「さーてみなさん盛り上がってますかー!?昨日から始まった試験召喚大会もいよいよ決勝戦を残すのみとなりました!」
実況の開会のアナウンスとともに、会場全体が一気に湧いた。
「では選手の紹介に参りましょう。まずは実力筆頭、その容姿は学園でも随一の人気を誇ります。老若男女問わず見るものすべてを魅了するメイド&執事!Aクラス木下優子&倉木刹那!」
「「「きゃあああああっ!」」」
「「「おおぉー!」」」
「はぁ、随分と目立ってるわね」
「まあまあ、これから決勝戦っていう時にため息なんてついてないで、観客に手でも振ってやれば?」
「あたしがそんなことするとでも?」
ふと観客に笑顔を振りまく木下さんを思い浮かべてみる。
「……うん、ないな」
「その反応は喧嘩を売っているのかしら?」
「自分で言っといて理不尽じゃないか!?」
そんな緊張感の欠片もない会話をしていると、紹介は対戦相手の方へ向かった。
「対するは!Fクラスよりの刺客…その悪事は学園の歴史に名を刻むであろう文月学園きっての悪ガキコンビ!今大会ナンバーワンダークホース、吉井明久&坂本雄二!」
「「「ブーーーーー!」」」
「……(しくしく)」
「おい明久、登場して早々泣くな!こんなのいつものことだろうが!」
「雄二と一緒にしないでよ!僕はこれだけのブーイングを受けて耐えられるほどの精神力は持ち合わせていないんだよ!」
「おーっとどういうことでしょうか?吉井・坂本ペアは何やら言い争っているようですが」
相変わらずだな、あのふたりは。
「おーい明久。さっさと試合はじめるよ!」
「あ、刹那!」
「よう刹那。昨日は世話になったな」
「そりゃお互い様さ。雄二たちのおかげで木下さんたちを助けることができたしね」
「そうね。あたしも二人には感謝してるわ。でも・・・」
「ああ。勝負は別だ、全力で叩きのめしてやるぜ!」
「ふふ、そうこなくちゃな」
こいつらはどんな遊びにも手を抜かないからな。
「それでは試験召喚大会・決勝戦、開始です!!」
・
・
・
「さてと、どうくるかな」
事前に木下さんと考えていた作戦は「先手必勝」
相手が雄二である以上は後手に回れば戦況が厳しくなるだけだと判断した。
そのため点差の優位性を利用して一気にたたみかけようとしたのだが・・・
「くっ!なんて素早い動きなの!?」
明久の相手をしている木下さんだが、攻撃が一向に当たらない。
事前に危惧していたことだが、あいつらに劣るものがある。
それが召喚獣の操作技術だ。
もともと俺と木下さんは操作にまだ慣れていないのだが、さらに明久は学年で一番召喚獣の扱いに慣れている。
そう簡単に俺たちの攻撃が当たるはずがない。
「倉木くん、どうする!?」
「明久が回避に専念したら俺たちの攻撃はまず当たらない。こちらが取れる作戦は限られてくるな・・・二人がかりで明久を先に倒せればいいんだが」
「そのくらいのことは坂本くんなら考えているでしょうね」
「その通りだ。こっちとしては雄二の考えの裏をつかなきゃならない。俺たちの最初の作戦は点数差を利用してのたたみかけだったんだが」
「・・・対して点差が開いてないわね」
そう、それが一番の大誤算だった。
決勝戦の科目は日本史だったのだが、明久と雄二の点数が予想よりもかなり高い。
「おおかた一夜漬けで詰め込んできたんだろう。あいつららしいな」
だが一夜漬けというのならこちらにだって勝機はある。
「で?あたしたちはどうしましょうか?倉木君の腕輪で一気に決めちゃう?」
「いや、科目が日本史だと大した数の武器は出せないし、すぐに点数が尽きてしまうよ。作戦は変えない。木下さんはこのまま明久に攻撃をかけ続けて」
「え?でもそれじゃあ・・・」
「多分攻撃は当たらない。でもそれでも当てようと頑張ってね。それじゃ」
まだ木下さんは納得していないようだったが、そこは俺を信じてくれるようだ。
この作戦、おそらく雄二はこちらが作戦を変えるであろうと予想しているだろう。
だからまずはそこであいつの予想から抜け出す!
「さあて、雄二。覚悟は出来た?」
「おいおい刹那、作戦はこのままか?今のままだとあのバカに攻撃はあたらないとおもうけどな」
「その分だとやっぱ作戦を変えさせることが狙いだったみたいだな」
「・・・」
つまりはそこに勝機がある。
今の明久ならそれはおそらく遠くない。
「雄二も明久も一夜漬けなんだろ?そろそろ疲れてこないか?」
「・・・はぁ、だからお前は敵に回したくないんだよ」
「図星か。あの木下さんの攻撃を避け続けてるんだ、明久の集中力がいつまで続くかな?」
「まあそこは俺にもわからん。俺としても今回は大した策も用意してきてないからな。今日は戦争じゃなく喧嘩をしに来たからな!真っ向勝負だ!」
「雄二にしちゃ珍しいね。その勝負、受けて…っ!?」
言い終わる前に何かが司会を横切った。
「っ!倉木君!」
「えっ?一体何が…」
Aクラス 倉木刹那 0点
「ええええっ!?」
「くくくっ、悪いなあ、刹那」
目の前には邪悪な笑みを浮かべる悪鬼と俺の召喚獣、そしてそれを踏みつける明久の召喚獣が。
「へへ、刹那討ち取ったりー!」
「な、な…」
「なあ刹那、俺がお前に真っ向勝負なんて仕掛けると思うか?」
「だ、だ、騙されたあぁ!」
なんと今俺と雄二が話している間、明久の召喚獣がこちらへ全速力でぶっ飛んできたのだ。
どうやら木下さんの攻撃を受けて吹っ飛ぶ振りをしたらしい。
「お前ら…なんて卑怯な」
「あーあーそんな敗者の戯言なんて聞こえんな」
「くそっ!あー、油断した」
ある程度卑怯なプレイは覚悟していたが、正直悔しすぎる。
あとは木下さんに頑張ってもらうしか…
「あ、あんたたちみたいな卑怯な連中、あたし一人で…って無理っ!二対一なんてやっぱ無理っ!」
Aクラス 木下優子 0点
木下さんが二人に袋叩きにされたあと、無情にも勝負は決した。
「え、えーっと、勝者!吉井・坂本ペア!」
「「「・・・」」」
あまりにもあっけない幕切れに会場もシーンとなる。
だがそれも一瞬のこと。
「「「うおおおおおっ!!」」」
祭り好きの学園とあって、すぐに盛り上がりを取り戻した。
こうして決勝戦も無事に終わりを迎えた。
「み、みなさん!会場に物を投げるのはやめてください!うわっ!実況席の方にまで!」
・・・ま、まあ無事に終わったのだった。
実況は頭にたんこぶを作っていたが気にしちゃダメだね。
・
・
・
「はあ、負けちゃったか」
決勝戦が終わり、試召大会は表彰式へと移った。
負けてしまった俺たちはいる意味もなかったのでAクラスへ帰る途中だ。
「…なんかあまり負けた気がしないんだけど」
「それでも負けは負けさ。あー悔しいな~…ん?あれは…」
あそこでこそこそしてるのは…昨日俺たちを襲った連中か!
「どうかしたの?」
「い、いや。なんでもないよ」
「…本当に?」
とっさにごまかしたが、木下さんは疑いの眼差しでこちらを見ている。
「本当になんでもないって!そーだ!俺はトイレに行ってくるから先に戻ってて!」
何か言いたそうな木下さんを残して、俺は連中が向かった先へ走り出した。
「あ、ちょっ!…はあ、全く。止める間もないんだから…」
置き去りにされた優子は何もできずに棒立ちだ。
「あそこにいたの、昨日の連中よね?」
刹那の向かった方を見て思案する。
「倉木君、無茶だけはしないでね…」
・
・
・
「確かこっちに来たはずだけど…いた!」
連中のあとを追っていくと、奴らはある部屋の前にいた。
「あそこは…学園長室だと?」
そこで昨日の雄二たちの話を思い出す。
(そういや雄二たちが言ってたな。学園長の弱みを握るために教頭が動いてるって。状況から考えて学園長が表彰式で留守のあいだに空き巣にでも入ろうってわけか)
「そうはいかないよっ!」
覚悟を決めて連中のあとから学園長室へと突入を決め込んだ。
「な、なんだ貴様!」
「て、てめえは昨日邪魔した執事!」
「そのとおり!今日も昨日と同じで邪魔させてもらうよ」
「へっ!昨日のようには行かねえ!殺っちまえ!」
ひとりの号令で周りの男たちが一斉に襲いかかってくる。
「悪いけど、今日は最初っから手加減なしでいかせてもらうよ」
・
・
・
「はぁはぁ…これで全員かな?」
「ば、化け物、め」
「ふぅ、さすがに数が多いな。しかも昨日と違って全員武装ってか。ったく、漫画やアニメじゃあるまいし、どこの悪の組織だって話だよ」
床に沈んだ十数人の男たちを見て立ち上がれないことを確認してから壁に寄りかかった。
ひと休憩しているとようやくこの部屋の主が帰ってきた。
ガチャ
「こ、こりゃ一体どういうことさね!?」
「あー、やっとお帰りですか学園長」
ドアの外には驚いた顔をした学園長が。
にしてもアレだな。ひと仕事したあとにこの人の顔を見ると、疲れが倍増するね。
「事情に関しては大体の検討はついてるんでしょう?」
「あ、ああ、まあね。でもあんたがこいつらを?」
「ええ。状況が状況だったもんで。まさか暴力沙汰で処分、だなんてことは言いませんよね?」
「当たり前さね。それよりあんた!体中ボロボロじゃないか!すぐに手当させるさね!」
「いえ、ことを大きくするのは流石に…」
このことは秘密裏に捜査していたはずだ。
証拠も掴まないうちにことを荒立てたら教頭に逃げられる。
「ガキがいっちょ前に心配なんてしてるんじゃないよ!それに欲しかった証拠ならこいつらがいるさね」
「あっ、それもそうですね」
あまりに夢中だったから気づかなかったな。
「だとしても、今は学園祭中ですし…」
「それなら心配はいらないよ」
「え?」
ダダダダダダダダダッ!
不意に廊下から猛烈な足音が聞こえてきた。
「学園長!ご無事ですか!?」
「に、西村先生!?」
あまりに急な来客に腰を抜かすかと思った…
「西村先生、このガキをすぐに保健室まで連れていって手当てしてやんな」
「手当て…倉木!その怪我は…」
「このガキが勝手に西村先生の仕事を横取りしたのさ」
「西村先生の仕事?」
ああ、こいつらの相手は本当は西村先生がする予定だったんだな。
「わかりました。私が責任を持って手当ていたします」
「いやいや、このくらいかすり傷…ってうわっ!」
言い終わる前に担ぎ込まれ、強制的に保健室まで連行された。
「負傷者は治療!」
「…はい」
ここはおとなしく従っておこう。
あーあ、木下さんたちへの言い訳考えておかなきゃな。
・
・
・
「よし、これでいいだろう。にしてもお前は一体どんな鍛え方をしているんだ?あれだけの人数を相手にこの程度で済むとは」
「いやあ、運がよかったんですかねえ」
「まさかそれでごまかされるとでも思っているのか?」
西村先生から疑惑の眼差しが飛んでくる。
「ふっ、まあ今日のところはそういうことにしておいてやるか。この程度とはいっても本来は絶対安静が必要なくらいのけ怪我なんだからな」
「ありがとうございます」
「では俺は後始末があるからもう行くが、頑張れよ」
「はい。って何を頑張れと?」
「ふん、すぐにわかるさ」
そう言って西村先生は保健室から出て行った。
なんだったんだ?
そう疑問に思っていると、西村先生と入れ違いにひとりの生徒が入ってきた。
「げっ…」
「人の顔見てその反応は失礼なんじゃないかしら?く・ら・き・く・ん?」
来客者は木下優子さんでしたー!
「それで?トイレに行ったはずの倉木くんはどうしてこんなことになっているのかしらねえ?」
「え、えーっとそれはですね…か、階段から転げ落ちまして…」
「へえ?階段からねえ…」
気のせいか木下さんの後ろから黒いオーラが出始めてきた。
笑顔なのが余計に怖い。
「あ、あのー」
「なに?」
「怒ってらっしゃいます?」
「も・ち・ろ・んです」
「で、ですよねー」
やばいよやばいよ・・・
早速ごまかしきれなさそうだ。
・
・
・
「はぁ、それで?また無茶したのね?」
「はい…」
怪我人のはずの俺はなぜかベッドの上で正座させられている。
説教ルートを絶賛進行中だ。
「お、俺としてはそこまで無茶じゃないかなーっと思いまして…」
「それだけ全身に怪我してきて、どこが無茶じゃないですって?」
「はい、すみません…」
やば、また地雷ふんじゃったか?
「まったく、昨日念を押したばかりなのに。心配するじゃないの…」
「き、木下さん!?」
さっきまで起こっていたのに打って変わって今度はうるうると目が潤んできた。
「ご、ごめん!本当にごめん!だから泣かないで?」
「べ、別に泣いてなんかないわよ!何言ってるのかしら!とにかく!今日は色々と頑張ってくれたみたいだし、打ち上げにはちゃんと参加しなさいよ!」
「打ち上げって、俺怪我人なんですけど・・・」
「打ち上げは代表の家で盛大にやるみたいだから、じゃあね!」
「ってちょっと!話聞いてます!?」
そんな俺の叫びは木下さんには届かなかったようで、もう保健室を出て行ってしまった。
仕方ないな、痛みは我慢して参加しますか。
じゃなきゃあとが怖いし…
清涼祭編終了~