これは【GGO】であって、【MGS】ではない。 作:駆巡 艤宗
今回、ついつい長くなってしまいました。
お許しください。(笑)
「動くな」
「ひっ!?」
とある荒野の、崖を削ったような建物の中。
とある兵士が、背後から来た何者かによって、尋問されていた。
「吐け」
「な、何も知らない!」
「仲間はどこだ」
「本当に知らない!助けてくれ……!」
バシュン!
「あっ……!」
バタン……!
その兵士、つまりプレイヤーが、また一人倒れる。
ビッグ・ボスは、その死体を隅に運ぶと、光の粒子となって消えるのを待った。
そしてその直後、プレイヤーがビッグ・ボスが待っていた通りに光の粒子になって消える。
そしてまた、ビッグ・ボスは動き出した。
✣
「うっ……動くな!武器をおろせ!」
その脅迫は、不意に背後からやって来た。
ビッグ・ボスが、とある部屋に入った時。扉の後ろに隠れていた兵士に、アサルトライフルを突きつけられたのだ。
ビッグ・ボスは、素直に手に持ったデザートイーグルを地面に置いく。
そして同時に、その脅迫した兵士の方に向いた。
その兵士は、オロオロしながら銃を向ける。
「な、う、動くな!死にたいのか!」
ビッグ・ボスは、眼帯で隠れていない右目だけをその兵士に真っ直ぐに向け、淡々と言葉を放つ。
「そんな銃じゃ、このスーツの装甲は通らないぞ」
「う、うるさい!大人しくしろ!」
「それにその銃、
「え……?」
その兵士が、手に持った銃の横を見る。
その瞬間、ビッグ・ボスが動いた。
「あっ……!」
流れるように繰り出されるCQC。
その兵士は、あっという間に銃を叩き落とされ、投げ飛ばされた。
「ぐはっ!」
「おいおい……」
その兵士の苦しみ様に、ビッグ・ボスが呆れる。
その兵士のHPはあっという間に9割減った。
「お前、もっとマシな服持ってないのか。そんな耐久値じゃ着ても着なくても変わらんぞ?」
「うっ、うるさい!」
「なんなら俺から頼んでやろうか?すぐそこにいる……あんたらのボスにな」
「え……?」
ビッグ・ボスは、寝そべったままキョトンとする兵士に、いつの間にか拾い上げたデザートイーグルを突きつけつつ、すぐ目の前の柱に目を合わせる。
するとそこから、聞いたことのない俗に言う悪役の笑い声が聞こえてきた。
「ククク、ふはははは!やはり気づいていたか!雇われ犬が!」
「まあな」
その悪役の声の持ち主は、ビッグ・ボスの事を思いっきり侮辱すると、柱から姿を現した。
全身黒色の戦闘服を着た、ヤクザのようなサングラスをつけたプレイヤー。
ビッグ・ボスはひと目で分かった。
ーこいつがここのボスだ。
と。
そしてそのプレイヤー、全身黒づくめヤクザは、話を続ける。
「やあやあ、初めましてだな?ビッグ・ボスさんよぉ!」
「……」
「俺の名はカイジ!ここのスコードロンのリーダーだ!」
「そうか」
ビッグ・ボスは、心底どうでも良さそうに返事する。
そんな対応に、カイジは不満の色を見せた。
「へいへい、なんだか連れねぇな、ビッグ・ボスさんよぉ?」
「敵と馴れ合うつもりは無い」
「あのなぁ?これでも俺、ビッグ・ボス。あんたの……」
「ああ、あんたがこの依頼の
ビッグ・ボスは、さらりとカイジの言葉を先取りする。
これは流石にカイジも驚いた。
「へ、へぇ……あんた、なかなかやるじゃん」
「そりゃどうも」
「でも……これからどうするんだい?俺を殺せば、依頼は失敗だ」
「確かに俺はあんたを殺せない。だがな……」
「……?」
そんな脅迫にも動じず、ビッグ・ボスは、カイジの目を真っ直ぐに捉える。
そして、淡々とカイジの核心を突いた言葉を吐き出した。
「最初から、俺を殺すつもりなんだろう?」
「……!」
カイジは素直に認めることが出来ず、大きく狼狽える。
ビッグ・ボスは、視線を逸らさずにすらすらと話し出した。
「もともと、
「……」
カイジは、黙りこくる。
その沈黙は、ビッグ・ボスの指摘を肯定することを意味していた。
ビッグ・ボスは、下で未だ寝そべっている兵士をちらりと見ると、話を続ける。
「ちなみに、今この部屋には、11人のプレイヤーがいるな」
「な、なにぃ……!?」
「左右後ろに一本づつあるの柱の後ろに3人づつで合計6人。あんたの隠れていた柱の後ろに2人、で、今寝そべっているこいつとあんた、そして俺だ」
カイジは、額に汗を滲ませる。
ビッグ・ボスは、初めて入ったこの部屋でも、振り向かずに索敵できるのか、と。
そう。今ビッグ・ボスが淡々と話した兵士の位置は、すべて正しいのだ。
「でっ……でもなんで……!?なんであなたは、ここまで来れて、落ち着いていられるんですか?」
「それはな、あんたらが大規模すぎたんだ」
「な……!?」
ビッグ・ボスは、寝そべっている兵士の急な質問に答える。
「あんたらは、大規模すぎてむしろ警戒網に穴を開けてしまったんだ。こんだけ大人数でスコードロンを組んでたら、誰がやられても分かるわけがない。何十人もいる中で一人消えても、誰も気づかないのさ」
「……!」
「そして、偶然気づいた他の奴も、ノコノコと近づいてくる。やられない訳ないだろう?」
「で、でも……!」
「それにな、こんだけ大人数なら、一人一人の練度も鈍る。この部屋にいる奴らは、外にいる奴らよりは優秀かもしれんがまだまだだ。そんな連中の守る拠点など、俺からしてみれば見張りがいないのと同等だ。落ち着いていられない方がおかしい」
「な……!」
これには流石にカイジでも取り乱した。狼狽える所の話ではない。
それもそのはず。これでもかと仲間を集めたこの拠点を、仲間がいないのも同然と言って入ってきたのだ。
むしろ取り乱さない方がおかしい。
あれだけ自信に溢れていたカイジは、今は見る影もなくなっていた。
ビッグ・ボスはカイジのそんな心の取り乱しを見逃さず、耳元の通信アイテムに素早く手を置く。
そしてたった一言、ポツリと指示を出した。
「シノン、撃て」
「え……?」
次の瞬間、ヘカートIIの射撃音が、連続して暗闇の荒野に響き渡る。
それと同時に、弾丸が部屋の中に飛び込んで暴れ回った。
「うわぁ!」
「ひいぃ!」
カイジは恐れ慄いて目を閉じて頭に手をかぶせる。
その部屋にいたその他の兵士達も同様に、恐れの声を上げた。
しばらくして、カイジが目を開けた時、もう時は既に遅かった。
前にはデザートイーグルを突きつけたビッグ・ボス。
そしてその背後には頭を撃ち抜かれた9人の死体があった。
「……!」
「終わりだ。カイジ」
「ぐ!くそっ!」
カイジが悔しそうに下を向き、名前でビッグ・ボスに呼ばれた直後、彼の両手に痛みが走り、視界が暗転した。
✣
「やあ、お待たせしました」
それからまた30分後。
シノンと
シノンは、あまりの変わりようにやはりキョトンとする。
「あれ、もうビッグ・ボスじゃないんだ……」
「はい。敵に見つかった時、誤魔化しが効きませんからね」
「なるほど……」
タスクは、サラリとそんなことを口にする。
やはり彼は慣れてるな、と、シノンは内心で感心した。
すると急に、ピタッとタスクが立ち止まる。
シノンは、慌てて自らの足も止める。
すると彼は、ニコッと笑ってその場に座った。
シノンは、その行動の意味が分からず、ただ呆然と立っている。
その時やっと、彼が声を出した。
「さ、ここが合流地点です。待ちましょうか」
「え……?」
シノンは、タスクの言葉の中に、聞き覚えのない言葉を聞き取った。
合流地点。一体なんの、と言おうとしたところで、タスクは話続ける。
「ああ、言ってませんでしたね。実は、この仕事が終わった後、店主さんに回収をお願いしてあるんです。本来なら回収
「そういうこと……」
シノンは納得する。
確かに、元々の予定はあの大規模スコードロン、組織
それに捕虜もいるとの情報だったのだが、捕虜はログアウトさせてもいいと考えていたし、そもそもいるかもわからなかった。
結果、その
シノンが拠点を見回した時、テントの中はともかく、外にはそんなプレイヤーはいなかった。
第一、プレイヤーを捕虜にした所で、現実に帰れなくなるだけで何も苦しくない。
簡単に言えば、捕まえておく意味が無いのだ。
おそらくタスクは、そこも見越してあえてシノンに捕虜情報を言っておいたのだろう。
そうすれば、シノンのやる気が出ると。
「嵌めたのね?」
「なにをです?」
シノンは、タスクに少し不満気な顔をむける。
だが、タスクはなんの事かとニコニコしていた。
そんな顔を見て、シノンがまた文句を垂れ流す。
「捕虜……あんた、最初からわかってたんでしょ?」
「ああ、それですか。はい。分かってましたよ」
「じゃなんで言ってくれないのよ!」
「だってシノンさん、ヘカートIIが撃てなくて不満気でしたから。なにか他の役割を与えなきゃ、勿体ないじゃないですか」
「は、はあ」
「シノンさんみたいな優秀な人、崖の上で寝そべらせておくなんて僕にはできません」
「あ、ありがと」
タスクが話を切って、笑顔をこちらに向ける。
シノンは、少し赤面してそっぽを向いた。
何気にいい雰囲気…と思いきや、急にタスクがぶち壊す。
「ま、ホントはシノンさんのやる気を引き出すためなんですが」
「やっぱりそうなんじゃんか!」
「へへへ!」
「殺す!」
シノン後ろ越しに手をやる。が、そこにはG18は無かった。
ヘカートIIのマガジンを入れるため、あの店に置いてきたのだった。
「あ……」
「残念でしたね!」
「〜!」
シノンは、今度こそ赤面して顔を伏せる。
タスクは、そんなシノンを見て微笑んだ。
そしてその後、三輪のバギーに乗った店主が、暗闇の荒野にフロントライトを光らせながら迎えに来た。
タスクとシノンは、二人並んで後ろの座席に座る。
店主は、「お疲れ様〜」と言いながら店まで乗せていってくれた。
その道中、不意に店主がタスクに疑問を投げかける。
「そういやタスクくん、なんか、あの大規模スコードロンのボスが依頼してきた人だったらしいけど、あのあと結局どうしたの?」
「あ、確かに。どうしたの?まさか殺し……」
「いやまさか、殺してはいないですよ?」
店主の質問にシノン乗っかり、タスクが慌てて否定する。
するとタスクは、とんでもないことをサラリと口にした。
「あのボスは、両手を撃ち落として黒袋被せて放置してきました」
「「ええ……」」
この時、シノンと店主が微かに引いたのは、言うまでもないだろう。
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