これは【GGO】であって、【MGS】ではない。 作:駆巡 艤宗
パシン!キン!
GGOの荒野に、弾丸がはねる音が響く。
「おっと……危ない危ない」
その音に呼応するかのように、頭をすくめるプレイヤー。
「下がれ。殺られるぞ」
「分かった」
そしてそのプレイヤーは、後ろから聞こえてきた威厳ある低い声に指示され、さらに後ろの障害物へと、足速に移動した。
ビッグ・ボスがここに来てから5分。
シノン達のスコードロンは、ビッグ・ボスの指示により、地道に敵を減らしつつ、この区域からの離脱、戦闘からの逃走を図っていた。
理由としては、現状の不利過ぎる戦況。
今の戦闘が始まる前まで、シノン達は他のスコードロンやモンスターを襲っていて、弾薬やアイテムの不足が深刻になりつつあった。
そんな状態でまともに殺りあっていては、十中八九待っているのは敗北だろう。
怒涛の反撃など、夢のまた夢なのが、現状だった。
それに、このスコードロンの敗北はビッグ・ボスが最も恐れてい事態だ。
敗北と言うことは、スコードロンメンバーが全滅することを意味する。
即ち、そのスコードロンのメンバーの一人であるシノンも、PKされる事を意味していた。
それだけはなんとしても避けたい。と言うより、避けるためにビッグ・ボスがやって来たのだ。
スコードロンメンバーも、敗北だけはしたくないのだろう。反撃を諦めることは、案外すんなりと受け入れた。
「……シノン、ヘカートIIはストレージへ。G18を出しておけ。いつ切り込まれてもおかしくない。他のメンバーも同様に、前衛以外は近距離、あるいは白兵戦の準備だ」
「り……了解」「よ……よし」「分かった」
少し戸惑ったメンバー達の返事と、はっきり一言返したシノンの返事。
ビッグ・ボスは、その両方の返事をしっかりと聞いて、次の作戦を練る。
その時、不意にシノンがビッグ・ボスへ話しかけた。
「ねえ、黒ローブはどうするの?まだ……あいつは装備を出してないけど」
「ああ」
シノンの的確な質問に、スコードロンメンバー達は無言で頷く。
現状、ビッグ・ボスのあの驚くべき索敵の時にシノンによっていることが分かったあの黒ローブ二人は、未だに攻撃にも出ず、障害物に引きこもっていた。
もちろん、スコードロンメンバー達はその黒ローブ二人を一番警戒していた。
理由は、あの時の戦訓。シノンが初めてビッグ・ボスとスコープ越しに目が合った日だ。
あの時彼らは、黒ローブの警戒を怠ったために間違って接近してしまい、ミニガンによる掃射を喰らった。
結果、シノンが恐るべき身のこなしで退治したのだが……あの時は酷かったなぁと、ビッグ・ボスも内心で回想する。
実は、あの時の戦闘はビッグ・ボスもスコープ越しに見ていたのだ。
もちろん、隠れてだが。
「あの時は酷かったなぁ、シノン」
「な……なによ……。見てたの?」
「ああ。お前がビルから片足を失いながら飛び降りるところまでバッチリと見てたぞ?」
「……」
シノンはもちろん、スコードロンメンバーも黙りこくる。
まさか、あの時の酷い戦闘をこの人に見られていたとは。
シノンは、呆れ顔で言い返す。
「はぁ……あの時、無理矢理にでも引き金を引けばよかったわ」
「やめてくれよ。背中から撃たれるのは嫌いなんだ」
「知らないわよ、そんな事」
ビッグ・ボスのイジリと、シノンの受け答えに、その場の空気が少し和む。
《……よし。上手くいったな》
ビッグ・ボスは内心で手応えを感じる。
それと同時に、先程のシノンの質問にしっかりと答えた。
「はは、まあ、とりあえず大丈夫だ。あの黒ローブへの対抗策は出来ている。安心してくれ」
「そう……分かった」
シノンは、ビッグ・ボスの明確な回答に、特に深追いもせず頷く。
実はこの、イジリを交えた作戦を練るやり取り、すべてビッグ・ボスの計算の内なのだ。
人は、焦ったり追い詰められたりすると判断力が鈍る。
冷静に物事を考えれなくなったり、周りの状況を見れなくなったり。
そんな状態で襲撃され、慌てふためいている敵は、相手からしてみれば「的」である。
そんな状態に、「的」になりつつある先程までのスコードロンメンバー達は、敗北の兆しになりかねなかった。
ここぞという時に焦りからくる判断力の鈍りのせいで殺られる。
PK戦やGGO内でよく行われるバトルロワイヤル大会ではよくある話だ。
そんな事は今、ここで起こられては困る。
ましてやシノンには絶対にダメだ。
だから、ビッグ・ボスはあえて前に見た現状に似た光景を口に出し、少しとぼけてこの場を和ませ、スコードロンメンバー達や、シノンの焦りを取ったのだ。
そしてその効果は、すぐに現れることになる。
「やばい!グレネード!」
ドカァァァァァアン!
その時、急にビッグ・ボスとシノンのやり取りで和んだメンバー達のすぐ近くに、前衛の味方の叫び声とともにグレネードが飛んできた。
ビッグ・ボスはもちろん、シノンやメンバー達は、すぐさま走って遠くへ逃げ、バッと地面に伏せる。
そして、その場にいた全員が爆発から逃れた。
「ふう……危なかったぜ」
メンバー達はそんなことを呟きながら、各自また遮蔽物に隠れる。
その動きは、まるで今までの焦りなど感じさせなかった。
《いける……このまま、逃げ切れそうだ》
その動きをみたビッグ・ボスは、そう、内心で確信した。
そして……
「オセロット、まだか?」
ビッグ・ボスは一言、小さく耳元の通信アイテムに声を送った。
✣
「はぁ……速すぎるぞ、ボス」
一方、こちらも荒野。
今、悪態をついたプレイヤーは、SBCグロッケンで借りてきた三輪バギーに、正確にはタスクに借りてきてもらった三輪バギーに乗って、延々と続くフィールドを疾走していた。
「全く……待てと言ったのに全然見えないぞ?どんだけ急いだんだ」
風に服をなびかせながら悪態をまたつくこのプレイヤー。
言わなくてもお分かりだろう。店主である。
今、店主の服装は、西洋映画に出てくるような、カウボーイ風のものだった。
両腰には、「SAA」、正式名称「シングル アクション アーミー」がホルスターに挿してある。
この銃は、アメリカのコルト・ファイアーアームズ社が開発し、1872年から1911年までアメリカ陸軍正式拳銃に採用されていた由緒正しき(?)リボルバーである。
この銃は、他のものと違い、銃後部にあるハンマーを、ハーフコックポジションというなんとも微妙な位置に固定した後、横の蓋を開けてシリンダーから一発づつ撃ち殻薬莢を出し、今度は新しい弾をこれまた一発づつ装填するという、何ともめんどくさいリロードを要求してくるくせ者だ。
だが店主は、そんなリロードを
「このリロードは、
とほざきちらし、フィールドに出る時は肌身離さず装備していた。
タスクに呆れられたのは言うまでもない。
まぁ、確かに今までにないリロードではあるが、それが何かをもたらしたのかといえば……特に何も無い。
従って、やはりこのリロードは
そんな店主は今、相変わらず後ろへと流れ続ける荒野の同じ背景に飽き飽きしつつ、未だ三輪バギーを走らせている。
「ふわぁぁぁあ……」
店主はとうとう、大きな欠伸をかました。
その時に出てきた涙を拭おうと、目を擦ろうとする。
するとその時、急に耳元の通信アイテムに、声が送られてきた。
「ガガッ……オセロット、まだか?」
相手はもちろん、ビッグ・ボスである。
店主…もといオセロットは、すぐに返事を返した。
「もうすぐだ。準備は出来てる」
「よし」
そんなオセロットの声と、ビッグ・ボスの短くともしっかりした返事は、今度こそ、怒涛の反撃を予感させる。
そして今度こそ、その予感が当たることになる。
だが、その時のスコードロンメンバー達は、全くもってそんなことは考えていなかった。
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