周囲から、逃げ惑う生徒の悲鳴とは別に、僕に対する驚きの声が混じって聞こえてくる。
それもそのはずだ。
クラスでもパッとしない根暗な僕が、急に「変身」したのだから。
僕は、戦闘を繰り広げるエム=エグゼイドとレオゾディアーツに向かって走り出した。
校門を入ってすぐの所に停めてあった車のガラスに映る自分の姿が視界に入る。
全身は真っ白で、所々黒やオレンジのラインが走っており、頭は見るからにロケットその物の意匠がある。
僕は走りながらベルトに装填されているアストロスイッチの1つを起動した。
『ロケット ON』
電子音声が鳴ると同時に、何処からともなく具現化した大きなロケット型のモジュールが右前腕に装着される。
ロケットモジュールは、構えるよりも早く起動し、強力なロケット噴射を開始した。
「うぇ!?おわあああああ!!!」
急な家族によって、体は言うことを聞かないどころか、右腕のロケットモジュールに引っ張られる形となった。
あまりの勢いに、足は地面から離れレオゾディアーツとの距離が驚異的なスピードで縮む。
「エ、エムぅぅぅ!!!」
「え?うわぁっ!!??」
制御がどうこうの話じゃない。
僕は咄嗟にエム=エグゼイドに叫び声をあげていた。
エムは間一髪のところで僕を避け、
ゆえに高速で直進するロケットモジュール(と僕自身)はレオゾディアーツの腹部に思いっきり激突した。
「グオオ!?」
ロケット噴射の勢いによって偶然ヒットしたパンチは、レオゾディアーツを難なく後方に向けて盛大に吹き飛ばした。
ただ、直進はとまり、足も地面に着ける事が出来たものの、ロケット噴射自体は止まらず、暴れ回る右腕を制御する事は出来なかった。
端から見ればその場をぐるぐるわちゃわちゃと忙しなく奇妙なステップを踏む滑稽な人に見えてる事だろう…。
これは起動したらロケット噴射は止まらない物だと思った僕は、慌てて先ほどオンにしたアストロスイッチをオフにした。
その瞬間、何事も無かった様に右腕のロケットモジュールは跡形もなく消えた。
てか、目が回る…。
「頭の整理は済んだか、ロケットの人」
エムが気さくに肩を叩いてきた。
「はい、まぁまだちょっと散らかってる所はあるけど、なんとか」
「変身出来てるなら大丈夫だ。
そう言えば…君、名前は?」
「あ、僕は相澤…ゲンタロウ…です」
「ゲンタロウかぁ…おっけ!ゲンちゃんね!!」
「はい…ん?え?ゲンちゃん?!」
「おぅ!僕の事はさっきみたいに「エム」で、呼び捨てでいいからさ!」
「は、はぁ?」
名前をからかわれなかったのは…初めてかも…。
いや、そもそも「ゲンちゃん」なんて呼んでくる人が初めてだ。
「よし、んじゃゲンちゃん。あのライオンさん、とっとと倒しますかね」
見ると、先ほどあれだけ物凄い勢いのパンチを食らったはずのレオゾディアーツが、15〜20mほど離れた所でゆっくり立ち上がっていた。
ただ、それなりにダメージはあった様で左手で腹部を抑えていた。
「分かりました。やりましょう」
「そうこなくっちゃ!
ただ、ちょっと学校でやるのは気がひけるからさ…」
そう言うとエムは、ベルトの横にあるホルスターの様な装置のボタンを押した。
『ステージ セレクト!』
電子音声が鳴ると同時に、周囲の風景が一瞬にして広い廃工場の様になった。
簡単に言えば瞬間移動した様な気分だ。
よく見ると、周囲には直径30〜40cmくらいの大きさのカラフルなメダルの様な物が点在している。
なんとゆうか…ゲームのアイテムみたいな印象さえ受ける。
「さぁて気兼ねなくドンパチ出来るよ、ライオンさん!」
『ガシャコンブレイカー!』
エムの手にはいつの間にかハンマーのような武器が握られていた。
武器を構えるエムにならい、僕も拳を握りしめ構えた。
「グゥゥ…グヲオオオオ!!!」
レオゾディアーツが雄叫びを上げた。
が、それはもはやただの雄叫びでは無く、物理的に物を破壊するほどの咆哮…咆哮弾とでも言うべきだろうか?
ただ、間違いなく当たると…
「ヤバイ!!!」
エムと僕は咄嗟に身を翻し、咆哮弾を何とか避ける。
咆哮弾はそのまま、元は僕たちの後方にあった様々な物を破壊した。
ドラム缶は破裂し、積まれた箱たちは砕け、鉄骨はひしゃげた。
体勢を立て直しつつ、僕はベルトにあるアストロスイッチの1つをオンにした。
『ランチャー ON』
電子音声が鳴ると同時に、今度は右足にモジュールが装着された。
それは青い箱型のモジュールで、膝から下をスッポリと包む様に装着されていた。
「とりあえずランチャーだから撃つだけ撃ちます!!」
更に咆哮弾を放とうとするレオゾディアーツに向けて、僕は右足のランチャーモジュールから一気に5発の小型ミサイルを発射した。
しかし…
「ゲンちゃんどこに撃ってるのさ!!」
ミサイルは狙った所などいざ知らず。
全くもって関係のないところに向かって好き勝手飛んでいき、着弾した。
運良くその中の1発が、レオゾディアーツの近くに着弾したため、咆哮弾は放たれずに済んだものの、
エムが怒るのも当然の結果である。
「ご、ごめん!」
「ちゃんとロックオンしてよゲンちゃん!」
そう言ったあと、エムは手にしたハンマーでレオゾディアーツに殴りかかっていった。
ロックオン…あ、そうだ!あのスイッチ使うんだった!
自分の物ではないはずの記憶を辿り、思い当たる節があった。
即座にスイッチをもう1つ起動させる。
『レーダー ON』
すると、左腕に小型のパラボラアンテナの様なモジュールが装着された。
そしてアンテナをレオゾディアーツに向ける。
レーダーモジュールに搭載されている小型モニターにロックオン完了の表示が現れたため、僕は再度レオゾディアーツを見た。
「次は全弾命中間違いなしです!!」
僕の声に気付いたエムが、レオゾディアーツと距離を取った。
瞬間、僕は再びランチャーモジュールから5発のミサイルを発射した。
今度はどのミサイルも、意志を持っているかの様にレオゾディアーツへ吸い寄せられていき、
しっかりと5発ともレオゾディアーツへ着弾した。
「さて、そろそろ決めますか」
エムの言葉に頷き、僕はランチャーとレーダーのスイッチをオフにする。
エムはベルトから、変身に使っていたゲームソフトの様なアイテムを取り外すと、持っている武器のハンマーに装填した。
『キメワザ!』
電子音声が鳴りエムはハンマーを構える。
『マイティ!クリティカル…フィニッシュ!!』
「おりゃぁああ!!」
エムは近くにあった鉄骨を足場に空中に飛び上がった。
その時、空中に浮いていた赤いメダル状のアイテムを吸収した。
『マッスル化!!』
そしてそのまま、落下の勢いを使いつつ強力なハンマーの一撃をレオゾディアーツに叩き込んだ。
『会心の一発ゥ!』
レオゾディアーツはあまりの衝撃にその場に崩れ落ちたものの、まだ戦えると言わんばかりの雰囲気で、よろよろと立ち上がろうとした。
「ゲンちゃん!決めちゃってよ!」
「了解です!」
『ロケット ON』
僕はロケットスイッチをオンにし、右腕に装着されたモジュールのロケット噴射で勢い良く上空へ飛び上がった。
その速度はかなりのもので、廃工場の屋根などいとも容易く貫きかなりの高さまで上昇した。
そしてもう1つのスイッチをオンにする。
『ドリル ON』
電子音声と同時に左足に、下向きの巨大なドリル型モジュールが装着される。
モジュールの装着完了と同時に、僕はベルト右側のレバーを引いた。
『ロケット ドリル リミットブレイク』
装着しているそれぞれのモジュールのパワーが一気に強まる。
右腕のロケット噴射は更に強力な物になり、僕はその推力が下に向く様に構えつつ、左足のドリルを突き出しながら、地上の廃工場内にいるレオゾディアーツに向けて急降下を開始した。
「いっくぞぉぉあ!!
ライダーロケットドリルキィィィック!!!」
もはや隕石の様な超高速の急降下キックは、その落下速度やドリルの超回転も相まって恐ろしい程の破壊力を有したキックになっていた。
高度数百メートルから、ものの2〜3秒でレオゾディアーツまで間合いを詰め、凶悪な急降下キックを胸部に叩き込んだ。
「グオウアアアアアアアァアアア!!!!」
強固なレオゾディアーツの身体を貫き、その少し後方に僕は着地した。
足のドリルが地面に刺さったせいで身体が数回、望まぬ高速回転をしたが、それは無理やり右足でブレーキをかけた。
リミットブレイクによってエネルギーを放出した為か、ドリルの回転とロケット噴射は停止し、
それと同時に、レオゾディアーツは爆散した。
「ゲンちゃん、なっかなかエグい技だね」
エムが笑いながら声をかけてきた。
「自分でも…そう思います」
「あ、それにタメ口でいいよ。同じ仮面ライダーなんだからさ!」
エムはポンポンと肩を叩きながら言った。
「わかりまし…分かった、エム」
僕の言葉に対し、仮面で見えないものの、エムは笑顔を向けてくれた気がした。