機動戦士ガンダムSEED・ハイザック戦記   作:rahotu

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第14話

ビッククロウ3

 

MIP社のコロニーその管制室は混乱の極みにあった、突如として発生したNJ(ニュートロン・ジャマー)によりテスト機は愚か周囲との通信が途絶され状況も何もかも掴めないでいたからだ。

 

「ダメです、外部とのレーザー通信システムが作動しません」

 

「バカな!?緊急時に備えた手段は全部試したんだろうな!!」

 

「やってますが、システムに何らかの異常もしくはハッキングを受けた可能性が…」

 

「兎に角復旧を急がせろ!!」

 

外聞も何もなく管制室では管制官同士の怒号が鳴り響き、反対に軍人達は表面上は落ち着き払っているものの一所に集まって何やら囁きあっていた。

 

(演出の一環ではなさそうだな、とすれば本当に事故か?)

 

(NJまで散布されているのだぞ、許可の無い散布は本土では厳禁のはず。考えられるとすれば…)

 

(ジーン・コリニー提督自慢のピケットラインが破られたと!?本当ならば大問題だぞ)

 

とこの様に状況から察せられる推測を重ねてはいるが、しかし今彼らが最も求めていることは一体いつになったら避難を始めるかである。

 

肝心の社長は先ほどから管制官に怒鳴ってばかりで使い物にならず、かと言ってここ民間会社のコロニーで自分達だけ真っ先に逃げ出したとあれば軍人としての面子が立たない。

 

しかし今日ここにるメンバーは軍でもそれなりの地位にある物達ばかりである、特にジョン・コーウェン准将は最重要人物でありこの場で真っ先に安全を確保されなければならない人物だ。

 

であるからして、軍人達の最優先事項はどうやってコーウェン准将を安全に避難させるかに意識を傾けていた。

 

「コーウェン閣下一先ずコロニーの中に避難を、最悪の場合宇宙港の船には脱出の準備をさせています」

 

そっとコーウェン准将に近寄った側近の1人が耳元で声を細め避難を促した、上官を置いて逃げ出した部下に未来が無いのは何処の軍隊でも同じだからである。

 

無論それがこの場で一番の最善手である事はコーウェンもよく分かっていた、しかし彼は敢えて此処で避難する必要を感じてはいなかったのである。

 

「狼狽えるな、この程度のことで動揺しては共和国軍人の鼎の軽重が問われよう」

 

毅然とそう言い放つコーウェン准将、軍人達はそれに暫し面食らったがしかしコーウェン准将が意味ありげに部屋の角に視線を流した事で彼の言わんとしている事のその本心を悟った。

 

先ほどから部屋の角で固まっているアナハイム社の社員達、彼らはこの混乱の渦中にあってさえ平然と立っているのである。

 

そう、鉄火場に慣れていないであろうスーツ姿の会社員が軍人よりも胆力を持っているなどと言うバカな想像が働かない限り、彼らは決して自分たちが脅かされない自信があったのだ。

 

(まさかこれはアナハイムの仕掛けたのか!?辺境とは言え本土で)

 

表情を一切変えずおくびにも出さずとも、内心その驚愕の事実に数々の修羅場を潜り抜けてきた軍人として少なからず動揺したのである。

 

と同時にこの展開を予期していたであろうコーウェン准将が一体何を考えているのか?彼にはそれが分からないでいた。

 

そうこうしている内に管制官の1人が喜びの声を上げ、その周囲には他の管制官だけでなくMIP社の社長もそして軍人達も集まり囲う。

 

「こちら管制室、管制室トクワン大尉応答せよ。繰り返すトクワン大尉応答せよ」

 

しばらくの間通信機は無言であった、しかし何度かノイズが走った後漸くコンタクトを取ることができたのだ。

 

『聞こえているか、こちらトクワン大尉、繰り返すこちらトクワン大尉これから伝える座標のデーターを過去30分に遡って5分ずつに分けて送信してくれ。』

 

テストパイロットと恐らく機体の無事を知らせる声に、管制室の中で一様に安堵のため息が漏れた。

 

管制官の1人が起点を利かせ、作業用MSにレーザー通信機を持たせケーブルで管制室と直結させたことでコロニー内の通信ネットワークの障害を通さず、直接外部とのやり取りを可能としたのである。

 

「トクワン大尉、そちらの状況を報告せよ。現在当宙域にはNJが散布されている、状況を報告せよ」

 

『こちらトクワン大尉、繰り返す座標データの過去の記録を送れ、繰り返す座標データの過去の記録を送れ』

 

しかし状況は依然として不明であり、トクワン大尉に外で今一体何が起きているのか聞こうとするも彼は同じ内容の文言を繰り返すだけであった。

 

「これは…恐らく録音した音声データを一定間隔で伝えているに過ぎません」

 

「では機体は既に失われたと?」

 

管制官を囲っている軍人の1人がそう尋ねた、そうであればぬか喜びも甚だしい。

 

「いえ、コロニーの方向ははっきりしているのでその方向に合わせて移動しながらレーザー波の照射を行なっているのでしょう。最初の方角と今とでは角度が違います、これは機体が健在の証だと思われます」

 

つまり現状の事実だけを抜き出せばトクワン大尉と恐らく機体は無事であるが、しかしトクワン大尉はレーザー通信に応答することが何らかの理由で出来ない状況にある、或いはなりつつあるということである。

 

これから考えられることとNJの散布を組み合わせれば自ずと答えは導き出される、が軍人達がその結論に達するよりも早く決断を下す人物がいた。

 

「座標データを送りたまえ」

 

今まで事態を静観していたジョン・コーウェン准将は突如として、そう言い出したのだ。

 

「今まさにパイロットが必要とする情報を伝えるのが君ら管制官の役目であろう。ならば仕事を果たしたまえ」

 

共和国軍開発局局長というどちらかと言えば実戦部隊の武人というイメージからかけ離れた役職にあるコーウェン准将の、威厳のある有無を言わせない言葉の重さに管制官は思わず「了解しました」と背筋を伸ばして座標データの送信を始める。

 

この瞬間もはや場の支配権はコーウェン准将にあったと言えよう、普段彼をよく知る軍人達もまた管制室に詰める管制官やMIP社の社長でさえ普段とは違うコーウェン准将が発する空気に気圧されていた。

 

ジョン・コーウェン准将、アナハイムと昵懇の仲と噂される彼だが、蛇蝎蠢く伏魔殿の共和国軍部にあって尚その地位にあり続けることが出来る男が単なる汚職軍人で無いことは彼が今一瞬だけ見せた覇気からも窺い知れる。

 

彼もまた伏魔殿に潜む闇の一員なのだと、この時誰しもが思い知ったのだから…。

 

 

 

 

 

 

時は少し遡り、演習宙域にてトクワン大尉駆るビグロは4機のジンタイプ相手に戦闘を続けていた。

 

「どおおりゃあああ!!」

 

機体を翻しすれ違い様にビグロの3本爪のクローアームが閃き、不運なジンタイプの1機がクローに捕まり急加速そのままに演習宙域を漂う隕石に叩きつけられる。

 

如何にMSとてマッハを超える速度で隕石に激突すればタダでは済まない、機体各所から火花を散らせ推進剤に引火したのか火球となって隕石と共に虚空に消えるジンタイプ。

 

180度のターンを凡そ1.3秒で完了させるビグロの機動性の秘密は2本のクローアームによAMBACと、機体各部に備えられた姿勢制御用スラスターそして何よりもMSよりも遥かに巨大な機体を振り回して最大15Gがかかっても壊れない機体とパイロットの頑丈性によっている。

 

あの後十分な加速を得る事に成功したトクワン大尉とビグロは、演習宙域を舞台に謎のMS隊と激闘を繰り広げていた。

 

MIP社所有のコロニー周辺に設置されて演習宙域は嘗てのコロニー建設のおりに捨てられた建材やコロニーのミラーに資源隕石の残骸などが散らばり、それらは天然の演習場を提供していたのである。

 

4つの光跡はお互い絡み合うように交差しあい、また離れては近づき障害物の多い空間を複雑な機動を描きながら動き続けていた。

 

3機に減ったジンタイプ、機体の戦闘コンピューターからはジンの高機動型との類似性が指摘されていたそれは、ビグロの加速力に追従し攻撃を繰り返していたがトクワンはビーム兵器以外は有効打に成り得ないと判断し、演習場の地形を活かし効果的な反撃を行なっていたのである。

 

先のジン高機動タイプを仕留めた時も、演習場に漂っていたデブリをクローアームで掴み機体を急ターンさせ背後から追ってきたジンは当然避けようとするも、運の悪い1機が先ほど隕石と一緒に宇宙の星屑となったのだ。

 

共和国軍を苦しめてきたジン・ハイマニューバタイプに酷似したそれはザフトが開発を進めているM2型と後に呼ばれる機体、その試作機達で内1機が先のコンペイトウの戦いで活躍したゲイツの試作機と同様のビームライフルを装備していたのである。

 

しかし本来ゲイツ様に開発された試作の大型ビームライフルを取り扱うには汎用性に優れるジンタイプの系列機とは言え若干持て余し気味であり、機体の特性とそれに合わない兵器の組み合わせは相手を仕留められるタイミングでそのチャンスを逃すな悪影響を与えていた。

 

そうと知らないトクワンはビーム兵器を装備した機体を最大限警戒しつつ、勝手知ったる庭である演習宙域を縦横無尽に移動しつつ中継用ビーコンを探すべく四方に目を配っていく。

 

互いに火線が重なるように放たれる砲弾やビームを回避するも、一刻も早く状況を伝え応援を呼ばなければ如何に地の利があるとは言え、MAビグロの巨体でMS相手に格闘戦を行うことの愚かしさをトクワンは実戦経験で嫌と言うほど思い知っていたのである。

 

パイロットスーツのヘルメット越しに見える彼の顔には、鼻頭から両頬まで斜めに切り裂く深い傷痕が残りどれ程の修羅場を潜り抜けてきたのかを象徴していた。

 

現在演習宙域をすっぽり覆い包むようにNJが散布されているものの、中継ビーコンを通じたレーザー通信は依然として機能している事は確認済みであり後は如何に敵の攻撃を交わしつつ自分の状況を外部に伝えるかにかかっていたが、しかしコックピット内に異常を知らせるアラートが鳴り響く。

 

「くそ、演習で使いすぎたか!?推進剤の残量が」

 

機体の異常を知らせるアラートは推進剤の残量が尽きかかっている事を知らせた、既に演習によって機体武器残量も20%を下回っており機首部に備えた大型ビーム砲もエネルギーの問題から1〜2発撃てればいい程であった。

 

このままでは中継ビーコンを見つけるどころかその前に推進剤が切れて敵の狙い撃ちになるのは必定であった、彼には何も打つ手が無い様に思われたがしかしトクワンは数々の戦場を生き残ってきた猛者である。

 

この程度の危機で折れる程ヤワではなかった、彼はデブリを避けつつ複雑な回避機動を取りながらコックピットのセンサーを操作しNJが最も早く散布された場所を特定しようとした。

 

(こいつらはご丁寧にNJを散布してから襲ってきた、なら近くに必ず母艦があるはずだ。その母艦の位置さえ分かれば…)

 

これが単なる遭遇戦であれば(それは極めて確率が低いが)、そもそもNJの散布など行われなかったはずである。

 

今次大戦において両軍は戦闘前にNJを散布するのは通例となっているが、その散布装置は大型艦や同規模の施設を必要としMSサイズまでNJ散布装置が小型化したという話はこれまで聞いたことがない。

 

仮にもしその技術が既に開発されていたとしても、襲撃してきたMSにはそれらしき装備を備えた機体はなかった。

 

つまり、現実的に考えて敵は大胆にも共和国本土に少数の艦だけで乗り込んできた事となる。

 

大部隊でないのはそこまで本土防衛艦隊を預かるジーン・コリニー提督が無能だとは信じられなかったことと、少数の隠密潜入任務ならば本土の哨戒網を掻い潜るその可能性はあったからだ。

 

兎に角敵の規模や正体はなんであれトクワンのやるべき事は決まった、しかしその為には機体に残された過去のログだけでは不十分である。

 

その為には、彼は急いでボイスレコーダーを立ち上げなければならなかった….。

 

一々中継ビーコンと通信機に向かって喋ってられなかったのが一つと、段々と相手がこちらの機動に慣れてきて攻撃が正確になってますます回避に神経を使わねばならなかったからだ。

 

そうして話は冒頭に戻る、これまでの言動とその風貌からトクワン大尉は粗野な印象を人に与えるが、そもそも高度な精密機器の塊である最新兵器を預かる彼らテストパイロットは軍の中でもエリート中のエリートである。

 

孤独な宇宙で自らの判断を信じ直感的に行動する直情型パイロットは時として思いもよらない言動や突飛な行動に出るが、また極めて理知的かつ合理的な判断を下す士官でもあるのだ。

 

 

 

 

 

「来たきたキタァあ!!」

 

データログの送信が始まり、トクワンは自分の意図が正しく伝わった事に安堵すると共に漸く反撃に移れると舌なめずりをした。

 

「見てろよ、目にもの見せてくれる」

 

それまでの回避機動を止め、機体を翻してある方角へと一直線に向かうビグロ。

 

当初その動きにの意図に気が付かなかったジン高機動タイプ3機は、しかしながらその先に何があるかに気づき慌ててその後を追い始める。

 

共和国本土まで大体にも潜入を果たした相手とはいえ流石に母艦を失うのは怖いと見える、とトクワン大尉はニヤリを頬を歪ませるもだからとてスロットルレバーの加速を緩めるような事はしない。

 

チラリと後方視界を確認し敵機の様子を伺うと、相手はビグロをどうしても近づけさせたくないのか3機の内2機が左右に別れてトクワンを挟み込もうとした。

 

既にトクワンのビグロは最高速度のマッハ8をマークしていたが敵のジン高機動タイプはスラスターを全開にしてそれに追いすがり、僅かに速度で勝り相手の母艦に迫る機体と追う機体それぞれいっぱいいっぱいであったのである。

 

このままではその僅かな速度差から敵機に捕捉される事は必定であった、しかしトクワンには今まで使ってこなかったもう一段上のトップギアがあった。

 

「エンジン出力最大フルパワー!!」

 

限界まで上げられたスロットルレバーその更に奥のレッドゾーンへと突入するビグロ、その瞬間ビグロの最大速度はマッハ10を記録し前方に回り込もうとしたジンと正面衝突した。

 

質量と速度差何よりも機体強度とパイロットの体の頑丈さが運命を分けた、MSと正面衝突しても尚速度を落とさず加速し続けるビグロと大質量とぶつかって機体が原型を留めぬ程歪み凹み破壊されたジン。

 

「このスピードを避けられなかったな!」

 

トクワンがそう豪語する程、今のビグロの加速は劇的でありまた機体と彼の体にも相応の負荷がかかっていたが、それでもスロットルレバーを緩める事はしない。

 

遂には背後のビーム兵器装備のジンも余りの速度においていかれ始め、等々ビグロのセンサーが進行方向にソレを見つけた。

 

ザフトのローラシア級に酷似した艦影のそれに向かって、トクワンとビグロは在らん限りの火力を叩きつけたのだ。

 

「捕まえたぞ!!全弾発射ぁぁぁ」

 

機首カバーが左右に開きジェネレーターと直結した大型ビーム砲の砲身が現れ破壊的な粒子のチャージをはじめ、機体に残存するミサイルが次々と発射口から放たれる。

 

ビグロの接近に気がつき敵の母艦は迎撃しようとするもトップスピードに乗ったビグロの機動性を前に全く火器管制が追いつかず、対空砲火は空を切るばかりであった。

 

次々とミサイルの数々が敵の母艦に命中し閃光を生み装甲を捲れ上がらせる、露出した内部機構に容赦なく大型ビーム砲が突き刺さり戦艦のビーム砲と同等の出力を誇るそれを至近距離から喰らいそのまま反対側まで突き抜ける。

 

一瞬の沈黙の後敵の母艦は大爆発を起こし轟沈する、この瞬間今まさにビグロ本来の開発目的が成就された時であった。

 

圧倒的な大出力を生かして敵の索敵範囲外から超加速で接近し至近距離からミサイルの弾幕と戦艦並みのビームを撃ち込み離脱する、MSやMAとの格闘戦など一切考えず唯只管に速度と火力のみを追求した機体それがビグロである。

 

今現在の戦艦が装備する対空火器の多くはMSの機動性を念頭に配備され強力な火線を構成しているが、しかしビグロの超加速には全く対応していないのだ。

 

共和国MIP社が狙ったのはまさにこれであり、その正しさはアナハイム社の嫌がらせとコーウェン准将の言う所の実戦の埃を得て証明されたのである。

 

さてトクワンとビグロによって母艦を失ったMSだがこの後の行動は通常二つに分けられる、酸素とバッテリーが尽きる前に離脱するか投降するかそのどれかであるのだが、しかしここで第三の道を選択する者がいた。

 

残弾を使い切り殆ど推進剤も残っていないビグロは宇宙を慣性の法則に従い進んでいく、しかしそのビグロに向かって一条のビームが命中する。

 

後から追いついたジンが仲間の仇を討たん放ったビームはビグロの側面に命中し尚攻撃を仕掛けてくる、既にこの時残る1機は母艦を沈められた事で怯え戦場を離脱していた為、今戦場に残っているのはこの2機のみであった。

 

機体側面に命中し白い煙を吐き機体が傾けながら漂い始めるビグロ、そのコックピットの中でトクワン大尉は機体と格闘していた。

 

「くそ、冷却装置60%ダウン…今のでメインノズルもイきやがったか…!?」

 

ビーム兵器が命中したがしかし既に武装を使い切り、更に推進剤も殆ど空っぽであった事が幸いしてか爆発を起こすことはなかったのである。

 

しかしそれで状況が良くなるどころか返って悪化の一途を辿っていた、正に万事休す絶体絶命であった。

 

さしものトクワンもこの時死を覚悟した、彼の視界は今まさに真っ暗に染まり永遠の宇宙の孤独へと誘うかに見えた。

 

一方白い煙を吹き腹を見せて漂うビグロに確実にトドメを刺そうと、ジンのパイロットはスラスターを全開にし距離を詰める。

 

何度もこの重いビームのせいでチャンスを逃してきたジンのパイロットは、今度こそ確実に仕留める為に相手の装甲の薄い腹側から狙い撃ち、味方の母艦をヤられた時と同じように相手をビームで串刺しにしれやろうとの行動であった。

 

だがそれはトクワンに生きるチャンスを与えたのである。

 

「詰めを誤ったな、お前」

 

トクワンは操縦桿を思いっきり傾けた、無論推力を失ったビグロは僅かに進路を変えただけでジンの攻撃を逃れる事は出来ない。

 

しかし、この場合その僅かな進路の差が両者の明暗を分けたのである。

 

悪足掻きをとせせら嗤いが機体越しに聞こえてくるかのように、ゆっくりとビームライフルの銃口を向けてくるジンだがその時コックピットの衝突センサーが警報を鳴らした。

 

「!?」

 

慌ててモノアイを動かし機体の背後を振り返るとそこには同じように自機を見つめる同じ機体の姿があった、まるで鏡写の様に…いやそれはまさに鏡なのである。

 

巨大なスペースコロニーの残骸がジンの背後から迫り、いやミラーに気が付かなかったジンが自らそれに向かって衝突したのだ。

 

巨大なスペースコロニーの構造材は生半可なMSよりも遥かに頑丈である、それに気づかずにスラスター全体でぶつかったジンの運命は推して知るべしである。

 

トクワンが最後に見せた悪足掻きのような転舵は、実はこのデブリと化したミラーとの衝突を避ける為に行なったものだ。

 

地球から最も離れた月の裏側にあるL(ラグランジュ)2に存在するスペースコロニー国家共和国は、その立地の関係から太陽の光を常に考え発電用ミラーを設置している。

 

極めて高い反射面を持つコロニーのミラーは同時に消耗品でもある、しかし一旦夜側を向ければまるでその先に宇宙が続いているかの様な錯覚を人に抱かせるも、それは(ミラー)が見せる幻影でしかない。

 

地上と違い基準となるモノがない宇宙にあっても、常に太陽の位置はパイロットの体に叩き込まれている。

 

トクワンが死を覚悟した時彼の視界が真っ暗になったのも、それは精神的なモノなのではなく太陽光を遮るミラーの影に知らず知らずに入ってしまったためだ。

 

それに気が付いたトクワンは敵機がスラスター全開で自機の腹側に周り、まさに宇宙を漂うミラーの残骸が直ぐそこまで近づいているとも知らずに迂闊な機動をとってしまったのである。

 

この後トクワンは機体と共に無事に生還し、彼にとって一先ず今回の一件は終幕を遂げた。

 

しかし本当の後始末はこの後に控えていたのである…。

 

 

 

 

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