ワンサマーとプレデター(リメイク)   作:噛ませ犬

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第5話

「どうした? 何を驚いている? 妹が心配じゃないのか?」

 

 一夏の言葉に少女は何も言えず、冷や汗を流す。別に言いたくないのと、自分の蒔いた種で貴方には関係ない――そう言いたかった。

 なのに言い訳と言う意味でのかける言葉が見つからない、誤摩化す事も出来ない。彼は自分達の通話の一分始終を聞き、知っている。

 が、何故か汗が止まらない――手で拭う事も出来るが当たり前の行動が出来ない。少女は彼の、一夏の抑圧とも捉える事が出来る無言に言葉を詰まらせ、自分へと向ける視線に金縛りに遭った様に躰が言う事を聞かず、戸惑っていた。

 相手は自分とは年が近く、顔立ちも良い青年なのに、自分と同じ臭いがする――彼は何処かの組織の一員か? もしくはギャングなのだろうか?

 相手は如何いった者で、どんな人物なのかも気になる反面、彼が何者なのかも謎が深まるばかりであった。

 もう一つ、無表情であるのが少女に金縛りを与えている原因の一つであり、怒り、憎しみ、喜び、哀しみ――そう言った感情を読み取る事が出来ず、彼が何を考え、何を思っているのかも判断出来ない。

 出来るとすれば、自分の何を言うのかを待ち、自分を逃がさない意味でも見据えているだけなのかも知れない――少女はそう思ったがどう接すれば良いのかも判らず、不意に生唾を吞んでしまう。

 言いたい事を飲み込む形で黙秘しょうとしていた――彼には効果はないが少女は微かに抵抗していた。

 しかし、その行動は無駄に等しく、ただただ時間が過ぎていくだけであった。

 

「答えろ――何を隠している?」

 

 彼は少女に追い討ちをかける様に再び訊ね、少女は肩を震わす――彼の言葉には苛立が見て取れる。自分が何も言わないのが原因だろうが彼の場合、何がったのかを気にしているだけだろう。

 少女から見れば彼が何を考えているのかは判らない――少女は彼から目を逸らす物の一夏は腕を組むと、再び口を開く。

 

「答えろ――出来なければ此方は強行手段に出る。と言ってもお前を襲うつもりも無いが、力は貸してやる」

 

 一夏の言葉に少女は目を見開く――彼は、一夏は少女を助けるつもりでいた。会話を聞いてたとは言え、自分は既に戻れぬ道へと足を踏み入れてしまった。

 逆にそれで良かった――自分はもう、戻れぬ道へと、茨の道へと進んでいる。それ以上に少女の言葉に怒りをも感じていた。

 いくら彼女のせいとは言え、身内を巻き込むのはどうかしている――逆に報復を与える為とは言え、身内を巻き込むのも流石としか言えなかった。

 動かないのならば、身内を盾にすれば良い――相手が動かないのなら冷たいと言われ、世間から批判も喰らうだろう。

 もしも彼等と同じ立場ならそうするだろう――一夏はそう思いながらも彼女の言葉を待っていた。

 

「な、何を言ってるのよ!? 貴方本気なの!? 私達に拘るべきじゃないわ!?」

 

 少女は一夏に詰め寄る。いくら他人とは言え、彼を裏家業に連れ込む様な物だ。同時に彼は何者かも知らぬ上、見た目で判断する訳でもないが巻き込みたくない。

 少女は一夏に詰め寄る中、彼は無情にも少女に言う。

 

「俺は全てを知ってる――それを承知で俺は聞いた」

「だからって……」

「だからこそ俺は言ってる――」

 

 一夏の言葉に少女は「えっ?」と不意を突かれるが一夏は顔を明後日の方を向ける。

 

「俺は単にお前等を助けたいだけだ――それに俺が言わなくても、何れバレる――相手の要求はお前一人で来る事だが俺は含まれていない――相手もお前以外来てないかを警戒している上、警察が来ても妹を人質に出来るし、お前も人質に出来る――最悪殺す事も出来る」

 

 一夏は喋るのを止め、少女と向き合う。

 

「そんな状態でお前は助けにいけるのか? お前は一人でどうこう出来るのか? 自分が行って最悪な結果になったらどうする? お前が死んだら妹は哀しみ、妹が死んだらお前は哀しむ――お前達二人が死んだら周りは哀しむ――そこを考えた事があんのか?」

 

 一夏の言葉に少女は気付いた。そこまで考えていなかった――少女は妹を助けたいが為に少しだけ我を忘れていた。

 もし一夏が言わなかったら最悪な結末を迎えたのだろう――それを良い意味でも悪い意味でも変えてくれたのが一夏であった。

 彼は冷静さを欠いた少女に指摘したのだ――少女は一夏の言葉に戸惑う中、一夏に訊く。

 

「ね、ねぇ? 一つ良いかしら?」

 

 少女の言葉に一夏は「何だ」と訊き返すと、少女は少し哀しそうに俯くと、彼に訊ねた。

 

「貴方はどうして私達の事に首を突っ込むの? 何で私達をそんなに気にするの?」

 

 少女は一夏に訊ねていた。自分は彼とぶつかっただけなのに、彼は財布を届けてくれただけなのに、彼は自分の揉め事に自ら巻き込まれるような事を言い出したのだろうか?

 最悪の場合、彼は二度と許されない道へと突き進む事になるのだ。少女はそれが嫌であるのと、自分が彼とぶつかっていなかったら――否、既に後の祭りかも知れない。

 少女の言葉に一夏は何も言わなかったが不意に溜め息を吐くと、髪を掻く。

 

「何故かは判らない――判るとすれば、お前達が辛い思いをしているのは見たくないだけだ……」

 

 一夏の言葉に少女は目を見開く。一方、一夏は少女を一瞬だけ、自分の姉と重ねて見えてしまったのと、自分も彼女の妹と同じ立間にいる事も思い出す。

 三年前のあの日、自分は誘拐された、姉に裏切られた事で絶望し、感情を無くした――自分は要らぬ者だったのか、そう思っていた。

 だが、ある宇宙人が助けてくれた――彼は自分を鍛え、育ててくれた――彼がいなかったら自分は死んでいた。彼がいなかった自分は要らない者として殺されていた。

 彼には感謝はしており、恩義をも感じている。過去の話とは言え、今現在の話は、少女の妹が自分と同じ状況に陥っている。助けたい、と言う訳ではない――ただ気になるのと、自分は後戻り出来ない道へと進む意味で選択したのだ。

 彼はもう人でありながら人ではない――彼はもう、死地をくぐり抜けた修羅である。

 

「俺はお前の力になりたいだけだ――もしお前が嫌といっても俺は引かない――俺はもう、お前の会話を聞いただけで既に戻れなくなっているからな?」

「あっ…………っ」

 

 少女は言葉を詰まらせる――彼は本気だ、そう感じていた。彼の力を借りれば簪を助ける事が出来るのかも知れない。

 同時に彼は只の人では無い――彼からは自分が裏家業をする時の自分と同じ臭いや気配は元より、彼の場合はそれ以上の雰囲気を醸し出している。

 犯罪に手を染める事への躊躇はなく、その覚悟があり、冷酷さをも併せ持っている。彼は自分よりも死地を潜り抜けている様にも思える。

 彼は何時、何処でそのような死地を潜り抜ける修行や教えを乞いたのかは判らない。少女は彼に畏怖すると共に、ある事をも考えてしまう。

 

 彼は、父より与えられた名を受け持つ自分よりも相応しい――否、それ以上に相応しい、と感じてしまった。

 自分は父より裏家業のイロハを叩き込まれたが彼の方が自分よりも更に上を言ってる様にも感じた――嫉妬と言う感情は無いが少女は彼が何者かを知りたくもなった。

 しかし今は、簪の安否が先だ――彼のお願いを聞くべきなのかも悩んだ。もしも、その選択は後悔する物だったら? 彼が死ぬ様な事になったらどうなる?

 自分達の秘密を知らないままで良いのと、彼の身内や友人に顔向け出来ない上、一生怨まれるだろう。

 少女はそう思うと共に彼を再び見る。彼はずっと無表情だが自分の言葉を待っている。拒否しても頑に拒むだろう――少女は追いつめられていた。

 彼のお願いを聞くべきか、彼の力を借りるべきか――悩んでいる暇はない、時間が無い――少女は頷くと目に涙をためる。

 今悩んでも簪の事が気になる――彼女は自分の大切な妹なのだ。何としてでも助けたいし、彼女に謝りたい――こんな事になるのなら名を受けなければ良かったとつくづく思う。

 時間は無い――そして、少女は頷くと、涙目で彼、一夏に言った。

 

「お願い、私を、私達姉妹を助けて……」

 

 少女は泣きながら一夏に言った――少女の切なる気持ちと妹を想う姉としての本当の気持ちでもあった。

 そんな少女に一夏は何も言わず少女に近づき、少女を優しく抱き締める。

 ――っ!? ……っ、うぅっ――。少女は一夏の行動に驚いた物の、直ぐに彼に甘える様に彼の胸の中で泣いた。

 彼は、一夏は冷たく只の危険人物だと持っていたがそうではなかった――彼は、優しい人なのかと、少女は思った。

 人を見た目で判断してはいけない――そんな言葉を良く聞くが彼の場合、善人だと少女は思った。

 しかし、彼が、一夏は少女を抱き締めたのは彼なりの優しさや慰めではない――彼は単に誰かに見られたら誤解を招くと思い、そうしたまでだった……。

 そして二人の気持ちは其々違う――一夏は少女を助ける選択に後戻りせず、少女は一夏を巻き込む事に後悔していたが今は、少女が泣き止むまで、一夏は少女を抱き締め続けていた……。




 次回、血の雨へのタイムリミット
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