これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode9 役割 〜role〜

「シノン、聞こえるか?」

「ええ、よく聞こえる」

 

真っ暗闇の荒野。

その一角にあるとある組織の本拠地で、ビッグ・ボスとシノンが通信アイテムを用いて会話する。

 

「よし。俺の位置は分かるか?」

「今スコープで捉えてる。あなたは私の位置を知ってるから、弾道予測線(バレット・ライン)が見えるはずよ」

 

そう、シノンの声がビッグ・ボスの耳元に、正確には耳元の通信アイテムに届く。

それと同時に、ビッグ・ボスのすぐ左の地面にシノンのヘカートIIの弾道予測線(バレット・ライン)が伸びてきた。

ビッグ・ボスはそれをちらりと確認すると、通信アイテムを通してシノンに指示を出す。

 

「今から、右側へと潜入する。死角のカバーを頼む」

「了解。敵のこと以外にも、気づいたことがあれば言うわ」

「……返事出来んかもしれないが頼む」

「OK」

 

そこまで通信して、シノンが会話を切った。

ビッグ・ボスは、少し離れた崖の上にいるシノンをちらりの目視で確認すると、体勢を下げ、ゆっくりと進んでいく。

 

そして、2人の共闘が始まった。

 

 

「がっ……!」

「おいどうした、なにか……あっ……!」

バタバタッ!

 

2人のプレイヤーが、音もなく飛んできた弾丸に頭を撃ち抜かれる。

聞こえるのは、その弾丸を撃ちだした銃器から吐き出される薬莢が地面に落ちる音。

倒れた2人のプレイヤーは、しばらくしてから光の粒になって消えた。

 

「……クリア」

 

静かで薄暗いテントの中に、ビッグ・ボスの呟きが聞こえる。

そして、そのビッグ・ボスの耳元の通信アイテムにシノンの声が聞こえてきた。

 

「OK、そのテントの出口の30m先、12時方向に1人。2時の方向70m先に2人よ」

「了解。先に奥の2人をやる。正面の1人の警戒を頼む」

「分かった」

 

2人は迅速に会話すると、それぞれの役割に動き出す。

ビッグ・ボスは匍匐しながら2時方向の2人に向かっていく。

シノンは、ビッグ・ボスが出てきたテントから12時方向にいる見張りのプレイヤー1人をスコープで捉え、警戒を始めた。

 

 

もうすでに気づいてるかもしれないが、この作戦はビッグ・ボスが潜入、シノンが狙撃・偵察と役割を分けて遂行していた。

 

理由はいくつかある。

一つ目は、シノンの戦闘スタイルだ。

シノンは、遠くから狙撃するか、敵に向かっていって接近して弾丸を撃ち込むスタイル。

対してビッグ・ボス、つまりタスクは、敵陣に()()し、気づかれないように地道にコツコツと敵を片付けていくスタイルだ。

ある意味正反対なスタイルの2人が、一緒に行動していい事などほとんど無い。

 

二つ目は、シノンの隠密性の無さだ。

シノンは、タダでさえ重たいアンチマテリアルライフルを、少ないSTRで担いでいるため、どうしても動きに制限が出てしまう。

そんな重たい動きをしていては、どんな迷彩服を着ても見つかるのは必然というものだ。

 

という訳で実行されたのは、ビッグ・ボスとシノンが2人が歩いてきた崖で、シノンがヘカートIIを使って偵察・援護し、ビッグ・ボスが潜入するという、チームを分割した作戦だ。

こうすれば、お互いの長所を活かし合うことができるし、もしどちらが殺られても作戦を続行することが出来る。

 

それに、今回は敵プレイヤーを最低でも1人回収しなければならない。捕虜がいるなら尚更だ。

最悪の場合強行突破になるため、シノンの援護射撃がビッグ・ボスにとって不可欠なのだ。

 

そして今、その作戦は、完璧と言っても過言ではないレベルで動けていた。

ただ一つ、難点があるとすれば、シノンの射撃による援護ができない事。

なぜなら、何度も言うがこれは隠密作戦だからである。

シノンのヘカートIIのバカでかい射撃音が響けば、たちまち見つかってしまう。

なのにも関わらず、敵の人数が並大抵の量ではないのだ。

有効極まりない攻撃手段を持ってしても、それを使わず尋常ならざる量の敵を相手にする。

必然的に、ビッグ・ボスとシノンの疲労も溜まっていた。

これはゲームだ。身体的疲労はすぐ回復するが、精神的疲労はどうしようもないのである。

 

「シノン……。シノン……?」

「はっ!あ、ごめんなさい」

 

そしてそのシノンが、溜まった疲労からくる眠気に、少し意識を引き剥がされかける。

偶然入ったビッグ・ボスの通信に、運良く引き戻された。

ビッグ・ボスは、気遣うように通信を続ける。

 

「……疲れたのなら、休むか?敵の位置はお陰で大体把握できている」

「ん……!」

 

シノンは一瞬迷う。が、問答無用で答えを返した。

 

「いいえ大丈夫。続けるわ」

「……そうか。何かあれば言えよ?」

「了解」

 

ビッグ・ボスの意外な気遣いに、シノンが笑みを漏らす。

シノンが、通信を切って呟いた。

 

「彼、結局どこをどう隠しても、中身はタスク君なのね」

 

もちろん、その呟きは、ビッグ・ボスには聞こえていないのである。

 

 

「……これか」

 

それから30分後。

ビッグ・ボスは、この拠点で一番大きな建物の、隅っこの壁に潜んでいた。

 

その建物は、建物と言っても自然を利用したかのような、岩作りのものだ。

イメージ的には、崖を切り抜いて建物の様にしたものの方が正しいのかもしれない。

だが、フィールドにこんな所があったのかと、驚いているのも事実だ。

 

兵士の出入り、明かりの明るさ、大きさからしても、回収目標(ターゲット)はここにいると見て間違いない。

ビッグ・ボスは、シノンに向けて、久しぶりの通信を送った。

 

「シノン、今から建物に入る。建物周囲の警戒を頼むぞ」

「あ、やっと来た。了解」

 

と、短い通信で終わる。

久しぶりと言っても、たった30分。でも、常にプレッシャーに晒されている二人にとっては、とても長く感じるのだ。

 

「……よし」

 

そしてビッグ・ボスは、窓から建物へと入っていく。

シノンは、そんなビッグ・ボスの背中を、ヘカートIIのスコープ越しに見ていた。




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