人間誰しも人生の中で修羅場というものに遭遇する。
動物でもそうだ。
動物の場合は天敵と遭遇した場合がそれにあたるが、それはそのまま死に直結する場合が多い。
それほど修羅場というものは人生の山場であり、漫画やアニメではそれを乗り越えることにより人は強くなっていく。
さて、前置きはここまでにしておこう。
そう、俺は今その修羅場に遭遇していた。
「それで?言い訳は終わりかしら?」
「えっと、その…」
目の前にはうちの代表にも劣らぬ阿修羅顔の木下さん。
うっすら角まで見えてきた。
まずいな、とうとう幻覚まで見えてきやがったぜ。
「はぁ、せっかく釘さしたばっかりなのにね」
「いやあ、俺としてもその気はなかったんだけど、周りに流されたと言いますか…」
まあ久保を焚きつけたのは俺だが。
「まあそのことは今は置いておくとして」
あ、置いていいんだ。
「あんたが言ってた真犯人についてはどうなったのかしら?」
「おっとすっかり忘れてた」
「あ、あんたねえ…」
そういやあいつのことすっかり忘れてたな。
高橋先生のことしか頭になかったし。
だから木下さん、そんなあきれ果てた目で見ないでください。
「説教はあとにしてあげるから、そっちの方を何とかしなさいよ」
「そりゃありがたい」
そのままうやむやになることを期待しておきますか。
「言っておくけどうやむやにしたまま忘れたりはしないわよ?」
エスパーか!
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木下さんに一旦見逃してもらった俺は、明久たちの向かった地下へ続く階段に立っていた。
もちろん木下さんも一緒だ。
すると
「いたた、くっ不覚をとりましたわ」
階段を上ってくる人影が。
背は小さく、髪は縦ロール。
2年Dクラス所属の清水美春であった。
「よお、真犯人さん。はじめまして、になるかな」
「誰ですっ!?」
「そう警戒するなって。まあ仲間じゃないことは確かだが」
足元がふらついているし、大方明久たちに挑んで返り討ちにでもあったかな?
「美春に何の用です!?」
「何の用、か。そりゃお前がしたことの償いをしてもらうためだよ」
「償いですって?美春は何も悪いことなんてしてません!」
あくまでもしらを切るか。
「ほう、じゃあひとつずつ聞いていこう。まず明久の写真を盗撮して脅迫していたことは?」
「あれは豚野郎が私のお姉さまに近寄るからです!私にはお姉さまを守る使命があります!」
「じゃあもう一つ。女子風呂に隠しカメラを仕掛けたのは?」
「それもお姉さまの体をチェックするためのことです!悪いことなんてしてません!」
ふむ。まるで話にならんな。
嘘を言っているわけでも言い訳をしているわけでもない。
「自分が悪いことなんてしていない」と心から思っている顔だ。
「木下さんはどう思う?第三者としての意見を聞きたい」
「そうね…まずそのお姉さまっていうのは?」
「お姉さまはお姉さまです!」
「えっと、Fクラスの島田美波だ。たまにFクラスで姫路さん以外の女子をみかけるだろ?」
小声で「吉井に好意を持っている」ということも付け加えておく。
「そう。その島田さんはあなたのことをどう思っているのかしら?」
「もちろん美春たちは愛し合っています!相思相愛です!」
「そうなの?」
わかってはいるだろうがこちらに確認を取るように見る木下さん。
俺は小さく首を横に振った。
「じゃあ第三者の視点から言わせてもらうけど、清水さんのそれは自分よがり且つ自分勝手な行為。相手のことを思いやらずに自分の考えだけを突き通そうとする、ストーカーといっしょね」
「んなっ!?なんですって!?」
「ふむ。貴重な意見をありがとう」
概ね俺の意見と一致した。
「まず一つ目の脅迫について。そもそも盗撮という行為自体が人として外れた行為だが…」
前置きしておいてムッツリーニの顔が思い浮かぶ。
いや今はとりあえずおいておこう。
彼については俺には手に負えない。
「当の本人である島田さんがそれを望んだか?というかあの子なら自分が近づきたくない相手がいるなら自分で何とかするだろう」
主に肉体言語で。
「お姉さまと美春は相思相愛です!望んでいるに決まってます!」
「決まってます、か。ってことは確証はないわけだな?」
「そ、そんなことはありません!」
この話は当の本人がいない限りわからない。
だらだら話すよりも次へ行こう。
「さらに二つ目。隠しカメラのことだ」
「それが何ですか?」
「お前はその隠しカメラでほかの誰かが疑われると思わなかったのか?今回の件でほかの男子が疑われたわけだが」
「そんなことは知りません!」
「ほお、ダミーまで用意しておいて知りませんでした、ね。これは明らかに確信犯だな。それでもまだ悪いことはしていないと?」
「くっ、そこまで知っていたとは」
流石にそろそろ認めるか。
だがこんなもんじゃ終わらない。
俺の(悪)友達をコケにしておいてただで済むと思うなよ?
「それで、そこまで分かっておいて何しに来たんです?説教だけならもういきます」
「おいおい、最初に言ったろ?お前に償ってもらうために来たって」
お仕置きタイムはここからだ。
「なんですって…?」
「木下さん、今の聞いたよね?この子の自白」
「ええもちろん。しっかりと聞いていたわよ」
「今回の覗き騒動によってこの学年の男子たちは何らかの処罰が下るかもしれん。ならその原因となったお前を教師たちに突き出せば、お前もただじゃすまないよな」
「っ!?」
「まあ処遇については俺たち男子と同じだろう。せいぜい停学くらいだろうが…そのあとのお前はどうなるかな?」
「その、あと…?」
「俺たち男子はそりゃあ覗き犯として女子からは冷たい目で見られるだろう。だがそれは数が数だけに『男子』というひとまとめにされる。それに男子は横のつながりがあるから特に友達が減るわけでもない。だがお前はどうだ?お前の場合は女子である上に行動が行動だ。『清水美春』という個人で見られ、さらには同性である女子からも避けられるだろう。もちろんお前の『お姉さま』にもな。まあ、あと二年間の辛抱だ。せいぜい楽しんでくれ(笑)」
「あ、あ…」
「それが俺の言った『償い』だ。ご理解してもらえたかな?」
そう、これが俺の考えていたおしおき。
物理的に痛めつけてやってもいいんだが、それじゃあ生ぬるい。
それゆえに「孤独」を選択した。
地味なようで慣れていないものにとっては精神的なダメージの大きい「孤独」。
清水美春にとってはどうかな?
「そ、そんな…」
「さらに教師陣からだけじゃなく俺からも独自のルートで学園中に知らせておいてやろう。さらに信憑性が増すからな。いじめだと思うか?違うね。俺はただ事実を伝えるだけだ。嘘偽りなく真実だけを流すと誓おうじゃないか」
自分でもわかるくらい、「実にいい笑顔」を向けながら言う。
昔ある人から聞いた話だが、人は「笑顔」が一番怖いらしい。
「…じゃあ」
「ん?」
「それならっ!ここであなたを殺しますっ!私とお姉さまの仲を引き裂こうとするものは、皆殺しです!」
そう言いながらポケットから何かを取り出しながら、襲いかかってきた。
あれは、スタンガンかな?
「死になさいっ!」
ピリピリと電撃を出しながら襲いかかるスタンガン。
だが遅い。
「あくびが出るほど遅いな」
体を半身にさせながらそのスタンガンを避け…
ドゴッ
「かっ、はっ…!」
がらあきの鳩尾へ拳をいれた。
「女は殴らないとでも思った?」
「ぐふ…」
バタッ
清水美春の意識はそこで途絶え、床に倒れた。
「だ、大丈夫なの…?」
突然の事態に驚愕の顔をしている木下さん。
「大丈夫だよ。まあしばらく眠ってるだろうけどね」
そう言いながら清水さんの持っていたスタンガンを取り上げた。
「うおっ、このスタンガンやっぱり改造されてるか…詳しい知識はわからんがこんなものくらったらひとたまりもないな」
女子高生が持つ護身具としてはちょっとどころではなくやりすぎである。
「まあこの子は放置しておこう。俺はとりあえずこのことを先生に報告しとくよ」
「わかったわ。でもあたしはちょっと心配だから先生が来るまで介抱しておくわね。もちろんスタンガンは隠しておくけど」
「わかった。じゃあ行ってくる」
そのあと駆けつけた高橋女史により、清水美春は職員用の部屋まで連れて行かれ、事情聴取をうけた。
そしてその噂はたちまち学年全体に伝わった。
ちなみに独自のルートとはとあるムッツリ商会であったり。
余談ではあるが、2年男子・全149名が学園長藤堂カヲルの名のもと粛清された。
俺は別に覗いてないんだけどなー…。