これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode107 着艦 〜Landing〜

一体自分は、どれくらい走ったのだろうか。

そんな疑問が、ふと脳裏を掠めた。

 

はたと足を止める。

足が動いている感覚が残っていて、少しクラクラしてくる。

 

ここは仮想世界。

決して息切れやら、筋肉痛やら、ましてや靴擦れなんてのは起きやしない。

 

……が。

その代わりに、精神力が酷使される。

そしてそれに付随する神経も。

 

「むぅ……」

 

ふと思い至り、腕時計を見る。

するとそこには15、と示されていた。

 

すなわち午後3時。

この大会……スクワッド・ジャムが開始されてから、ちょうど一時間である。

 

「!!」

 

ちょうど一時間。

そのフレーズに何かを思い出した彼は、ゴソゴソとズボンのポケットを漁り出す。

 

そして出てきたのはボロボロの紙切れ。

 

大会が始まる前……

 

『大会が始まって、ちょうど一時間たったら、この紙を読みなさい? その前には絶対読まないこと。いいわね……?』

 

そう言って、()()()()()から渡された、紙切れである。

 

「……ふん」

 

その言いつけを律儀に守るべく、彼……エムは、もう一度時計を見る。

 

15時、00分、45秒。

これならば、絶対に怒られまい。

 

そう安心し、ついにその紙の中身に目を向けた。

 

この付近に敵がいないことはスキャンを見なくてもわかる。

スクワッド・ジャムはもう終盤だ。

彼ら……『VRF』と戦う前の時点で、北の方にいたチームは消えていた。

 

したがってエムは、この野原でゆっくりと腰を下ろし、安心して紙切れの中身を拝見することができる、というわけだ。

 

南に逃がしたレンが心配ではある。

だがそれよりも、ピトフーイの紙切れが大事であった。

 

そうしてついに、エムはゆっくりと紙切れを広げる。

その後ゆっくりと……下に読み進めていく。

 

そして次の瞬間。

 

 

 

 

 

「……すまない、レン。()()()

 

エムは、震える手でその紙切れを握りしめ、そのまま目を閉じてうずくまった。

 

 

どどん、どかん、すどーん。

遥か西から、何かの爆発する音が立て続けに響いてくる。

 

「……お、始まったね」

 

するとそれを聞いたタウイが、にっと笑って目を細める。

 

その後ろで、唯一ベネットだけが、不思議そうな目をしてタウイの見る方向へ目を向けていた。

 

「……何が……おきてるんですか?」

 

いくら目を凝らしても見えない距離で起きているので、その正体はどうにもベネットだけでは分かりようがない。

 

すると、隣に座るプルームが、銃の中を覗き込みながらやれやれと言わんばかりに答えた。

 

()()()()()()()だ」

「……え?」

「さっき飛ばしてただろ、でっかいやつ」

「い、いや、それは見てましたけど」

 

プルームの呆れ声に、ベネットが意味不明と言わんばかりに食いつく。

 

「言っただろう、『タウイに援護はいらない。いるのは護衛だけ』って」

「は、はぁ……」

「言うなればあいつは()()。俺ら()()()()()()には、援護のしようがない」

「な、一体なんの……」

「ま、そういうことだ」

「???」

 

一人で完結し、また銃弄りに戻るプルーム。

謎はむしろ深まったと言わんばかりに、顔をしかめて首を傾けるベネット。

 

……ただ次の瞬間。

 

ガチャコン

「よいしょっ……と」

 

タウイが何も見えない西に向けて、肩に着いていたでかい鉄板を真っ直ぐに突き出した。

そしてそのままずっと静止。

 

「???」

 

相変わらず謎を抱えたベネットは、とりあえずその様子を見ていることにする。

 

すると、空の彼方から白い何かが飛んでくるのが見えた。

太陽を反射し、キラキラと輝きながら、三角形を彷彿とさせる陣形で3機。

 

「あれは……タウイさんの偵察……」

「違う」

「!?」

 

それを見たベネットが、そう呟いた瞬間。

隣に座るプルームが、また声を上げた。

 

「あれは()()()だ、()()()なんつうちゃっちいもんじゃない」

「ば、()()()……!!」

 

ああ、そういうことか。

ベネットの中で、全てが繋がった。

 

そりゃそうだ。

僕らにできることは何もない。

 

てっきりあのドローンが敵を見つけ、それを元に動くと思っていた。

だから周りのあまりの体たらくぶりに、これじゃぁすぐに動けるもんも動けないぞ、なんてのも思っていた。

 

だが本当はそんな心配さえ無用だった。

 

なぜなら()()()()()()()()だから。

15時のスキャンの時に見た敵チームの距離からして、例え徒歩だとしても、もう接敵していてもおかしくない時間だ。

 

だが実際は、敵チームなんている気配すらない。

……つまりは、そういうこと。

 

ドローンが、()()()()()()()()、のだろう。

 

「さて、そろそろ準備だ。あいつの着艦作業が終わり次第、次の進路が出るだろうから……」

「ま、てかもう分かりますけどね。南でしょ」

 

すると、ポカーンとしていたベネットの後ろから、そんな会話が聞こえてきた。

 

「ほらいくよ、ちゃんと背中に戻って」

ギィー!

「グレネードの補充してくる」

 

さらに奥からも、そんな声が聞こえてくる。

 

耳も騒がしかったが、変えることがなかった視界にも驚くべき光景が映っていた。

 

タウイの上をクルクルと円を描きながら待っている2機のドローン。

あえて遠くに行ってから、Uターンしてまっすぐゆっくり、高度を下げてきてタウイの鉄板……もとい、甲板に着艦する1機目のドローン。

 

そしてそのドローンを甲板から外し、後ろに差し出したタウイ。

 

「はいはい、今行くよ」

 

すると、ギフトがドスドスと立ち……否、座り尽くしているベネットの横を通って、そのドローンを受け取った。

 

約100年昔の艦載機を思わせる、深緑に塗られた機体。

そんな機体を片手に持ちながら、左手のウィンドウを操作して円柱型の爆弾を実体化し、機体の下部に取り付けるギフト。

 

 

 

 

 

「へぇ……」

 

 

 

 

なんか、このチームの初めて()()()()()()一面を見て、ベネットは惚れ惚れと、残り2機の着艦作業を見届けていた。




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