「諸君、今はそのような“些事“どうでも良い事ではないか?」
バハロ首相は事の重大さなどまるで問題にしていない様なそして普段とまるで変わらな様子で、衆目に言い聞かせる声色であった。
「我々が今真に議論すべきは差し迫った“B号作戦“であり、いるかいないかのスパイ問題など専門家に任せておけば良いのではないかね」
そうバハロ首相に言われてしまえば件の高官も「不用意な発言をして申し訳ない」と素直に頭を下げる他無く、また大本営の大会議室に集まった他の高官達も「そう言う事もありますな」と乾いた笑いでこの場“は“流す他なかったのである。
最も当のバハロ首相は自身でそう言いながらもその目は一切笑ってはいなかったのは御愛嬌だろう、一先ずこのスパイ疑惑は棚上げになり報告会は本筋へと戻ることになった。
「オホン、え〜では改めて話を進めたいと思います…“B号作戦“につきましては宇宙艦隊司令長官のティアンム大将より説明を願います」
ワザとらしく咳をした進行役の議員に名前を呼ばれたティアンム大将は席から立ち上がり改めて並み居る政府軍の高官等を見渡した後最後にバハロ首相に目を向け、両者は互いに無言の合図を送り視線を戻した大将は改めて周囲に向かって説明を始めた。
「では今現在宇宙要塞ボアズ及び周辺宙域の状況ですが先のコンペイトウの戦いの後、我が方は大凡50隻程の艦隊を差し向け敵を追撃し並びに橋頭堡構築を目指しており…」
ティアンム大将の話を要約すれば以下の通りである。
・ザフトが先頃行った「オペレーション・スピットブレイク」の発動とその失敗により、宇宙地上双方で戦力を疲弊させ宇宙要塞ボアズの戦力は弱体化している事。
・プラント政府は作戦失敗の結果大規模な政治的粛清を行なっており国内が動揺している事。
・共和国軍は現在国内で行なっていた大規模演習を終え新型MSと兵器も受領し連合艦隊は直ぐにでも実戦投入可能な水準にある事。
・現在投入可能な戦力比でザフトを今ならば圧倒できる事。
以上の点を挙げると共に、これらの情報を精査し検討を重ねた共和校軍参謀本部が作成した計画は自軍の数の優位を最大限活かすものであった。
「まず既に派遣した艦隊に追加して先遣艦隊を加えて宇宙要塞ボアズ宙域近海の防衛網を突破、然る後に後続の艦隊と共に要塞を包囲します。当然ザフトはプラント本国から増援部隊を送り込み解囲を試みるでしょうが、それを待ち伏せていた我が連合艦隊が強襲し敵の合流を阻止します」
ティアンム大将が大まかな作戦計画を話し始めると同時に後方に控えていた軍のスタッフが端末を操作して大会議室に設けられた巨大モニターの画面を切り替え、簡易的なボアズ要塞周辺の宇宙図と両軍の配置を示す赤と青のマーカーを動かす。
「増援さえ防げば現有のボアズの戦力では我が方に対抗する事は難しく、作戦開始から大凡2〜3週間程で兵力物資共に限界を来たし同要塞は陥落する見込みです。またこの作戦が成功すれば宇宙要塞ボアズを陥されたプラントは地球への補給を絶たれ、また経済活動に必要な各種資源のみならず食料の輸入さえ覚束無くなるでしょう」
この作戦に参加予定兵力は連合艦隊を含む戦闘艦隊だけでも180隻を数えMSは2500機を越える見込みでこれに要塞に上陸し制圧する為の陸戦部隊、機雷原や障害物除去を担当する工兵部隊と本国との通信を確保する連絡部隊、これらを支える補給艦を含む後方支援部隊や医療艦などの非戦闘員を含めれば総兵力は80万に迫る程であった。
これ程の戦力が揃うのはコンペイトウの戦い以来であり、共和国軍の本気具合が窺い知れる。
説明を聞き終えた高官達は共和国建国以来の壮挙に内心高揚する中、その後は幾つか上がった疑問点や質問にティアンム大将と代わった参謀本部のスタッフが答える形で進んでいく。
会議が終わると重い大会議室の扉が開き退出する政府高官や一部軍人の足取りは軽いものであったが、しかしティアンム大将やバハロ首相を始めとする軍と政府の更に立場の高い人間だけはそのまま会議室に残ったままである。
暫し時間を置いてから再び大会議室の重い扉が閉まり静まり返った空気の中、空いた席に次々とホログラムの人間が浮かび上がっていく。
“親衛“の名を冠する第二連合艦隊提督にして宇宙要塞コンペイトウに居るはずのグリーン・ワイアット中将に同じく宇宙要塞ルナツーのヴォルフガング・ワッケイン提督、現在共和国軍大演習に参加しているはずのジーン・コリニー提督とその懐刀ジャミトフ・ハイマン准将、共和国軍開発局局長のジョン・コーウェン准将、グラナダ防衛軍司令ウォルター・カーティス少将などの錚々たる将官達に、政府からはグラナダに向かう途中の政府専用高速船に乗っているゾロモフ外相やこの他本来なら今日この日この場に居ないはずの人間達が一堂に会し集結していた。
トリックのタネは実に簡単なものであり、月の影にあるお陰で
バハロ首相もまた改めて大会議室に残った生身とホログラムのメンバーの顔を一人一人見て、ここに居るべき者がいて居るべきで無い者がいない事を確認すると改めてティアンム大将に向かって言った。
「ではティアンム大将、改めて説明願おうか」
そう言われて改めて席から立ち上がったティアンム大将は極小数の生身と多数のホログラムの人間に見つめられながら自ら大会議室のモニターを操作し、先程までの簡易的な宇宙図とは全く異なる詳細な宇宙図とボアズとは別の宙域を映し出す。
「これより“B号“作戦、その本来の計画をここに開示する」
ティアンム大将の背後に映し出された作戦の本当の目標、それは長い人類の歴史にあって常に人々の営みを見守り続けまた今日において地球に次いで戦略上最重要となる天体…。
“月“であった。