機動戦士ガンダムSEED・ハイザック戦記   作:rahotu

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第20話

陽動

 

C.E.71年5月11日、宇宙要塞ボアズ近海に集結した共和国軍はキリング・J・ダニガン提督指揮の元、100隻を超える大艦隊を持ってザフト防衛線に攻め寄せた。

 

戦列を組んだアレキサンドリア級が搭載する主砲の一斉射によって、幾筋ものビームが防衛線に突き刺さっては、極小規模な太陽が連続して発生しては虚空に消えてゆき、獲物を待ち望んでいた高速対艦ミサイルが次々と発射口から解き放たれると、暗黒の宇宙に不幸な獲物を探し求め、推進剤の光跡を描く。

 

コロンブス級改装空母からは、腹に巨大な対艦ミサイルを抱えたMAガトルやパブリクが発艦し、迎撃に出ようとローラシア級やナスカ級から、発艦しようとしたザフトMSは一瞬のタッチの差で母艦ごと、ミサイルの爆炎に包まれた。

 

艦隊の攻撃によって開いた防衛線の穴に、アレキサンドリア級やサラミス級のカタパルトから出撃したハイザックの大軍が殺到し、迎撃に出ようとしたザフトの戦艦やMS隊を、津波の如く飲み込んでいく。

 

今までの唯闇雲に突撃するのとは違い、ダニガン提督の巧みな手腕のもと戦線を絞り戦力を集中させた共和国軍は、狭い宙域に重砲を並べ圧倒的な火力支援を受けながら前線を続け、バストライナー砲やスキウレ、メガランチャーの猛砲爆撃を受けた防衛部隊は大混乱に陥り各所で寸断される。

 

その中で、何とか組織だった抵抗を続けているハインツ・ホト・マシュタイン率いるボアズの防衛部隊もまた、共和国軍の勢いの前に押されてジリジリと後退を続けていた。

 

得意の機動防御戦術、バックハンドブローとも呼ばれる高速打撃力のある部隊で、侵攻してきた敵部隊の側面を攻撃し撤退に追い込む戦法で、これまで幾度となく共和国軍に煮湯を飲ませて来た歴戦の彼等をして、今日の敵の勢いは凄まじくただ押されるほか無かったのである。

 

と言うのも、共和国はこれまで幾度となく敗退を続けてきた原因を研究し、特にマシュタインと麾下の部隊の戦術を徹底的に分析しその対策を練ってきていた。

 

ダニガン提督が出した答えの一つが、今の様に徹底的な砲撃と爆撃で敵の機動そのものを阻害し、相手に機動防御戦術を取らせる暇を与えないと言うものであり、それは上手く嵌っていたのであった。

 

「火力を集中せよ、敵に反撃する隙を一切与えずに擦り潰せ」

 

ダニガン提督の指示に呼応する様に、ビームやミサイルの嵐が吹き荒び、その度にザフトの防衛線には穴が空いていく。

 

防衛部隊の旗艦ローラシア級アドラー号の艦橋を掠めるように、ビームが通り過ぎると衝撃と共に閃光が艦橋を白く染め上げ、指揮官席に座っていたマシュタイン隊長の、苦々しげに浮かべた表情の影を映し出す。

 

これまで、マシュタイン等ボアズ防衛部隊は少ない資材と人員から可能な限りの防衛線の強化に務めて来ており、彼等は時間が許す限りにおいて、機雷原の敷設や障害物の設置に迎撃衛星を配置するなど打てる手や対策を行い、三重の防衛ラインを今日までに何とか構築する事に成功していた。

 

しかし、共和国軍が先端を開いてから凡そ30分程度で防衛線の一番外側に位置するラインは、完全に突破され続く第2第3のラインにも、敵が殺到して来ていたのである。

 

「ボアズは何と言って来ている!?」

 

「は、はい変わらず『戦力保持を優先しつつ各個に敵を迎撃し戦線を維持せよ』です」

 

オペレーターに何度も確認を取って変わらないその内容に、マシュタインは思わず呻き声を漏らしそうになった。

 

つまり、ボアズ司令部からは矛盾した命令が届いているのだ。

 

戦力の保持を優先するのならば、尻尾を巻いて要塞まで逃げればいい、しかし、敵の侵攻を抑えろというのならば、現有の戦力でそれを行うことは極めて困難であった。

 

せめて、増援の一つでも来れば話は違ったのだが、ボアズ要塞からは一向にその気配がなかったのである。

 

(増援がなければ、防衛線を維持するのは難しい。今いる敵を押し返すには、ボアズの全艦隊を持って当たるしかない事など、司令部も分かりきっている事だろうに…。それとも、何かしらの理由で、ボアズから艦隊を動かせない理由でもあるのか?)

 

マシュタインは防衛線の維持に全力を傾けつつ、脳の一部の思考を割いてそう考えたが、それは一部で当たっていた。

 

一部と言ったのは、これがボアズ要塞司令部の判断では無くその上の、プラント本国からの指示であり、連合軍が共和国のボアズ侵攻を察知したように、ザフト上層部も共和国軍のボアズ侵攻を予見し、またその詳細な作戦計画まで掴んでいたのである。

 

「オペレーション・スピットブレイク」の失敗で後がなくなったザフトは、残る地上戦力の総力を上げてマスドライバー「パナマ」を陥す準備を進めており、その為の、秘密兵器輸送と護衛に宇宙艦隊の戦力を温存する必要性があった。

 

その為、迂闊にボアズ要塞の艦隊を動かすわけにはいかず、これ等の艦隊には待機を命じる一方で、周辺宙域には、強行偵察機を飛ばして敵本隊の位置を特定し、先制攻撃を仕掛けてこれを排除しようと目論んだのである。

 

これ等の戦略構想をザフトが得るに当たって、幾つかの情報は、実は連合がプラントと共和国を互いに争わせようと敢えて漏らした情報もあったが、作戦の詳細については、プラント国内に共和国が構築した諜報組織ゾルゲに潜入させた、二重スパイから齎されたものであった。

 

その為、先の「オペレーション・スピットブレイク」では連合の罠にまんまと引っ掛かってしまったプラント上層部は、今度は逆に自分達が罠に嵌める番だと意気込んでいたのである。

 

だが、それすらも共和国が仕掛けた壮大な欺瞞工作の一部だとも気付かずに、彼等はいもしない敵の影を追い続けていたのであったが…。

 

状況は悪くなる一方であったが、まだ挽回不可能では無かった。マシュタインは残存し連絡が取れる他の防衛部隊に、事前に構築された防衛ラインよりも、更に後方に下がる様に指示を出す。

 

現在の防衛ラインが役に立たない以上、現在の持ち場を放棄し残存兵力を結集させ、より後方に新たに防衛ラインを構築し敵を食い止める他なかった。

 

その際、敵敵からの追撃を防ぐため、味方の撤退を支援する必要性があり、その役目はマシュタインと麾下の部隊がやる他なかったのである。

 

「ここが正念場だ、MS部隊にはありったけの装備で出させろ!無事な艦は前に出て、被害を受けた艦は陣形の内側に下がって、支援に専念するのだ」

 

次々と旗艦アドラー号から出撃していくMS隊、そのパイロット達はプラントでは『半端者』『落ちこぼれ』などと言われ蔑まされてきた、ナチュラルとのハーフコーディネイターや遺伝子調整レベルの低い者達であった。

 

当初はジンに乗るのもやっとであった彼等は、マシュタイン指揮下のもとで組織戦の訓練を受け戦歴を重ねた結果、今やザフトでも屈指の練度と連携を誇る部隊へと成長していたのである。

 

戦列を整えたハイザックの大軍が群がる中、2機一組で編隊を組んだジンは片方が敵の大部分の攻撃を引き付けている間に、もう1機が冷静に狙いを定めトリガーを引き絞り、ライフルの砲門から電磁力で加速された砲弾が、高速で発射され味方を追い回していたハイザックの装甲の厚い胸部に命中した。

 

ジンからの攻撃が命中したハイザックは、その場で一回転すると次いで内部から爆発が生じて、虚空に小さな花火を散らせたのである。

 

その後も、ジンの編隊から次々とレールガンが放たれ、その度に共和国MSの大軍に少なくない被害を与えていった。

 

このジンが今しがた一撃でハイザックを葬った武器、これはザフトが開発している次期主力MSその主兵装として、開発が進められていた新兵器「試作88mmレールガン」であった。

 

グラナダの戦いで、初めて共和国のハイザックと遭遇したザフトのMSパイロット達はその性能に驚愕し、特にジンの主兵装たる75mm突撃銃が効かない重装甲と、ジンを一撃で撃破可能な120mmライフルの威力に大きな衝撃を受けたのである。

 

これを受け、ザフトは対ハイザック兵器として装甲貫徹能力に優れるレールガンの開発を進め、それは、アサルトシュラウドに装備されたレールガン「シヴァ」によって、一定の解決を見たはずであった。

 

しかし「シヴァ」は、115mmという大口径で威力と速射力に優れる反面、稼働に必要なエネルギーをアサルトシュラウドの増加装甲内部のバッテリーから得ており、増加装甲をパージすると機体のバッテリーを大きく消耗した。

 

また、手持ち式にした際には命中精度の向上が見込まれたものの、機体とレールガン本体の大きさが仇となって弾倉と干渉し、主兵装化するには弾倉の小型化による装弾数の減少などの問題点を、抱えていたのである。

 

さらに言えば、アサルトシュラウド自体宇宙用の装備として開発された面が強く、当時のザフトの主戦戦が地上であった事も関係し、生産ラインでは地上侵攻用MSが優先された結果、アサルトシュラウドそれ自体の生産数も伸びなかったのであった。

 

これを解決する為、ザフト兵器設計局が新たに開発したのが上記の88mmレールガンであり、これは元となったシヴァの115mmから88mmへと口径を小さくすると共に、レールガンそれ自体も小型化し省エネ化を達成、新たに開発された専用カートリッジにより、装弾数を大幅に増やす事に成功しており継戦能力の問題も解決している。

 

威力、射程、装甲貫徹力などでそれまで対ハイザック戦におけるジンの泣きどころであった、全ての面を解決しており、量産配備は確実に思われていた…。

 

しかし、連合軍から奪取した「G兵器」の存在によって全ての歯車が狂ってしまった。

 

特に決定的であったのは、ビーム兵器と実弾を無力化するPS(フェイズシフト)装甲の存在であった。

 

多くのザフトや共和国のMSは、実弾を主兵装としており、これを無力化するPS装甲の存在に、重大な危機感をザフトとプラント上層部は覚えたのである。

 

その為、レールガン開発と次期主力MSへの配備計画は白紙に戻され、連合のMSに対抗するため次期主力MSの設計そのものに、大きく手が加えられ、特にビーム兵器の搭載は不可欠となり、その調整の為、殆ど完成寸前であった次期主力MSの投入、それ自体が大幅に遅延する事となった。

 

計画変更の煽りを喰らったレールガンは、その後実戦配備もされる事なくコンペイトウの戦いにも間に合わず、倉庫の肥やしとなる筈であった。

 

が、マシュタインが何処からかこの話を聞きつけ、実戦での試験運用を名目に半ば強引に、部隊に配備していたのである。

 

本来、実戦配備もされていない試作兵器などどんな不具合が出るか、分からないものであったが、そんな兵器にすら頼らなければならない程、マシュタイン等ボアズ防衛部隊には、戦力が足りておらず、また心配された兵器の不具合や暴発は元の設計が優れていた為、実戦運用しても問題は無いという幸運にも恵まれていた。

 

最も、マシュタイン等前線の指揮官達やパイロット達からすれば(もっと早く配備されていればここまで酷くはなっていなかったのに)、という恨み節の一つも、吐きたい気持ちではあったのである。

 

事実もし仮に、コンペイトウの戦いにこの兵器が大量配備されていれば、歴史は変わっていたと評価する、後世の戦史家は多い。

 

しかし、当時のプラント上層部の判断ミスにより、必要とする兵器が前線に渡る事はなく、一向に完成しない兵器に時間を取られた結果、ザフトの大勢の若者達が無駄に、命を散らす事となったのである。

 

「敵は浮き足立っている、今だゲイツ部隊と共に、デブリミサイルを発射!!」

 

味方MSの勇戦により、津波の如く攻め寄せるハイザックの大軍に僅かに隙間が出来た事を見逃さず、マシュタインは残していた精鋭予備戦力と共に、奥の手を出した。

 

共食い整備や戦闘で機数を大幅に減らし、今では片手で数えるまで減ったザフト次期主力MSの試作の試作であるMSゲイツは、所々ジンやシグーなど別の機体のパーツで補われながらも、最大にして最強の兵器たるビームライフルの銃口をしっかりと敵に向け、破壊的エネルギーを解き放つ。

 

戦線に生じた隙間に、ビームによって楔が打ち込まれる。

 

そこに突入した少数のゲイツによって小さな穴が穿たれ、更に宇宙に漂うデブリに、航行用のロケット推進機を取り付けただけの、粗末で簡易的な作りの質量弾が光の尾を引いて殺到する。

 

防衛ラインを構築する間に、万が一を想定してマシュタインがコツコツと作り溜めておいたそれ等は、敵中央部で炸裂し、周囲に爆発と閃光と共に大小様々なデブリを広範囲に撒き散らした。

 

突然のデブリのシャワーに、さしもの共和国軍も慌て大きくその戦列を乱してしまう。

 

オマケに、幾つかのデブリには機雷や閃光弾も仕込まれており、それらが戦列の中央で炸裂したのだから、堪らない。

 

共和国軍が混乱する中、その間敵の攻撃が緩やかになりその隙を逃すまいと、残りのデブリミサイルを発射すると、その炸裂を見届ける事なくマシュタインは、全部隊に帰還と後方への撤退を命じる。

 

「敵の進軍が、デブリの壁で防がれている内に撤退。負傷した機やパイロットも、残さず収容して後方で構築中の防衛ラインで味方残存兵力と合流する」

 

マシュタインの号令一下、粛々と撤退するザフト防衛部隊、デブリミサイル第2波の迎撃に気を取られていた共和国軍には、それを止める余裕は無く、やっとの思いで共和国軍がデブリの壁を乗り越えた時には、既にその姿は無かった。

 

進撃していた、味方部隊からの報告を聞いたダニガン提督は、敵将マシュタインの手腕を称して「キツネの最後っ屁」、と賛辞と皮肉ともつかない言葉を漏らしたと言う。

 

兎に角、共和国軍の魔の手を何とか逃れる事ができたマシュタイン等防衛部隊は、ボアズ要塞の主砲が届くギリギリの宙域を最終防衛ラインに定め、徹底抗戦の構えを見せていたのである。

 

撒き散らされたデブリを除去し、艦隊を進めた共和国軍は今度はザフト防衛部隊だけでなく、その背後に控える宇宙要塞ボアズとも対峙せねばならなかった。

 

C.E.71年5月11日、ボアズの激闘はまだ始まったばかりに見えた…しかし次に戦いの火の手が上がるのは誰もが全く予想しない場所であったのである…。

 

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