バカとAクラスの日常   作:ゴリ霧中

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第三十一話

「状況はどうなっている?」

 

「今の戦力は大体五分五分だな。うちのクラスが6割方削られたが、その代わりにAクラスの戦力を五割削った」

 

「ふっ、上出来だな」

 

体育館の壇上で下位勢力代表・根本は笑う。

 

(状況は予想以上にこちらが有利。まさか代表の霧島がいないだけでここまで楽になるとはな)

 

振り分け試験から対して時間も空いていないこの時期の試召戦争。

普通に考えれば戦力はAクラスが絶対的に有利だ。

だがしかし、状況は互角。

根本とAクラス臨時代表・久保とでは知略や戦略という面で根本に軍配があがった。

 

(最も厄介な霧島は不在で久保は動けず。もうひとりの実力者だった木下優子も戦線を離脱して行方をくらました。優香がうまくやったか)

 

「となるとあとの問題は工藤と…例の倉木か」

 

工藤愛子は保健体育こそ学年でトップクラスの実力だが、他教科では他のAクラスメンバーとあまり差はない。

とは言っても十分高いわけだが、そこは数で押せばどうとでもなる。

 

「倉木に至っては苦手科目もわかっているしな。くくくっこれでAクラスの設備も俺のものだな」

 

さらに言うなら優香との約束も果たせる。

 

自分の勝利を確信して余裕綽々で壇上に座る根本。

 

「そんなに甘くないよ?Aクラスって肩書きは」

 

「「「っ!?」」」

 

突如体育館に現れた人影。

 

その人物に体育館にいたBクラス生徒全員の視線が向く。

 

「お、お前は、倉木かっ!」

 

「よお根本。随分と下衆な作戦使ってくれたじゃないか」

 

「…なに?」

 

「身に覚えくらいあるだろ?さすがの俺もちょっとイラっときたね」

 

「くくくっ、卑怯だと罵るか?汚いと喚くか!だがな、結局は勝ちゃあいいんだ!勝利こそ全てなんだよ。『卑怯・汚いは敗者の戯言』ってなあ!お前らっ全員で囲めっ!」

 

「「「おう!」」」

 

根本の掛け声とともに根本を護衛していた生徒達が刹那の周りを囲む。

逃げ場を無くすように。

 

「残念だったな倉木、ここは俺の護衛用のフィールドだ。来るとしたらお前か工藤あたりと踏んで英語のフィールドを用意させてもらったぜ?ありがたく思えよ」

 

くくくっと意地汚い笑いを浮かべる根本。

 

だが刹那の表情に変化はない。

ここへ入ってきた時と変わらず無表情のままだ。

 

「くくっさすがのお前も観念したか?こんな敵本人に無謀にもたったひとりで乗り込んでくるなんて気でも狂ったか…それとも」

 

根本は口元を歪ませる。

 

「木下を傷つけられてぶち切れた、とか?」

 

「どうだろうな。まあでも俺がキレてるってのは間違ってもないか。でも…」

 

人呼吸おいて言う。

 

「俺が何も用意せずに一人で乗り込んでくるなんて、本気で言ってんのか?《チェンジ》」

 

刹那が右腕につけた腕輪のキーワードを口にした。

そしてその次の瞬間。

 

「な、なんだ?何をした!」

 

「これは!?」

「教科が…」

「フィールドが数学に変わった!?」

 

先程まで臨戦態勢だった護衛兵は事態を把握したようだ。

 

「これがこの腕輪の力さ。召喚フィールドを自分の任意の教科フィールドに変える能力。これでフィールドは俺の得意な数学になっちゃったなー」

 

(ま、タダじゃないけどね)

 

刹那はこめかみ部分を抑えたまま召喚獣を召喚する。

 

数学

 

Bクラス 近衛兵

平均 142点

 

Aクラス 倉木刹那

1000点

 

「くそっ!相変わらずでたらめな点数しやがって!というかそんなチートアイテム聞いたことないぞ!どういうことだ!」

 

「ん?聞きたい?実はね…」

 

~回想~

 

小山と別れた刹那は戦線には戻らず、ある一室に来ていた。

 

「失礼しまーす」

 

ノックのあとその部屋へと入る。

 

「はいよ、ってあんたかい」

 

「相変わらず元気そうですね、学園長」

 

付いた部屋は学園長室。

一部生徒からは妖怪の間と恐れられる部屋だ。

 

「何の用だい。こちとら忙しい身なんだけどねえ」

 

「まあ、それは見ればわかります」

 

デスクの上には大量の資料がのっている。

召喚システムの開発者として多忙な身なのだろう。

 

「それにあんたは今Bクラスと試召戦争中じゃなかったかい?」

 

「そうですね。現在進行形で戦争中ですよ」

 

「じゃあなおのこと何の用さね」

 

「いやあ、学園長に一つお願いがありまして」

 

「お願いだって…?」

 

「ええ。前に学園祭でやった試召召喚大会、あれの景品で明久たちに特殊な腕輪を渡したでしょう?」

 

先日の清涼祭でのイベントの副賞だったはずだ。

 

「確かに渡したさね」

 

「あの腕輪を俺に譲ってもらえないかと思いまして」

 

「なんだって?」

 

学園長の表情が厳しくなる。

そりゃそうか。

 

「今回の試召戦争で使いたいものでして」

 

実際正面からぶつかっても負けるとは思えないが、徹底的に根本を痛めつけるにはピースが足りない。

 

「はぁ、全く近頃のジャリどもはすぐに人に物をたかるさね」

 

頭をポリポリと掻きながらため息混じりに答える学園長。

 

「まああんたには教頭の件で貸しもあることだし、協力できることならしてやるさね」

 

「じゃあ…」

 

「けどねぇ、あのFクラスのジャリどもに渡した腕輪は一定以上の点数を持つ生徒が使うと機能停止…最悪爆発するっていうひどい欠陥ものさね。それをAクラスであるあんたにおいそれと渡すわけにもいかない」

 

「えぇ~…」

 

期待させといてそれですかい。

 

「それじゃしかたな…」

 

「話は最後まで聞くんだね」

 

「へっ?」

 

話しを切り上げて踵を返そうとしたら引き止められた。

どゆこと?

 

「確かにあのジャリどもと同じ腕輪は渡せない。けどあの連中のデータを参考にして作った別の試作品があるのさ。ちょうどそれの性能テストをしてくれる生徒を探そうと思っていたところでね」

 

「新しい腕輪のプロトタイプ…ですか」

 

「そうさね。性能はほかの二つより出力を抑えた『教科フィールドの変更』にすることで、どれだけ高い点数を所持していても効果が発揮するように改良したさね」

 

「おお!それだけでも十分すぎるほど便利じゃないですか!そういうことなら俺が性能テストをしますよ」

 

「けどこの腕輪には二つの欠点があってね…それがまだ改良できてないんだよ」

 

「まだ何かあるんですか…」

 

「聞くだけ聞いてみるんだね。そのあとでテストを受けるかどうかを決めてくれればいいさ」

 

「ふむ…わかりました。それで、その欠点とは?」

 

「一つは効果を発揮できるかわりに、能力の発動中に腕輪から発せられる特殊な波動が脳に干渉してしまうこと。これは発動中に少し強めの頭痛がするのさ」

 

「強めの頭痛ですか…」

 

やだなあ。耐えられるレベルならまだいいか?

 

「頭痛の程度はまだ試した生徒がいないからどの程度かはわからないけど、障害が起きるほどじゃないさね」

 

それならまあ、いいか…?

いや痛いのはいやだけれども。

 

「二つ目の欠点だけどね。それは『フィールド内の召喚獣の物理干渉』を可能にする…つまりはそのフィールドの中の召喚獣が観察処分者や教師用の召喚獣と同じで、物に触れることができ、フィードバックも受けるってことさね」

 

「えっ!?そんなこと起こせるんですか?」

 

「起こせるというよりは起きてしまうってことだね。召喚獣は科学とオカルトの融合体…まだまだあたしたちには全容が理解できてないのさ」

 

「なるほどよくわかりました」

 

一つ目の欠点に関しては程度がわからない以上、我慢するしかないだろうな…。

そして二つ目の欠点は、今回みたいな報復活動にはうってつけじゃないか。

 

「ふう、どうやら気は変わらないみたいだね。ほらっ受け取りな」

 

「おっとっと。ありがとうございます」

 

不意に投げられた腕輪を掴み、腕にはめる。

 

「ちゃんと報告に来るんだよ。報告の分だけ完璧なモノを作るのに役立つんだからね」

 

「了解です。では俺はこれで…」

 

そう言い残し、学園長室をあとにした。

 

~回想終了~

 

「…ってなわけさ。わかった?」

 

「なにぃ!?ってどのみちそりゃ非公式なチートアイテムじゃねえか!」

 

「何を言う、ちゃんと学園長の許可もあるし、れっきとした公認アイテムだよ」

 

そう言いながら手近な近衛兵に対して剣を振る。

 

ザシュ

 

「へっ?…ぎゃあああ!い、いてえええ!」

 

「と、こんなふうに、フィードバックはここに居る全員に適用されるわけだから。痛めつけられたい人はどうぞ?」

 

ここに来て一切表情に変化がなかった刹那が、近衛兵たちにニッコリと微笑む。

 

「「「ひ、ひいいぃっ!」」」

 

次の瞬間、護衛についていた全員が体育館から退避した。

つまり、召喚フィールドから無理やり外へ出たわけだが…

 

「逃亡者も補習っ!」

 

試召戦争のルールでは敵前逃亡も立派な戦死となるので、すぐさま西村先生に捕まる。

まあ補修の方が楽だろうしね。

 

「お、俺の護衛は…」

 

ものの数秒で護衛を失い、呆然とする根本。

てか全員一瞬で逃げたけど、やっぱり人望なかったんだな。

当然だけど。

 

「さて、と。じゃあそろそろ始めようか?ね・も・と・君?」

 

「ま、待て、わかった!負けを認める!俺たちの負けでいい!だからっ…」

 

「やかましい」

 

ブンッ

 

「ああああっ!がっ、あぁ!」

 

根本は既に戦意喪失しているが関係ない。

俺は別に戦いに来たんじゃない。

一方的に嬲りに来たんだから。

 

「ほらっほらっほらっ!」

 

ブンッブンッブンッ

 

「がっ!ぎゃっ!ぐあっ!!」

 

手に持った剣を何回も何回も振り抜く。

根本の召喚獣の点数はとっくにゼロになっていたが、そこは明久にやったように消える隙すら与えない。

 

生き地獄って、こんな感じでいいのかな?

 

 

・

・

・

 

 

「ふう…こんなもんでいいか」

 

根本の意識が途切れるまで、五分ほどであったが、一方的な虐待を続けた。

 

「うっ…さすがにちょっと使いすぎ、かな…」

 

学園長の言っていた欠点、というか副作用の頭痛に苦しむが、とりあえず戦争は終結した。

 

 

 

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