ワンサマーとプレデター(リメイク) 作:噛ませ犬
少年は絶望した――否、彼は自分を守ってくれた人に裏切られた事に。
それは哀しみ、怒り、憎しみを生み出し、少年の心に大きな傷を負わせる。
負の連鎖ではない――少年に新たなる試練と地獄のような日々を歩ませる。
某月某日――ここはドイツの首都、ベルリン。今の時間帯は夜だが何故か騒がしい。
ドイツ全体の国民達は興奮冷めず、何処か嬉しそうであり、何処か盛り上がっている。
理由は、この国では、とある一大イベントが発生していた。
それはドイツで開催された事と、ドイツ国民が喜んでいる事にも関係している。
中にはそんなイベントには興味ない者達も少なからずいる――必然だろう。
只のイベントではない――全世界の、それも大半以上の女性達が待ちに待った瞬間を今か今かと待っている。
そのイベントはスポーツ関連の物であるがそれ以上に何かが賭かっている。
女性達はそれを固唾を呑んで見守っているのと同時に、ある人物が更なる名誉が得られる事を期待している。
それは神のみぞ知る事だろうが女性達は絶望よりも、期待しかないだろう……。
そんな、イベント関連とは逆に、此所はドイツにある、とある工場。
とっくの昔に廃れているのか不気味な程に静まり返っており、人の気配さえもない。
あるとすれば、こんな場所を肝試しの舞台としてや、映画の撮影に必要な舞台以外、人の気配はないだろう。
心霊スポットにうってつけかも知れないが今はイベントの為に必要とされていない。
こんな場所に人が住むとしたらホームレスくらいだろう。
「…………」
しかし、工場内の、とある一室。そこは少し広いが黴臭く、埃も溜まっており、出入り出来る扉もある。
そこには、最近の物であろう何かの缶詰や飲み干されたペットボトルが幾つも転がっている――無造作に捨てられたと言った方が良いだろう。
それは誰が飲食したのかは、既に判っている――室内には一人の十代前半の少年と、三人の三十代前半の全身黒ずくめの男達がいた。
そんな場所に彼等がいるのは不思議、と言うよりも不信感しかない――そうだろう、彼等は、否、少年は身体を縄で縛られていたのだ。
少年は十代前半だが整った顔立ちに少し長めの黒髪と黒く澄んだ――否、目には生気が感じられず、髪もボサボサだった。
白いシャツに黒いズボン、白のスニーカーを履いているが何故か小汚い。縄で縛られているのも逃げられない事を意味させ、絶望を与えている。
何故なら少年は誘拐されたのだ――絶望しているのは誘拐された事にではない、彼は信じていた人に裏切られた為に絶望した。
ボロボロなのは男達に暴行を加えられたからである。彼に残された希望は残ってない――彼の心にはドス黒い憎しみと怒りが沸いている。
身内への憎しみと、微かながらに残っていた思いは全て消えて逝く様にも感じていく。
が、それは無駄に近い――もうすぐ、自分は死ぬ――彼は、一夏少年はそう感じていた。
自分はもう何の価値もない意味で殺される――そう直感していた。
誘拐された身とは言え、用済みとなれば解放――否、殺されるだろう。
誘拐事件はたいていそんな物だ――生還なんて珍しいとしかない。
一夏は涙を浮かべたかったが泣けなかった。彼は既に大半の感情を失っていた。裏切られた事が原因であるのと、信じる物は誰なのかも判らなくなっていた。
彼は既に諦めていた――もう死ぬのだ、生きていたって何の意味もない――そう思っていた。
すると、男の一人が一夏に近づく。
「おい小僧? お前はもう用済みだ……全く、単に棄権すれば良い物を、あの女、弟よりも名誉を選んだみたいだな?」
男は怒りが隠しきれず眉間に皺を寄せながら言葉を述べると、懐からある物を取り出す。
一丁の拳銃だった。それは黒く、重い。一発で仕留める事も出来るのと、後遺症を残す事も出来る。
扱いが上手い者もいれば、扱えない者もいる――彼は、男は扱いに長けている玄人であった。
「じゃあな小僧、あの世で後悔するんだな?」
男は一夏の近くに経ち、拳銃を一夏に向ける。銃口は何時でも一夏を撃つ準備は整えている。同時に男は人差し指を銃の引き金に当てる。
刹那、扉の方から大きな音が響き渡る。男達は突然の事で一斉に振り返るが、扉の向こうには誰もいなかった。
「な、何だ?」
仲間の一人が疑問に思う中、一夏の近くに立っていた男の頭が吹っ飛んだ。
――なっ!? ――。三人の男達は仲間の頭が吹っ飛んだ事に驚く。刹那、今度は扉の方から何かが噴射され、その何かは近くの男の後ろへと吹っ飛び、壁にめり込む。
「あぁぁぁっ――――!?」
吹っ飛ばされた男は悲痛の声を上げるが彼の躰にはネットの様な物が彼の自由を奪い、壁にめり込んでいく。同時に男の躰から血が流れ出る。
「あ……うわぁぁぁぁっ!?」
男は悲痛の声を上げる。が、ネットは無情にも男を徐々に追いつめていく。
「ひ、うわぁぁ――――っ!?」
最後に残った男は突然の事で恐怖し叫んだ。一方、一夏は突然の事で困惑と恐怖していた。
刹那、目の前から二つの目の様なものが光り始め、同時に何かが姿を現す。
「あ、ぁぁぁぁ!?」
「っ……あ、ああ……」
男は恐怖のあまり叫び、一夏は目を見開く。目の前には、ある人物らしきものが姿を現したのだ。
その何かは男よりも一回りも大きく、胸板は厚そうで、力自慢の意味でも筋肉が付いている。
否、その何かは人間ではない――この地上には存在しない屈強な人型宇宙人。
UMAという、そう言った類いに近い――が、その宇宙人らしき者は口元が複雑な少し錆びた様な鋼色のマスクを着けている――その仮面の下はどうなっているのか判らない――さっぱりしているか、悍ましいかも判らない。
躰にはマスクと同じ色をし、一部露出しているが何処か禍々しい防具を纏い、この地球上では見た事もない様な武器を装備し、右肩には何かの機械を着け、砲身の様な物が装着されていた。
特に目立つのが右腕にあるガントレット――何処か少し大きく、噴射口らしき物が目に入る。
「な、何だよお前は!?」
男は震えていた――それ以上に恐怖のあまり、失禁していた。近くには二人の仲間達が死んでいる。
吐き気を催し、ホラー映画宛らの惨劇を物語らせている。
男から見れば、こんな場所には居たくもない――もうすぐ自分も彼等の様に死ぬ――そう思っているのと同時に躰が言う事を聞かないかの様に動けない。
男は膝を震わせているのに躰は動かない――矛盾しているとしか思えない。
「あ……ああっ」
男とは裏腹に一夏はその何かを見て戦慄していた。誰から見ても直ぐに宇宙人だと判るが彼の場合、死ぬ恐怖しかない。
男達に暴力を振るわれた事よりも、一瞬で済む形で死ぬ、と。
一夏は震えるが少年には恐怖が強すぎるだろう。
否、その何かは彼を、一夏を殺すつもりはなかった――殺害対象ではないからだった。一夏から見れば殺害対象と思われているだろうが……。
「あ、ああ……うぁぁぁぁ――っ!」
男は恐怖のあまり、懐から何かを取り出そうとした。刹那、宇宙人らしき者も左腰からある物を取り出し、男目掛けて投げた。
男は何かを取り出すタイミングが悪かったが男の首に何かが通り過ぎ、同時に男の首から上が宙を舞う。
男の頭と、頭の無い躰の首元の断面からは肉と骨が見え、血が滝の様に噴き出て、辺りに飛び散る。
床に、壁に、そして一夏の顔にも飛び散る。男の頭は少年の近くに転がり落ち、一夏と目が合う。
男は瞳孔を開いている――一夏から見れば更なる恐怖を引き起こす。
一夏は瞠目しながらも震え続けている。
次に殺されるのは自分――彼はそう思っていた。
――グルル……――。宇宙人らしき者は左腕には何かを掴みながら前に伸ばしている。が、マスクの下から獣の様な唸り声が耳に入る。
彼は獣人なのか? どんな顔をしているのだろうか――狼? それとも、この地球上には居ない生き物だろうか?
そう言った想像を駆り立て、膨らませる――否、そう言ってる場合ではない、今度は自分――一夏はそう思うと逃げようとしていた――躰が言う事を聞かない。
縄で縛られているのが原因でもあるが彼自身が殺されたくない恐怖で一杯だった。
そんな彼を他所に、宇宙人らしき者は左腕からある物を展開する――二本の鋭利な刃物――とても鋭く、白銀色の輝きを放ちながらも血が付着しているにも拘らず、輝きを失っていない。
その刃物を展開したのは、宇宙人らしき者が獲物を見つけた事による警告。その獲物は彼、一夏であった。
「あ、ぁぁ……!?」
一夏は声を出すがあまり出せない。恐怖による物であり、彼自身の気持ちの表れだろう。
すると、宇宙人らしき者はゆっくりと歩き始める。彼は一夏に近づいて来る。一歩、また一歩と歩み寄って来る。
「く、来るな……!」
一夏は懇願する。が、それは儚い意味で無駄となった。
宇宙人らしき者は一夏を見下ろす形で目の前に立つと、左腕を振り上げる。
一夏は瞠目する。刹那、宇宙人らしき者は左腕を一夏目掛けて振り下ろした……。
数時間後、そこは惨劇と化していたが酷くなっていた――室内には男達が躰中の皮を剥がされたまま逆さに吊り上げられ、酷い臭いが充満し、ハエも死体に集りついている。
しかし、そこには一夏は居なかった――縄はあったものの、彼は、少年は宇宙人らしき者と共に居なくなっていた……。