これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode110 接敵 〜engage〜

ヒュン!!

 

その時は、風の音しかしなかった。

……が、その次の瞬間。

 

ドシュウ!!

「んぐっ……!?」

 

彼ら……VRFの1人、レックスが、太もも内側からポリゴンの血を吐いた。

 

「レックスさん!!」

「こっちを見るな!! 周りを……!!」

「あっ……クソ!!」

 

咄嗟に反応してしまったライトが、今度は首筋からポリゴンの血を吐く。

 

 

 

 

「あいつだ……()()()()()()だ!!」

 

 

 

 

ライトはそう叫びながら膝を着いた。

 

「クソ野郎……どこ行きやがった……?」

 

プルームとベネットは、銃を握り締めて当たりを見回す。

 

一面に広がる荒野。

地面から生えるように点在する岩。

申し訳程度に生えた雑草。

 

パッと見は普通の荒野だが、この視界のどこかに、()()がいる。

 

するとその時だった。

 

ヒュン!!

「っ!?」

「プルーム!!」

 

プルームの向いていた方向から横に90度。

右側だから、およそ3時の方向。

 

()()()()()()が、斜め上からナイフ片手に落っこちてきた。

 

「……ぬん!!」

バキッ

「あっ……!?」

 

だがそこはプルーム。

思い切り銃のストックを突き上げ、彼女の腕のリーチに入る前にその小さな悪魔を突き放す。

 

「……今だ!! 早く2人を連れて後退を……!!」

 

すると、タウイがそんな2人を見つつ、ライトを背負って走り出す。

それにならい、ベネットとギフトがレックスの肩を担いで走り出した。

 

銃を突きつけプルームが対峙するは、かの有名なピンクの悪魔。

 

「……へぇ、銃はお持ちじゃないのかい、お嬢ちゃん」

「さっきの戦闘で壊されちゃってね。今はこの子だけなの」

 

向き合い、流れる緊張の時間に、プルームはレンにそう話しかける。

それに対しレンは、意外と普通に言葉を返した。

 

通常であれば、勝負ありとなるこの状況。

一方が銃を突きつけ、一方は銃を失いナイフのみ。

 

ただそれが()()()()()()となると、話は変わる。

 

たとえ引き金を引いたとしても、避けられる確率は正直五分五分。

そしてもし仮に避けられた場合、自分に彼女のナイフが刺さるのはもはや間違いない。

 

「……ふ」

「?」

 

すると、プルームが一息、そう笑うと、ゆっくり銃を下ろした。

レンはそんな彼を見て、キョトンとした顔を横に傾ける。

 

ただ次の瞬間。

 

()()()にいこうじゃぁないか。ええ?」

「……!! そういうことね……!!」

 

プルームは、しゃっ、と後ろ腰からナイフを取りだした。

レンも改めて、ナイフをギリッと握りなおす。

 

 

 

 

 

じりっ、そう聞こえてきそうなほど、張り詰めた空気が荒野に流れた。

 

 

一方、プルーム以外のVRFである。

 

「……もう、大丈夫。なんとか……」

「無理するなライト、まだ出血は続いてる」

 

一際大きな岩山の裏に座った彼らは、治療キットを惜しみなく使い、救急活動に勤しんでいた。

 

首筋を切られたライトは、出血のデバフのせいで、あまり視界がはっきりしていない。

対し、太もも裏を切られたレックスは、これも出血のデバフのせいで、足に力が入らず座り込んだまま。

 

時間の問題ではあるが、これではこの2人はまだ戦えない。

 

状況はこちらが圧倒的に有利。

人数的にも、経験的にも。

 

……しかし。

 

「ひとつだけ……不安材料がある」

「っ……!?」

 

するとその時、不意にタウイがそう言った。

全員の視線が、タウイに向く。

 

それに対してタウイの視線は、()()()()に向いていた。

 

「あのスナイパー、だ」

「!!」

 

そして次の一言で、今度は視線が全てベネットに移る。

 

「約束……したって言ってたよね」

「……ええ」

「こういう界隈ではよくある話さ。だから内容は聞かない」

「……」

「でもね。その代わり、してあげられることは何もない。むしろ、チームのためにしてもらわなければならない。君、1人で」

「……はい、分かってます」

 

タウイの目はあくまでやさしい。

だがしかし、その奥に見えるのは、真っ直ぐとした揺るぎない芯。

のほほんとしていて、時々冷たいプルームの諌め役で、そして我らVRFの旗艦(リーダー)

 

ベネットには分かる。

これは、信頼の証なのだ、と。

 

新参者の、実力も足らない、そんな自分が勝手にしてしまった約束を守らせてくれた。

チームの勝敗を分けるかもしれないこの事態を、ベネットにも肩代わりさせてくれた。

 

その信頼を、裏切る訳にはいかない。

 

 

 

 

 

 

 

「任せてください。必ず終わらせて、帰ってきます」




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