これは【GGO】であって、【MGS】ではない。   作:駆巡 艤宗

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Episode136 ファイナリスト 〜Finalist〜

「リーファ……お、おつかれ」

 

少し引き気味なキリトが、半ば放心状態のリーファを迎える。

 

「あ、お兄ちゃん……ただい……ま」

「あちゃぁー、こりゃ、精根尽き果てたな」

 

ポツポツと喋るリーファを、クラインが笑って支えた。

リズやその他のメンバーは、そんな彼女を不思議そうに見つめている。

 

それもそのはず。

リーファが、()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。

 

確かに喋る言葉はカタコトだし、足取りもどこかおぼつかないが、どうもやつれているようには見えない。

 

「ねぇ……お兄ちゃん」

「……ん?」

 

すると、リーファがキリトを見て、不意に声をかける。

前を歩くキリトが振り向くにつられ、周りの皆も振り向く。

 

クラインは肩を抱えながらも顔はリーファに向いている。

 

そしてリーファは、ニコリと笑うと……

 

 

 

 

 

「楽し……かったよ」

 

 

 

「……!!」

 

そう言って、ガクリと項垂れた。

 

「わっ……とと!!」

 

クラインが、慌ててリーファを支え直した。

 

 

時は、Dブロック決勝。

……まで、残り数分。

 

キリト達を始め、それに付随するスリーピング・ナイツは、少し早めに客席に固まって座っていた。

 

その隣には、シルフ族首領のサクヤや、ケット・シー族首領のアリシャ・ルーなども座っている。

 

お付きの者も含めればキリトらに引けを取らない大所帯だ。

それに首領ともあらば流石に人々の目を引く。

 

それに加え、隣の大所帯にはそれぞれAブロック・Bブロックの覇者がいるのだ。

そりゃぁもう……近寄り難い雰囲気すら漂っていた。

 

「なんか……陣取ったみたいになっちゃってますね」

「まあ……しょうがないよ、これは……」

 

そんな団体の中で、シリカとリズがそう言って笑い合う。

クラインやエギルも口にはしないがそんな感じだ。

 

……そんな最中。

 

 

 

 

 

不意に、人だかりが静かになった。

 

 

 

 

 

「え……?」

 

いきなり静まりかえる群衆に、かえってキリトらがそちらに目を持っていかれる。

 

するとそこには。

 

「あ……!!」

「えっ……!?」

「お、おお!!」

 

 

 

 

「タスク!!」

 

 

 

 

 

そう、彼がいた。

そのすぐ後ろに、シノンも。

 

そして意外にも。

一番嬉しそうなのはキリトであった。

 

「あのう、リーファさんいますかあ?」

「あ、ああ。ここに」

 

するとタスクは、大所帯を見渡しつつキリトに尋ねた。

キリトは、その問いに答えてリーファの方を見る。

 

それにつられて、タスクがリーファを見つけた。

そしてひょいひょいと座る人の間を縫って、リーファの元へ動き出す。

 

一方シノンは、すぐそこに座っていたリズに話しかけられていた。

 

「シノノン!! あんたも熱心ねぇまた」

「ね、熱心……?」

 

やたらニヤつくリズとシリカに挟まれながら、シノンは少し困惑した顔を見せる。

 

「ま、そんなあなたにライバル登場ってな」

 

すると、クラインがニヤニヤしてシノンの肩を軽く叩いた。

 

「ライバ……ル?」

「うしし……」

 

なんのことかさっぱり分からないシノンは、首を傾げる。

 

しかし。

はっ、と気づいてタスクの方を見た。

 

リーファと笑って話すタスクが視界に入る。

 

「くくく……」

「も、もう〜〜!!」

 

イジワルに笑うリズたちを、シノンは慌ててはたいた。

 

「でっ……!?」

「はぅ……!!」

「げっ……!!」

「もう!! やめてよ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

しかしシノンの顔は、明らかに真っ赤であった。

 

 

一方、リーファとタスクである。

 

「ありがとうございました」

「あ……」

 

純粋無垢に笑って手を差し出すタスク。

そこにはなんの邪念も含まれてないように感じた。

 

「こ、こちら、こそ……」

「……!!」

 

ぎゅ、と握り返すリーファを見て、またにっ、と笑うタスクは、ブンブンと手を上下に振った。

リーファはいきなりの事で驚く。

 

「わ、わ!?」

「いやぁ、楽しかったですよぉあの戦いは!!」

「へぇ?」

 

タスクの言葉に、思わず顔を上げるリーファ。

 

自分の言っていたことと、タスクの言ったことが重なり、少し不思議な気持ちになる。

 

するとそんな気持ちが駆け巡る中。

 

「ところで、リーファさん」

 

タスクが、まっすぐこちらを見てきた。

 

「っ……!?」

 

リーファは思わずドキリと心臓が鳴る。

 

少し目を逸らすと、ニヤついてこっちをチラ見するリズ御一行と、それに真っ赤になって覆いかぶさろうとするシノンが見えた。

 

タスクにしてみれば背後のことなので知った話ではない。

お構い無しにぐいと顔を近づけてくる。

 

……そして一言。

 

 

 

 

 

 

 

「その獣、ぜひ大切にしてください」

 

 

 

 

 

 

「っ……!!」

 

リーファの心臓が、別の意味でまた鳴った。

 

 

それから、数分後。

 

タスクは今度はキリトに捕まり、シノンは相変わらずリズたちと抗争し……で。

 

Dブロック決勝までの待ち時間があっという間にすぎていた。

 

パンパパーン!!

「お!!」

 

そしてついに、高らかなファンファーレが鳴り響く。

 

今日4回目のファンファーレ。

流石に皆、これが()()()()()()であることはもう分かっている。

 

キリトやタスク達、スリーピング・ナイツ、そしてサクヤにアリシャ。

そして闘技場を埋め尽くす観客。

皆が待ちわびていたかのように、闘技場に注目した。

 

『さぁ!! 皆様!! お待たせ致しました!!』

「おおおお!!!!」

 

もはや聞きなれたアナウンス嬢の声に、観客は相変わらず盛り上がりを見せる。

 

 

『本日()()()の!! 決勝戦です!!』

 

 

高らかな宣言。盛り上がる観客。

A・B・Cとも大盛況だったとはいえ、ここまで盛り上がるのはなかなかない。

 

それもそのはずだ、なぜなら……

Dブロック優勝候補が、かの()()()()()だからだ。

 

キリトやユウキとは歴然の差がある古参であり、尚且つ未だなお圧倒的な強さと、それに基づく根強いファンがいる。

 

ユージーンの登場に、ファンはもちろん、一般の観客も大いに沸く。

 

 

 

「ひゃ〜、相変わらず人気だね、ユージーンは」

 

 

 

熱狂するファンを見て、アリシャがそんな声を漏らす。

まあ確かに、戦いが始まってもいないのにこの盛り上がりようは、人気の証かもしれない。

 

そして、それに対抗する、ある種()()()()()なもう一人のファイナリストは……

 

「え、あ、あれって……!!」

 

その時。

不意にアスナが驚いてタスクの方を見る。

キリトも同様に。

 

加え、リズ達はシノンを見、シノンは私も知らないと言わんばかりにタスクを見る。

 

そして当のタスクも、キリトやアスナ、シノンらを見返した後。

 

 

 

 

 

「ぼ、ぼ、僕も知らない……」

 

 

 

 

 

そう言って、闘技場を凝視した。

 

もう……お分かりであろう。

もう一人のファイナリスト、その場に立っていたのは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()、その人であった。




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