一言でまとめると呆気なかったとしか言いようがなかった。
正直、危なげな実験場だからISの一機や二機くらい来るんじゃないかと思ってたんだがそれも杞憂に終わった。
そして油断も隙も与えず研究員共を口では言えないような方法で始末した。
それには同情も容赦も無い。
んな愚図の肉塊は無視して、俺は実験場の奥にある研究室、更に奥にある厳重に閉ざされた扉の前にまで来た。
ちまちま鍵開けんのもめんどくせーし、さっさとぶち壊す。
ドガンッ!! と人間大が入れるくらいの穴を開けて遠慮なく侵入する。
「──ッ」
残虐、残酷の言葉以外見つからない有様だった。
大きな試験管に保管された百桁を超える人工胎児。
「チッ。胸糞悪ぃ」
俺は一通り一周した後、この施設の電気を全て落とし、爆破させようと考えていた。
だが、
「……あれは、ラウッ……いや、別人か?」
奥の奥にあるこの部屋で一番大きな試験管の中には、一人の少女が静かに眠っていた。
見る限りは、息をして生きている。
流れるような銀髪、可憐な姿が一瞬だけとある友人と重なった。
「まさか」
俺は遠慮なく、だけど少女には傷を与えぬよう試験管を破壊した。
この際、水に濡れることなどはどうでもよかった。
俗に言うお姫様抱っこで改めて息をして生きていることを確認した俺は、すぐに大きなタオル状の物を少女に巻く。
最後にもう一度この部屋を素早く確認して。
俺はそのまま電気を落とし、ここら一帯を爆破させた。
「……」
せめて安らかにと、頭を下げてここを去った。
──それから。
俺は少女の負担にならないギリギリの速度でIS学園に帰ってきた。
当然行きも帰りも姿が見えないように透明化になってだ。
IS学園の屋上には、束さんのにんじん型のロケットを(ステレスタイプだが)、今の俺には苦も無く認識する。
俺が屋上に降り立ったタイミングで、束さんもロケットから慌てて出てきた。
「──束さん」
「言いたいことはいぃぃぃぃっぱい!!! あるけど!! 今はその子の治療が先!! 説教は後でこってりやるからね?!」
「わかってるよ」
流石の束さんも優先順位はちゃんとしている。
束さん直々の治療だから少女も死ぬことはないだろう。
けど、少なくとも時間は掛かりそうだった。
俺も束さんの後ろに続いてロケットの中に入ったが、兄貴はもう居ない。
束さんに言われて部屋に戻ったんだろう。
ソファーに座りやっと落ち着ける。
「──性格が変わるのは勘弁してほしいよね……」
無敵能力を解除した僕は、ゴローンとソファーに寝っ転がる。
そして忘れない内に、千冬姉にメールで今日は束姉の家に泊まるって連絡しておく。
「束姉のことちゃんと待っとかないといけないのに……」
うん、眠い……。
ちょっと、五分だけ仮眠とろうかな……。
「──?!」
「おはようございます、桜さま」
目が覚めたら、目の前に見覚えのある女の子がいた!
「お、おはよう」
僕はなぜかこの女の子に膝枕されてるみたい……。
「き、君はもう大丈夫なの?」
「はい、お陰様でこの通り健康体ですよ?」
そう女の子は穏やかに笑う。
僕はこれ以上女の子の負担にならないように体を起こした。
……何で寂しそうな顔をしてるんだろ??
「そっか、よかった~! これで一安心かな!」
「本当に桜さま、私などを助けてくださりありがとうございました」
「にしし、気にしないでよ! うん、君が無事でよかったよ」
そう言えば、
「えっと、君の名前は何て言うのかな?」
僕の名前を知ってるってことは、束姉に聞いたんだと思うけど。
だけど、この子の名前を僕は知らないから。
「──私には名前と呼べるものがないんです。……強いて言えばシリアルナンバーですね」
「……っ」
「ですから。……桜さまさえ良ければ──私に名前をくれませんか……?」
そう女の子は不安そうな感情を隠し切れない、そんな眼差しで僕を見る……。
「──うん、僕でよければ!」
「──クロエ……クロエ・クロニクル」
「どう、かな?」
「クロエ、クロエ・クロニクルっ。……はい、ありがとうございます!」
一生懸命考えた結果、クロエ・クロニクルにした。
古代ギリシアの恋愛物語に出てくる、自分の愛を信じ、神様に愛された少女の名前からクロエ。
これからは当たり前の人生を穏やかに歩めるようにと、クロニクル。
昔に図書館で見つけた絵本に出て来たお姫様の名前、そして由来をクロエちゃんを見てるとふと思い出したんだ。
「うん、これからよろしくね? クロエちゃん!」
「……桜さま、ちゃんは不必要ですよ?」
「あ、それなら僕のこともさまは要らな──」
「──それはできません」
言葉を被せるほど?!
「う~ん。……なら僕もちゃんづけで呼ぶね?」
「むぅ……」
と、頬っぺたを膨らますクロエちゃん。
けど、何とかこのままの呼び方で納得したみたい!
「そう言えば束姉は?」
さっきから束姉の姿が見当たらないんだよね~?
「束さまでしたら私を治療して下さったあと、仮眠すると言ってご自身のお部屋に行ってしまわれましたよ?」
「あぁ、なるほどね」
流石の束姉も専門外のことで疲れちゃったのかな?
まぁ、起きてきたら改めて謝らなくちゃね。
「そうだ、クロエちゃん! お腹空いてない?」
まだお腹は鳴ってないけど、僕はお腹減っちゃった!
僕の問いかけにクロエちゃんもコクリと頷いた。
「よ~し、それなら今からご飯作っちゃおうか! クロエちゃんはそこで待ってて」
「いえ、私も手伝いします!」
「……料理はしたことある?」
「……いえ」
「おっけ~。それなら簡単な料理を一緒に作ろうか! こういうのも含めてこれから出来るようになれば良いんだから!」
僕はクロエちゃんの手を引き、新品キラキラなキッチンに移動した。
さーてと。
冷蔵庫の中には、一通りの食材があるんだね~。
……束姉が一人で料理してる姿は想像しにくいなぁ。
「それなら、卵と鶏肉をメインにした雑炊を作るよ?」
「はい!」
僕は一生懸命食器を洗ったり、恐る恐る食材を切るクロエちゃんに和みながら、着々と完成に向けて作っていった!
「ご馳走様でした!」
「ご馳走様でした」
無事に完成した雑炊はとっても美味しかった!
うん、一夏兄に教えてもらったレシピはどれも最高だね~。
それにクロエちゃんは途中から手際良く料理をこなしてた!
あの吸収力だったらすぐに料理上手になると思うんだ。
……それはそれとして、これからどうしようかな?
束姉はまだ寝てるしクロエちゃんも眠っちゃった。
お腹がいっぱいになって……安心したのかな?
ソファーでスヤスヤと眠るクロエちゃんにタオルケットをかける。
そして椅子に座って、とりあえず二人が起きてくるまで待ってることにした!
──アイスコーヒーを淹れて飲みながら暫くすると、携帯がブルブルと震える。
どうやらメールみたい。
「誰からだろ?」
受信ボックスを開くと。
差し出し主は一夏兄の親友の妹、僕にとっては中学からの友達、
蘭ちゃんからメールって久しぶりだなぁ~。
電話は時々掛かってくるんだけどね。
えーっと、なになに?
『今日の昼に私の家に来て!』
だけの文面だった……。
相変わらず、なんと言うか……。
周りには猫を被ってるけど、僕には真っすぐだなぁ。
「まぁ、それが蘭ちゃんだし素の方が嬉しいけどね~」
僕は時計を確認して、今からここを出たら良い時間に着くかな?
……一応、白い紙とペンを手にして、少し出かけてくる! ってちゃんと書いてテーブルの上に置いて行こっと。
そしてちゃんと変装もするよ!!
世界唯一の男性操縦者の弟だって自覚はあるんです!
っていうかね、そういう理由で中学には行けない状態だからね~。
それに蘭ちゃんが僕と関わりがあるって悪い人達に知られると色々とまずいことになるから……。
「……それじゃあ、行ってきま~す」
約一週間ぶりくらいに、僕はIS学園から出た!
久しぶりの一人だし、のんびり行こうかな~。
この話を書いてるとき、初めて五反田(こたんだ)って読み方だと知った……。
今までは五反田(こだんだ)って読んでたんだよなぁ。