機動戦士ガンダムSEED・ハイザック戦記   作:rahotu

96 / 133
今回短め、最後にお知らせあり。


第17話

『B号』作戦

 

時にC.E.(コズミック・イラ)71 共和国の内外共に様々な出来事に彩られた4月も終わる頃、共和国軍中で密かにある噂が流れ始めていた。

 

曰く、大本営は近々大規模な作戦に出ると言う噂話がまことしやかに軍や政府の高官また一部の財界人の間で囁かれ始めていたのである。

 

先のコンペイトウの戦いに勝利して以降共和国軍はティアンム大将のもと軍組織を大幅に再編成し、従来の防衛重視鎮台的なものから外征を重視した艦隊編成を行っていた。

 

連合艦隊の名称は従来の宇宙要塞とその駐留艦隊間の垣根を消し、両者を合一し柔軟性と機動力に富む運用を目的としたものであり一個艦隊当たりの戦力は連合軍のそれを凌駕している。

 

現在共和国軍には編成途中も含めて6個連合艦隊が存在する、その内訳は以下の通りであった。

 

第一連合艦隊…指揮官は宇宙艦隊司令長官を兼任するマクファティ・ティアンム大将

 

第二“親衛”連合艦隊…宇宙要塞コンペイトウ基地司令も兼ねるグリーン・ワイアット中将

 

第三連合艦隊…宇宙要塞ルナツー司令兼提督ヴォルフガング・ワッケイン中将

 

第四連合艦隊…共和国本土防衛艦隊司令ジーン・コリニー中将

 

第五連合艦隊…宇宙要塞ゼダンの門駐留艦隊と訓練を完了した新兵との混成艦隊 

 

第六連合艦隊…*1外宇宙艦隊とコロニーパトロール艦隊との混成艦隊

 

この他に第七、第八連合艦隊が編成中でありこれに後方支援を行う輸送艦や補給艦、病院船等の補助部隊も加わり総兵力はのべ1000万人を数える。

 

建国以来の大戦争に国民は我もと各地のコロニーに設けられた志願センターへと押しかけ、その事務能力をパンクさせ新たに100ヶ所以上も施設を新設しなければ対応が追いつかない程であった。

 

また国内民間企業も政府の要望に良く応え、積極的な投資による生産力の向上によって兵器や軍需物資が次々と工業コロニーから吐きだされていく。

 

最も大きいのはやはり月のグラナダが全面的に戦争に協力した事であり、月面都市とアナハイム社の膨大な製造能力は今や戦争遂行に欠かす事が出来ない程であった。

 

が一番大きいのはやはり長年に渡り蓄積し鬱屈したスペースノイド達の怒りと、地球のアースノイドとプラントのコーディネイターに対する強い敵愾心であろう。

 

アースノイド達の長年の搾取と軍事的圧迫と同じくらい、プラントのコーディネイター達に対する感情もコンペイトウの戦い以降急成長し前者と同じくらいにまで巨大となっていた。

 

ここで大本営はよくある独裁者や扇動家のような「立てよ、国民」と言った類の扇動演説はしなかったし、またその必要性もなかったのである。

 

ただ一度得た復讐の機会を、スペースノイド達は次の時が来るまで待ってはいられなかったのだ。

 

そして今まさに気は熟しつつあった、上記の客観的事実の部分だけから言っても大本営が育ててきた軍の実力を発揮させる機会を狙っているのは容易に想像できた。

 

だが問題なのはそれがいつ何処で誰を相手にするかと言う事である、今現在共和国が交戦している勢力は宇宙と地球の2つに存在する。

 

1つは地球の連合軍である、戦前からの共和国最大の仮想敵国であり現在は劣勢で多くの犠牲を出しながらも広大な母なる地球の大地によって立ち国力戦力共に依然として地球圏のトップに君臨していた。

 

もう1つはその連合と開戦し今や共和国の宿敵とまでなった宇宙のプラントである、史上初のMSを実戦に投入し大戦果を上げたのを筆頭に優れた技術とコーディネイターの高い能力によって数と国力に勝る相手にここまで戦況を優勢に進めてきている。

 

どちらも一筋縄ではいかない相手であり、現在宇宙と地球の戦局から言ってもプラントは新議長パトリック・ザラのもと連合軍への最終攻勢オペレーション・スピットブレイクを進めており、連合軍もまたこれを察知し地球に残されたパナマのマスドライバーを守るべく戦力を集結させていた。

 

漁夫の利を狙う共和国がまず狙うのなら、先のコンペイトウの戦い以来因縁の強いプラントその軍事組織であるザフトが守る宇宙要塞ボアズがその標的となる公算が大きいと大多数の意見は占めていたのである。

 

と言うのも政府や財界人或いは軍事アナリストや諜報員といった人種がそう考えるに足る推論があった、先のコンペイトウの戦いで敗北したザフトは上記のオペレーション・スピットブレイクによって敗戦の記憶を払拭すべく地球軌道上に艦隊を集結させ連合軍と決戦に臨もうとしており、結果的に宇宙要塞ボアズの戦力は低下していた。

 

地球とプラントコロニーの丁度中間地点に位置するボアズ要塞は、もとは東アジア共和国がL(ラグランジュ)4のコロニー建設用に持ち込んだ資源衛星「新星」をザフトが奪取し、その後現在のL5宙域に移動されプラント本国を守る要塞として改装されたのである。

 

同要塞はこれまで幾度となく奪還を試みてきた連合軍を跳ね除けてきたがその戦力が低下している今、まさに絶好の攻め時に思われたのだ。

 

事実このボアズの事を指していると思わしき謎の『B号』なる符牒が軍部内で流れており、益々その予想を強めた。

 

大本営はこれについて以前沈黙を保ったままであるが、しかしその大本営が突如として大規模な演習を宇宙要塞ゼダンの門宙域で始めると宣言した事でその予想は今や確信へと変わりつつあったのである。

 

 

 

 

 

共和国本土から離れた宙域にて、共和国軍は連日演習に励んでいた。

 

艦列を揃えたアレキサンドリア級重巡洋艦が実戦形式に則って艦隊機動を行い標的艦に向かってビーム砲を一斉射し、その間を編隊を組んだMSハイザックや配備されたばかりのMAビグロが本物の襲撃さながらに飛び交い護衛のサラミスと実戦さながらの防空訓練を行なっていく。

 

演習に参加する艦隊を部隊単位で分けての即時展開訓練に配置移動や補給艦から直接物資を補充する訓練、損傷したMSを戦場で応急修理したり、負傷者を後送する際の手順の確認、参謀達による机上演習シミュレーションや物資集積所の選定と武装や装備の点検や整備など様々な訓練が同時並行して進められていたのだ。

 

正に実戦さながらの猛訓練が行われ、演習の最後の週には共和国軍初代宇宙艦隊司令長官であるマクファティ・ティアンム大将自らが査閲総監として加わるとさらにその激しさを増していった。

 

参加した総艦艇数は200隻以上を数える共和国軍結成以来最大規模の大規模演習が行われ、赤軍と青軍に分かれ実弾も交えた危険な訓練はこの日だけで100名以上もの死者を出しまたこれに前後して事故も起きたのである。

 

有名なのは参謀本部の若手が実戦の空気を肌で感じさせるため20名ばかり乗り込んだスペースボートが演習宙域に迷い込み、結果無灯火航行訓練中の軍艦と接触し全員死亡するという事故が起こった。

 

犠牲者の名簿の中には若手ホープのスプーン准将の名もあり演習は一時中断されるかに思われたが、将兵の士気は事件後も旺盛のままであり事故調査や鎮魂もそこそこに演習は最後まで断行されたのである。

 

この時参加した主だった部隊にはティアンム提督麾下の第一連合艦隊やルナツーの第三連合艦隊から半個艦隊、コンペイトウからの一部部隊と何よりも本土防衛艦隊からの参加した部隊の気迫は鬼気迫るものであった。

 

先日の共和国本土での事件はまだ将兵の記憶に新しく、長らく共和国最大最強の威名に胡座をかいてきた本土防衛艦隊の将兵のプライドとその司令官であるジーン・コロニー提督の権勢をいたく傷つけ、参加した彼等は自身と提督の汚名を返上すべくどの部隊よりも熱心かつ苛烈に演習に取り組んでいったのである。

 

実弾を使ったランダムに動く動体標的への射撃演習でトップの成績をあげ表彰された部隊となったのは本土防衛艦隊所属の兵であり、参加した将兵は愚か査閲したティアンム大将もその兵と部隊の練度に大いに驚きを露わにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

さて共和国軍が大規模な軍事行動を起こそうとしているのは、当然ザフトも連合軍も察知していたしまた共和国も演習を行なってこれを隠そうとは一切しなかった。

 

前者はオペレーション・スピットブレイクに全精力を傾けており共和国への備えは二の次とされた、無論これは少なからずプラント国内でも不安を呼んだが宇宙要塞ボアズの鉄壁の守りとザフトが経験してきた要塞攻略の困難さからある程度の籠城は可能と判断されたのである。

 

問題は後者の連合軍もまたザフトに対応するため地球に戦力を集中させねばならず、宇宙での一時的なフリーハンドを共和国軍に与えてしまう事を懸念していた。

 

月の表と裏で直接国土を接して対峙する両者は、ともすれば互いが相手の背後を刺す地理関係にあり最悪地球と宇宙の2正面で戦いを強要される危険性があったのだ。

 

無論連合軍とてプラントと共和国がコンペイトウの戦いのすぐ後で手を結んだとは考えてはおらず、しかし両者による合意のない挟撃の可能性は月の連合軍は考えずにはいられなかったのである。

 

それ故に共和国軍の攻撃目標を知ることは重要であり、万が一にも月の連合軍本部プトレマイオス基地が攻撃されやしないかと日夜諜報合戦が繰り広げられていたのである。

 

結果として連合軍の諜報戦は身を結びとある作戦計画名の入手に成功する、通称『B号』計画の名称を与えられたそれは当初何を指しているのかについて連合軍内でも意見が分かれた。

 

特定の地域や名称か、はたまた何かしらの由来からか『B号』の意味を探るべく更なる調査が行われた結果、月基地の通信員が偶然にもそれを突き止めることに成功する。

 

切っ掛けは些細なものであった、対共和国だけでなくザフトのオペレーション・スピットブレイクも近いため諜報網の目をボアズにも向けていたためそれを察知する事が出来たのだ。

 

その日いつもの様に宇宙要塞ボアズの定時通信を傍受していた通信員は、暗号通信に紛れて『真水が不足している』という内容の通信を入手し、これ自体は何ら変わった所もない日常的な内容であったのだが、それ以降共和国軍が使う『B』の符牒に「真水」という単語が混じるようになったのである。

 

月の連合軍はここで一計を案じて極秘裏に諜報艦を宇宙要塞ボアズ近海へと送り込み、そこであたかもボアズ要塞からプラント本国に向けて定時連絡を行なった風に諜報艦に見せかけそれを敢えて共和国に傍受させた。

 

結果、共和国軍はまんまと偽の通信に食いつきその後、慎重な議論の末に月の連合軍は共和国軍の攻撃目標が宇宙要塞ボアズと確信し、背後からの攻撃の心配が無くなった事で月のグラナダ方面への警戒を弱めることとなる。

 

懸念された地球と宇宙での2正面作戦は回避され連合軍はザフトに集中する事が出来、月の戦力を地球軌道上に派遣する事を可能としこれは偉大な情報戦の勝利として記録されることとなった。

 

 

 

 

 

*1
火星植民地とアステロイドベルト及びコロニー本土間の広大な宙域を守る艦隊




ヒント:マスキロフカ

フンター始めました、探さないで下さい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。