「執事さーん!こっち注文お願いしまーす!」
「おーい、こっちもね!」
「はいただいま!」
準決勝のあと、Aクラスの客足はさらに多くなった。
宣伝の甲斐があったかな。
てか忙しすぎだ。
「久保、三番テーブルにミルクティー二つとシフォンケーキ二つだ」
「承った。そういえば木下さんはどうしたんだい?代表たちもいないようだし」
「ん?そういえばいないな。もう試合は終わってるはずだけど…」
あの三人はうちのクラスじゃトップレベルのかわいさだ。
それ目当てで来る客だっている位なのに。
そう思っていると、ポケットの中の携帯が震えた。
「もしもし?」
『あっ、刹那!』
電話の相手は明久だった。
「おお、どうした明久」
『大変なんだ!えーっと、何から話せばいいんだろ』
「なんだ?何があった」
『と、とにかく今すぐにFクラスに来て!』
明久の声からは焦りが感じられた。
いつものバカ騒ぎじゃないな。
「わかった。すぐにいく」
携帯を切り、すぐさま教室を飛び出した。
***
「明久、何があった!?」
Fクラスにつくと、雄二とムッツリーニも一緒だった。
「刹那、来てくれたか」
あの雄二まで珍しく真剣な顔つきだ。
ただ事じゃないな。
「いったいどうしたっていうんだ?」
「単刀直入に言う。うちのウェイトレスが誘拐された。さらに一緒にいた翔子と木下と工藤もさらわれた」
「なに…?」
誘拐だって!?
どうりで戻ってこないわけだ。
「すまん。俺としたことが油断した…。まさかここまでするとは」
「その言い方だと犯人に心当たりがありそうだな?」
「ああ。詳しく話している時間はないが、目星はついている」
「んで?俺を呼んだからにはいくんだろ?」
「もちろんだよ!放っておくわけには行かないでしょ!」
興奮しながら明久が言う。
「そのとおりだ。お前にも助太刀してほしくてな」
「それはいいが、場所はわかっているのか?」
普通は目撃者を探して地道に足取りを追うのがセオリーだが、今はそんな悠長なことをしている暇はない。
「それなら心配はない。ムッツリーニ」
「………(すちゃ)」
「これは…?」
ムッツリーニがポケットから機械を取り出した。
ぱっと見ラジオのような機械だが…。
「………盗聴の受信機」
オーケー、何故持っているかはあえて聞かないさ。
「とにかく、これで場所はわかる」
「じゃあ早くいこうよ!」
「おちつけ明久」
今にも駆け出しそうな明久を雄二が制す。
「無闇に飛び込むのはリスクが高い」
「そんなこと言ってる場合じゃないよ!早く助け出さないと…」
「そんなことわかってる。だからいまから人質を無事に助け出す作戦を伝える」
「ただ殴り込むだけだと人質に危害を加えられる可能性がある」
雄二のことだからもう作戦は決まってるんだろうな。
***
『さて、どうする?坂本と吉井を呼び出すんだろ?』
『ああ、そのための人質だからな』
『吉井の方はいいが、坂本は下手に手を出すとまずいぞ。今は聞かないが中学の頃は相当鳴らしていたらしい』
『できれば事を構えたくないが…』
『そうもいかないだろ。依頼は二人を動けなくすることなんだから』
受信機からは誘拐犯らしき連中の声が聞こえる。
後ろの音楽からしてカラオケボックスで間違いないようだ。
にしても、依頼って事は黒幕がいるのか。
雄二の話を聞く限りじゃ、うちの学園の教頭のようだが。
『ちょっと!この縄ほどきなさいよ!』
『あんたたち、こんな事してただで済むとでも思ってるの?』
スピーカーからは島田さんと木下さんの声が聞こえる。
二人とも勝ち気な性格だが、この状況では相手を刺激するだけ、逆効果だ。
『お前ら自分たちの状況がわかってんのか?』
『生意気な女だな。ま、そういう強気な態度をとれるのも今のうちだ』
(あいつら…!)
(おい、おちつけ明久)
明久も必死に耐えている。
『灰皿をお取り替えいたします』
『おう。で、この子たちどーすんの?やっちゃっていいわけ?』
『だったら俺はこっちの子がいいなー』
『お前、相変わらずボーイッシュな女が好きだよな』
『そういうお前こそその黒髪ロングな女がタイプなんじゃね?』
(あいつらぁ!)
(おい待て、明久)
(でも…!)
(待てっつってんだろ!)
雄二は歯を食いしばり、腕をプルプルと震わせていた。
まったく、こいつ等は我慢ができない性格だからな。
『ほらほらこっちきなよー』
『いや、放して!』
と、そこで誘拐犯のひとりが島田さんの腕をつかんだ。
ブチンッ
(あ、おい明久!)
俺と雄二の制止も聞かず、明久は中へ入っていった。
「おじゃましまーす!」
「よ、吉井君?」
「アキ!」
中では聞いてたとおり島田さんが腕を掴まれていた。
「誰だお前?」
すぐ近くにいた男が明久に話しかける。
そして明久が
「それでは失礼して…死に腐れやぁぁっ!」
股間を思いっきり蹴り上げた。
うわー、あれは痛い。
……ちょっと寒気がする位だ。
「ほごあぁぁっ!」
そして男はその場にふさぎ込んだ。
ご愁傷様です……。
「てっ、てめえ!よくもヤスオをおぐぁ!」
男が言い終わる前に、乱入してきた雄二が殴りかかった。
「ったく、少しは頭使いやがれバカ」
「さ、坂本!?」
「じゃあさっきの奴は吉井か!?」
雄二の登場に男たちは動揺し始めた。
これならいけそうだ。
「だが残念だったな。こっちには人質がいるんだ。これ以上暴れたらこの嬢ちゃんたちにひでぇ傷を…」
「………負うのはお前」
ゴインッ
「あがぁっ!」
言い終わる前に男は倒れた。
その後ろには灰皿を振り切ったポーズでムッツリーニが立っていた。
「ムッツリーニ君!」
「………工藤愛子。いま縄をほどく」
「助けに来てくれたんだ♪」
誘拐されたというのに、工藤さんはこんな時でも笑顔だった。
「刹那!ムッツリーニ!みんなを連れて学園に戻ってろ!」
「あいよ」
「………了解」
男たちを殴りながら雄二が指示を出す。
俺とムッツリーニはそれに従い、全員の拘束を解いてからカラオケボックスを出た。
「くはははは!ちょうどストレスがたまってたところだ。お前等全員、生まれてきて事を後悔させてやるぜ!」
後ろから聞こえる悪鬼羅刹な彼は気にしないでおこう。
***
「ふう、とりあえずみんな怪我がないようで何よりだ」
学園に向かう途中、木下さんの様子を見ているが、特に問題はなさそうだ。
工藤さんに至ってはみんなを元気づける側に回っていた。
「そういえば倉木君、喧嘩には参加してなかったね?もしかして戦力外とか♪」
「ひどいな。そうじゃな……っ!?」
「ん?どうかしたの?」
「ムッツリーニ、気付いてたか?」
「………俺も今気づいた」
ムッツリーニも今気づいたって事は、距離を詰めてきてるのか。
まずいな…
「ねえ、どうしかしたの?」
心配そうな顔で木下さんが聞いてくる。
相変わらず鋭いな。
「いや、何でもないよ。ちょっと雄二たちの様子見に行くから先行っててくれないか?(ちらっ)」
「………(こくり)」
俺はムッツリーニとアイコンタクトをして先に行くように伝える。
「ちょっと、倉木君…?」
「すぐ戻るよ。んじゃ」
心配そうな顔をしていた木下さんだが、強引に話を切った。
さてと。俺は俺の仕事を済ませますか。
***
『おい、気付かれてないよな?』
『心配いらねえ。奴らとは30メートルも離れてんだ』
『そして人気のないところで一気に襲いかかる、だったよな?』
『ああ。ん?』
『おい、どうした?』
『いや、奴ら一人少なくないか?』
『そうか?気のせいだろ。それよりさっさとあの嬢ちゃんたちをさらっちまおうぜ!』
「楽しそうな話ですね。私も混ぜてくれませんか?」
『『『っ!?』』』
「おや、どうなさいました?尾行していた人間に後ろをとられて驚きましたか?」
「なんだこいつ?執事…?」
「確か吉井や坂本といたコスプレ野郎だ」
おい。これは趣味じゃないぞ?
「てめえ、尾行に気づいて…」
「ええ。ですから私自らあなた方を始末しに参りました」
俺の言葉に男たちは目を見開いた。
そしてその表情はすぐ嘲笑へと変わった。
「おいこいつ、俺たちに勝てる気でいるぜ?」
「おいおい頭大丈夫か?ただでさえ7対1だぜ?」
7対1ねえ。
確かに無謀だわな。
「数など関係ありません。知っていますか?」
「ああ?何をだ、よ!」
言いながら一人の男が殴りかかってきた。
「執事というのは…」
俺はその拳を回避し、男の後頭部に狙いを合わせ
「お嬢様を守るためなら、鬼にもなれるものなのですよ」
体を反転させ、その遠心力を使い裏拳を放った。
ゴッ
「あがっ…!」
男はそのまま地面へ倒れた。
「さて、と。お次は誰でしょう?」
「こ、このやろ!」
激情した男が一直線に殴りかかってきた。
「ふう。単調な攻撃ですね」
男の繰り出した拳をさらりとかわして、懐へ潜り込む。
「ボディーががら空きですよ?」
ドゴッ
ノーガードの鳩尾へ一撃。
「うぐっ!?がはっ!」
男の肺の中の空気が吐き出され、そのままふさぎ込んだ。
「はい、とどめです。うらぁっ!」
足を高々とあげ、ふさぎ込んだ男めがけて振り下ろした。
かかと落としという。
「これで二人目。さて、どうします?」
これであきらめてくれればいいが、そう上手くは行かないようだ。
「おい!四人がかりでいけ!」
残った五人の中の1人が指示を出す。
それを聞き残りの四人が一斉に襲いかかってきた。
***
ぐしゃ
「はい終了。まったく、ナイフまで持ち出すとは…」
「ひぃっ!ば、ばけもの!」
失礼な。
まあナイフの攻撃を掠り傷だけで済ませて、今現在一人の男を踏みつぶしてるわけだから仕方ないか。
「さて、と。あとはあなただけですね」
「ひっ、ゆ、ゆるしてくれ!」
「はあ?」
「お、俺は命令されて仕方なくやっただけなんだ!それに、これ以上やるならいくら学生相手でも裁判沙汰にするぞ!」
「はあ…。それで脅してるつもりですか?」
「へ…?」
おびえる男にしっかりと聞こえるように近づき、耳元でささやく。
「ルールを破る者にルールを盾にする権利はない。次にこのようなことがあれば、次は殺しますよ…?」
「ひいぃぃ!?」
「ま、今のは私の持論です。これに懲りたらもう悪さはしないことですね」
完全に腰が抜けてしまった男を放置し、文月学園へ戻ることにした。
あーあ、せっかくの執事服がぼろぼろだな。
さすがにナイフはビビった。
致命傷は避けたけど、ナイフ相手に喧嘩したのは初めてかも。
***
「ただいま戻りました」
体がだるいものの、強引に引きずり、Aクラスの教室へと帰ってきた。
どうやら木下さんたちは無事に戻っていたようだ。
ちなみに店内なので一応執事口調のままである。
「おかえり。随分と時間が…って、あんたその怪我っ!?」
「ちょっ!?倉木君大丈夫!?」
「…………血が出てる」
戻って早々木下さんたちの顔が険しくなった。
「ああ、ちょっとした掠り傷です。心配しなくても放っておけば…」
「だめよ!ちゃんと治療しないと!」
怪我自体は何ともないものの、さすがにぼろぼろのまま客前には出れない、と理由を付けられ、木下さんたちに無理矢理裏方へと連れて行かれた。
「で?どうしてこんなに怪我してるのかしら?」
「もしかして、あいつ等の仲間が?」
「…………この傷は刃物で切られた痕」
手当てはしてもらったが、次々と質問責めにあう。
こりゃ説明しなきゃ解放してもらえないな。
俺は事の成り行き、教頭による学園長失墜の計画と、それに対する雄二の作戦を説明した。
「つまり、私は帰り道で襲われたときのために護衛としてついていったのでございます」
「だからって一人で行くことないでしょう?もしそれであんたに何かあったら…」
淡々と話す俺だったが、木下さんは目を伏せ、真剣な顔つきだった。
「いい?今回は助けてもらったわけだし、結果としてみんな無事だったからいいけど、二度とそんな真似しないで」
「は、はい」
あかん、雰囲気に押されてしまった。
だって怖いんだもの、恐いんだもの!
とはいえ、諸々事件は起きたものの、清涼祭一日目は幕を閉じたのであった。
清涼祭も一日目が終わりましたー!
感想お待ちしてまーす