バカとAクラスの日常   作:ゴリ霧中

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第三十六話

翌日、俺は代表の家に行くために家を出た。

優子と一緒に行こうと思っていたので、途中で待ち合わせたのだが、約束した時間から既に五分ほど経過してしまっていた。

 

「お待たせ、優子。ごめん、ちょっと遅れちゃったかな」

 

「そんなに待ってないわよ。五分なら誤差の範囲じゃない?」

 

「それでも遅刻は遅刻だからな。そういえば秀吉はどうしたんだ?一緒に行くのかと思ってたけど」

 

「あの子なら先に行ったわよ。変な気でも使ったのかしら」

 

ふふっと笑いながらも優子は嬉しそうだ。

なんだかんだ言って付き合ってからまだ二人で出かけたことはなかったな。

学校の帰り道とかなら二人で歩いてるけど、それはデートとは違うし。

 

今度どこかに誘ってみようかな?

 

そんなことを考えながら二人で代表の家へ向かっていった。

 

 

 

 

十分ほどして霧島宅に到着。

その道中では特に何事もなく談笑しながら歩いてきたので割愛する。

べ、別に手抜きとかじゃないぞ!

 

「ここに来るのも学園祭の時以来か…」

 

「何度見ても大きな家よね…」

 

俺は入口の門の前で優子と立ち尽くしていた。

 

「前も思ったけど普通家でここまで厳重な門が必要なのかな?」

 

素人の目でパッと見ただけでも多種多様な監視システムがあるのがわかる。

とはいえ俺が見て分かるのは監視カメラ程度で、門の左右には細かな機材が複数ついておりそれがどんな役割なのかは全くわからない。

 

「入口に必要な乗ってインターホンくらいかと思ってたよ」

 

「あたしの家だってそうよ。ここをほかの家と比べちゃダメね」

 

優子も同じ気持ちのようだ。

とりあえず気を取り直して呼び鈴を鳴らす。

 

少しの間のあと、女性の声が聞こえてきた。

 

「はい、こちら霧島家警備室。お名前とご用件をどうぞ」

 

警備室って…

そこまで大げさにする必要があるのだろうか…

 

「えっと、倉木と申します。翔子さんのクラスメイトで、彼女に会いに来ました」

 

「木下です。理由は彼と同じよ」

 

「ちなみに他にも数人伺ってるはずですが…」

 

「少々お待ちください…はい、OKです。それではお入りください」

 

少し間を置いて門が開かれる。

 

「俺たちって友達の家に遊びに来たんだよな?どこかの国の権力者に会いに来たんじゃないよな?」

 

「そのはずだけど…もう代表の家で何が起きても驚かないわよ」

 

はあ、とため息を吐く優子。

そうか、あきらめたのか。

よし俺も諦めて事実を受け入れようじゃないか。

 

「…………いらっしゃい」

 

「おっ代表。お邪魔します」

 

「今日はわざわざ場所を提供してもらってありがとう。あたし勉強会なんて初めてだからちょっと嬉しいわ」

 

「…………私も初めて。楽しみ」

 

「そりゃよかった。発案者の工藤さんには感謝だなあ」

 

あの人は後先考えないところもたまにあるが、それはそれで面白いことに発展するからこっちとしても大歓迎だ。

 

「ほかのみんなは?」

 

「…………みんなは多目的室にいる。テーブルとか必要なものは揃えたから」

 

「何から何まですまないな」

 

「…………問題ない。それじゃあ案内するからついてきて」

 

そう言って代表は廊下を進んでいった。

俺たちもそのあとを追う。

 

「そういえば前に来た時は中庭に行ったから家の中を見るのは初めてだな」

 

「そうね。外から見ても大きいと感じたけれど、中も当然広々としてるわ」

 

「気になる部屋もいくつか…代表、そこの部屋はなんの部屋なんだ?パソコンとか機材が多いけど」

 

そう言って俺は右側にある部屋を指差す。

 

「…………そこはシアタールーム。大きいモニターに映像を映し出せるから映画も大迫力」

 

「映画館と同じ臨場感を楽しめるってわけか。今度みんなで映画鑑賞でもしたいな」

 

「…………その時はそこを提供してもいい」

 

今日は勉強が目的だから無理だが、テストが終わったあとにでもみんなで鑑賞会を開いてみてもいいな。

 

「じゃあこっちの部屋は図書室かしら?」

 

「…………そう。うちの家族は本が好きだから」

 

「学校の図書館なんて目じゃないくらいの量ね…」

 

ちらっと室内を見てみたが、市立図書館並みの蔵書だなこりゃ。

 

「ホントに興味深いな。あっ、じゃああそこにある鉄格子付きの部屋はなんなんだ?」

 

ここまでいろいろな部屋があったが、一際目立つ部屋があった。

鉄格子付きの部屋…

この家にやってきた強盗でも捕まえておくんだろうか。

 

「…………あそこは雄二の部屋」

 

「「………」」

 

瞬時に事情を理解した俺と優子。

 

えっと、ってことは雄二は婿に入ってここに住むのかなー、ははは。

 

もう驚かないだろうと思っていたが、俺は若干現実から逃げ出してしまっていた。

 

「…………そしてここが今日の勉強部屋」

 

「あっ、刹那と木下さんだ」

 

「よう明久。みんな早いな」

 

近くにいた明久が俺たちに気がついた。

どうやら姫路さんと久保から勉強を教えてもらっていたようだ。

 

「やあ倉木君。悪いとは思ったけど先に勉強会を始めていたよ」

 

「久保か。まあ明久に関しては時間がいくらあっても足りないからな。詰め込めるだけ詰め込んでやってくれ」

 

なんでも今回の定期試験で一定以上の点数を出さなければあの玲さんとの同居が決定するらしい。

俺や雄二からすれば明久の一人暮らしというのは何かと都合がいいので、是非ともいい結果を出していただきたい。

 

「やだなあ刹那ったら。僕だってちゃんと勉強すれば…」

 

とはいえ…

 

「明久、三平方の定理、別名ピタゴラスの定理とも呼ばれるが、これを発見したのは誰だか知っているか?」

 

「へ?えっと、ピタゴラスの定理っていうくらいだから…ピーターさんとか?」

 

「よ、吉井君。それは本気で言っているのかい?」

 

「えっ?」

 

このバカじゃあ付け焼刃の勉強会でさえ効果があるかわからんがな。

 

「久保よ、これがコイツの実力だ。それを理解した上で根気よく付き合ってやってくれ」

 

「あ、ああわかった。任せてくれ…」

 

明久の実力を目の前に、久保はそれでも諦めずに明久に勉強を教える。

横では姫路さんも教えているし、この二人に任せておけば悪い方向には行かないか。

 

「ほかのメンバーはっと」

 

「ねえ刹那君、そっちで愛子と土屋君が言い争ってるんだけど…」

 

「ん?」

 

優子に言われてムッツリーニたちの言い争いを聞く。

 

『それはちがうよっ!世論調査では成人女性の68%は…』

『…………違わない。世界保健機関の調査では成人男性の72%が賛同している』

『またそんな屁理屈をっ…!』

『…………屁理屈ではなく事実だ』

『くっ!こうなったら今度のテストでムッツリーニくんに勝ってボクの方が正しいって証明してあげる!』

『…………学年一位の座は渡さない』

『またそんな憎たらしいことを…ムッツリーニくんなんてこうだよっ!(ピラっ)』

『…………卑劣なっ……!(ブシャアアアア)』

 

「…大丈夫だろ」

 

「ちょっと土屋君の出血が尋常じゃないんだけど!?あれって致死量じゃないのっ!?」

 

「問題ない。あいつにとっては日常茶飯事だから」

 

「あの量が日常で普通に出てたらすぐに干からびるわ…」

 

でもそれがムッツリーニのムッツリーニたる所以だからなあ…

明久のバカ同様死ななきゃ治らんだろう。

 

「もが、もががが」

 

「…………雄二も連れてきた」

 

「そのロープで拘束されて猿轡をしているのが坂本くんなの…?」

 

「よう雄二。元気そうだな」

 

「そして刹那君もスルー!?この状況を変だと思ってるあたしがおかしいの!?」

 

優子がメダパ○にかかったところで全員が集合した。

 

「それじゃあ俺たちも勉強を始めるか。代表、雄二は秀吉と島田さんに教えるみたいだから拘束を外してもらえるか?」

 

「…………わかった」

 

俺の一言で雄二を縛っていた拘束が解かれた。

さすがのコイツも諦めて勉強会に参加するだろ。

 

「ちっ、仕方ねえな。ほれ島田、国語の勉強だ」

 

「で、でも坂本。あたしとしては歴史の勉強もしておこうかなーって思ってて…」

 

「明久が気になるのはわかるが、先に日本語の勉強だ。お前は問題文さえ読めればそれなりに点数が取れるんだからな」

 

「そうじゃぞ島田よ。わしも一緒に古典の勉強をするとしようかの」

 

だだをこねる島田さんを無理やり引きずって、雄二たちは勉強を始めた。

さて俺たちも頑張りますか。

 

「それじゃあ優子、俺たちは数学の勉強だ」

 

「そうね。最近学校では英語の勉強ばかりだったし、教えてもらってもいいかしら?」

 

「任せておいてよ。代表はどうする?」

 

「…………私も一緒に勉強してもいい?」

 

「もちろんいいけど、意外だな。てっきり雄二と一緒に勉強するものかと思ってたけど」

 

「…………せっかくみんなで勉強するから、倉木に教えてもらうのもいいかと思って」

 

なるほど。

考えてみたら代表と一緒に勉強するのって初めてな気がするな。

 

「…………邪魔になるなら雄二のところに行く」

 

そう言って優子の方を見る代表。

そうか、俺たちに気を使ってるんだな。

 

「気にしなくてもいいわ。あたしたちだけで勉強するならわざわざ勉強会に来た意味がないもの」

 

「優子の言うとおりだな。友達なんだから気を使わなくていいよ」

 

「…………ありがとう」

 

優しく微笑みながら代表はテーブルにテキストとノートを広げた。

 

「ねえ刹那君、ここなんだけど…」

 

「ああ、この場合は二つに場合分けする必要があって…」

 

「…………倉木、できた」

 

「どれどれ…おお、ほとんど証明できてるな。あとは途中の説明をもう少し詳しくすれば満点の証明の出来上がりだ」

 

二人が問題を解き、俺がそれについて説明。

そうこうして勉強会は進んでいった。

 

 

 

 

「はぁ~、疲れたわね」

 

「…………たくさん問題解いたから」

 

テスト範囲の問題をあらかたとき終え、二人が一息ついた。

 

「お疲れ。二人の課題としては、優子は基礎はしっかりできているからあとは色々な問題を解いて応用力をつけていこう」

 

「やっぱりそこなのね。分かっていたことだけれど」

 

「こればっかりは時間がかかるからな。それでもAクラスとしては申し分ない点数を取れるだろうから問題はないと思うよ」

 

むしろこれ以上点数をとってどうするんだか。

俺が目標だというのならそう簡単には抜かせないけど。

 

「…………私は?」

 

「代表は基礎も完璧だし、応用力もついている。だけど全体的に計算のスピードを早くすればいいんじゃないかな?今のままでも決して遅いわけではないけど、俺から見るとまだ早く解けると思う」

 

特に文月学園の試験の特徴からして、問題を解く速さがそのまま点数に影響するからな。

 

「…………計算を早く…。うん、頑張ってみる」

 

「でも焦って計算してどこかでミスをすると元も子もないから、正確に解くこと」

 

代表ならつまらないミスはしないとは思うけど、一応言っておこう。

 

「まあこんなもんかな。にしても二人は流石はAクラスって感じだな。教える側からしたらすごく楽だよ」

 

これが明久だとこうはいかない。

一を教えるためにこの二人ならそのまま一の言葉で足りるものを、十も二十も必要とする…ってすぐ明久を引き合いに出すのは俺の悪い癖かな。

 

「それじゃあ数学はこれくらいにして、次は英語の勉強ね」

 

「えっ…い、いやまだ数学の勉強もした方が…」

 

「というか刹那君はさっきからなんの勉強をしているのかしら?」

 

「えっと~…」

 

「…………ラプラス変換」

 

慌ててノートを隠そうとしたが、代表に見つかってしまった。

つめが甘いな、俺は。

 

「ラプラス変換?聞いたことない単語ね」

 

「…………高校の学習領域じゃあない」

 

「へ?そうなの?」

 

「…………確か大学数学で習う事のはず」

 

「大学数学って、試験とまったく関係ないじゃない!そもそもなんで高校生のあなたが勉強しているのよ!」

 

「えっと、高校の数学は全部網羅しちゃったからその先が気になっちゃって…」

 

「はぁ、呆れたものね…」

 

そうは言われても俺の好奇心のせいなんだ。しょうがないじゃないか。

 

「いい?今日は期末試験のための勉強会なの。言いたいこと、わかるわよね…?」

 

「い、イエスマム!」

 

優子の背後にいつもの如く般若が見える…

 

「…………私も教えるから頑張って」

 

ああ、代表がすごく優しい表情を…

雄二に対してもその表情を浮かべればいいのに…

あいつが関わっていない時の代表は優しいなあ。

 

そんなことを考えながらも、俺たちは勉強する科目を英語に変更し、夕飯までの間ずっと英語漬けになったのだった。

 

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