バカとAクラスの日常   作:ゴリ霧中

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第三十二話

Bクラスとの戦争という名の一方的な報復活動はひと波乱あったものの、Aクラスの勝利で幕を閉じた。

下位勢力であるBクラスは教室の設備を落とされたが、それも自業自得だろう。

主に悪いのは根本だけど。

 

「いてて、はあ…確かにこの副作用は欠点だな。早いとこ学園長に直してもらおう」

 

使用した試作品の腕輪の副作用に苦しむものの、なんとか足を引きずりAクラスまで帰還した刹那だったが、そこで一つの異変に気づく。

 

「あれ?いないな…」

 

Aクラス内は戦争勝利の余韻に浸っていたのか、みんな気分上々の雰囲気だ。

 

「やあ、ご苦労だったね倉木君」

 

「そっちもな、久保」

 

今回臨時の代表として指揮を取っていた久保の表情もどこか柔らかい。

 

「いやー、今回はやることが多くて疲れたよー」

 

特に触れてはいなかったが、工藤さんたちの後続部隊もBクラスの囲み作戦に苦しんでいたようだ。

 

「それでもなんとか持ちこたえたんだから十分じゃないかな」

 

「そーゆー倉木くんは一番美味しいところを持っていったよね…」

 

じーっと見つめてくる工藤さんだが、気にせず目的の人物を探す。

だがやはり見つからない。

 

「ねえ、木下さんはどこ?姿が見えないけど…」

 

「優子?あれ、てっきりボクは倉木くんと一緒だと思ってたよ」

 

「僕も戦争開始以降は見ていないな。君と一緒にいたはずだろ?」

 

二人共木下さんの姿は見ていないようだ。

小山さんとの一件もあるし、変に落ち込んでなきゃいいけど…。

 

「ちょっと探しに行ってくるか…」

 

俺は浮き足出すクラスメイト達を横目に、教室をあとにした。

 

 

 

 

「ほかのクラスには行ってないみたいだけど…どこにいるんだ?」

 

あれから同学年の全クラスに聞きに行ったが、めぼしい情報は得られなかった。

 

「ほかに木下さんの行きそうな場所…どこだ…」

 

思考を巡らせるが思いつかない。

一人になれる場所…まさかトイレか!

だとしたら俺が突入するわけにも…

 

「うむ?どうしたのじゃ、刹那?」

 

一人考え事をしていると、目の前に探し人…の双子の弟(妹?)秀吉で姿があった。

 

「おお、秀吉!いいところに来た!」

 

「な、なんじゃ?」

 

「お前の姉さんって一人になりたいときとかどこに行く?」

 

急な質問だがこちらも事情が事情なだけにいろいろな過程はすっとばす。

我ながらだいぶ焦ってるようだ。

 

「何があったかはこの際聞かぬが…姉上の行くところ…よく一人で本を読むときは屋上にいることが多いかの」

 

「屋上…そうか、そういえばまだ探してなかったな」

 

こいつは盲点だった。

あそこなら一日通して人は少ない。

せいぜい昼休みに弁当を食べる人間がいるくらいだ。

 

「ありがとう秀吉!それじゃあまたっ」

 

「うむ、姉上のことは頼んだのじゃ」

 

事情は話していないが、秀吉なりにこちらの意図を察してくれたようだ。

 

そんな秀吉に感謝の思いを抱きながら、階段を駆け上がる。

 

「ここにいなきゃ工藤さんにトイレ探してもらうしかないな…」

 

そんな心配もありながら階段を上りきり、屋上の扉の前に到着。

そのまま勢い任せに扉を開いた。

 

「…やっと見つけた」

 

「へっ…?倉木くん?」

 

そこにいたのは探し人、木下さんだった。

目は少し赤く腫れてる気がするけど、もしかして泣いてたのかな?

 

「こんなところで何してんのさ。みんなが待ってるし、教室もどろう?」

 

「ごめんなさい…ちょっと一人で考えたくて」

 

「さっき小山さんに言われたこと?それなら気にしなくても…」

 

いい、と言おうとするが木下さんは首を横に振る。

 

「そうじゃないの。いや、それも少しあるんだけど、それ以前に自分の気持ちの整理をつけたくて」

 

「気持ちの整理?」

 

「ええ。あっ、あの人に言われたことは気にしてないのよ?倉木君が前に言っていたように、私の趣味は私だけのものだから。他人に何言われても関係ないもの」

 

それが分かっているなら一体何を考えていたんだろう?

 

木下さんが真剣な顔つきでこちらを見つめ、話を続ける。

 

「あたしが考えていたのはね…倉木君、あなたへの気持ち」

 

「俺のことか…って俺!?」

 

あまりに関係性が理解できなく、動揺してしまった。

 

「あたしね、あの小山って人が倉木君のことが好きって聞いて、ものすごく胸がもやもやしたの。うん、これって多分嫉妬だと思うわ」

 

「嫉妬…?」

 

「そう、嫉妬。倉木君と仲良く話していることとか、自分の気持ちに正直なところ。そういうところに嫉妬しちゃったみたい」

 

子供みたいよね、なんてつぶやくが、その表情は真剣そのものだ。

 

「あたしも自分でこの気持ちをさらけ出さないと、倉木君に気づいてもらえないって…そう言う結論に至ったわ。だって倉木君鈍いんだもの」

 

ふふっとようやく少し表情が柔らかくなってきた。

だけど今の俺にはそんなことを気にする余裕がない。

 

「え?えっ??どういうこと?」

 

木下さんの言葉を隅から隅まで理解しようと試みたところ、俺の頭の許容範囲を大きく超えてしまったようだ。

 

「ホントに他人の感情に対しては鈍感なのね。まあそれは今更だからいいわ」

 

俺が鈍感だって?

そんなこと、ない、はず…。

 

「そんな鈍感な倉木君だけど、あたしはこんなに好きになっちゃった。頭の中はさっきからそれでいっぱいよ」

 

「・・・へ?」

 

「ふふっ、なに素っ頓狂な声出してるのよ。もう一度だけ言うわ。あたしは倉木くんのことが好き。あなたで頭の中がいっぱいです」

 

「え、ええええっと、えええっ!?」

 

あまりの事態にこちらの頭は破裂寸前だ。

 

「す、好きっていうと、ああそうか『like』の方ね、友人として好きとかそういう…」

 

「…倉木君?いくらあたしでも怒るわよ?」

 

「あ、はい。ごめんなさい」

 

何故か謝ってしまった。

 

「って言っても倉木くんからしたら急なことだもんね。別に返事が欲しかったわけじゃないの。ただ小山さんみたいな人がほかにいないとも限らないから、あたしの気持ちを伝えておきたかっただけ。本当にそれだけだから…」

 

「…」

 

木下さんの顔は気づけば先程までの沈んていたことは違い、優しい表情になっていた。

それはどことなく強がっているような、そんな印象を受けたのはなぜだろう?

 

「あたしが言いたいのはそれだけよ。それじゃあ教室に戻ろっか」

 

そう言うと木下さんは屋上から校内に向かって歩を進めた。

 

(本当にこのまま何も言わなくていいのか…?)

 

このままさっきの木下さんからの告白をうやむやにしてしまうのは良くない。

非常に宜しくない。

このままでは色んな人から「へたれ」の烙印を押される気がする。

 

(だからって中途半端じゃダメだ。伝えるべきは俺の気持ち…)

 

木下さんはもう扉の前についてしまう。

 

(俺の気持ちか…。はは、そんなの決まってたな)

 

覚悟を決め、木下さんのあとを追う。

いや、この距離なら呼び止めたほうが早い。

 

「待って、木下さん!」

 

ピクっと木下さんの足が止まる。

 

「ずるいな、一方的に自分の話しして、それではい終わりなんて」

 

「そうかしら?あたしとしてはここで呼び止めてもらえなかったら一発ぶん殴ってたところよ」

 

「え…呼び止めてよかったあ~…」

 

「ふふ、冗談よ。それで、なにかしら?」

 

このタイミングで冗談をいう余裕があるのかあなたは。

まあいい。それは今は置いておこう。

 

「木下さんの気持ち、はっきり言って嬉しい。すごく嬉しかった」

 

「…」

 

「だから俺も自分の気持ちを打ち明ける。俺は…」

 

そこまで口に出し、頭が真っ白になりそうなほど緊張してきた。

これまでの人生で味わったことのない緊張。

だがここで引いたら男じゃない。

目の前にいる一人の女の子のためにも、この言葉は言わなくては!

 

「俺は、木下優子のことが一人の女性として好きです!普段の冷静な態度も、動揺した時の照れた可愛さも…そういうのをひっくるめて、全部好きです!俺と付き合ってください!」

 

バッと勢いよく頭を下げ、同時に右手を木下さんに差し出す。

俺の中の告白の代表的なイメージだ。

これ以外にどうしていいかなんてわからない。

 

「…」

 

頭を下げているので木下さんの表情がわからない。

だがいま頭を上げるわけには…

 

スッ

 

頭の中で様々なことを考えて、最終的に思考放棄しようかと思っていたその時。

 

俺の右手に、暖かい感触が。

 

「よろしく…お願いします…」

 

暖かい感触は木下さんの手。

顔を上げると、今度は対称的に木下さんがうつむいていた。

少し見えた顔は、まるでゆでダコのように真っ赤だった。

 

「ああ、よろしく。優子」

 

「っ!!?え、ええ、せせせ刹那、君…」

 

「ははっ、名前呼ぶだけで緊張しすぎ」

 

「し、仕方ないでしょ!男の人を下の名前で呼ぶなんて、初めてなんだから…」

 

未だに赤面のままうつむくしの木下さん。

それ反則。

やばい、可愛すぎる。

 

「と、とりあえず教室に戻ろうか?みんな心配してるかもだし」

 

「そ、そうねっ。もどりましょ…」

 

動揺したままだが、歩き始める木下さんに歩幅を合わせて教室に向かう。

 

だがその時。

いままで気づかなかった人の気配が、屋上の扉の向こうから。

 

(な、なんか嫌な予感が…)

 

そう思ったのも一瞬だけ。

すぐさまその扉をダッシュで開けた。

 

「へえ…覗きとは随分いい趣味じゃないか」

 

「あ、あはは…バレちゃった♪」

 

「さすが倉木君、僕たちの気配に気づいたのか」

 

「…………それにしては遅い」

 

「そりゃあ愛の告白の最中だもん♪気づくのも遅れるって~」

 

そこにいたのはいつものAクラスのメンバー。

てか代表、いつの間に戻ってきたんだ…

 

そしてそれだけじゃない。

この場に招かざる四人の姿もあった。

 

「ははっ!まさか刹那に彼女ができるなんてな!」

 

「………殺したいほど妬ましい(ギラッ)」

 

「あははっ、ムッツリーニったらー。そんなことしたら確実に返り討ちだよ?…今の僕のように」

 

「明久よ、そろそろ謝らんと両腕の関節を外されるだけじゃすまんぞい」

 

Fクラスの悪鬼たち。

まるで蜂が花畑に集まるような光景だ。

 

「お、お前ら…いつからそこに?」

 

明久の関節を外し終えた俺が、恐る恐る聞く。

 

「えっと…」

 

「『待って、木下さん!』からだ」

 

「それ俺の告白の一部始終じゃねえかよおおお!」

 

「………録画は完璧」

 

「待つのじゃムッツリーニ、今そこでそんなものを出せば…」

 

ガシャンッ

 

「…他にカメラはないな?」

 

ムッツリーニの持つビデをカメラを目にも止まらぬ速さで奪い取り、破壊。

この野郎、油断も隙もありゃしねえ。

 

「秀吉、ここを教えたのはお前か?」

 

「そ、そうじゃが刹那?怒っておるかの…?」

 

「はあ…別に俺は怒っちゃいないって。どうせうちの代表が雄二と戻ってきて、報告しようと一緒に俺達を探していたんだろ」

 

「そのとおりじゃ。いやあ刹那は説明する手間がなくて助かるぞい」

 

「おっと、秀吉。忘れてないか?」

 

「な、何がじゃ…?やっぱり怒っておるのか?」

 

「だから怒ってないって…『俺』はな」

 

そう言って親指で後ろにいた優子を指差す。

 

「ひ~で~よ~し~?」

 

「あ、姉上っ!?ま、待つのじゃ姉上、話せば分かるのじゃ!」

 

「うふふ~やっぱり弟の躾って大事よね~」

 

「ほどほどにね、優子」

 

「ええ、わかっているわよ刹那君」

 

「あああ姉上!?その関節はそっちにはまがらなっ!?」

 

「いーえ曲がるのよ?実はこっちにも…(ぽきっ)ほ~ら曲がった」

 

屋上から秀吉の断末魔が響き渡ったが、その場には阿修羅となった優子を止めようとする猛者はいなかった。

 

 

 

 

「改めまして、おめでとう、優子に倉木くん♪」

 

「僕も一人の友人として祝福させてもらうよ」

 

「…………私と雄二に続くカップル」

 

Aクラスに戻ると木下さんのバーサクモードも解除され、三人から祝福を受けていた。

 

「ああ、ありがとう」

 

「とは言ってもいつもと何か変わるってわけでもないから、普段とあまり変わりないと思うわ」

 

「そうだね。俺には優子がでれでれとバカップルしてる様子なんて想像できないし」

 

「な、なによ!刹那君はそういうのが好きなの…?」

 

「別にー、いつも通りの優子でいいと思う」

 

「そ、そう…?刹那君が言うなら…」

 

「おーい、倉木くん?キミ気づいてないみたいだけど、現在進行形でバカップルやってるよ?優子もデレデレしてるし」

 

はっ、いつの間に!

 

「こ、これが恋は盲目というやつか…」

 

「これがっ!?そうだったのね…」

 

二人して驚愕の顔を浮かべるが、他三人からは冷めた目で見つめられていた。

 

「えーコホン。じゃあ二人共、節度ある交際を頼むよ。Aクラスとして恥じぬように」

 

久保がそう言って締める。

 

「あっ、たまには不純な異性との交遊もいいと思うなー♪」

 

約一名空気を読まなかったが、そこは気にしない方向で。

 

 




とうとう告白。
これで誰にもヘタレとは言わせない…
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