これは【GGO】であって、【MGS】ではない。 作:駆巡 艤宗
「しまった……!」
「どうします!?店主さん!」
とある休日の昼下がり。
店主のショップのレジカウンターで、飛び込んできたタスクと店主が大慌てで緊急会議を開いていた。
「シノンさんの位置は!?」
「今、あの拠点の半径5km以内に……」
「くそっ……!もう目を……!」
「いえ、行動が流石に早すぎます。おそらく、この前の襲撃の戦訓から敵が雇うなり何なりした強力な護衛スコードロンに出くわした可能性が一番……!」
店主がシノンの位置を聞き、タスクが用意周到に答える。
そう。今タスクに援護要請をしてきたシノンは、「あの拠点」……つい先日襲撃した大規模スコードロン、通称 組織
正直タスクも、メッセージを見た時は目をつけられたと思った。
だが、それにはあまりに早すぎる。
いくら何でも、学生プレイヤーをたった数日で見つけれるわけがない。
そもそもの話、あの時の作戦は目をつけられないようにあえてシノンを偵察だけに留めたので、敵があの作戦にシノンが関与している事に気づいているかどうかすら怪しいところだ。
……まぁ、最後にはぶっぱなしてもらったのだが、今はどうでも良い。
先程まで議論していた「シノンの被PKの危険性」。
それが今、議論していた可能性とは全く違う形とはいえ、シノンに降り掛かっている。
それがまず何よりの問題点だ。
もしここでシノンが殺され、
簡単に言うと、ヘカートIIを取られる可能性が0ではないという事だ。
店主が考え込み、タスクが指示を待つ。
そしてついに、店主が覚悟を決めたかのように瞳を開いた。
「……よし」
「……」
「俺も行こう。準備するから、三輪バギーを」
「ええ!?」
タスクは、驚きのあまり仰け反る。
まさか店主自身が、来るとは思っていなかったからだ。
タスクの反応を見た店主が、不満気な顔を見せる。
「なんだよ、俺だって戦えるんだぞ?」
「し、知ってますけど……でも!」
タスクは、躊躇いの目を向ける。
だが店主は、心配入らないとばかりに、いつものように片目を閉じ、笑顔で決意を口にした。
「大丈夫!たまには手伝わせてくれ?」
「……了解」
タスクは、店主も店主なりに決意があるのだろう、と察し、潔く了解する。
すると同時に、二人は走り出した。
タスクは近くの貸出三輪バギーを取りに外へ。
店主は店を閉め、店の裏に入って準備をしだした。
同時に、タスクはシノンへと返信する。
『絶対に死ぬな。すぐ行く』
と。
✣
「『絶対に死ぬな。すぐ行く』……だってぇ?」
「ええ。」
一方、ほとんど交戦状態になっている現場。
荒野の真ん中に刺さったように立っているビルと、その付近の壁や、その他障害物のあるところだ。
そんなところでドンパチしている最中に、シノンに送られてきたメッセージを、スコードロンのリーダーであるダインが覗き、呆れる。
「はっ……!こんな荒野フィールドのど真ん中に、どうやってすぐ来るのさ?ハッタリもいいとこ」
「いえ……彼はもう来るわ。すぐに……ね。」
ダインの呆れ顔など気にもせず、シノンは淡々と彼の到来を待つ。
「おいおい、シノンちゃんよぉ?大丈夫なのかよぉ!全っ然来ねぇじゃねぇかよ!」
「大丈夫」
同じスコードロンのとあるメンバーが不満を漏らす。
そのメンバーは、いつくるのか分からない援護に、頼れるものかと間接的に訴えようとしているのだ。
だが、肝心のシノンは「すぐ来る」の一点張り。
「そ……そうか。でその……『彼』とやらは一体、いつくるんだい?すぐすぐって言って、全然そんな気配が………!?」
そんなシノンの落ち着き様にすこし焦り、そのメンバーがそんな援護の気配がない……と言おうとしたその時。
そのメンバーの後ろに、いきなり気配が現れた。
「ひっ!?」
そのメンバーは、思いっきり驚いて仰け反る。
だが彼はすぐに、急に現れた気配の元に引き戻された。
「や、やめて殺さないでー!」
メンバーは、そんな素っ頓狂な声を上げる。
するとその気配の主が、彼の口を抑え、自分の口に(と言ってもマスクがあるため、マスクの上にだが、)人差し指を当てた。
そしてその指を、そのまま彼のいたところへ向ける。
「……!!」
するとそこには、大きく抉られた壁があった。
その下には、2〜3個の弾丸。
そしてその壁は、ついさっきまで彼が隠れていた場所だった。
下に落ちた弾丸が、光の粒になって消える。
「え……?」
そのメンバーが、呆気に取られる。
「も、もしかして……あんた、助けてくれたのか?」
「ああ。間に合ってよかった」
そのメンバーは、いきなり現れたその気配の主を、そして今起こった事実に、驚きを隠せない。
そしてその気配の主は、微かな笑みを含めた右目を、シノンに向けた。
この時、スコードロンのリーダー、ダインを含め、メンバー全員が、シノンが援護を要請した「彼」が、この……眼帯マスクプレイヤーである事を察する。
そしてその眼帯マスクは、シノンに向けて一言、言葉を発した。
「……待たせたな」
「ええ、随分とね」
その言葉で、シノン以外のメンバーが一瞬、寒気を覚える。
彼の……眼帯マスクのたった一言が、異常なほどに強い、歴戦の兵士のような威厳を持っていたからだ。
だが、そんな彼の一言にも動じず、さらりと言葉を返すシノン。
スコードロンのメンバーは、
「とんでもないやつが来ちまったなぁ……」
と一時顔を見合わせ、苦笑いをし合った。
「……で、シノン」
「何?」
その時、急に眼帯マスクがシノンを呼ぶ。
シノンはヘカートIIのスコープを覗きながら返事する。
眼帯マスクも、身を隠していた壁に背を預け、スコードロンメンバーを見渡しながら会話した。
「敵の数は?」
「はっきりとは分からない。目視で大体……9人てとこ」
「装備は?」
「AK-47 カラシニコフが2人、P90が1人。それとSCAR-Hが4人。で……黒ローブ被った奴が2人。他にも潜んでるかもしれないからまだ……」
「なるほどな……」
「何かわかる?」
「俺の予想だが、SCAR-Hが前衛だろう。で、次にAK-47 カラシニコフ。その真後ろに黒ローブがいて……P90持ちは小刻みに位置を変えてるな」
「ご明察。さすがね」
「な……!?」
シノンがするすると装備を答え、その眼帯マスクは振り向きもせずに敵の陣形を完璧に答える。
スコードロンのメンバーは、流石に驚いた。
むしろ、さっきから驚いてしかいない。
急に現れたと思ったら、常人ならざる反射神経でメンバーの1人をヘッドショット即死判定から救い、挙句の果てには振り向きもしないで恐ろしい精度を誇る索敵能力を見せる。
ここまでされたら、流石に恐怖心が掻き立てられるだろう。
スコードロンのリーダーであるダインが、恐る恐る尋ねる。
「あ……あんた何なんだ?」
「なあに、単なる傭兵まがいのプレイヤーさ」
「た、単なるって……!な、なら、なんだあの動きは!?」
「動き…?」
「片手で簡単にプレイヤーを下げて、振り向きもしないで索敵したじゃないか!」
「ああ」
ダインがまくし立てられた小動物のようにおどおどと問い詰める。
一方、問い詰められている相手は、一言返事しただけで頷きもしず、淡々と話し出した。
「プレイヤーを下げた話は……簡単な事さ。俺は、プレイスタイル上、STRをバカ高くしてるんでな」
「お、おう……そうなの……か」
「で、索敵の話だが、これも簡単な話さ。一つ一つの銃の音を聞きわけているだけだ」
「音……だと?」
「ああ。例えば、AK-47 カラシニコフ。あれは、構造を極端に簡単にし、素材も軽くしているだろう?」
「あ……そ、そうだな」
「という事は、コッキングやリロード、下手すれば構えた時に、カンカン、と軽い音がするんだ。このゲームはなるべく実銃から音を取ってるからな。すぐ分かる」
「た……たったそんだけで……!?」
「おう、たったそんだけだ。簡単だろ?」
「か……簡単って……!」
「それで、後はその音の大きさや反響から距離と方向を割り出して、あらからじめ頭に入れておいた地形図と照らし合わせれば……」
「一度も振り向かないで、索敵ができる…と」
「そういう事さ」
スコードロンのメンバー達は、顔を見合わせる。
ここまで説明されたら、何も言い返せない。
代わりに出たのは、苦し紛れの笑顔だった。
「そ、そうか……はは、よろし……く」
「ああ」
短く返事をした眼帯マスクは、手を自ら差し出す。
流石にダインは躊躇った。
「え……と……」
「ん……?ほら、握手だ」
躊躇うダインを、その眼帯マスクは肩をすくめて促した。
その時の仕草や口調から、ダイン達は警戒心を少しづつ解いていく。
そしてぎゅっと、力強い握手をした。
そして……
「よし、いこうか」
その眼帯マスク、もといビッグ・ボスが、後ろを向いて敵の方向を睨んだ。
ダイン達スコードロンメンバーも、同様に睨む。
ビッグ・ボスが来てからずっとヘカートIIで警戒してくれていたシノンも、スコープから目を外して同じく睨んだ。
怒涛の反撃の始まりを予感させる。
……だが、シノンを除く彼らは気づいていなかった。
今目の前にいるこのプレイヤー、眼帯マスクが、あのビッグ・ボスである事に。
こんにちは。駆巡 艤宗です。
「待たせたな」
このセリフ。
やっと出せました。
長い間……待たせたな。
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