正義と剣製と白兎   作:健坊

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戦いの後の一幕

とある少年の話をしよう。

少年は最初特筆するべき者ではなかった、という事実を念頭に置いてほしい。

いたって普通に悪戯をして親に怒られたし

いたって普通の優しさを持って友人と接していたし

いたって普通に自分の正義感を燃やして義憤に駆られたりもした。

本当に普通のどこにでもいる少年の一人だった。

決して物語の主人公に選ばれるような才能も無かったし

英雄と言われるべき力だって勿論無かった。

しかしそれでも少年はきっと幸福の中に居ただろう。

それを実感していたかどうかはまた別の話にはなるが

親の愛情、友からの親愛、先達からの信用

多くの人としての肯定を背にしていただろうことは疑えない。

されとて運命とは、決して己の人生を断定するものではない。

災厄が少年を襲ったのだ。

それは少年だけでは無く、少年が知り得た世界全てを燃やすほどの災厄だ。

少年は文字通り自分の体以外を失った。

周りの人間、環境だけでは無く、形成してきた人格さえも

少年は焼失してしまったのだ。

 

しかし、少年は生きている。

一人の男にその命を救われた。

少年を助けた時の男の顔を、少年はいつまでも胸に抱いてる。

救った筈の男が、真に救われた瞬間だ。

綺麗だと、美しいと少年は思った。

そして少年はその男の背中を目指した。

 

 

『正義の味方』

 

 

かつて男が抱き、捨てようにも捨てられず、ただ諦めてしまったもの。

そして少年が目指し、決して違わぬ様、その小さな両手で掴もうとするもの。

いつかの青年が理想と現実の狭間でもがき、苦しみ、そして絶望したもの。

数多くの出会いと別れを繰り返しながらそれでも彼らは帆を張り進み続けた。

挫折と後悔を繰り返しながらも、それでも諦められない信条があった。

あらゆる矛盾を抱えながらもの、この身は誰かを救うべくあるものだと定義した。

その背中を覚えている

高く、厚く聳え立つそれはまさに壁だ。

乗り越えるか、ぶち破るか、突破すべき壁だ。

遺志を継いだ少年が見据える自身の未来の可能性

ひとつの戦いの中

本来は有りえぬだろう邂逅が、少年を強くした。

力も体も心も強くした

理想もまた、強くなった。

しかしそれを是とするものは本人以外には存在しない。

三つの宝石が少年を繋ぎ止めている。

 

何度も諭された。

何度も導かれた。

何度も説得された。

何度も訴えられた。

何度も懇願された。

 

青と赤と桜色の道標が少年の前に建っている。

何度も違えた己の進む道。

いや、本来ならばそれは許容できる程度のものだ。

本人が納得していようが我慢できない者が居たということだ。

そしてまた一つ、緑の宝石が少年の心にそっと置かれた。

 

青の宝石は『道』を

赤の宝石は『意志』を

桜色の宝石は『帰路』を

緑の宝石は少年の心に一体なにを示すのか

 

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・・

 

頬に落ちる温もりが自身の意識を覚醒させる。

細く、しなやかで温かい感覚。思わず手に取って満足するまで握っていたい。

そんな衝動に駆られるがいまいち自分の体の奴が言う事を聞いてくれない。

自分の状況はなんとなく把握している。自己解析は得意な方だ。

強引な魔術回路の起動のおかげか、外側より内側の方がダメージは大きいようだ。

しかし回路の方の損傷は無し。筋繊維なんかが痛んでしまった程度か

それなら飯を食って寝ていればそれこそ超回復するというもの。

 

「あの…」

 

ならさっさと起きて少しばかり療養しようか…。

なんて考えちゃいるが、はてさて自分は一体どれくらい意識を失っていたんだろう?

2日3日?まさか1年以上も惰眠を貪っていたわけじゃないだろうし

 

「士郎さん?起きてますよね」

 

いやいや、起きてる。起きているよ?

だけどどうもにも体が言う事を聞いてくれないし、目ん玉を塞いでいる瞼のやつが

立ち上がってくれない。

冬の布団、もしくは炬燵の中に居るような緩慢な暖かさと同居しているような

そんな気だるさと心地よさが混在しているせいで

 

「そんなに手を揉まれると恥ずかしいのですが」

「なんでさあああああああああ!!?」

 

先ほどの倦怠もどこへやら。

勢いよく上半身を起こした俺は隣で口角の端っこを厭味ったらしく上げているエルフ様を見つけた。

なんだか気恥ずかしさを感じた俺はそんなエルフ様から視線を切るように少し頭を下げた。

そして目に映ったのは、俺の右手がエルフ様の左手をしっかりと捕まえている光景だった。

なるほど

さっきの願望がそれに止まらず、文字通り手を出してしまっていた訳だ。

道理でなんだか気持ちのいい感覚が・・・ってそうじゃない!

 

「ご、ごめんリュー!」

 

羞恥に負けた俺はリューの手を払い除けるように手放した。

なんだか動悸が止まらない、断りも無く女性の手を弄んでしまった罪悪感が俺を責め立てる。

ちらりと彼女を盗み見ると、何事も無かったかのように真顔のまま、気にしないで下さい。とあっさり俺を許した。

なんだか魔術鍛錬よりしんどかった、そんな一幕。

 

 

閑話休題

 

 

 

「傷は…大丈夫そうですね?痛むところはありますか?」

「いや、心配かけた。俺はもう大丈夫だ」

「はい、心配しました。」

「ぐっ…」

 

まっすぐにそんな感情をぶつけられると、どうにも参ってしまう。

ぐぅの音も出ない、ただただすまんと頭を下げる

 

「あの母娘は」

「はい、無事保護して頂きました。傷もかすり傷程度でしたので」

「そうか、よかった」

「お礼を言っていました、士郎さんに」

「逃がしてあげたのはリューなんだけどな」

「その時間を稼いでくれたのは士郎さんですから」

「そっか」

「そうです」

 

聞けば町の住人の被害も大きいものも無く、死者は出なかったそうだ。

その事実に深く安堵した。

火も起きていなかったし、建物が大きく崩れてもいなかった。空に黒い太陽も無かった。

だけど、あの日と状況が被っていた。

どうしようもないほどの理不尽な事象に全て飲み込まれてしまう恐怖

自分は何も出来ない、ただ無力なまま命を見捨てることしか許されない。

そんな、地獄。

 

「路地裏の正義の味方」

「…なんだって?」

「そんな風に言われてましたよ、自分の身を顧みず、母娘を助ける男の子」

「…」

「まるで、正義の味方。だそうです」

「そんなんじゃ、ないよ…俺は」

「いえ、あなたがどう言おうと人はそう称えるでしょう。事実貴方は人を助けたんですから」

「リュー」

「はい」

「俺は正義の味方になりたかった」

「はい」

「養父の夢を引き継いで、誰かを助けるヒーローのような。そんな正義の味方」

「はい」

「俺は、なれなかったんだ…」

「記憶、戻りましたか?」

「全部では無いけれど、自分が何者だったのか、何をしようとしたのか」

「…はい」

「セイバーのことも」

「…っ」

 

その名を口にすると、リューは下唇を噛むような仕草を見せた。

悔しそうな、でも心なしか安堵の顔だ。

俺の記憶が多少なりとも蘇ったことに対してだろうか。

それとも…。

 

「あの、剣は一体…?」

「見たのか?そうだな、あれはセイバーの剣。カリバーンっていう王を選定すると言われる剣だ」

「あれをどこで手に入れたんですか?あんなもの貴方は持ってはいなかったはずです」

「あぁ、あれは創ったんだ。厳密にいえば偽物なんだけどな」

「つくった?」

「詳しくは今度話すよ、俺も少し混乱しているから整理がしたいんだ」

「あ、すみませんでした。病み上がりなのに長々と」

「いや、いいんだ。看病ありがとな。起きた時、リューが居てくれて良かった」

「―――っ。また貴方はそういう事を言う」

「…礼を言ってるのに何故に睨まれるのか」

「士郎さんですからね」

「だから、人の名前を形容詞のように使うな」

 

 

あの日から一体どれほど日数が経ったのか未だにわからないが

とりあえず事件は落着したようだ。

どうやらベルの奴も事件に巻き込まれたようだが、無事に切り抜けたらしい。

良かった、神様も一緒だったらしいが大きなケガは無いらしい。

あんまり無茶な事はしないで欲しいもんだ。なんて言ったらリューになんとも形容し難い変な顔をされた。

確かに、正しくお前が言うなというところだ。

今更周りを見渡せばどうやらここは酒場にある俺が間借りしている部屋だ。

そこらに転がっているガラクタを見て、なんだか笑いが込みあがる。

記憶を失っていようがいまいが、やる事は変わらない。本質が衛宮士郎なのだから。

それこそ仕方ないというものだ。

 

「ふぅ」

 

一息吐く。

全部じゃないにしろ、記憶が戻った。

そのことに少し時間をかけて考えてみようと思う。

女将さんにサボってしまった事に謝罪しようとベッドから降りようとしたら

すごい剣幕でリューに怒られたので、しばし安静にしようと思う。

なにせほんとおっかない。

俺の周りに居る女の子は何故にこうも強いのか…。

いや、約一名女の子と定義していいのか迷う虎が居たり居なかったり。

止めておこう、竹刀飛んできそうだ。

時間的には昼下がり頃だろうか?青い空がどこまでも続いているようで

しかし、決してこの空は冬木の街までは続いていない。

一抹の不安の胸に抱えつつ、俺は―――。

 

トン、と扉をノックする音が部屋に木霊する。

顔が上げたリューが確認を取るように俺の顔を覗き込む。

俺がゆっくり頷くと、リューは立ち上がり、来訪者を部屋へと招く。

どうぞと声を掛けられて入室してきたのは、腰まで届きそうな長い金髪を靡かせる

剣姫と皆から呼ばれている、アイズだった。

 

「アイズ?どうしたんだ?」

「士郎、お願いがあるの」

「あぁ…俺に出来ることならやるぞ」

「士郎さん」

「うっ」

 

ジトっとした目が俺を射抜く。

まさしく的中した。云わんとしていることはわかるが

だけどわざわざアイズが俺を訪ねて頼ってきたんだ。

無下にするわけにもいかない。

頼みってなんだ?と、少し眉間に皺作って難しい顔をしているアイズに声をかける

 

「私と、戦って」

 

「……………………なんでさ」

 

たっぷり10秒程時間をかけて俺は返答をなんとか返した。




リハビリのような、お久しぶりです。
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