これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode133 兄の言葉の意味 〜The meaning of my brother's words〜

「う……あっ……!!」

 

リーファの体が後ろへ倒れていく。

前を向いているのはそう、「目」だけ。

 

視界に映るのは、この試合中初めて見せたタスクの真剣な顔と、その下からまっすぐ伸びる彼の刀。

 

その先端は、リーファのこめかみの真横にある。

 

普通、こんなところに刀が来ることなんてない。

顔に飛んできた武器は、剣士だとかそんな話以前に人として反射的に避けてしまうからだ。

 

しかし現状はそうではない。

 

なぜならそれは、()()()()()()()()()()()()からであり。

そして同時に、()()()()()()()()()()()()()()()()()からであった。

 

加えてその理由を述べるとするならば。

 

リーファにとってタスクの刀は、今の今まで()()()()()()()()

のである。

他でもない、()()()()()()()()()()()……。

 

 

剣は誰がなんと言おうと人殺しの道具。

その道具を用いた技は、人を殺すための技。

 

リーファは今までそう思っていたが、それは違った。

というより、違うのを否が応でも認識させられた。

 

武道には、「戦わずして勝つ」という言葉がある。

 

戦わないで済む方向を常に模索する。

そしてやむを得ず戦わざるを得なくなった時。

必要最小限度のみの戦いで、相手を制し、戦いを終わらせる。

 

そのための修練であり、技であり、心構えであると。

 

しかし彼らは違った。

 

戦わずに済むのを模索するまではきっと同じであろう。

ガラリと話が変わるのはそこからである。

 

彼らの技は、必要最小限度のみの戦いで……

相手を()()()戦いを終わらせる。

 

その違いが生まれる理由も簡単に想像が着く。

 

武道はあくまで自己鍛錬、自己防衛。

相手を制せばそれでよく、傷つけなくても一度制された事実が今後も生き、自分の身の危険が減る。

 

しかしタスクら殺人術は自己だけではなく、防衛に必ず()()()()()()()

そうすると、制しただけではなんともならなくなってくる。

 

一度制された相手は、襲う対象を変えて犠牲を産む可能性など十分にあるからだ。

 

ともすれば、殺さざるを得なくなってくる。

もう何も、できなくするために。

 

恐らくお兄ちゃん……キリトが言っていた、俺達とあの人たちの間にある大きな隔たりの正体はこれだろう。

 

リーファは身をもった上で体感ごと確信する。

 

お兄ちゃんはいつも言っている。

「お前たちを守るため」と。

 

《なるほど。お兄ちゃん、分かったよ》

 

リーファはタスクを睨みつつ、口だけ微笑んでそう語り掛けた。

 

確かにこれは、私たちでいくら鍛錬してもどうにもならないね。

そんな自嘲さえ込み上げてくる。

 

《すごい……なぁ》

 

リーファはそう思いつつタスクを見る。

 

この人には、戦いはもちろん、考え方も経験も、何もかも勝てない。

すこしだけ、()()のような感情を感じる。

 

シノンさんはいつもこんな人と同じところで戦っているのか。

ふと、そんな考えが頭をよぎった。

 

いつも笑っていて、優しいお姉さんのようなシノン。

しかし彼女とて()()()()()であって、話によれば彼、タスクの相棒的な立場で動いているとも聞いた。

 

 

 

『ううん、私は裏方よ』

「っ……!!」

 

 

 

するとその時、いつかの会話が脳裏に甦る。

そう言ってニコリと笑うシノンの顔と共に。

 

『え……でも』

『ふふ、私はね、彼のはるか後ろから、彼のはるか彼方を見張る役割なの』

『はるか後ろから……はるか彼方を……』

 

ALOのリーファの自宅での記憶がどんどん引きずり出される。

あれは、暖かい日差しを浴びながら紅茶を啜ったあの日の昼……。

 

『私が銃を撃つのなんて、任務10個あったらほんの1〜2個くらいよ。ほぼ全部、彼がするの』

『へ、へぇ……』

『でもだからといって、私がいなくていいって訳じゃないの。私は、()()()()()()()()()なのよ』

『ん、んん……?』

 

理解できない、と言わんばかりのリーファの顔を見て、シノンがふふふと微笑む。

 

『私の居場所は、敵には決して分からない。だってスナイパーだもの』

『スナイ……パー』

『で、敵がボスに何かしようとした時、どこからともなく私の弾丸が頭を射抜く』

『っ!?』

『相手は何をされたのか分からない。次に目を覚ました時にはリスポーンした後。そこで気づく。ああ、自分は狙撃されたんだなって』

『へ、へぇ……』

『するとね、次またボスに何かしようとする時、気が気じゃないんでしょうね。見てると面白いわよ、私引き金に手すら添えてないのに、相手はボスだけを見て、しきりにソワソワするの』

『……!!』

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()って……ね』

 

 

 

 

 

その時のシノンの顔は鮮明に覚えている。

 

今まで対決したどんな剣道の有段者よりも恐ろしくもかっこよく感じた、純粋にしか見えない微笑みを。

 

この考え方は武道に通ずるところがある。

 

()()()()()()()()」だ。

言い換えれば、「()()()」である。

 

武道が攻撃を主に修練するのもこれが所以である。

 

そしてそれを実践し、こなす人々がいる。

それが目の前のこのケット・シー、タスクであり、シノンであり、店主であり……。

 

リーファはこの時やっと理解した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()」とは、この事か、と。

 

 

ザン!!

「はぁっ……はぁっ……」

 

リーファが、倒れる前に何とか後ろに足を着く。

タスクは刀を突き出したまま静止している。

 

リーファはまた剣を握り直す。

そしてタスクへしかと向け直す。

 

 

 

 

 

 

タスクは悟った。

()()()()()()()()()()()()()のを。




スポーツ漫画とかでよくあるやつ。
1秒以内にすっごい回想するやつ。

今回はそれです。(説明雑かよ)

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