これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode119 撤退 〜Withdrawal〜

ベネットが追加したパーツ、それは「ジョイント」である。

 

通常の「ジョイント」は、長方形型のシールド下方の長辺における中点にある。

これは、誰もがわかる()()()接続のためのものだ。

 

ではベネットが追加を依頼した「ジョイント」はどこか。

それは、長方形のシールドにおける短辺のそれぞれの中点に位置している。

 

そう、つまりこれは、()()()()()()()()()ものである。

 

装着するのは、手首と肘のすぐ下。

したがって、どれだけ手を動かしても装着状態に変化はない。

 

そして不思議なことに。

この使い方は最初、想定していなかった使い方である。

 

しかし。

なぜだか、驚くほど形状がしっくりくるのである。

 

「……まさか」

 

ベネットの脳裏に、もしかして、なんていう言葉がよぎる。

 

ただ彼は、すぐにその思考をもみけした。

そんなはずはない。()()()()()()()

 

 

 

 

 

でも実は……

その予想は、数奇にも()()()()()()()

 

 

そして時は進んで現在。

 

「な、なんじゃそりゃ」

 

タウイが、思わず疑問符をあげる。

他のメンバーからの交信はないため、おそらく皆一様に唖然としているのであろう。

 

 

 

……ベネットからの無線は、にわかに信じがたいことだった。

 

 

 

彼は、(どうやったかはともかく)エムに接近し、ナイフ戦に持ち込んだ後、戦闘の末彼にマウントを取った。

だがしかしその後すぐ、彼がなんと、「()()()()()」らしい。

 

しかも、「殺さないで、ほんとに死んでしまう」とかなんとかいって、今じゃ土下座の域に至っているとかなんとか。

 

極めつけはベネットだ。

ベネットはそんな彼の隣に座り、背中をさすりながら無線を飛ばしてきたらしい。

 

「はは……え、は、はぁ?」

 

タウイは、そんな言葉しかでてこない。

 

それもそのはず。

こんなの、急展開を飛び越えてもはや謎展開だ。

 

沈黙が訪れ、しばらくそのを占有する。

……ただ、突如その沈黙を破ったプレイヤーがいた。

 

 

 

 

 

他でもない、プルームである。

 

 

『終わりだ、タウイ。撤退(リザイン)だ』

 

タウイはまた耳を疑う。

 

「プルーム? い、いいのか?」

 

そして思わず、無線を送り返す。

すると、プルームは落ち着き払った声で言葉を返してきた。

 

『ベネットに引き金を引けとは言えんだろう。それにベネットも、引きたくないはずだ』

「し、しかし……!!」

『タウイ、旗艦(リーダー)としての責任や意思は分かるし、尊重する。だが、な』

「……?」

 

不意に言葉を切ったプルームに、タウイは沈黙で答えを待つ。

すると、プルームは一息ついて、核心的な一言を放った。

 

 

 

 

『これが()()()()()()なら、必ずこうするだろうさ』

 

 

 

 

タウイははっとする。

 

確かにそうだ。

ビックボスなら、あの人なら、きっとそうするだろう。

 

普通、世界のどこの部隊でも「結果至上主義」だ。

もちろん、それはVRFも例外ではない。

 

上は結果を求め、素人は結果で判断する。

そしてそれ故、本職の人間は、結果でしか成果を示しえない。

 

()()()()()()()()()()のである。

 

何らそれは悪いことではない。

むしろ至極当然、当たり前である。

 

……しかし。

あの人、ビック・ボスはそうではない。

 

結果より、人としての圧倒的な強さがある。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ボスの任務歴は実際の所、周りとそう大差ない。

むしろ少し劣るくらいである。

 

でも、誰もが口を揃えて言うのだ、「あの人には勝てない」と。

 

それは単純に、確かな実力があるのを知られているからでもある。

しかしそれだけではなく、むしろこれは付属的な要素でしかない。

 

周りにそう言わしめ、そして屈強な強者をまとめ引っ張りあげる強さの真髄は、そこには無いのだ。

 

「…………」

『……タウイ』

「!!」

 

躊躇うタウイ。

無線から聞こえてくる声はプルームのものしかない。

 

他は皆沈黙。

それをもってして、同意とする。無線の原則である。

 

 

 

 

 

 

 

「わかっ……た」

『……all over……mission fai……』

ブチッ

 

そうして彼らは、その場に伏した。




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