり(中には軍開発局そのものも)、結果として初期のMAの多くが地上で開発された数多の機体が製造される事となる。

 

こうして脆弱な母たるスペースコロニーを守るべく生まれた兵器達は皮肉にも地球という特異な環境下によって恐竜的進化を遂げる事となり、後の怪物達はこうして最初の産声を挙げる事となったのだ。

 

 

*1
共和国初のMSザクを開発した企業。しかし軍の正式採用ならずMS開発は月のアナハイム社が継続し後にハイザックを生み出す

*2
ホバー技術や装甲材、炸薬に長け質実剛健を旨とする企業。かつてはMS開発を行っていたがZEONIC社がMS開発主導権を失った事で同社も研究をストップしている

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