後始末或いは
MIP社コロニー、その通路をそそくさとアナハイム社の社員達が先を急いでいた。
今回の一件はまさに彼らが仕込んだ事であるが、事が予想以上に大きくなりさっさと退散しようと企んでいたのである。
宇宙港への通路の角を曲がろうとしたアナハイム一行は、その前に1人の女性が待ち受けていた。
「あら、アナハイムの皆さんどちらにお急ぎで?」
おっとりとした言動とまた同じようにおっとりとした外見をした女性士官、共和国軍のレーチェル・ミルスティーン中尉は丁度宇宙港へと続く扉の前にいたのである。
アナハイム一行は彼女を無視して先に進む事は到底出来なかった、何故なら彼女は彼らアナハイムと関係の深い共和国軍開発局局長ジョン・コーウェン准将の秘書官であるからだ。
取り敢えずこの場を何とか言い繕い切り抜けようとするアナハイム社員達、しかし彼らの言動を受け流しつつゆっくりと歩みを進め距離を詰めるレーチェル中尉。
彼女の背後から漏れ出るプレッシャーに押され思わず後ずさる、彼ら大の男がたった1人の女性を前に気圧されているのだ。
そうして先頭の1人の懐に素早く潜り込むレーチェル中尉、互いの視線が合い思わずしてその美貌をまじまじと眺めてしまう。
ニッコリ、と微笑む女の赤く染まった頬に気を取られ、その隙に胸ポケットに仕込まれた隠しカメラ付きペンとMIP社の機密情報が入った情報保存端末の両方を抜き取られる。
これらの中身や使い方については敢えて言うまい、しかしながらアナハイムにとってタイミングの良すぎる出来事と施設通信機器のハッキングに紛れ抜き取った他企業の機密、オマケに管制室での狼狽する社長の姿は今後の交渉において絶好の材料だろう。
「あっ」という間もない一瞬の出来事であった、取り返そうとする手は空を掻きレーチェル中尉の姿はいつの間にか元いた場所に立っていた。
「准将閣下からメラニー会長宛に言伝です、あまり事を大きくしすぎてはゴップ元帥閣下に面目が立たないと。この“借り”は高く尽きますわよ」
では、と唖然とするアナハイム社員達の間を抜け颯爽とその場を立ち去るレーチェル中尉、彼女が去った後何もかもを奪われた社員はその場にへたりこんでしまったのであった。
月面のとある中立都市、その一角にあるバーで1人の男がグラスに刺した冷えた棒菓子を舌の上に転がせていた。
バーで酒もやらず冷えた甘味のみをやる奇妙な風体の男、彼こそその道では知らぬ者はいない凄腕のハッカーである。
ケナフ・ルキーニは所謂情報屋である、卓越したハッキング技術は合法非合法を問わず顧客は裏も表にも存在する。
相手は誰であろうが選ばないが、報酬の多さよりも時に個人の興味関心を優先させる快楽犯にして愉快犯。
この瞬間にも、世界中の諜報組織が血眼になってその行方を追う危険人物である。
今回の一件に際してもそうである、得意先の一つであるアナハイム社からの依頼で持たせた端末は単に接続した先の情報を抜き取るだけで無く、ウィルスプログラムを流し込みコロニーの通信を麻痺させる代物だ。
その後何が起きようとも彼は知らぬ存ぜぬなのだが、この男更に別の組織へも情報を売っていたのである。
何を隠そうプラントのザフトにである、アナハイムの計画では適当な傭兵集団にでも頼むつもりであったのだがそれよりも先にザフトが食いつく様に仕向け、今や共和国は上に下にの大騒ぎであった。
「神聖不可侵のコロニーか、この私の手に掛かれば造作もない」
自信満面にそう1人呟くルキーニ、しかし彼が言う通り共和国では連日MIP社所有コロニーで起きたNJの散布事件で各種メディアは勿論議会もその話で持ち切りであった。
その理由がたった今1人の暇つぶしの興味本位から行われたとも知らずに彼の掌で踊らされていくのだ、情報を操り影から世を思う様に動かし混乱させる、戦乱の世とはこの様な人間を跳梁跋扈させる世界なのである。
所変わって共和国首都ズムシティ郊外には、本土防衛艦隊その本部が置かれていた。
旧世紀の地球で言う欧州風の建築物が建ち並ぶ市街地と
「何たる醜態何たる無様か!!ワシがこれまでの人生でここまで恥をかかされた事はない」
そう言って、共和国本土防衛艦隊を預かるジーン・コリニー提督は怒りを露わに執務室の机に拳を振り下ろした。
普段は好々爺を装いつつその実陰険で陰湿な策謀家であり、絶えず他者を陥れる策を巡らせる模範的な共和国軍人である提督は、連日の軍と議会からの突き上げでその怒りの頂点に達していたのである。
コロニー提督の怒りは凄まじくシックな部屋の装いとは裏腹に暫し嵐が吹き荒れる事となる、無論ドアと壁の厚さによってそれが外まで漏れる事は無いが、直接その暴威を目の当たりにする人物の肝は相当に冷えた事だろう。
最も、この時コリニー提督の執務室にいたのは提督本人とその懐刀と目されるジャミトフ・ハイマン准将の2人だけで有り、そのジャミトフにしてもゆったりとした1人掛けの地球産天然革張りのソファに肩肘をついて腰掛け、この程度の事そよ風とも思わない様子でいる。
『ドライアイスの金庫番』との異名を持つ男にとって、今は怒りを露わにするよりも先に解決すべき事は山ほどあったからだ。
「提督、気は晴れましたかな?」
ジャミトフが冷厳と言い放ち、少し頭の冷えたコリニー提督は乱れた襟首を正し乱暴に執務室の椅子に座り直してから一言放った。
「で?何か掴めたのか」
長年に渡り共和国軍の軍籍にある長老格の提督をして、ここまで怒りに駆り立てるほど今回の一件はそれ程に深刻であったのだ。
事件は数日前に遡り、共和国軍開発局局長ジョン・コーウェン准将等軍の一行がMIP社に招かれて会社所有のコロニーで新兵器のお披露目が行われていた。
その新兵器の試験中に突如としてNJが散布されその間コロニーは外部との連絡の一切を遮断された、折しも付近を航行哨戒に当たっていたパトロール艦隊が領海のすぐ外側で不審船を発見しこれの臨検に当たっていた時である。
本来なら以上を察知し真っ先に本土への通報と現場へと駆けつける筈の哨戒パトロール艦隊が、その日偶然にも事件現場を離れていたのだ。
その後コロニーから通報を受け本土から部隊が派遣されたのは発生から凡そ半日が過ぎた事であった、その頃には全てが終わった後であり事件現場となった演習宙域は厳重に封鎖され軍の調査部隊が捜査にあたり関係者には全員戒厳令が敷かれたのである。
調査の結果判明した事件の詳細な内容は、演習中に共和国の領海宙域に侵入した国籍不明艦がNJを散布し並びにMS小隊を繰り出しテスト機を襲撃しこれと交戦に入った。
襲撃してきたMSはテスト機によって殆ど撃墜されまた母艦も同機によって撃沈し、事件後逃走を図ったMSも宙域をパトロールしていた哨戒艦隊に捕捉され投降に応じず撃墜されている。
これ等の艦やMSから回収された部品からは巧妙に国籍が取り除かれており、その正体を判明する事は出来なかったもののその装備練度から敵国の工作員の可能性が浮上していた。
報告書は最重要機密に指定され軍と政府でも極限られた者にしかその詳細は明かされなかった、しかし演習宙域に限定されていたとは言え、共和国本土宙域でのNJ散布とMS小隊の襲撃は戦時中例外的に平和だった共和国を激震させるに十分な衝撃を与えたのである。
連日この事が大本営で議論され、また侵入経路を調べるべく調査艦隊が繰り出され事件当時哨戒に当たっていた艦隊のクルーは末端に至るまで厳重な隔離のうえに政治将校による取り調べを受け、共和国軍参謀本部は本土警戒網の見直しと部隊の再編成を余儀なくされた。
当然本土防衛を預かるコリニー提督への責任追及は凄まじく、この気に提督の勢力を削るべく結託した派閥の工作もあって提督の神経を逆撫でし続けていた。
民間には詳細を伏せられたもののNJの散布は各コロニーや民間の通信衛星によって直ぐに人々に知られるものとなり、すわ敵の襲撃かとコロニー住民の民心を動揺させ株価も一時大幅に下落するなど経済活動や市民生活に大きな影響を与えたのである。
ここまで衝撃が大きくなったのは共和国が主戦場たる地球から最も遠く離れたコロニーであり、また月の影に位置することと地球との距離から撃ち込まれたNJの影響を殆ど受けてこなかった事が影響していた。
俗にエイプリルフール・クライシスと呼ばれるザフトが地球にNJを撃ち込んで以来地球ではネットワーク通信や電波の類が使えない中、共和国とそのコロニーだけが例外的に戦争前と同じ水準の通信インフラを維持し続けていたのである。
これまでにも何度かあった共和国のインフラや経済を混乱させようと言う企みは悉く宇宙要塞コンペイトウとルナツーによって阻まれており、本土の最終防衛ラインたるゼダンの門と共和国宇宙艦隊の中で最大最強たる本土防衛艦隊の存在によって守られた共和国のコロニー市民は、いつしかコロニーは不可侵であるという幻想を抱いていたのであった。
その幻想が打ち砕かれた事で、市民達は一種のパニック状態に陥りその混乱の収拾に政府と軍も躍起になっていたのである。
「確証はまだですが、しかしアナハイムが関係しているのはまず間違い無いでしょう」
アナハイムと顎を手で摩り気を落ち着けさせながら繰り返しその名を呟くコリニー提督、今やその名を聞かない日はこの共和国国内では無かった。
遠くに見える市街地を例えばエレカを走らせたとして、アナハイムとその関連企業の広告やコマーシャルを見ずして運転することは難しい。
「本来なら今すぐにでもズムシティのアナハイム支社に憲兵隊を突入させたいところですな」
「それが出来れば苦労はせん、しかし大本営は許可など出さんぞ」
コリニーが言う通りアナハイムへの対応はその他の関係者が受ける過酷極まる取り調べに比べ、遥かに軽いものであった。
これは実質グラナダ市がアナハイム一社の城下町として機能しており、そのアナハイムへの捜査は今や共和国の重要な拠点となっているグラナダ市と月のルナリアン住民の動揺を誘いかねなかったのである。
また戦争の長期化によってアナハイムの影響力は軍のみならず政府にまで及び、彼等の中にはアナハイムへの捜査を嫌がる者が多かった。
「兎に角、提督におかれましては今しばし御辛抱を。そのうちあのコーウェン准将あたりが火消しに出るでしょう。その時にヤツの首根っこを掴めれば自ずと事件の全容も明らかになるというもの」
既にジャミトフはこの時根回しを行なっており、コーウェンが何かしら不審な動きを見せれば彼をスパイ容疑と共謀罪でハメる準備を進めていたのである。
何かと敵対する事も多い同格の相手を、この際目障りなアナハイム共々一挙に消してやろうと画策していたのだ。
「で、それまで泥を被り続けろと言うのか、このワシに?」
ジロリとコリニー提督の鋭い視線がジャミトフに飛び、ジャミトフの冷たい視線は真っ向からこれを受け2人の間でしばし火花が散る。
2人の間に走った緊張はしかし次の瞬間には霧散した、コリニー提督にとってジャミトフ准将が持つ金庫番としての資金力は魅力的でありジャミトフもまたコリニー提督の権威と実力の後ろ盾を必要としていたからだ。
この両者の枢軸関係に互いへの信頼や信用といったものは一切無く、あくまでも相手を利用してやろうと言う極めて利己的な関係でしかない、例え関係に亀裂が走ろうとも互いに利用価値がある限りはこの関係は持続されるもののしかし不要となればいつでも相手の背中を平気で刺してくる。
それがこの両者の関係というものであった、が特段これも今の共和国軍では珍しくもない。
大粛清以降、裏切り裏切られるのは多くの共和国軍人達にとって最早日常同然なのだから。
だが事態はジャミトフの思惑とは全く違う方向へと転がり始める、執務室に置かれた端末が鳴りコリニー提督は鬱陶しげにそれを取り受話器を耳元に当てたそして次の瞬間彼の眉間は驚きによって見開かれた。
「何!?間違い無いのかそれは…よし、詳細が分かったらすぐワシに報告しろ」
唯ならぬ様子に、ジャミトフも思わず座っていたソファから腰を浮かした。
「提督、一体何があったので?」
「ジャミトフ…貴様の読みはハズレたな。MIP社の社長が当局に出頭した、これで事件の捜査は全て終わりだそうだ」
一体全体何が起きたのか?ジャミトフもコリニーもそして共和国の誰しもが思いも寄らなかった幕引きに、その裏では何があったのかを知るために時は少し遡らなければならない。
さて事件から少し間を置き、共和国軍開発局局長ジョン・コーウェンの執務室には彼と秘書のレーチェル中尉、そして1人の人物が訪ねてきていた。
「コーウェン閣下におかれましてはこの度の件、誠に申し訳ございません。何卒お詫びの品としてこれをお納め下さい」
スーツ姿の男が腰を直角90度に曲げて両手でアタッシュケースを差し出しその中身を見せた、中は黄金に輝く金のインゴットがぎっしりと詰められており、黄金の光の反射で部屋の一部が明るくなった程だ。
額にすれば途方もない価値を持つそれを、しかしコーウェン准将はケースを受け取ろうとせず寧ろつまらないモノを見るかのような態度をとった。
「君何か勘違いをしてはいないか?」
「は?」
普段とは違うコーウェン准将の様子に思わずそんな間抜けな声を出してしまうスーツ姿の男、アナハイムから使わされた役員は想定とは違う風向きに暫し呆然とする。
コーウェン准将はまるで何もわかっていないアナハイムの役員に、呆れ半分に聞き分けの悪い子供に言い聞かせるかの様な口調で言った。
「いいかね、我が共和国は
「しかしだ、それが先の一件で傷がついた。当然本土コロニーの人心は動揺し本土防衛艦隊を預かるジーン・コリニー提督の怒り心頭ぶりは目に浮かぶだろう」
一旦そこで言葉を切り、トドメを刺すように「なれば提督は麾下の全部隊をあげてでも躍起になって犯人の捜索に全力を傾けてくる」そこまで言い切ってコーウェン准将は改めてアナハイムの役員を見つめる。
ことここに来て漸く自体の重さを認識したのか、スーツ姿の役員は見る間に動揺し息を激しく動転させ体はガクガクと揺れていた。
アナハイムとしては今回の一件も昵懇の仲であるコーウェン准将を頼り、何とかしてもらう魂胆であったのである。
しかし事態は彼らの予想を遥かに上回るほど大きくなり、密かに全国で非常線が貼られ彼方此方の港では検問や臨検が急増し哨戒艇の数は3倍に増加して正に厳戒態勢そのものであった。
市内では私服姿の政治将校や秘密警察が嗅ぎ回り、怪しいものは逮捕状無しで拘束され何処かへと連れていかれ、共和国議会や軍では連日事態の究明向けた捜査が行われており何れは自分達に辿り着くことは必然であり最悪スパイ容疑で処刑も有り得たのである。
「まあ、私としても今回の一件で長年に渡って築き上げてきたアナハイム社との関係をご破産にするつもりはない。現にこうして証拠は“私の”手の中にあるのだから」
“私の”部分を強調してコーウェン准将はアナハイム社員達が持ち込んだスパイの証拠品を目の前に置いた、あのまま彼らがコロニーから持ち去っていたならばいずれこれらの物も見つかってしまった筈だ。
そう言った点ではあの時コーウェン准将の手元に渡ったのは不幸中の幸いと今は言えるのかもしれない、しかしそれは同時に准将の胸先三寸でアナハイムと共和国の関係が決まってしまう事をも意味している。
「さて、交渉を始めようじゃないか」
和かに何でもない風に言ってのける准将、無論交渉相手は目の前の役員にではなく月のグラナダにいるメラニー・ヒュー・カーバイン会長に対してであった。
対する役員は正に不幸のドン底と言った有り様であったが最も彼の不幸はここで終わらない、この後には事件のあらましと“交渉”の結果を伝えにグラナダのメラニー会長の元にメッセンジャーとして赴かなければならなかったのである。
その時には当然、彼ら共和国支社が事件を独断で起こした事も伝えなければならなかった、結果彼を含め共和国のアナハイム支社に詰める役員達がその後どの様な運命を迎えるかについては、それ程豊かな想像力を必要とはしなかった。
改めて此処で事件のあらましを説明しなければならない、事の発端はグラナダのアナハイムから派遣された共和国本土の支社が画策した策謀であった。
グラナダより派遣された彼ら支社は当初コーウェン准将や議会や軍高官への工作で彼等を取り入り新参企業ながら大量の受注を取り付ける事に成功し、ついで軍の開発局への協力という形をとって共和国本土企業への有形無形の干渉を行なってきたのである。
それは結果として共和国企業から多くの技術者がアナハイムの干渉を嫌って地球へと降り、現地で様々な兵器や技術を開発するという副産物を産むことになったがそれだけ反発が強い証拠であった。
戦争が長引くことで半ば共和国の軍需産業はアナハイムに取り込まれつつありそれはグラナダのメラニー会長の意に沿うものであったが、しかし支社の役員達はそれだけに満足せず慢心と増長の結果共和国の産業そのものをアナハイムに吸収せんと企てたのである。
共和国から大量の受注を得る事に成功し業績を上げた支社だが、彼らはこれが戦時特需の結果であると理解しており戦争が終われば支社や業務の縮小は目に見えていた。
そうなる前にグラナダ本社に戻り確固たる地位を得なければ彼らにその先の出世の道はない、つまりアナハイム社内の出世競争の為に共和国企業を犠牲にしようとしたのである。
MIP社が狙われたのは単に都合が良かっただけであり新兵器お披露目に乗じて起こした事件の本当の目的は、技術だけでなくMIP社の隠し株式、隠し資産、公表できない裏表の顧客名簿更に軍や政府高官宛の賄賂とその帳簿の数々など、これだけの材料を揃える事でアナハイムへの吸収に応じさせその成果を持って本社のポストを買おうとしたのだ。
無論実際の買収に当たっては様々な障害があったが、兵器開発局をはじめ既に共和国中に相当数張り巡らされたアナハイムの影響力があれば、例え戦時であっても可能であると彼らは計算したのである、そう全てが彼らの思惑通りに運べばだが…。
コーウェン准将とてこれらの事情を最初から全て把握していた訳ではない、後になって分かった事も多いがしかし彼はアナハイム支社が何らかの策を進めている事を知り逆にそれを利用する事にしたのだ。
事が起きる前から既に秘密裏に各所への根回しや策の準備を整えており、全てのお膳立てを仕立てあたかも舞台のアナハイムは主役の様に見せかけた、その実全ては彼の掌の上であったにも関わらず。
こうして役者は揃い舞台の幕は上がった、その後多少のアドリブは効かせたがこれに比べれば陰謀家気取りの情報屋風情の工作も児戯にも等しい。
さて結果としてコーウェン准将がアナハイムに何を要求し、彼が何を得たのか。
交渉(脅迫とも言う)の結果、全てを失うか全てを諦めるかの岐路に立たされたメラニー会長は事件後アナハイム社の共和国支社の人事を刷新し役員の殆どが交代され、またその事業規模も縮小し事実上共和国経済の独占を諦めることとなる。
代わりに裏取引でアナハイムとの繋がりはジョン・コーウェン准将1人に一本化されることとなり、操り人形にしようとした准将と以降益々両者の関係は深まることとなった。
アナハイムの事業縮小により各社に派遣された社員達もグラナダ本社へと呼び戻され、枷が外れた事で共和国内企業はそれまで地球に出向させていた技術者や社員達を呼び戻し始める。
常々ジョン・コーウェン准将が主張する実戦の埃を被ることで、錬磨され経験を積んだ若手技術者達が本国に持ち帰った様々な知見や実験データ並びに試作機などはその後の共和国全体の技術水準を大きく向上させたのだった。
おりしも地球での戦局が急変し掛かった時期であり、前途有望な彼等を戦火に巻き込まれる前に宇宙に呼び戻す事が出来たのが、その後の共和国にとっても幸いであったのである。
MIP社についてはMAビグロの採用と大量受注並びにMSの下請け業務からの解放を引き換えに社長自らを当局に出頭させ、全ては自社製品を売り込む為の独断と暴走の結果であり全ての罪を認める事で事件の幕引きとしたのである。
この一件で一番割りを食ったのは本土防衛艦隊のジーン・コリにー提督とその派閥であり、何よりもコーウェン准将と衝突する事の多い提督の後ろ盾を受けるジャミトフ・ハイマンはこれより先暫くの間派閥の立て直しに奔走することとなる。
労せずして敵対派閥の勢力を減じその動きを封じつつ、自らの利益と国益の最大化を図る実にお手本のような共和国的仕草であった。
結果的にコーウェン准将の策謀により共和国の将来的な技術力の向上と月企業による経済支配の意図を挫き、ついでに敵対派閥への嫌がらせも行う彼もまた立派な
総評:いつもの内輪揉め