【ARIA】 その、いろいろなお話しは……(連作)   作:一陣の風

8 / 19
七本目のお話しをお届けします。

このお話しはなんと! 三部構成です!
いえ、ただたんに調子にのって書きすぎたら、収拾がつかなくなったってだけなんですが……(涙)
一応、今月中(今年中?)に三本全部投稿させていただく予定です。
どうか諦めず、最後まで読み進めていただけますよう、ひたすらにお願いいたします(平伏)

それではしばらくの間、お付き合いください。


第七話 前編

 < ETA-4620M >

 

「先輩方。オレンジ・ぷらねっとの七不思議ってご存知ですか?」

 

突然、アリス・キャロルが玉子焼きを齧りながら聞いてきた。

 

「七不思議?」

 

杏が、よせばいいのに鮭の身をほぐしながら聞き返す。

 

「はい。実はちょっと前に、ネオ・ヴェネツィアの七不思議っていう事件がありまして……

それならオレンジ・ぷらねっとにも、同じ様なことが、あるんじゃないかと」

「そういえば、そんな話聞いた事あるわ」

「杏?」

 

「どうですか先輩方。私と一緒に、七不思議を探してみませんか?」

「うん。それは楽しそうね」

「杏ってば」

「ミステリィですよね、でっかい謎ですよね」

 

アリスちゃんが、目をきらきらと輝かせながら言う。

 

私はトーストをかじりながら、ため息をついた。

 

 

 

  第七話 『 sette si chiedono 』 前編

  

 

私の名前は、アトラ・モンテェウェルディ。

この水の惑星アクアの都市、ネオ・ヴェネツィアで、ウンディーネと呼ばれる水先案内人をしている。

階級はシングル(片手袋)

まだ一人では、お客様を乗せる事はできず、プリマ(手袋なし)と呼ばれる一人前のウンディーネが同乗している時だけ、お客様を乗せて観光案内ができる、半人前。

 

 

私の前で、和風朝食セットを食べている、アリス・キャロルは、そのプリマにペア(両手袋)の見習いから飛び級昇進した

我がオレンジ・ぷらねっとの期待の新星。

でも、その実、まだまだ夢見がちな、15歳の女の子。

 

「えっと、まず。三階にある『開かずの間』でしょ。次に、夜中、どこからともなく聞こえてくる不気味な唄声。それから……」

 

私の横に座って、アリスちゃんと同じ、和風朝食セットをつついている杏が妙に嬉しそうに言う。

違うのは納豆がついてるか、ついていないかくらい。

ちなみに私は、この納豆という食べ物が苦手だ。 

だって発酵してるのよ。 

糸引くのよぉ!

 

 

 杏(あんず)

夢野 杏は、私と同じシングルのウンディーネ。寮では同室の親友。

私と一緒に、トラゲットと呼ばれる、大運河(カナル・グランデ)を渡る、渡し舟をしている。

で、名前の通りの夢見がちな女の子。彼女側の壁の棚は、ぬいぐるみで一杯だったりするのだ。

 

だから、アリスちゃんと杏の会話ともなれば、朝っぱらから、こんな話になる!

 

「ちょっと、杏。いい加減にしなさい」

「それから、中庭を走り回る創業者の銅像。夜中ひとりでに鳴るピアノ……」

聞いちゃいない……

 

「あと……」

 

アリスちゃんが、ちょっと声を低める。

「この食堂」

「食堂?」

「はい。夜中に何かが食堂を這い回るそうです。 ずる、ずる、ずる……って警備の人もコックさんも、でっかい知らんぷりですが……」

「はうあああ。 や、やめてよ、アリスちゃん……」

私の向かい。 アリスちゃんの横に座ったアテナさんのスプーンを持つ手が止まる。

 

 アテナさん。

アテナ・グローリィさん。「セイレーン(天上の謳声)」の通り名を持つ、オレンジ・ぷらねっとのエース・プリマウンディーネ。

でも、ドジっ子。

 

「そういう恐い話はしないでね……はぐふぅ!」

突然、アテナさんが悶絶し始める。

 

「アテナ先輩…ですから、ちゃんと冷ましてから食べてくださいって、いっつも言ってるでしょ?」

アリスちゃんが、冷たく言う。

アテナさんは、熱々の中華粥を、そのまま口に入れてしまったのだ。

 

ぐおおおおおーと、妙な踊りをおどっているアテナさんに、私は、お水を渡してあげた。

「はふう……ああ、ありがとう。アトラちゃん。助かったわ」

「いえ、どういたしまして。いつもの事ですから」

「はい。でっかい、いつもの事ですね」

「いつもの事ですよねぇ」

「ええ~ぇ」

 

アテナさんは、いつもこんな調子。

だからドジっ子。

信じられないほどの、ドジっ子。

だけど、それすらも含めて、みんなから愛されている、偉大なるドジっ子プリマ。

 

「アトラ先輩は、いつも、でっかい冷静です」

「え。そ、そんな事ないわよ」

「アトラ先輩!」

 

 -びしっ

 

と、音が鳴るくらいの勢いで、アリスちゃんが言い放った。

「私と一緒に、オレンジ・ぷらねっと七不思議を解き明かしてみませんか?」

「えええ?」

 

「あっ。それはいいかも。 だってアトラちゃん、ミステリィ大好きだものね」

「杏ぅ?」

「それなら、なおの事、私と一緒に不思議を、でっかく解き明かしましょう!」

「いえ、アリスちゃん?」

「それはいいわね。名探偵アトラちゃん登場ね」

「アテナさんまで……」

 

私は苦薬を飲まされたような顔になっていたに違いない。

 

確かにミステリィは、子供の頃から大好きだ。

ミドルスクールの時は、夢中になって夜中まで本を読みすぎ、今のように眼鏡のお世話に……

その時は、人と関わり合うより、本を読んでいる方が好きだったのだ。

そしてそれは、オレンジ・ぷらねっとに入った時も続いていて……

 

でも、ただ読むのと解くのは、また別の話なのになぁ。

それに時期が悪い……

私は小さく、ため息をついた。

 

 

 

 < ETA-4560M >

 

「でもさ。アリスちゃん」

朝食の後、杏とアリスちゃんは、ゴンドラ乗り場に足を運びながら、まだ七不思議の話を続けていた。

 

「さっきの話だと、五つしか不思議はないわよ?」

「そうなのです。杏先輩。 実は、七つ目の不思議に遭遇すると、でっかい大変な事が起こると言われてます」

「その話も、聞いた事ある」

「はい。ですから、この不思議は六つしかないハズ…七つ目が解明されてしまうと、でっかい大変が起こってしまうからです」

「なるほど……」

いや、杏。

そこは納得するとこなのか?

 

「でも。そうなると、やっぱり後ひとつ、不思議が残っているわね」

「はい。きっと実は、その不思議は私達の目の前に残っているのではないかと……」

 

私達が、わいわい言いながらゴンドラ乗り場につくと、まずオール置き場に向かった。

そこには、何十本ものオールが壁にかかっている。

オールには、それぞれ番号がふってあり、ウンディーネは、その決められた自分のオールを手に取り、ゴンドラに向かうのだ。

 

「あれ?」

「どうしたのアリスちゃん」

「いえ、私のオールがなくって……」

「え?」

「私はいつもアテナ先輩の横に掛けるようにしてるんです。 昨日ちゃんとここに掛けたハズなのに」

「な、なにかのカン違いじゃない。ともかく探してみましょう」

 

私はすばやく杏を引っ張ると、オールを探すふりをして、アリスちゃんから少し距離をおいた。

 

「杏。あなた、ちゃんとやったの?」

「うん。でもあれぇ。もしかしたら間違えちゃったかも……てへっ」

「あんたねぇ!」

「ふげげげげっ」

私は怒りのあまり、思わず杏のほっぺたを、両手でつねってしまっていた。

 

「あったわよお」

 

少し離れたところで、アテナさんが声をあげる。

 

「ああ。アテナ先輩、ありがとうございます」

 

あわてて駆け寄るアリスちゃん。

そこには確かにアリスちゃんのオール、<NO-18>が掛けてあった。

 

「どうして、こんなところにあるんでしょう……」

「あだだ…さ、さあ。だから、アリスちゃんのカン違いじゃない?」

「そうそう。人は誰でも自分のことは、よく分からないものだから」

「そんなハズは……」

「そ、そうだ。アリスちゃん。これこそ六つ目の不思議よ」

「ちょ、待っ……杏?」

 

「勝手に動く、オール。これが不思議でなくて、なんなのでしょう!」

「いや、杏。いくらなんでも」

「そうですねっ」

「納得したあ!?」

 

「アトラ先輩っ。ついに最後の不思議が私達の前に姿を現しました。 さあ、でっかい不思議に挑戦です!」

 

アリスちゃんが、小さくガッツポーズを決める。

うわぁ。すごいやる気。どうするの、コレ?

杏が、私にだけ見えるように、こっそりと手を合わせ、頭を下げた。

 

 

 

 < ETA-3540M >

 

 深夜・零時。

私と杏。

そして、アリスちゃんは、夜の人気のない廊下をゆっくりと歩いていた。

目的地は「開かずの間」

そこは、オレンジ・ぷらねっとの宿舎西側三階の一番端にあった。

 

「誰もいませんね……」

アリスちゃんが、ささやくように言う。

「もともとこの階は、会議室や資料室、倉庫なんかになってるから、この時間には誰も通らないわ」

「なるほど。アトラ先輩、でっかい理論的で明快な推理です」

「いや、そこまでは……」

「さあ、着きました」

 

私達は「第13款待(かんたい)倉庫」、通称『ウェン・リーの間』の前にたどり着いた。

「ここが『開かずの間』」

そこには、何の変哲もない扉があった。

 

「まず、この扉は異常です」

「アリスちゃん、どうゆうこと?」

「杏先輩。この鍵を見てください」

「これは……」

そこには暗証番号を打ち込むタイプの、頑丈な錠がかかっていた。

 

「こんなに厳重な警備をしなければならないなんて……匂いますね」

「い、いや、アリスちゃん。それは単に、この倉庫には、何か大切なモノが保管してあるって事じゃ……」

「でもアトラ先輩。それにしても、この電子錠は、あまりにも厳重過ぎます」

そう言って、アリスちゃんは電子錠に触ろうとして-

 

「だめっ。アリスちゃん!」

私の叫び声に、アリスちゃんの動きが止まる。

「ど、どうしたんですか?」

「触らないで。もしかしたら警報装置と連動してるかも」

「あ…そうですね。でっかい、そうかもしれません」

あわてて手を引っ込めるアリスちゃん。

 

 

「そこにいるのは誰です?」

突然、私達は暗闇から声をかけられた。

この声は……

 

「寮長さん?」

そこには、やさしい顔をした、小柄な、おばあさんが立っていた。

 

 

寮長さんは、ここオレンジ・ぷらねっとの宿舎寮の管理人さんだ。

いつも柔らかな物腰で、でも時には厳しく、私達に接してくれる。

私達ウンディーネの健康管理から、呼び出し、清掃、洗濯、消耗品の調達等の雑事も引き受けてくれる、文字通りの管理人さん。

 

でも、中でももっとも私達にとって大切なことは、彼女が私達のよき『相談相手』だということだ。

なかなか進級できないシングルや、入ったばかりで、ホームシックにかかったペアなんかの相談を、いつも親身になって聞いてくれる優しい人。

 

彼女のおかげで立ち直ったウンディーネは数知れない。

だから私達は、こっそりと彼女を事を『お母さん』と呼んで頼りにしていた。

 

実を言えば私も、昔はよくお世話になったものだ。

 

 

「アリス・キャロル? こんな所でなにしてるの?」

「いえ、その……」

「明日もお仕事なのだから、夜更かしせず、早く部屋に帰ってお休みなさい」

「……はい」

「さあ、アリスちゃん。行きましょう」

「あの、お母……寮長さん」

促す私達を無視して、アリスちゃんは『お母さん』に疑問をぶつける。

 

「どうして、この部屋は鍵が……こんな頑丈な鍵がかかっているんですか? それも『開かずの間』って言われるほどの……」

「ここは、倉庫ですからね」

寮長さんは、さも当然のように答えた。

 

「ここには、オレンジ・ぷらねっとの貴重な物品や、社外秘資料などが保管されているの。だから厳重に保管してるのよ」

「そう……なんですか?」

「ええ。だからこの鍵の番号は、私やアレサ部長を含めて数人しか知らないの」

 

「……あと、どうしてこの部屋は『ウェン・リ-の間』って呼ばれてるんですか?」

「え? さ、さあ。それは私も知らないわ」

「知らない?」

「ええ。いつの間にか気が付いたら、そう呼ばれるようになっていたわね」

「そうなんですか……」

 

「さあ、アリスちゃん。行きましょう」

私は、アリスちゃんの手をとると、足早にその場を離れた。

去り際に振り向くと、寮長さんが小さく手を振っていた。

 

 

 

 < ETA-2820M >

 

「………ピアノ」

「え?」

急にアリスちゃんが立ち止まった。

 

翌日の深夜、零時。

再び、私、杏、アリスちゃんの三人は「不思議」探索をしていた。

 

「どうしたの。アリスちゃん」

「先輩方。ピアノの音が聞こえませんか?」

「え? うんと……杏、聞こえる?」

「えと……」

私はすばやく、杏の足を踏みつけた。

 

「あうっ。き、聞こえない。何も聞こえないよ。アリスちゃん」

「どうしたんですか?  あっ、今。小さくですが確かに、でっかい聞こえました」

「で、でも。私も杏も何も聞こえなかったわ」

私の再びの『特別な合図』で、杏も慌てて、うなずく。

 

「アリスちゃんの気のせいじゃ……」

「いえ。確かにピアノの音が…これは七不思議のひとつ。ひとりでに鳴るピアノでは……行きましょう」

「アリスちゃん?」

アリスちゃんが、脱兎のごとく走りだす。

私と杏は、あわててその後を追いかけた。

 

「アリスちゃん。走ると危ないわよ」

「アリスちゃん。待って。待ってってば」

「先輩方。そんなに大声をあげないでください。でっかいうるさいです!」

 

ドラバタと足音も高らかに、私達は音楽室の前に到着した。

ちなみに音楽室も、第13款待倉庫と同じ西館にある。

もっともこちらは、二階だが。

 

「ここも鍵がかかってる……」

アリスちゃんが、扉を調べながら言う。

 

今度は間に合わなかったのだ。

 

「やっぱり、何かのカン違いじゃ……」

「アトラ先輩。でも私は、はっきりとピアノの音を聞いたんです」

「でも、アリスちゃん。こうして鍵はかかっている。と、ゆうことは、中には誰もいない……」

「ホントでしょうか?」

「え?」

 

「ホントに中に誰もいないんでしょうか?」

「も、もちろんよ。鍵がかかってるんだし」

「そ、それに、中に誰かいたんじゃ、ひとりでに鳴るピアノじゃなくなっちゃうよ」

「う……杏先輩。するどいです」

 

 -おっ、杏。ナイス・ツッコみ

  これなら今夜は………

 

「じゃあ。中に入って調べてみましょう」

「なんですってぇぇぇぇえ!?」

「ど、どうしたんですか? アトラ先輩。そんな大きな声で」

「う、ううん。なんでもないわ」

 

「もう、でっかい、びっくりするじゃないですか」

「アリスちゃん。でも鍵かかってるわよ」

杏が、ドアノブを、がちゃがちゃと触りながら言う。

 

 - 気づいてくれたか

 

「大丈夫です」

そう言うと、アリスちゃんは、おもむろに髪からヘヤピンを抜き取った。

「こんなこともあろうかと、用意しておきました」

そして器用な手つきで、ヘヤピンをドアノブに突っ込むと鍵を開けるアリスちゃん。

 

「ちょ……アリスちゃん。いったいどこで、そんな技を!?」

「前にも灯里先輩達と、ゴンドラ練習の時に、同じことをやったことがあります。でっかい一般常識です」

 

 「『 違う違う違う! 』」

 

私と杏は、同時にツッコんだ。

 

 

 

 < ETA-2810M >

 

「失礼しま~す」

そっとドアを開ける。

防音処理されたドアは、結構重い。

中は、当然のことながら真っ暗だ。

 

「灯りのスイッチは……」

「だめよ、アリスちゃん。灯りをつけちゃ」

「アトラ先輩?」

「昨日の倉庫の鍵のこと忘れたの? こんな夜中に電気なんか点けたら、それこそ警備の人が飛んでくるわよ」

「あ……確かに」

 

「幸い今夜は月灯りがあるから、窓のカーテンを開ければ、見えないほどではないわ」

「はい」

「じゃあ、杏とアリスちゃんは、部屋の中を調べて、私は隣の準備室を見てくる」

「らじゃ!」

「でっかい了解です」

 

私は、カーテンを開けながら部屋の中を探索する二人から離れて、準備室と書かれたドアに近づいた。

ドアノブに手をかけ、ゆっくりと回す。

ドアを開け、中をのぞき込む。

小さな部屋だ。灯りをつけなくても、音楽室に差し込む月灯りで、中の様子は、手に取るように分かった。

 

「アトラ先輩。そちらはどうですか?」

アリスちゃんが近づいてくる。

私はゆっくりとドアを閉めると、少し大きな声で言った。

 

「なにも、誰もいないわ。そっちはどうだった?」

「こちらも誰もいません。でもこんなものが……」

それは、携帯式のミュージック・プレイヤーだった。

 

「これは?」

「これが電源が入ったまま、床に置いてありました」

「ちょっと貸してみて」

私は、ミュージック・プレイヤーを受け取ると、再生のスイッチを入れてみた。すると-

 

「これは……」

音楽が流れてきた。それは『祝福の歌』だ。

 

 - おいおい

 

 

「これがさっきアリスちゃんが聞いた、ピアノの正体ね」

「え?」

「なにかの加減で、このプレイヤーのスイッチが入って、その音がアリスちゃんの耳に入ったのよ。さすがは耳がいいね」

「あああ、ありがとうございます」

「アトラちゃん。もうすぐ警備員さんの、巡回の時間よ」

杏が時計を見ながら言う。

 

 -よし。ナイス・フォロー

 

「分かったわ。杏。アリスちゃん。とりあえず、ここを出ましょう」

「らじゃ」

「でっかい了解です」

 

 

「これで、ひとつ目の不思議を解き明かしたね」

「杏先輩。まだまだです。まだ、ひとつしか解き明かせていないんです」

 

う~ん。なぜにアリスちゃんは、こんなにも不思議にこだわるのか。

誰か教えてください。

 

「とりあえず今夜はこれで解散ね。寮長さんじゃないけど、あまり夜更かしは……」

「ひっ」

突然、杏が私にしがみついてきた。

 

「な、な、何? 杏。ど、どうしたの。わ、私にそっちの趣味はないわよっ」

「な、何か………」

「へ?」

「なにか今……」

「え?」

「なにか今、私たちの後ろを通ったあ!」

「えええ?」

「私も見ましたっ」

「アリスちゃん?」

「な、なにか灰色のものが、私達の後ろを横切って、階段を上がっていきました」

「ええ?」

「追いかけましょう!」

再び、脱兎のごとく駆け出す、アリスちゃん。

 

 - いけない! あのタイミングでは間に合わない。

 

「アリスちゃん。危ないわよ。アリスちゃん!」

「うわあん。待って待って待ってってばっ。ひとりにしないでぇ」

そして再び、私達は、アリスちゃんを大声で叫びながら、追いかけるはめになった。

 

 

 

 < ETA-2790M >                                       

 

三階に向かう階段の踊り場で、私はようやく、アリスちゃんに追い着いた。

「待って、アリスちゃん」

私は、アリスちゃんの腕をつかむと、強引に引き止めた。

 

「アトラ先輩。なぜ止めるんですか」

「アリスちゃんっ。いえ、オレンジ・プリンセス」

「は、はい?」

急に自分の通り名を呼ばれて、アリスちゃんは戸惑ったように足を止めた。

 

 

 【 通り名 】

それは、プリマ・ウンディーネだけが持つことを許された、もうひとつの名前。

一人前の証。

そしてアリスちゃんのそれは『オレンジ・プリンセス(黄昏の姫君)』

 

 

私は頭をフル回転させて、答えを見つけ出そうとしていた。

 

「あなたは、オレンジ・ぷらねっとのプリマ・ウンディーネなんです」

「は、はい」

「そんな、あなたがもし、走ってる最中に転んで、怪我でもしたらどうするんですかっ」

「え……?」

「それに万が一、あの人影が本当に不審者だったらどうするんです」

「不審者?」

「ええ。あなたはプリマ・ウンディーネ。会社にとって、唯一無比なもの。 

 特にあなたは、オレンジ・ぷらねっとの、至宝ともいうべき存在」

「いえ、あの、私は……」

「いいですか、オレンジ・プリンセス」

「は、はい」

 

「無茶はしないでください」

「え?」

「もう一度、言います。あなたはプリマなんです。少しでも危険なことは避けた方がいい」

「で、でもアトラ先輩」

「アトラでいいです」

「え?」

 

「あなたは、プリマなんですから、シングルの私を呼び捨てにしてもいいんです」

「いえ、あの……それはできません」

「アリスちゃん?」

「すいません。私、いくら自分がプリマだからと言って、アトラ先輩や杏先輩。

 それに他の先輩方も、呼び捨てにはできません。でっかい……でっかい、ごめんなさい」

 

そう言うと、アリスちゃんは少し顔を紅らめ、下を向いてしまった。

 

 - いい子なんだ

 

と、嬉しく思う反面。チクチクと突き刺す罪悪感に、私の胸は痛んだ。

 

 

「はあはあはあ……みんな待ってよぅ」

杏がようやく追い着いてきた。

「杏。アリスちゃんをお願い。私が先に行くわ」

「アトラ先輩っ」

「大丈夫です。危なかったら逃げますから。二人は少し距離をおいて、付いてきてください」

私はそう言うと、ゆっくりと階段を上がり始めた。

 

 

三階の通路には、誰もいなかった。

なんとか間に合ったらしい。

本当に、ゆっくりと歩みを進めながら、私は冷や汗が出るのを止められなかった。

 

 

 

 < ETA-2760M >

 

「やっぱりここですか……」

アリスちゃんが、つぶやくように言う。

 

私達はまた、第13款待倉庫『ウェン・リーの間』の前に立っていた。

「鍵はちゃんと確認したわ。ちゃんと掛かってる」

「どういうことでしょうか……」

 

私は少し肩をすくめながら、アリスちゃんに答えた。

 

「1.『何か』は、最初からいなかった

 2.『何か』は、いたけれど。それはこっちには向かわなかった。

 3.『何か』は、ここの解除コードを知っていて、鍵を開けて入った。

 4.『何か』は、ここを、なんらかの能力で、通り抜けていった……」

 

「1と2は違いますね。私は、はっきりと見ましたし、杏先輩も見てます」

「うん、うん。確かに」

おいおい、杏。空気読め。

 

「3は、それこそ無理でしょう。だって鍵の解除コードを知っているのは、数人しかいないって、昨日、お母さんが、おっしゃってましたから」

「…………」

「と、なると……」

「残るは4の、通り抜けていった……」

「…………」

「なに、なに。人間じゃないの?」

 

杏ぅ? 部屋に帰ったら説教よ!

 

 

「これはどういうことでしょう」

アリスちゃんの顔が、若干、青ざめて見えた。 ごめんね。

 

「やはりここには、何かあるんでしょうか」

「確かにね。だから今はあまり近づかないようにしましょう」

「え?」

「ここの謎を解くには、もっと情報が必要です。お互い、もっと情報を集めてから改めて検討してみましょう」

私の言葉に、アリスちゃんは素直に『分かりました』と、うなずいてくれた。

 

 - やれやれ。なんとかなった

 

私が安堵したのも束の間。

再び、杏が抱きついてきた。

 

「杏? だから私には、そっちの趣味は……」

「アトラちゃん。あれ、あれえ!」

杏は、震える手で、窓の外を指差した。

「あれは……」

アリスちゃんも、身を乗り出して絶句している。

 

中庭の森の中を、何かが駆け抜けて行く!

 

それは、妙に頭の大きな、まるで銅像のような色をした灰色の何かだ。

それは、不規則な動きを繰り返し、やがて茂みの淵で忽然と姿を消した。

それは、不気味な声とともに……プッイヌフゥゥゥ…

 

おひおひ。

 

「アトラ先輩っ」

「な、なに、アリスちゃん」

アリスちゃんが、頬を上気させながら叫んだ。

 

「あれは、あれこそが、不思議のひとつ。夜中に走り回る、創業者の銅像です!」

「ええ!?」

「あの最後の不気味な声が、でっかい証拠です」

「いや、あの……」

「そうなんだ。あれが走る銅像……」

「杏ぅ?」

 

「私、再び、でっかい燃えてきました! アトラ先輩っ」

「は、はいい?」

「お互い頑張りましょう。絶対、絶対、七不思議を解き明しましょう」

「うん。がんばろうね」

「もしもぉ~し……」

 

ひとり盛り上がるアリスちゃん。

まったく能天気な杏。

 

そして、こっそりタメ息をつく私。

 

う…うん。

私も頑張ろう……たぶん。

 

 

 

 < ETA-2400M >

 

 Un discorso di interludio- 間奏話 Ⅰ

 

 

「おはよん、アトラちゃん。朝だよ」

「ううん……もう朝?」

「珍しいわね。アトラちゃんが、朝、すぐに起きれないなんて」

「しょうがないでしょ。 例のことで、寝不足気味なの。 あれ?」

「どうしたの、アトラちゃん」

「いえ、眼鏡がなくて……」

 

「へっ? そこにあるのは?」

「うん。今日は、いつもとは違う色の眼鏡の気分だったんだけど…ないのよ」

「あちゃっ」

「え?」

「ううん。なんでもないよ。それでないと困るの?」

「困るわけじゃないけど……最近ずっとかけてなかったから、今日はなぜか、その気分だったのに……」

「どっか、違う場所に置いたんじゃ…」

「う~ん。そんなハズはないんだけど……」

 

「と、とりあえず今日は、違う眼鏡で行けば? 時間もないし……」

「う~ん。そうねえ」

「また帰ってきてから探しましょう。私も手伝うから」

「そうね。しかたないか……ありがとう、杏」

「どういたしまして。 じゃ、行きますか」

「うん」

 

 

 

 < ETA-2100M >

 

「先輩方。聞き込みの結果がでました」

「聞き込み?」

「はい。例の七不思議の件ですが……」

「七不思議?なんか面白そうな話だな」

「あゆみ?」

 

 トラゲット。

その、お昼の休憩中。

私、杏、あゆみが昼食をとっていると、午前の営業を終えたアリスちゃんが合流。

そこにARIA・カンパニーの灯里ちゃんや、アリア社長まで加わって、軽いパーティのような昼食会になっていた。

 

 

 あゆみ。

あゆみ・K・ジャスミンは姫屋のウンディーネで、私達とはよく一緒にトラゲットをする友人。

彼女は(私を含め)他のウンディーネと違い、プリマにはなろうとせず、シングルのまま、

地域密着型であるトラゲットに、愛情をささげる、少し変わったウンディーネ。

でも性格は裏表の無い、はっきりとした性格で、姫屋の中でも人望が厚く、同僚や上司からも頼りにされていた。 

もちろん、私の大切なお友達。

 

 灯里ちゃん。

水無 灯里ちゃんは「アクアマリン(遥かなる蒼)」の通り名を持つ、ARIA・カンパニーのプリマ・ウンディーネ。

私達とは、彼女がまだシングルだった時に、一度、トラゲットをした仲。

彼女との出会いは、くじけそうだった私に、もう一度、元気と勇気をくれた、とても大切な出来事。

あゆみと同じ、素適な友人。

また灯里ちゃんはもともと、アリスちゃんの知り合いでもあったのだ。

 

 そして、アリア社長。

アリア・ポコテン社長は、ARIA・カンパニーの青い目をした火星猫さん。

ここ、ネオ・ヴェネツィアの水先案内店では、航海の安全を守るシンボルとして、青い瞳の猫さんを、

会社の社長とするのが、習わしだった。

ちなみに火星猫さんは、喋れはしないけど人の言葉は理解できるのだ。

 

 

「アリスちゃんは、あゆみとは初対面だったよね」

「え? いえ、いや、はい。あ、あの、でっかい初めまして、あゆみさん。私はアリスです」

「お?うお、おう? あ、ああ。ま、まったく初めまして、アリスちゃん。ウチは、あゆみ」

 

 -ん? なんだ、今のは…まるで……

 

「お、おいアトラっ。で、で、七不思議ってなんだい?」

「え、ええ。ああ、つまりそれは……」

あゆみの叫ぶような言い方に、私の思考が中断される。

 

 

私は、これまでの話をかいつまんで、あゆみと灯里ちゃんに話して聞かせた。

 

「あの第13款待倉庫。通称「ウェン・リーの間」は、なぜ、あんなにも厳重に守られているのか……」

アリスちゃんは、ゆっくりと話始めた。

 

「こんなに厳重に守らなければならない理由…それは、ずばりっ」

「ずばり?」

「あそこは『死の部屋』なのです!」

「死の部屋ぁ!?」

「はい。私が昼間、関係者の方々に聞き込みをした結果、そういう結論に達しました」

「聞き込みって……どういうこと?」

 

「実は、ペアの間で伝わっている伝説なのですが、あの部屋で昔、いつまでたっても昇進できなかったペアのウンディーネが、将来を悲観して飛び降り自殺を図った-という、事件があったそうなのです」

 

ああ、確かにそんな噂あったなぁ……

私は、遠くのカンパニーレ(大鐘楼)を仰ぎ見た。

 

「幸い命は取り止めましたが、彼女は二度と、ゴンドラに乗ることはできなかったそうです」

「………」

 

「それ以降、夜な夜な、あの部屋ではいろんな怪奇現象が多発したため、このような頑丈な電子錠をかけて、封印したのだそうです」

「なるほど……」

 

「そしてそのウンディーネの名前が、ウェン・リー・アンって言うのです」

「アン……ウェン・リー…」

 

「はい。それでそれ以来、あの倉庫は『ウェン・リーの間』と呼ばれ、開かずの間になったのだとか……」

「怖いですねぇ」

灯里ちゃんが言う。

 

 ー ほんと。 怖い怖い。

 

「そして次の不思議。夜中に聞こえてくるピアノの音」

「はへえ? アリスちゃん。それは解決したハズじゃ……」

「え? 灯里先輩。どうしてそれを、でっかい知ってるんですか?」

「はひっ。えっと、それはつまり……」

「あ。それはさっき私が灯里ちゃんに話したの。そうよね。灯里ちゃん?」

「は、はひっ。そうです。そうなんです。だよ、アリスちゃん」

「ぷ、ぷいぷいにゅううう」

アリア社長もあわてた感じで叫んだ。

 

アリスちゃんが、不審げに小首を傾げる。

 

「そういえば灯里先輩。その傷、どうしたんですか?」

「はへ?」

「ほっぺに腕にヒザに……でっかい絆創膏さんです」

 

 -うわっ。鋭い!!

 

「灯里ちゃんは、なにか歩いてる最中に、転んじゃったみたいなの」

「ほへえ…アトラさん? 私……」

「うほんっ」

思わず、咳払いと、視線をばちばちっ。

幸い、灯里ちゃんは、気付いてくれた。

 

「あっ、う、うん。そうなの。私ってばドジっ子さんなのかなぁ…ま、まるでアテナさんみたいだね。あは…あはは……」

「アテナ先輩ほどのドジッ子さんはいないと思いますが……大丈夫なんですか?」

「うん。ぜんぜん大丈夫。元気!元気!! あはっ……あははは」

「……ならいいんですけど」

 

 -ふう。やれやれ。

  どうしてアリスちゃんはこう、妙なところでカンが良いのか……

 

「それよりアリスちゃん。 ピアノがどうかしたの?」

私は、あわてて続きをうながした。

 

「え、はい。 実はあの音楽室でも昔、同じような話があったそうです」

「えっ。そうなのアリスちゃん」

「はい。灯里先輩。声がでなくなったプリマが、やはりあそこで自殺を図ったとか……」

「ひ………」

「ぶぎっぷぷぷぷ……」

 

灯里ちゃんとアリア社長が、真っ青になって絶句する。

 

「どうしたんですか、灯里先輩。アリア社長まで、急に、でっかい涙なんか浮かべて……」

 

『あうあうあう……』と口をぱくぱくさせる灯里ちゃん。

『ぷうううう……』絶句しているアリア社長。

まあ、気持ちは分からなくもないが………

 

「それ以来、音楽室と第13款待倉庫では、不思議なことが起こるようになったとか……」

「う~ん」

「そして夕べ見た、中庭を走る銅像……」

「はうあ? そ、そんな……中庭でぇ?」

「そうなんです、灯里先輩……って、なにかご存知なんです?」

「え、いえ、そんな。私がそんなコト、知るわけナイジャナイデスカ……」

 

 灯里ちゃん。めちゃくちゃ不自然!!

 

 

「もともと、あの銅像は、オレンジ・ぷらねっとの創業者ユリアン・アマデウスの像なんです。そして、でっかい問題なのは、なぜそれが走り出すか-と、いうことなんですが……」

 

 - アリスちゃん。 もう走ることが前提なのね。

 

「私が調べた結果、ユリアンは、このオレンジ・ぷらねっとがネオ・ヴェネツィアの水先案内店として、定着する前に他界されたということで、きっとその心残りが霊となって、銅像に乗り移り、夜な夜な、オレンジ・ぷらねっとを徘徊するのではないかと……」

 

「すごい……」

私は、わざとらしく、感嘆の声をあげた。

「アリスちゃん。よくひとりで、ここまで調べたわねぇ」

「ありがとうございます。アトラ先輩。私、でっかい頑張りました。

 で、あと残る不思議は……」

 

アリスちゃんは続ける。

 

「どこからともなく聞こえてくる不気味な唄声。夜中に食堂を這い回るモノ。そして私のオール。この三つです」

「え? オールの件は、アリスちゃんのカン違いじゃ……」

「そんなこと、でっかいありませんっ。私がアテナ先輩の横に掛け忘れるなんて、でっかい、ないです!」

 

真剣な顔で、力説するアリスちゃん。

「アリスちゃんは、アテナ先輩のことがホントに大好きなのね」

「え…いや、そういうわけでは……」

 

やっぱり顔を紅らめて、うつむいてしまうアリスちゃん。

その様子を、みんなは微笑ましく見ていた。

 

 

 

 < ETA-2030M >

 

私はそっと、灯里ちゃんに目配せした。

灯里ちゃんは、小さくうなずいた後、打ち合わせ通り言ってくれた。

「あのね、アリスちゃん。もういいんじゃないかなぁ」

 

「灯里先輩?」

「さっきアトラさんから聞いたんだけど、アリスちゃん。夕べ大変だったんでしょ……」

「そうだ、アリスちゃん。あんまり危ないことはしない方がいいぜ」

「あゆみ先輩?」

「うん。私もそう思う」

「杏先輩……」

「ぷいぷーい」

「アリア社長まで…」

 

「アリスちゃん」

予定通り、最後は私が言う。

 

「昨日も言いましたが、アリスちゃんはプリマ・ウンディーネなんです。 だから今回の件でも、あまり、深入りは止めた方がいいと思います。 だから、もう止めましょう。不思議は不思議のままでいいんです」

「ダメです」

 

うわっ。即行否定!?

 

「私はどうしても、オレンジ・ぷらねっとの七不思議を解明するんです」

 

「どうして?どうしてアリスちゃんは、そんなに七不思議にこだわるの?」

でっかい頑ななアリスちゃんに、思わず-と、いった感じで灯里ちゃんが訊ねた。

 

「ネオ・ヴェネツィアの七不思議を経験した人が、それを言うんですか?」

「え………?」

「私だって…私だって、ネオ・ヴェネツィアの七不思議を体験したいんです。でも、でも私は……私には、その資格がなくて…うらやましくて……」

「アリスちゃん……」

「だから私はせめて、オレンジ・ぷらねっとの七不思議を体験して、それを解明したいんです」

うつむき加減で、少し涙声で、叫ぶように言うアリスちゃん。

 

「アトラさん……」

灯里ちゃんが、何か、すがるような目で私を見てくる。

見回すと、あゆみや杏、アリア社長までもが、同じような目で、私を見てくる。

 

 

 - そんな目で私を見るなああ! 

私だって、私だって………ああ。まったくもう。

 

私は小さいサイ(ため息)をつくと、仕方なく言った。

 

「分かりました、アリスちゃん。 最後まで付き合いますよ」

「あ、アトラ先輩。ホントですか!?」

「ええ。しょうがありません」

「あ、ありがとうございます」

「でも……」

私は、釘をさすことを忘れなかった。

 

「危ないことは、なしですよ」

「は、はい」

「私も、私も手伝うっ」

「杏?」

「ウチも手伝うぞぉおっ」

「あゆみ?」

「はひっ。私もおよばずながら、力になります」

「ぷいぷいにゅっ」

灯里ちゃんとアリア社長が、目をうるませながら言う。

 

「みなさん。でっかい、ありがとうございます」

アリスちゃんは、立ち上がると、深々と頭を下げた。

 

……

……まったく

 

まったく、なんて、お人好しで、おバカさんな人達なんだろう。

状況を理解しているのか?

本質を見誤ってないか?

なんのための打ち合わせだった?

 

……

……でも

 

でも、私は、そんな彼女達が、大好きだっ。

 

 

「それじゃ今夜もまた、24時に私と杏の部屋に来てください」

「はい。アトラ先輩」

「でも無理はしませんよ」

「はい」

「あゆみと灯里ちゃんは、サポートをよろしく」

「おう。まかせとけっ」

「はひ。了解です」

 

「ぱ、ぱぱぱあ~い」

アリア社長が、私の服を引っ張りながら言う。

「はいはい。アリア社長も、しっかりお願いしますね」

「ぱあーい、ぱっ!」

 

こうして成り行きとして、今夜もまた、夜更かしが決定した。

はあああ。

 

 

 - アトラちゃん

   なに、杏

   ため息ばっか付いてると、幸せ逃げるって言うよ

   …………………はああ……

 

 

 

 < ETA-1440M >

 

誰かがドアをノックした。

「誰ですか?」

「あ、あのアリスです」

早っ。

私は小さくドアを開いた。

 

「どうしたのアリスちゃん。まだ時間早いわよ?」

「すいません。アトラ先輩。実はちょっと問題が……」

「問題?」

「はい。あの、ここじゃ話せなくって……」

「あ、ごめん。ちょっと待って。シャワーあびてたものだから」

「あれ? 先輩、さきほど大浴場にいませんでしたか?」

 

「え? ああ。その後、ちょと汗かいちゃったものだから」

「はあ……」

「ちょっと待ってね」

私はいったんドアを閉めると、部屋を横切り、シャワー室の扉も閉めた。

 

それから改めてドアを開くと、アリスちゃんを部屋の中へと招き入れた。

 

「すいません。急にお訪ねして。あの…杏先輩は?」

「杏は打ち…いえ、用事で他の部屋に行ってるの。それで、どうしたの?」

「はい…実はアテナ先輩がいなくて……」

「いない?」

「はい。いつもこの時間には部屋で本を読んでいるのに……」

「いないの?」

 

「はい。実はアテナ先輩、この一週間、毎晩、夜中にこっそりと部屋を抜け出しては、どこかに行ってしまうんです」

「どこかに……」

「そして深夜。 私が眠りについたのを、まるで見計らったかのように、アテナ先輩は戻ってくるんです。でっかい不思議です」

「偶然じゃない?」

「そんな偶然が、一週間も続くでしょうか?」

 

 

「……今、アテナさんは?」

「まだ、大浴場だと思います」

「そう…ならアリスちゃん。今、いったん部屋に戻って、アテナさんがまた部屋を抜け出したら、私達の部屋に来て。それから、アテナさんが、どこで何をしているのか、確かめましょう」

 

「分かりました。でっかい了解です」

「うん、じゃ、また後で」

アリスちゃんは、礼儀正しく頭を下げると部屋を出て行った。

私はドアを閉め、それからシャワー室の扉を開けながら、つぶやいた。

 

「プラン変更ですねぇ」

 

 

 

 

               Essere continuato (つづく)-

 




あと書きのような、なにかー
は、お休み(鹿馬)

今回は、最後のお話しの後に書かせていただきます。
だってサ。
何書いてもネタバレになりそうで……って出し惜しみする程のネタもないって?
それは言わない約束で……(号泣)

次回「中編」もどうか御贔屓に。

 それではいずれ、春永にー


あ
私、関西人ですが納豆食べれます!(弩阿呆)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。