機動戦士ガンダムSEED・ハイザック戦記   作:rahotu

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第18話

C.E.(コズミック・イラ)71年5月8日この日この時より、長らく停滞していた歴史の流れが再び動き出す事となる。

 

プラントが計画した連合軍地球封じ込め作戦こと「オペレーション・ウロボロス」を完遂する為、地球に降下したザフトによって地球と宇宙との架け橋であり重要な橋頭堡となる世界に3基存在するマスドライバーうち2本はザフトの手に落ちていた。

 

残る最後の1基であるマスドライバー「パナマ」を攻略せんと新議長に就任したパトリック・ザラは「オペレーション・スピットブレイク」発動を決定し、対する連合もまたパナマを防衛すべく地球全土から軍をかき集めた全軍の3割に当たる戦力を防衛に当たらせていたのである

 

地球軌道上にはザフト宇宙艦隊に守られた無数の輸送艦とそれに載せられた大気圏突入カプセルが降下ポイントへと配置につき、地上でも各地のザフト拠点から輸送機が飛び立ち潜水艦隊が目標海域へとすでに集結を完了していた。

 

カプセルや輸送機、潜水艦に乗せられたMSに登場するパイロット達の胸の内は、生き盛んに今や時は遅しと高揚し作戦発動の時を待ち連合との最終決戦に臨もうとしていたのである。

 

“パナマを陥とし、連合軍に対し優位な立場で和平を強要する“そのあとは全軍を取って返し共和国に侵攻し戦争の早期集結を図りそうしてプラントとコーディネイターの完全な独立を達成する、だがそれは思わぬ方向から裏切られる事となった。

 

プラントの今や評議会議長となったパトリック・ザラが全軍に向け通信回線を開き作戦の開始を高らかに宣言し、開封された作戦目標それは当然“パナマ“…ではなくアラスカの“JOSG-A“と記載されそれと同時に全軍の全てのコンソールの画面が更新されパナマではなくアラスカの作戦地図が写し出されたのである。

 

当然作戦開始前の突然の目標の変更に多くのザフト将兵は驚く中、しかしパトリック・ザラに近い極一部の指揮官やパイロット達だけには事前に本当の目標が知らされていた為、周囲が混乱する中でも仄暗くほくそ笑み当然その中にはラウ・ル・クルーゼの姿もあった。

 

敵である連合軍や地球の人々は愚かプラント市民さえも次は「パナマ」だと思い込み盛り上がる最中、その味方さえも騙し通し狙う最高の奇襲攻撃を仕掛けるタイミングをパトリック・ザラは演出したのである。

 

パナマを攻略する事で連合軍を地球に封じ込めるのではなく総司令部陥す事で相手に降伏を強い、連合が降伏すれば共和国もまた和平を乞うてくる筈であり、これを持ってコーディネイターとナチュラルとの間に完全な優位をつける完全勝利をこそ彼は望んでいたのだ。

 

彼の思惑通り運べばパトリック・ザラの名は史上最高の評議会議長の名とともに、彼の業績はプラントとコーディネイターにとって不朽のものとなるは筈であった….最も奇襲とは相手に知られていない事が前提条件ということを加味すればだが…。

 

この場合奇襲を受けるはずであった連合軍はとある筋からすでにザフトの本当の目標がパナマではなくアラスカだと察知し、ザフトを罠に掛けるべく壮大な計略を張り巡らせていた。

 

全軍を敢えてパナマに集結させ本部を手薄にする事でアラスカのフィヨルド湾にある核攻撃にすら耐える連合軍最高司令部JOSH-A(ジョシュア)基地そのものとユーラシア連邦、東アジア共和国を主力とする地上軍そして何よりもザフトで名高き足付きことアークエンジェルを囮にし、地下に隠された大量破壊兵器サイクロプスで降下したザフトを一挙に殲滅しようと目論んだのである。

 

完璧な奇襲を敢行したはずのザフトはその実連合軍が仕掛けた罠に自らまんまとはまりこんでしまいその結果がどうどうなったのかは歴史が示す通りである、アラスカに仕掛けられたサイクロプスの起動によりアラスカを守備する連合軍部隊諸共ザフトは作戦に投入した戦力の内実に80%を失い、以後地球での主導権を完全に喪失する事となった。

 

また折悪くラクス・クラインによるフリーダム強奪事件も重なり、プラント国内では旧クライン派の議員達はパトリック等ザラ派議員の情報工作により機密情報を漏洩したとして作戦失敗の全ての責任を負わされた挙句にプラントの裏切り者として公職を追われ、またこの他にもクライン派に属する者や親しかった者或いはその疑いを持たれた者達は軍官民問わず追及の手が伸び粛清される憂き目にあったのである。

 

アラスカ基地攻略に失敗し政治や軍が混乱するプラントに対し、守備達とザフトを諸共吹き飛ばした連合軍上層部は“全てはザフトが開発した新型大量破壊兵器によるものであり、守備隊将兵は最後の一兵まで勇敢に戦った“と嘯き、地球の連合加盟国や中立国に向け連合の正義とプラントの南極条約違反をメディアを通じて盛んに欺瞞された情報を流した。

 

無論甚大な被害を受けたユーラシア連邦や東アジア共和国は唯一被害を免れた大西洋連邦に不快感を示すも、今やサイクロプスの被害を免れ軍事力で完全に主導権を握った大西洋連邦相手には口をつむぐしかなく現状を追認する一方であり、それを良い事にブルーコスモス系のスポークスマン達は有りとあらゆる情報媒体で「ワン・アース」という標語を掲げより一層中立国に対し連合加盟とコーディネイター排斥の圧力を強めて行く。

 

多くの当事者達にとってこの日を切っ掛けに大きく世界は動き始めると感じただろうが、しかしこれすらもこれから先起こる出来事の前ではほんの先ぶれでしかなかったのである…。

 

 

 

 

 

 

月の裏側に位置する巨大コロニー郡、共和国の首都機能が置かれているズムシティにある大本営では先頃行われたザフトによる「オペレーション・スピットブレイク」の発動とその顛末が報告されていた。

 

「では先日のアラスカの件はザフトの新型兵器などでは無く、連合のサイクロプス自爆による自作自演だと言うのだね?」

 

「は、地球軌道上からの観測による地表観測及び地上軍が観測した大気成分及び地震の波形から申しましても月で使用された物と極めて近しいとのデータが出ております。念を入れて爆心地に潜入しての地調査の結果から言いましても、その可能性は非常に高いかと思われます」

 

「並びに仮にザフトにアラスカ基地を一瞬で壊滅させる兵器があったとしても自軍の兵士を巻き込んでまで使用した可能性には甚だ疑問が多く、プラント国内に潜入した“ゾルゲ“からの報告でもまたプラント評議会とザフトの混乱は本物との事です」

 

共和国は唯一のスペースノイドの国家として宇宙の様々な場所に諜報の網を張り巡らせており、ゾルゲは共和国がプラントに潜入させた諜報工作組織の事である。

 

評議会やザフト問わずプラントの様々な場所に浸透した彼等は今まで様々な情報を発信し続けているが、特に先の宇宙要塞コンペイトウ侵攻を事前に察知しまた詳細な侵攻計画や部隊配置などの重要機密を盗み出すなど赫赫たる成果を上げていた。

 

今回もまたプラントの新議長パトリック・ザラが進める「オペレーション・スピットブレイク」の詳細な計画を掴まんと活動していたが、しかし結果としてこの諜報作戦は失敗に終わっている。

 

これは「ゾルゲ」の主な諜報先が前議長のクラインやその派閥に集中しており、ザラ派の秘密主義も相まってパトリック・ザラとそして連合にまんまと出し抜かれたのだが依然としてその重要性には変わりない。

 

報告を聞いていた大本営の大会議室に居並ぶ政府軍高官達は一先ずプラントの新型兵器の線が消えた事に安堵する反面、それ以降の報告には皆一様に厳しい表情を浮かべる。

 

報告の続きでは連合軍はアラスカの一件以来盛んにプラントの南極条約違反を声高に捲し立て彼等を条約破りの戦争犯罪人無法者国家と主張して憚らず、またこれを受け地球各地のブルーコスモスを筆頭にナチュラルの市民感情は益々対コーディネイター強硬派に傾きつつありまた中立国に対する連合加盟の圧力も日増しに高まっているのが現状であった。

 

が実際には共和国が掴んだ通り全ては連合自身による自作自演の狂言であり、アラスカ自爆後のメディアや各種情報媒体に流された上記の偽情報やフェイクニュースの速度から言っても殆どは大西洋連邦と内部に浸透したブルーコスモス一派が仕掛けたものであったのである。

 

自軍を犠牲にしてまで敵に壊滅的な打撃を与える連合のやり方は彼等の常識から言って常軌を逸しているとしか思えず、しかもその後の厚顔無恥ぷりはどれ程面の皮が厚いのかと蛇蝎揃いの共和国大本営メンバーをして呆れを通り越して感心さえ覚えるほどであった。

 

「肝心なのは明らかにザフトの極秘作戦が連合側に漏れていた事だ。連合の諜報能力は我々が想定する以上に優れているのかもしれない」

 

「それについてはプラントではクライン派からのリークがあったと言うのが公式の見解だそうだが?」

 

「ゾルゲがクライン派から何も掴めていない以上その線は薄い。大方敗戦の責任を負わせて政敵を排除したいだけだろう」

 

「では矢張り連合の手は我々よりも深くプラントに食い込んでいることになる。いやひょっとすると既に共和国にも…」

 

そこで自分が不用意な発言に気付いた政府高官が「はっ」とした表情で慌てて口元に手を当てたが、一度発した不穏な言葉はそれよりも先に集まった高官達の耳に届いてしまっていた。

 

つい先程まで活発な議論が交わされていた大会議室は今や水を打ったかの様にシーンと静まり返り、今や誰しもが隣や向かいの席の相手に疑いの目を向け或いはヒソヒソと声を顰め耳元で誰かと囁きあっている。

 

誰しもが腹に一物を抱え互いに黒い腹の内を探り合うのが共和国の常であるが、それでも自分の近くに売国奴がいるかもしれない或いは自身がそう疑われるかもしれない状況に集まった高官たちは一瞬で疑心暗鬼の檻に囚われたのだ。

 

如何に蛇蝎の巣と恐れられる共和国大本営にあっても国家を裏切ることは重大な背信行為であり裏切り者は決して許されず、その末路は凄惨を極める。

 

嘗て大粛清と呼ばれる出来事が起きた恐怖の時代、共和国国内では密告が横行し国家の裏切り者と目された相手には国内秘密警察と政治将校団による徹底的な調査が行われ本人だけでなくその家族や近親縁者や関係のあった個人、組織或いは行きつけのパン屋の店主だろうと容赦なく粛清の手は伸び、女子供は疎か生まれたばかりの幼子だろうと関係なく収容所送りとなった。

 

収容所に送られた人々がその後どの様な目にあったかについて公的な記録は一切なく、ただ数多くの収監者達が皆一様に“病死“或いは“不慮の事故死“と発表される一方で実際にはその裏で何が行われていたのかについては、一切を語らず口を紡ぐのが当時の共和国国民の間では暗黙の了解であったのである。

 

公式には1000万人近い人々を火星植民地や辺境の資源衛星に追放した事で決着したが実際の犠牲者はこの倍以上にも登るとみられており、多くの共和国国民にとって10年近く経ったとは言え大粛清の記憶は今尚生々しく人々の脳裏に深く刻まれていて今日にあっても大粛清の詳細について衆目の前で語ることはタブー視されていた。

 

ここに居る高官の中には嘗て粛清者のリストに名が上がった者もいれば、昔の上官や同期或いは単に気に入らない相手を密告して現在の地位を得た者もおり、全員が全員両手どころか両足の指をたしても足りない数の人間を収容所送りにしている者達ばかりでそれが故に大粛清の再来を酷く恐れているのである。

 

「諸君、今はそのような“些事“どうでも良いではないか?」

 

恐怖と疑念が渦巻く重苦しい大本営の大会議室にて、そんな空気を微塵も感じさせない場違いな程の朗らかな声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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