陰陽師ハオ(偽)   作:ふんばり温泉卵

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八話 ハオ様と学校①

麻倉ハオ。

最強の陰陽師であり、シャーマン能力を持った規格外の霊能力者。

そんな彼でも現代では15歳の中学生であり、当然学校に通っている……。

 

そう、霊能力を持たない子供や霊能力を持つ子供たちが通う…麻倉中学校に。

 

―――

 

数日ぶりに帰って来た僕は麻倉が経営する私立麻倉中学校の教室で北海道からやって来た友人に声を掛けられた。

 

「よう!!四国に行ってきたんだって?お土産は?何か面白い話を聞かせてくれよ!」

 

ハイテンションでバンダナがトレードマークである彼の名前はホロホロ。

数少ないアイヌ民族であり、夢を叶える為に北海道からわざわざ仙台にあるこの中学校に通う為にやって来た少年であり、『麻倉』の人間である僕に話しかけて来るフレンドリーな性格をしている。

 

「土産はないよ。話も特に面白い事はなかったかな?」

 

「なんだよ、つまんねぇな。

四国って言ったらお前の家で有名な刑部狸が実質的な支配をしている地域だろ?

自然と人間が共存している数少ない理想郷…なのに何もなかっただと?

歓迎はされなかったのかよ?」

 

「歓迎はされたけど……それだけだよ?」

 

僕の話をつまらないと判断した彼はニヤリと笑い。

僕が居なかった時の学校の話へと切り替える。

 

「そうか、そうか。

だったら、俺がお前の為にビッグニュースを聞かせてやるよ」

 

「ビッグニュース?」

 

「そう、なんと今日は転校生がやって来るのだ!!」

 

「へぇ…」

 

「なんだよ、その低いテンションは!?花の中学生男子だろ?

もっと反応した方がいいぞ。

それに、ハオにとっては俺以外にも友達が出来るチャンスだろう?」

 

中学生なら喜ぶ一大イベントを楽しんでいる彼だったが同時に麻倉の名を持つ事で友達が少ない僕の事も心配してくれているようだ。

本当に良い少年で良い友人である。

 

この学校は麻倉が運営する私立中学であり、霊能力を持つ子供たちが通う学校でもある。

目の前の彼、ホロホロもアイヌのシャーマン能力を持つ霊能力者であり、クラスメイト達も何らかの霊能力を持つ一族の子供達なのだ。

故に、霊能力者の世界での首領(ドン)である麻倉に畏怖して声を掛けられることはない。

接触も最低限。

麻倉とのコネを作る為に来ている生徒もいるらしいのだが霊能力以外は15歳の普通の少年少女。

社交的に未熟な彼らにパイプ作りは中々難しいようだ。

 

逆に霊能力を持たない一般生と呼ばれる生徒からの声掛けは止まらない。

僕に声を掛けてくる大半は政治家の子供や将来自分の企業を占ったりライバル企業の呪いから身を守る為の霊能力者を探す為に通っている大企業の御曹司と令嬢だ。

 

もちろんそんなものはお断りだ。

しかも、彼らが望んでいるのは単発の依頼ではなく長期の雇用契約。

 

簡単に説明すると芦屋の爺さんの子孫のような事をしろと言っているに等しい。

だから僕は、一般生の彼らとの接触は可能な限り避けているのだ。

 

「それじゃあ、そろそろ先生が来る頃だから俺は席に戻るぜ」

 

伝えたいことを言いきったホロホロは自分の席へと帰っていく。

そして、ホロホロが席に戻ると同時に他の生徒たちも自分たちの席に座る。

 

数分の時が過ぎると予鈴がなり、教室の入り口から白いスーツと青いネクタイを締め、眼鏡を掛けた金髪の外国人が入って来た。

ん?担任の倉橋先生はどうしたんだ?

何で特別講師である彼がHRに出てきているのだろうか?

 

「あれ?何でマルコ先生が朝からいるんだ?

会社はどうしたんだよ」

 

「私語は慎みなさいと言いたいが、質問に答えよう。

倉橋先生はケガの為に一週間休みとなった為、私が代わりに一週間だけ教鞭をとる事になった。

安心しなさい。私はオックスフォードを卒業する時に教員免許も取得している」

 

『スゲェ!!』

 

クラス中がマルコ先生の学歴に驚愕する。

 

マルコ・ラッソ。

 

イタリア出身の男性。

スポーツカー等の車が好きで日本の自動車技術を学ぼうと来日。

順風満帆な生活を送っていたが悪霊に憑りつかれたせいで大きな仕事に失敗。

 

クビになった彼は、夜の酒場を飲み歩いては川の魚に餌をぶちまける仕事に専念する事に……。

そんな生活が続いていた頃に仕事で豊田市に訪れていた我が祖父である葉明に救われるついでにシャーマン能力が覚醒した彼は葉明の下で修行を行い、数年後には悪霊のみを退治する正義の執行者として霊能業界から噂されるようになる。

 

霊能力である程度の金を稼いだ彼は、そのままイタリアへ帰国。

除霊で稼いだ金を使って、車の製造販売会社を設立。

日本で学んだ技術とイタリアのスポーツカーのデザインを融合させた新しい車は世界に注目され、彼の有限会社『スーパーマルコ』は世界で有名な大企業の一つとして数えられている。

 

そして、裏では『X-LAWS(エックス・ロウズ)』と呼ばれる霊能力者で構成された組織を作り、霊能力を持つ子供たちの保護や悪霊の除霊などを行っている。

噂ではイタリア政府に存在する霊能力専門の部署から日本…いや、麻倉に対抗する為にお誘いが来ているのだとか……。

 

「さて、私の事はもういいだろう。

今日から、君たちのクラスメイトになるニューヨークから来た転校生を紹介しよう。

入って来たまえ」

 

『ニューヨーク!?』

 

ニューヨークという単語に再び驚愕と転校生への期待が上昇するクラスに一人の少年が意気揚々と入ってくる。

 

「ニューヨークから日本の風呂ににゅうよーく(入浴)しに来た。

チョコラブ・マクダネルだ……よろしく!!!」

 

『……』

 

「ぷっ…くくく」

 

教壇の隣で桶と手ぬぐいを持った褐色肌でアフロの少年は一瞬にして僕らの体温とテンションと八分の一の純情な感情を奪い去った。

一人だけ、爆笑をしているクラスメイトが居るが、誰もが感情の宿っていない瞳で転校生……チョコラブを見ている。

 

「ふっ…どうやら俺のギャグはレベルが高すぎて一人にしか理解出来なかったようだ」

 

一人と転校生を除いた、教室に居る全員が思った。

コイツは色々な意味でやべぇと。

 

「あー…マクダネル。

とりあえず、あの席に座りなさい」

 

「オッケー牧場!!」

 

「ぶふっ!!」

 

突如として氷河期を迎えた教室の空気を微塵も感じ取れない彼は、意気揚々とギャグをかまして一番後ろの席へと座った。

すっかり冷え込んでしまった先生はすぐに教室から脱出。

体をさすって温めているクラスメイトを尻目に、僕はスピリットオブファイアの能力で体を温めた。

 

こんなことで僕にスピリットオブファイアを使用させたのは後にも先にも彼だけだろう。

 

クラスを凍えさせた本人は先生が教室を出たと同時に、唯一ギャグに反応した少年の元へ移動する。

 

「ヘイ!楽しんでくれたみたいで良かったぜ!!

さっき、自己紹介したばかりだが俺はチョコラブ。

いずれ、世界一のコメディアンになる男だぜ!!」

 

「ぶっ!?ははははははっ!!」

 

改めて行われる自己紹介と共にポケットから米を取り出し、少年を笑わせようとするドヤ顔のチョコラブ。

そして、そんな彼のギャグを心の底から楽しむ彼もチョコラブに自己紹介をする。

 

「ぶふっ…お、俺は鵺野(ぬえの) 鳴介(めいすけ)

よろしくな」

 

 

 

 

 

 


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