これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode123 無 〜Nothing〜

「おお!! ここが……!!」

 

しっぽと獣耳がぴょこぴょこ跳ねる。

 

青緑色の髪と眼。

後ろ腰に地面と平行に携えられた鞘と刀。

 

そう、タスクである。

彼は今、シノンと一緒にALO統一トーナメントの()()()()に来ていた。

 

「さ、さ、早く行きましょ!!」

「あ、ちょ、待ってよタスク!!」

 

久々の明るい世界だからか、やたらはしゃぐタスク。

シノンはそんな彼に半ば呆れつつ、慌てて後を追いかけた。

 

ALO統一トーナメントの開催はALO内時間で2日間。

 

1日目、つまり今日は、予めの戦い、つまるところ「予選」である。

ABCDの4つのグループに、参加する全プレイヤーが分けられ、そこでトーナメントが行われる。

 

そしてそのトーナメントの勝者、4名のみが、2日目の本当の戦い、「本戦」へと歩みを進めることが出来るという訳だ。

 

観客はもちろんのこと、選手の数も多いため、1日目は特にごったがえしている。

明らかに参戦プレイヤーもいれば、明らかに観戦プレイヤーもいて、見ていて実にワクワクさせられる。

 

……ただ。

 

「……んぉ?」

 

タスクの周りだけは、雰囲気がガラリと変わっていた。

 

「おっ……見ろよ!! Cブロック優勝候補、タスクだぜ……!?」

「マジか……ってかちっちぇな!?」

 

周りはそんな噂話で盛り上がっている。

 

「『闘剣』、だっけ? どんな感じなんだろうな……」

「キリトとの決闘を見に行った連れが言ってたが、えげつないらしい。なんでも……」

 

コソコソと聞こえてくる言葉はやはりアレ。

あの時、つまりキリトとの決闘の時の話。

 

「あーっ……はは」

「タスク……あんたねぇ?」

 

そんな声が聞こえてしまったのか、タスクがなんとも微妙な笑いをシノンに向ける。

何しろ影で生きてきた分、注目されるのが苦手らしい。

 

「大丈夫大丈夫、私がいるから」

「うぅ……いやまぁ、はい……」

 

さっきのはしゃぎ様とは一転、すすす、とシノンのそばにタスクがよってきた。

 

かわいい。

シノンはそう言いかけて飲み込んだ。

 

 

「ここ……のはず」

「ほへぇ」

 

数分後。

 

そそくさと人混みを通り抜け、シノンに連れられた先は、競技場の下のバー。

 

ここに、キリトとアスナ、リズやシリカなど、いわゆる()()()()()()()に加え……

 

「ここに、彼女がいるんですね」

「……らしいわ」

 

そう、彼女。

『絶剣』、ユウキが、ここにいるらしい。

 

バーの中は、人でごったがえしている。

スーパーマーケットのような広さだが、そこに敷きつめられたかのようにプレイヤーがいる。

 

丸いテーブルがあるのがチラチラと見えるが、プレイヤーの頭の絨毯に隠れて何も見えない。

 

天井は高く、ガラス窓から太陽の光が差し込んでいて明るくて、奥に見えるカウンターの上には、でっかくメニューらしきものが光っていた。

 

「すごい人ですねこれ……」

「うん……想像以上だわ」

 

あまりの人の多さに、タスクとシノンは、入口入ってすぐで、ポカーンと口を開けて突っ立つことしかできない。

 

……とその時。

 

「シノノン!!」

「アスナ!?」

 

アスナが、人混みからいきなり現れた。

シノンの方へ手を伸ばしたアスナは、そのまま走ってきて肩を掴む。

 

「はぁ、はぁ……やっと会えた」

「や、やっと?」

「私たちね、1個上の、2階のロフトのバーで飲んでるの。ちょうど手すり沿いの席でね、シノノン達が入ってくるの見えたから私が代表で……!!」

「ああ、なるほど、それで人波にもまれてここまで来てくれたのね」

「そう!!」

 

地面を見て、ゼイゼイと息をつくアスナ。

それを見つつ、背中をさするシノン。

 

別に降りてこなくても、メッセージで……

そんな二人を見つつタスクはそんなことを考える。

 

しかし、これが彼らの良さであろう。

そう思って言うのをやめた。

 

とことん崩さない、仲間を大切にする姿勢。

キリトを始め、彼らの持つ独特の良さ。

 

……なるほど、ね。

 

そんなことを考え、タスクはふふ、と笑みを漏らした。

 

「はぁ、はぁ、はっ……ふぅ、おまたせ。タスクくんも」

「えあ、はい」

「みんなのところに案内するね、階段はあっち!!」

「ちょアスナ!! タ、タスク!! タスクこっち!!」

 

すると、アスナが息を戻し前を向く。

そしてそのまま、シノンの手を引っ張って行った。

 

それに慌てて反応するシノン。

置いていかれかけてあわあわしていたタスクの手を握り、タスクを引きつつ、アスナに引かれて行った。

 

 

 

 

「うぉわぁ〜〜!!」

 

 

 

 

タスクはそんなことを言いながら、シノンに引っ張られて行く。

その顔は実に楽しそうであった。

 

 

「みんな!! 来たよ!!」

「おお!!」

 

人混みにもみくちゃにされながら登った2階。

 

そこの手すり沿いの丸テーブル席2つに、見慣れた人達が丸く座っていた。

 

手前の丸テーブルにはキリトを始め、クライン、エギルなどが。

そして奥の丸テーブルには、リーファにリズ、シリカと……

 

「……紹介するね、こちらタスクくん」

「……!!」

 

アスナがタスクの見る方向を見て察したのか、彼の前に歩み出た。

 

「こちらが、『スリーピング・ナイツ』のみなさん」

「あ、どうも」

 

向かいの席に座っていた見慣れない数人がいっせいに会釈をくれる。

タスクはそれに会釈で返す。

 

「そして、この子が……」

 

それを見たアスナは、満を持して一人の少女を手で指した。

 

 

 

「『絶剣』、ユウキ」

「はじめまして」

 

 

 

一人彼らの中から立ち上がった紫色の髪の女の子。

ユウキ、と紹介された彼女は、そう言ってタスクに手を出した。

 

「……どうも」

 

それに応え、タスクも手を差し出し握手を交わす。

……そして一言。

 

「……戦えるといいですね」

「!!」

 

そう言って、微笑んだ。

 

 

「あれが……タスク、さん」

 

その後。

予定があるから、と、席に座らず去っていったタスクらを回想し、ユウキがそう呟いた。

 

「……意外だったでしょ?」

「うん、正直想像以上」

 

アスナの問いに、頷くユウキ。

意外に素直な回答に、目を丸くするスリーピング・ナイツの面々。

 

「僕ね、握手する時、大体わかるんだ。その人がどれくらい強いのか……」

「……」

「例えばアスナと初めて会ったあの決闘の日。あの日も、握手した時ビビってきたんだよねぇ!!」

「へ、へぇ〜……」

 

ユウキは、そう言うと飲み物を仰いであっけらかんに笑う。

アスナはそんな彼女を見つつ、自分も飲み物をグイ、と仰いだ。

 

「それで? ユウキ。えと……()()()()()は?」

「ん? ああ、そうそう、それでね」

 

すると、早く結果が知りたいと言わんばかりに、彼女の隣に座る大人びた女性……シウネーが、ユウキを小突く。

 

その促しにユウキは、少し俯く。

そして一言。

 

 

 

 

 

「それが……()()()()()()()んだよね」

「!?」

 

 

 

 

 

彼女の意外な回答に、会話が止まった。

キリトたちのテーブルまでも、全員がこちらを見ている。

 

「強い、とも弱い、とも感じられなかった。言わば、『無』かな」

「『無』……!!」

 

アスナはびっくりしたようにユウキを見つめる。

 

「ただ、いや、だから、なのかな」

「?」

 

すると、ユウキがパッと顔を上げて、皆に微笑みを見せた。

 

 

 

 

 

 

「すっごく怖くて、すっごく楽しみだよ!!」




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