正義と剣製と白兎   作:健坊

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Fate/stay night Ⅱ

冬木市の霊脈の中でも特級の位にある柳洞寺。その山中の奥深く。

聖杯が自身の生誕が今か今かと待ちわびている。

そも願望器と言われる聖杯ではあるが、実際冬木のソレはそのような機能は持ち合わせてはいないのだ。

召喚されたサーヴァントが討伐され英霊の魂が魔力に変換されて消滅する瞬間、それを吸収。

一騎の英霊の魔力量は一級の魔術師が持つ魔力量すら大きく上回るものだ。

そうして七騎分の魔力を搭載した聖杯は、魔術師から見れば、そら、どんな願いだって叶うだろう。

しかし今は、そんな願いすら叶えられないものと成り下がってしまっている聖杯。

アンリマユにより、邪悪なるものとしか在れない物となっている。

この世全ての悪

善・悪

二元論だけでは語れないこの二つの定義。

かくして衛宮士郎は如何なる手段を用いてその悪を打倒するのか。

 

では、語るとしよう。

衛宮士郎が選んだ、正義の味方の物語である。

 

間桐桜の真実を聞かされた衛宮士郎の決断。

後輩を助け、街を救い、平和を目指し、このバカげた戦争を終わらせるというもの。

自分ひとりではなにも出来ない。否―――

それではアーチャーと同じ道を辿ってしまう。

奴は過去、

なにもかもを一人で背負ってしまった。

差し伸べられた手も、掛けられた声すらも、不要と断じて、犠牲を出さない為に目を背けた。

自分は違う。

自分は弱い。

自分じゃ足りない。

しかし悲観はしない。

セイバーが居る、遠坂が居る。

ならば、一体なんの不安があるというのだろうか

自身が知りえる最強の剣と、自身が知りえる最強の魔術師が居るのだ。

そして、こんなちっぽけな自分に手を貸してくれる。自身の願いを叶えてやろうと力をくれる。

ならばその思いを裏切る訳には決していかない。

何度でも言おう。

衛宮士郎は正義の味方である

自身の理想を遂げる為に、あらゆる努力を惜しまない。

 

ともあれ衛宮士郎ら一行は間桐桜を止めるべく柳洞寺を目指す。

目的は間桐臓硯の排除、聖杯の破壊、桜の救出の三点。

セイバーは聖杯の破壊に難色を示したが、彼女が望んだ聖杯では無いと知ると意見を翻した。

その顔を見て一番安心したのは、きっとアーチャーだっただろう。

衛宮士郎を含めた5人は歩を進める。

これ以上サーヴァントが脱落しては聖杯の完成を進めてしまう。

しかし少なくともあと一騎。

イリヤスフィールのバーサーカーがきっと自分達の前に立ちはだかるだろう。

そしてその確信は別の形で成ってしまう。

 

英雄王・ギルガメッシュ

前回の聖杯戦争でセイバーと最後の決戦を繰り広げたサーヴァント。

なぜ今も現界しているかは分からないが、彼は獰猛な笑みを浮かべて我らの道を塞ぐ。

目的はセイバーの篭絡。彼女の洗練さ、流麗なるその心の在り方を気に入り、それを奪い汚そうとする。

その真意を聞いて衛宮士郎の怒りのボルテージが一気に最高潮へと昇る。

そして更に、英雄王はあの聖杯の中身を顕現させ、その呪いを世界へ巻いて増え過ぎた人類を間引きするという。

世界は弱肉強食。

真に強いもの、人と成りえる純血以外は要らぬ、雑種など我が治世に不要と

暴君なる王は言い捨てたのだ。

 

これは敵だと思った。

弱いものは生き残れない世界なんて悲しすぎる、辛すぎる。

弱いことが罪だと言うのなら、なぜ衛宮士郎はあの時死ななかったのか

紛れもなく当時の士郎は弱者のソレで、かの王が言う淘汰されるべき雑種である。

しかしされなかった。

そうだ、あの時現れた正義の味方。魔法使いを名乗るとある男のおかげで少年は命を拾ったのだ。

そして、自身もそう成りたいと願ったのだ。

ならば、王の言葉は否定しなければならない。

衛宮士郎が正義の味方を張る為に

 

「私がお相手しよう英雄王。なに、退屈はさせないと約束できる」

 

贋作者(フェイカー)…。この我の前で偽物を振り回すとはな。その所業万死に値するぞ?」

 

そう言って。

今現在、本物の正義の味方が衛宮士郎達の前に進み、その背中を見せつける。

浅黒い肌に赤い外套を纏った白髪の男、鉛色の瞳に映すものは一体なんだったのか

希望か、自己犠牲か、今となっては誰も知りえることはない。

 

「先へ行け凛。奴が相手となれば、私以外に適任者は居ない」

 

「アーチャー…」

 

「なんだその顔は?何を不安に思う事があるというのかね、この身は君が召喚したサーヴァント。それが最強以外に何がある」

 

「―――」

 

「忘れたのか、この体は無限の剣で出来ている」

 

「あんた…」

 

「フン、ならば私の勝ちを疑う理由など無い。安心して先へ進むがいい」

 

なんと大きな背中か

いつの日か至るであろう自分。

しかしその道は遥か彼方。

衛宮士郎は未だ英霊エミヤには追い付かない。

その背中に、その一挙手一投足に目を奪われるようでは―――

 

「ははははははははははははははははははははははは!!!」

 

そんな憧れも、そんな決意も英雄王の一笑にて遮られる。

 

「良かろう贋作者。その偽物を造る頭蓋は許さんが…貴様が持ちえた信念だけは俗物では無いと認めてやろう」

 

「光栄だよ英雄王。だが、その慢心が命取りとなる。精々高みから見下ろすがいい、私の剣が貴様の首を落とすその瞬間までな」

 

空気が一変した。

緊張が走る。空気が凍結したような、そんな形容詞では言い表せないなにかが満ちる。

それは憤怒だ。

俗物ではない、しかしその他大勢と変わらぬ雑種という認識は変わらない。

そんな羽虫如き雑魚に、この我の首を落とすと言われたのだ。

なんたる不敬か。英雄王は自身の宝具を展開してアーチャーに照準を合わせる。

戦闘が始まるその瞬間、アーチャーは衛宮士郎にひとつ、言葉を残した。

 

「さらばだ、衛宮士郎。理想を抱いたまま足掻き、生きて見せろ」

 

この戦いの結末を知ることはできない。

なぜなら衛宮士郎はこの後赤い騎士の姿も、黄金の英雄王とも出会うことはなかったからだ。

アーチャーを残して進む。

一同に会話は無い、遠坂凛の心情を慮ってかなにかを口にするのは憚られた。

そしてそんな彼らの前に白銀のローレライが、大岩の大英雄を連れて立っていた。

 

イリヤスフィールは言う、約束と復讐を果たすのだと

衛宮士郎は言う、どちらも叶えてあげられないと

衛宮切嗣の娘、ならば自分達は兄妹だ。争うことはしたくない、どうか剣を下ろしてくれと懇願する。

それは出来ない。家の悲願、自身の無念、それらを精算しなければならないのだと彼女は言う。

語るべき口などとうに無く、バーサーカーは己の主の命を待ちながらも既に臨戦態勢、

その岩の斧剣振り上げ身構えていた。

それに呼応してセイバーがその身を前面へ踊り出す。

 

相対するのはギリシャの大英雄ヘラクレス。

神々の試練を乗り越えてきた男は、その伝承を宝具へと昇華させた。

―――十二の試練(ゴッドハンド)―――

その効果は三つ

Bランク以下の攻撃を無効化

自動蘇生と蘇生魔術の重ねがけ

既知のダメージに対する耐性付加

細かい所を突き詰めると本当にやっかいな宝具である。

伝説の英雄数多く在れど、かの大英雄の前ではその名声に陰りを覚えるほどだ。

その大英雄が乗り越えてきた試練。

衛宮士郎は文字通りその試練を突破しなければ間桐桜のところへは辿り着けないという事実。

 

「シロウ、ここは私が」

 

セイバーと呼ばれる華憐な女騎士。

その正体は誰しもが一度は耳にする事があるだろう英雄。

かつての、そしていつかの王と呼ばれる騎士王、アーサー王その人である。

聖剣エクスカリバーを始めとする数多くの宝具を持つ超弩級とも言える英雄である。

衛宮士郎の魔術師としての実力の低さから、本来の力を十二全に発揮することは難しい。

しかし、その聖剣は間違いなく古今東西を含めても最強の名を頂くに相応しい

星が鍛えたと言われる神造兵器。

人が願うこうあって欲しいという願望が集約されたと言っても過言ではない

なればこそ、一つの神話の頂点たりとて遅れを取る理由にはならない。

 

事実戦闘は激烈であった。

地割れ天裂けると言う表現は決して誇張ではない。

ステータスの違いは大きい。実際セイバーはバーサーカーに押されてはいる。

しかしサーヴァントの戦いとはすなわち、如何に効果的な間合い、タイミングで宝具を使うかと言う所に集約される。

なれば敗因は狂化による彼の宝具の喪失していたこと、

イリヤスフィールのマスター適性が高すぎたことだ。

前者は十二の試練の自動レイズによる戦闘の続行に比重が重すぎた

ヘラクレスの唯の一撃で並の英霊など粉砕されてしまうが、今相手しているのはアーサー王である。

攻撃宝具を失っている彼では決定的に決め手に欠けている

故に、一撃必殺のエクスカリバーを持っているセイバーには窮地を引っ繰り返す可能性を秘めている

そして後者

イリヤスフィールは最強のマスターである。

今回を含めた五回の聖杯戦争に参加したどのマスターよりマスターとして優れていたかもしれない。

更に彼女は精神的にも魔術師という枠組みの中なら成熟していた。

実際衛宮士郎より彼女は年上である。

しかし、最強が果たして本当に唯一の勝者と常に成りえると言うのだろうか。

答えは否だ。

 

マスターとして最強だとしても

彼女はマスターとして衛宮士郎には勝てなかった。

それは衛宮士郎を格下と侮っていたのか、バーサーカーに絶対的な信頼を持ち過ぎていたのか

彼の勝利を疑わなかった。

勝敗を分けたのは、自身のサーヴァントに勝利を導かせる最善の一手を打ったか否かだ。

イリヤスフィールはただヘラクレスの勝利を疑わず、見守った。

衛宮士郎は自身の下ではセイバーは真価を発揮できないと分かっていた。

自分では共にヘラクレスの前に立つことなど出来ないと分かっている。

肩を並ばせても足手まといなのも分かっている。

しかしそれでいい、そんなことはなっから誰も期待なんてしてない。

 

―――ならば、せめてイメージしろ。

現実では敵わない相手ならば、想像の中で勝て。

自身が勝てないのなら、勝てるモノを幻想しろ。―――

 

そうだ。

衛宮士郎が出来る事などイメージすることで、

セイバーが今勝てないのなら、今勝てる為のものを想像しろ

 

投影開始(トレース・オン)

 

エクスカリバーを放ったセイバーの魔力残量は乏しい。

十二の試練を超えるために風王結界も多様したせいでもある。

2発目の宝具の発動は不可能。

しかしそれは自身の魔力により宝具を生成した時の話だ。

宝具の発動だけなら今のセイバーでも耐えられる

衛宮士郎はセイバーが勝利する為の武器を用意するのだ

その名の通り

セイバーが勝利すべきと謳う黄金の剣を、マスターたる衛宮士郎が造る。

未熟故に自身のマスターとしての至らなさを自覚していた衛宮士郎

完璧故に自身がマスターとして極まっていることを疑わないイリヤスフィール

傲慢、慢心、その心の隙を衛宮士郎が討つのだ。

 

最強と言われた英雄は散り際に、未熟と蔑まれた魔術師に賛辞を送り

貴様の姉をどうか守ってやってくれと、また戦う理由を一つ増やしていった。

茫然自失するイリヤスフィールをなんとか説得し、衛宮士郎はまた一歩闇の向こうへと歩を進めた。




後編へと続くと言ったな、あれは嘘だ!

予想外に長くなったので三分割。
ダンまちのクロスオーバーです、この作品。
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